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277. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 19:49:05
なんかスレの雰囲気が重くてアホネタを入れづらい感じがするけど、
そんなこと気にしないで突っ込む。
憂鬱×ミステリ、はっじまっるよー。


おみやさん in 憂鬱世界



21世紀憂鬱世界
京都府警鴨川東署の奥の奥には資料室がある。
警察の調査資料というのはいつ必要になるのか分からないので、破棄するわけには行かない。
しかし、事件は次から次へと起こるもので、その資料は膨大な物となる。
現在はデータベース化が進められているが、すでにある紙資料をデータ化することが難しいことと、
現場の人間は昔かたぎの者が多く、データ化しても結局は紙資料を持ち出してくるのだ。

こうして必要になったのが資料課というわけだ。
過去に所轄内で起こった事件の記録の保存、検索が主な任務となる。
検索条件をデータベースに突っ込んでおけばいいという意見もあったのだが、
「○○警部補がこの署に居たときに担当した事件」
「××署と所轄争いをした事件で、未解決だった奴」
だのと、非常にアバウトな情報を持ってくるのでコンピュータでは対応できず、
結局、専門の人員を配置している。

一見、図書館司書の様な仕事であるが、現場至上主義者からは窓際の閑職として扱われている
誰が言ったのか通称「迷宮課」。
未解決事件、つまり迷宮入りした事件の資料を取り扱っているといった意味だ。
その資料課課長を務めているのが鳥居勘三郎警部。通称「おみやさん」だった。
もちろん、「迷宮入り」=「お宮入り」という言葉遊びに京都らしい雅な響きを乗せた渾名だ。
京都の旧家の出で、常にマイペースなのが、この愛称を定着させた原因の一つだろう。
かつて彼は京都府警刑事部捜査一課の刑事でもあった。


この日、刑事課が騒ぎ始めたのを鳥居は感じた。
先ほどもパトカーがかなり動いたようであるし、なにやら署内が騒がしい。
そのうち、兵藤や吉川あたりが村井警部の目を気にしながら、
そっと情報を持ってやってくるのだろう。
刑事課の中井警部から嫌われている身としては、歩き回って彼を刺激することもない。
そう思って部下の七尾巡査とコーヒーを飲んでいると、ドアが遠慮がちに開けられた。
人目を気にするようにドアの隙間から身体を滑り込ませてきたのは、
案の定刑事課の吉川だった。

「おみやさん、実は……」

吉川の話では今回の事件は殺人で、夜道で後ろから殴りつけられたらしい。
被害者は三流紙の記者で清崎という人物だった。
強引な方法で特ダネを狙う人物で、かなり評判が悪い。
現状の様子などから計画的犯行であり、怨恨などの線で先ずは調査するとの事だ。
その辺りまで話した時点で、刑事課の煩方である村井警部が現れ、
「資料課は首を突っ込むな」と吉川を連れて行ってしまった。

七尾巡査はその言い草に憤慨していたが、鳥居は中井警部の悪口にも慣れたもので、
七尾を宥めてから、吉川から聞いた情報を反芻する。

「清崎、清崎……この被害者の名前どこかで聞いた。」
「おみやさん、この被害者を知っているんですか?」
「……1973年6月、大蔵官僚失踪事件。」

鳥居はそう呟くと、資料棚の奥のほうに進んでいった。
やがて、一冊の黄ばんだ資料を持ってくる。

「この事件が関係あるんですか?  1973年だと未解決だとしてもすでに時効の様ですが。」
「事件自体には今回の被害者は関係していない。
でもこの事件に探りを入れていた当時新進気鋭の新聞記者が清崎だ。」
278. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 19:49:51
鳥居は席に戻ると資料を開き、七尾とに説明する。

事件のあらましはこうだ。
1973年6月に所管内に住んでいた若手大蔵省官僚が失踪した。
この下っ端の大蔵官僚は突然居なくなったが、職場では退職願は受理されていたし、
下宿先には彼の家族から実家に戻るから引き払うという連絡が入っていたため問題にされなかった。
事件が発覚したのは、当時新進気鋭の大手新聞記者であった清崎が嗅ぎつけ、
寝る間を惜しんで調査をしたためらしい。清崎と若手官僚は知り合いだったらしい。
ある程度調べた所で、その清崎記者は京都府警にも知らせ、府警も捜査に乗り出した。
しかし、そこで資料は終わっている。
資料の最後にあるのは、その記者清崎が書いた失踪事件の記事と、
その翌日付けの誤報謝罪文だった。

「ねぇ、おみやさん。なんでこの資料こんな尻切れトンボなんですか?」
「こういう資料は、ここで捜査が打ち切られたってことだ。
この事件の担当者も事件の翌年に異動になっている。」
「圧力が係ったってことですか?」
「ついでにいうと、勇み足で記事を上げてしまった新聞記者は、
大手新聞社をクビになっているだろう。さっきの資料の記者名を見たかい。」
「記者名……清崎って今回の被害者じゃないですか。前は大手新聞記者だったんですね。」
「そういうこと。これは関係があるね。よし、外に出てくる。」
「え、おみやさん。何処へ行くんですか?」
「この事件を担当した宍戸さんの所。退官したけど市内に住んでいるからね。」


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・1973年暮れ


「大蔵官僚失踪事件を指示したのはあなた方なのですか?」
「根拠もない事を言ってはいけません。宍戸刑事。それに、
その彼が失踪したとして個人の責任ですね。そうなるだけの理由があったのでしょう。」

そこは京都の料亭の一室。宍戸では軒すら潜れない様な所だった。
相対するのは大蔵省の魔人・辻政信だった。
表向きは引退して久しい人物だが、未だに国政に大きな影響力を持つ重鎮だ。
宍戸はまさかの大物を前に汗をかいていた。

新聞記者の清崎からリークされた事件。
清崎の熱意に押されて捜査を進めているうちに、思いがけずに失踪事件に深入りしてしまった。
署長などから深入りしないように忠告を受けており、周囲の人間に飛び火しかねないことから、
捜査を打ち切るかどうか考えていたとき、謎の人物から料亭に呼び出されたのだ。
その結果がこの状況だった。

「さて、宍戸刑事、私に聞きたいことがあるのではないのですか?」
「……よろしいのですか?」
「別に私は君を叱り飛ばすために呼んだわけではないですから。」
「失踪した若手官僚ですが、彼の飲み友達であった記者・清崎は事件であるといっています。
私の調査でも誰かに彼の痕跡が消された形跡があります。彼は……殺されたのでしょうか?」
「なるほど、邪魔になった若手官僚を私が疎んで始末したと疑っているわけですか。」
「……違うのですか?」
「平沢君入りなさい。」

ふすまの向こうから、はい。という声が聞こえて
入ってきたのは、失踪したとされていた官僚だった。
眼鏡がなかったり印象は大分違ったりしたが、宍戸の刑事としての観察眼から、
目の前の男と失踪した大蔵官僚が同一人物と確信した。

「彼は内務省の人間なのです。内部調査のために偽名で大蔵省に入り込んでいたのですが、
ちょっとヘマをしてしまして、慌てて身を隠すこととなったのです。これは内密に願います。」
「では、失踪ではなくて?」
「その清崎という記者の早とちりです。まあ、真実なんて得てしてこんな物ですよ。」


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279. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 19:50:21
「……という事があってね。まあ失踪した官僚なんて居なかったというのが真実だし、流
石に手を引いたよ。」

暖かな縁側でお茶を飲みながら話すのは鳥居と引退した警官である宍戸老人であった。
七尾巡査もちゃっかりと付いてきている。
鳥居は今回起きた事件の手がかりとして、1973年の事件を宍戸に聞きに来ていた。
鳥居が若手の頃にお世話になった強面の刑事であったが、
年を取って丸くなったらしく、今では好々爺になっていた。
横で聞いていた七尾巡査が宍戸老人に尋ねる。

「じゃあ宍戸さん。この清崎という記者の勇み足だったのですか?」
「ああ、まあ内偵中なのに下手に印象を残しちまった、
この内務省の平沢というのも悪いと言うことなんだが、
流石に内偵中の内務省の人間を表に出すことはできないからな。
清崎には悪いが俺は口をつぐんだ。清崎にも深入りするなと伝えたのだが……
彼はマスコミの人間だからな。」

宍戸老人は困った表情をした。聞いている鳥居らにも分かった。
マスコミの人間は国家権力に屈することは恥であると刷り込まれているのだ。
そんな人物が知り合いとはいえ警察官から事件を嗅ぎ回るのをやめろと言われたら、
逆にのめりこんでいくだろう。
これが老練な記者であれば引き際を弁えて身を引いたのだろうが、
悪いことに当時の清崎は、ある種の職業倫理と正義感に燃える若手記者だった。

「清崎は暴走して、警察の助けがなくてもと、記事にしてしまったのですね。」
「ああ、しかし裏に内務省がいるとこっそり知らされた新聞社の上層部は慌てた。
今はそれほどではないが、昔は大日本帝国政府の政治の領域を侵すことは、
よほどの覚悟がなければ出来なかったし、相手が内務省では勝算もなかったからね。」
「それで誤報騒ぎになって清崎はクビ。その後三流紙の記者になったというワケですね。」
「俺は、それっきり新崎とは切れちまったからその後は知らんな。」

宍戸はその件についてはあまり話したく無い様だ。
鳥居はその様子に仕事の話を切り上げて、雑談を始めた。

「しかし、宍戸さんが大蔵省の魔人と会ったことがあったなんて驚きました。」
「ああ、あれには魂消たね。俺のような戦中生まれの人間にとって、
嶋田首相や辻大臣、軍人だと小澤提督、東条将軍が英雄でね。今で言う所の……
そう、アイドルみたいな人気があったんだ。まあ、辻大臣はかなりヒネタ奴が信奉していたんだが。」
「辻大臣は経済と教育という少し地味な分野ですからね。子供に人気はなさそうです。」
「子供か……。」
「?  宍戸さん?」
「いや、なんでもない。鳥居もあまり資料課で燻ってないで刑事課に戻れよ。」

宍戸老人は取ってつけたように鳥居に小言をつけた。
鳥居はその宍戸老人の態度に気になる物を感じながら、
七尾巡査と宍戸老人宅を辞して署に戻った。

その一週間後、宍戸老人は記者清崎殺人容疑で逮捕されることになる。
犯行動機は清崎が煽った記事が原因で、孫が起こした小さな事務所が潰れ、
孫の家族がバラバラになってしまったことについての怨恨だった。


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280. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 19:51:21

再び、1973年暮れ


宍戸刑事が退出した後、料亭では辻と内務省の平沢が残っている。
お客様がお帰りになりましたと、仲居からの報告を聞いてから話を続けていた。


「……で、首尾はどうです?」
「上にも報告しましたが、大蔵省の‘癌’は摘出しました。他の省庁も同様との事です。
民間についてはまだ多少時間がかかると聞いています。」
「ふむ、しかし警察とブン屋にかぎつけられるとは。」
「失礼しました。チェックが甘かったようで。」
「いや、逆に良かったのかもしれません。
これなら何人か政府の人間が消えても通常の内偵員だと思ってくれるでしょう。」
「はい。引き続き対象の確保と後始末を続ける様に上から指示を受けています。」
「ではそのように。」

内務省の平沢が一礼してから帰っていくと、辻は一人呟く。

「前回の粛清から30年程度で、夢幻会にあんなにバカが湧くとは。困った物です。
教育改革と男女平等政策で、お嬢様学校の伝統を維持するが大変だというのに。」










夢幻会をラスボスっぽく書いてみた。

なげぇ。
おみやさんは過去の話と組み合わせやすいかと思ったのだけれど、完全に辻に食われた。
もうちょっとおみやさん成分を入れられればよかったのだが。
ちなみに、おみやさんは見えないところで活躍しています。
281. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 20:03:15
あ、しまった。

>>280
にあとがきくっつけちゃった。
憂鬱×ミステリ第6弾終了です。

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最終更新:2011年12月31日 21:25