330 :パトラッシュ:2013/09/15(日) 13:13:06
新見薫SIDE=改訂版
私が一夏と最初に出会ったのは二一九九年一月、沖田十三提督指揮による冥王星宙域での国連宇宙軍第一艦隊による「メ号作戦」終了直後だった。当時はイスカンダルからの使者をガミラス軍から隠すための囮作戦だったと知らず、私も旗艦「キリシマ」に士官として搭乗したが、結果は惨憺たる敗北に終わった。
≪駆逐艦「ユキカゼ」帰投せず。古代守艦長以下、全乗員MIA(戦闘中行方不明)――≫
残酷な報に打ちのめされた私は、地球への帰路に就いた「キリシマ」艦内を呆然と歩いていた。戦いの前、彼が別れを告げたのは生きて戻れるかわからない状況で私を自由にするためと知っていた。もう一度会って、二度と離れたくないと言うつもりだったのに。どうにか自室のあるエリアにたどり着くと、航空隊のパイロットが廊下にうずくまっているのを見つけた。
「あなた、どうしたの……」
のろのろと上げた見知らぬ顔は、まだ十代半ばか。双眸から光が失われ、顔や唇が真っ青だ。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の兆候ありと判断した私は、少年を自分の部屋に連れていき、お茶を飲ませた――何か動いていないと、自分もそうなってしまう恐怖にかられたのだ。
「落ち着いたかしら。私は本艦技術科の新見薫大尉よ。あなたの所属と姓名は?」
「……戦艦『ハルナ』のパイロット、織斑一夏准尉です」
「するとあなたは母艦を失って?」
「目の前で『ハルナ』がガミラス艦に撃沈されて……『キリシマ』に着艦したけど……乗員の誰ひとりいなかった。艦長も、隊長も、仲間もみんな死んで……」
途切れがちに話す彼の首にかかった認識票によれば、まだ十六歳らしい。パイロットとしては初陣であろう若者が、大人でも耐え難いショックに壊れかけている。私は震える少年を抱き寄せた。
「准尉、思い切り泣きなさい。戦友を悼んであげるのよ」
少年は私の胸にすがりついた。とめどない涙が制服から肌まで伝わる。
「なんで俺だけ生き残ったんだ……怖いよ、千冬姉、助けて……」
このまま人類は悼む人すらいなくなってしまうのか。私は泣き濡れた少年の顔を上げると、冷えきった唇をふさいで舌を差し入れた。ようやく離すと、唾液が銀の橋を架ける。
「あ、あの、大尉……」
「あなた、寒いんでしょう。私も寒くてたまらないの。だから今は温め合いましょう……」
(許して守。あなたを失ったばかりだけど、この子を助けてあげたい。それに今夜は、ひとりでは耐えられないの……)
あの夜、私もおそらく壊れかけていたのだろう。容赦なく大切な人を奪い去っていく戦争という現実を認めたくなくて、冷えきった心身を解凍するために十歳も年下の少年に救いを求めたのだ。
「か、薫って呼んで、お願い、私を薫って」
「俺は、一夏と――」
求め合う声も、心臓の鼓動もどちらのものだったか。汗にまみれ、繰り返し気が遠くなることで、かろうじて生にすがりついていた。不器用だが発情期の雄の獣のような一夏の逞しさに、私が圧倒されるばかりだったのは確かだが。後に一夏も「あの時は少しでも離れたくなかった。薫に出会わなかったら、今の俺はなかった」と話してくれた夜が明け、心身とも温かさに包まれた短い熟睡後に目覚めた私に彼は囁いた。
「薫、ありがとう。俺は生きていけるかもしれない」
地球に帰還後、私はヤマトに乗り組んでイスカンダルへ向かったので、二人の関係はそれきりになった。しかし翌年、ガトランティスとの戦いを経たヤマトに、中尉に昇進した一夏が配属されてきたのだ。デスラーからの連絡で大マゼラン銀河に再征し、生きていた守がイスカンダル女王との間に子供まで儲けていたと知った夜、私は二年ぶりに一夏を誘った。変わらぬ猛々しさで私を組み敷き、忘れさせてほしくて。それは私の運命だった……。
※新見女史ファンはスルーしてください。『嗚呼、我ら地球防衛軍』と大分ズレますが、こちらは物語の展開上『新たなる旅立ち』があったことにしました。一夏と薫は2199冒頭のメ号作戦に参加していた設定です。一夏が中1の夏休みに「防衛軍」世界へ転移したのは2195年としています。薫は2199で27歳設定なので、メ号作戦時は16歳(9月に17歳)で何とかパイロットになれる年齢の一夏のお姉さまにはタイミング的にもいいと思って採用しました。
※18禁版は相当描写を抑えたつもりでしたが削除されたので、改めて一部訂正の通常版を書いてみました。wiki掲載は自由です。
最終更新:2013年09月15日 15:00