773 :二二三:2013/07/01(月) 00:39:02
ある日の山本邸

食卓にはご飯、味噌汁、納豆、ひじき、といった実に日本の朝に相応しい、簡素ながら健康的な食事が用意されていた

「うん美味い。朝はやはりご飯と味噌汁に限るな」

家の主人である山本五十六は味噌汁を啜りながら満足気に頷くと、いつも手元に置いてある朝刊を開いた

゛夏の総選挙を前に白熱する都議会議員選挙、日本公民党は改選前の議席獲得も危うし!゛

゛公民党党員、公職選挙法違反で逮捕!゛

「相変わらずか」

選挙の度に公民党員が逮捕されるのは、大臣時代から日常的な出来事であったせいか、まったく関心が持てない
それだけ不正が横行している証拠でもあるため無関心でいるのは良くないのだが、現役時代ならいざ知らず、今の自分は単なる無職の親父
ぶっちゃけ関心持って何かしようとしても、何もする立場に無い訳で

「これで剣の小僧が少しは大人しくなれば良いのだかな」

という感想を述べるのが関の山なのだ
無論、国家の一大事ともなれば夢幻会顧問としての立場と権力を行使したりもするであろうが、そうではない平時の選挙は国民の手で行うべきである
幸い、有権者はまともな判断を下しそうなので安心して流し読みができるのだが

「ふぁっ…、おはよ~……」

そこへやって来たのは寝ぼけ眼で大きな欠伸をしながら朝の挨拶をするリーライナだ
長い後ろ髪は首の後ろで一つに纏めているのであまり寝癖は付いていない物の、前髪はボサボサになっている

「おはようさん。偉くゆっくりしているな」

「別にいいでしょ~休みの日くらいゆっくりしても~」

リーライナはふらふらと近寄ってきて山本にしなだれかかる

「大体いっくんが悪いんでしょ~が」

彼女は新聞を広げている彼に後ろから抱き付き、耳元に唇を寄せると愚痴を零した

「俺がか?」

「そ~よ。あんなふうにされたら疲れもするわ」

昨日の夜の事を言っているのだ。明日は休みだからと泊まりに来たリーライナと一晩中やることをやっていた訳だが、酒の勢いもあってか、ついつい頑張りすぎてしまったのである

「あ、あ~すまん。飲み過ぎていたから歯止めが利かなくなっていたんだ」

「反省してるの~?」

「反省しとる」

「ん~、じゃあいいわ。許したげる」

チュッと彼の唇に軽く口づけたリーライナは、彼の肩越しに広げられた新聞の記事を見た

「ああ。そういえば今日都議選だったわね」

今日が投票日の都議選。選挙という制度がないブリタニアの人間からすれば、物珍しく映るのかもしれない

「いっくんも行くの?」

「国民の義務だからな。飯を食ってから出ようかと考えていたところだ」

「ふ~ん…」

小さな一票だが、その一票が集まって国を動かす為に必要な力となる
民主主義の国で投票に行かないという事は、国を動かす権利を放棄する事であり、国が行う政策に文句を言える立場でさえ無くなるという事だ
自分から動こうとしない者に権利を主張する資格など有りはしない

「ねぇ」

「なんだ」

「私も付いて行っていいかしら?」

「別に構わんが、ただ投票用紙を入れに行くだけで楽しくも何ともないぞ?それにリーラは投票所の中までは入れんからな」

「いいの。外から見てるだけでも雰囲気は味わえるし、ついでにどこか歩きましょうよ」

投票に行った後はデートをしようというわけだ

「それなら行くか。あとな、いい加減離れてくれないか?飯が食えん…」

「な~によ?ホントは気持ちいいクセにぃ~」

背中越しに押し付けられるは二つの大きな山

「飯時に押し付けてくるな!」

「耳まで真っ赤にしちゃってか~わい~♪」

「うるさい!早く離れろ!」

「はいはい、離れますよ~」

漸く山本から離れたリーライナは向かい側に座って箸を取り「頂きます」と言って用意された朝食に手を着けるのであった

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最終更新:2013年09月09日 00:44