537 :パトラッシュ:2013/09/21(土) 09:04:20
山本玲SIDE
「玲、織斑はやめておけ。あいつにはもう好きな女がいる」
ヤマトの展望室にひとりでいた私は、急に入ってきた加藤隊長に前置きなく言われてとっさに反応できなかった。
「……それはどういう意味でしょうか?」
「文字通りだ。あいつは昨夜、ある女性乗組員の部屋に泊まった。本人も認めている」
「その女性を愛していると言ったのですか?」
「付き合ってはいるが先のことはわからないそうだ。相手の女が態度をはっきりさせてくれないからと。お前をどうするつもりだと聞いたら、曖昧なままにしておくのは悪いから交際は断るとさ。奴がそのつもりなら、お前には脈はないだろう」
「――なぜ隊長が部下のプライベートに首を突っ込むのです?」
「中間管理職の仕事だ。立場上やむを得ずな」
「わかりました、ありがとうございます」
安心して頷いた隊長が去ると、私はすぐ「相手の女性」の部屋へ向かった。はっきり態度で示したわけではないが、一夏を見る眼差しの強さから怪しんでいた人がいる。扉を開けた新見少佐は驚いたようだが、ごまかしたりはしなかった。
「山本大尉、ここに来たのは織斑中尉の件ね」
「はい、それでお話があります」
招き入れられた私の視線は、どうしてもベッドへ向いてしまう。きれいに整頓されているが、ここで一夏たちが愛し合ったのかと思うと。しかし――。
「ある人が昨夜、織斑中尉がこの部屋で過ごしたと教えてくれました。事実でしょうか?」
「間違いないわ」
私を見る少佐は勝ち誇っていない。むしろ困惑するほど冷静だった。
「少佐が誘われたのですか?」
「そうよ。昨夜は独りでは眠れそうになかったので」
「独り寝できない夜は男を誘うと?」
「きついわね。でも誤解は解いておくけど、私と中尉は昨夜が初めてではないわ。最初は二年前だった」
「……二年前って、一夏はヤマトに乗ってないから、その前なら十六の頃じゃありませんか。どういうことなのです?」
少佐は淡々と事情を語った。メ号作戦終了後に恋人を亡くした彼女と、乗艦と仲間全員を失った一夏が結ばれた夜。今回の航海で死んだはずの元恋人がイスカンダルの女王との間に子供までつくっていたと知り、再び一夏を誘った経緯を。
「二年前は傷ついた者同士が寒くてたまらない夜に温め合ったのだけれど、今度は私の傷心を察した彼が黙って忘れさせてくれたのよ。それは感謝しているわ」
「二人の過去はわかりました。では将来についてはどう考えているのですか」
「あら、好きな男の異性関係に嫉妬しないの?」
「私が一夏を好きになる前にあった話です。それより答えを聞かせてください」
「一夏は結婚しようと言ってくれたけど、私を愛しているわけじゃない。彼は根が真面目だから、偶然とはいえ関係を持った女を捨てられなくて責任をとろうとしているだけよ。だから私も態度をはっきりさせなかったけど」
「今は違うと?」
不意に顔を上げた少佐は、蛇のように舌で唇を舐めた。下縁眼鏡が妖しく光ったような錯覚を覚える。一瞬で部屋の温度が下がった。
「……頭では理解していても、身体が忘れられないのよ。一夏を思うたびに子宮が熱くなって、彼が欲しくてたまらなくなる。愛されなくてもいいから彼に抱かれたい、蹂躙されたいと肉体が訴えてくる。他の男じゃ満足できないから」
「あ、あの、少佐――」
「昨夜久しぶりに抱かれて思い知ったわ。私は一夏なしではいられない、彼だけを求め執着するニンフォマニアになってしまったのかもね。もうどうしようもないほどに」
「……自分みたいになりたくなければ彼をあきらめろと?」
「逆よ。初めて寝た夜に才能は感じたけど、一夏がこれほど女を狂わせてくれる男になるとは思ってもみなかったわ。彼のようなのを魔性の男とでもいうのかしら。そんな最高の男に出会って初めて知った肉の悦びを自慢したい、誰かと分かち合いたくてたまらないの。あなたも彼に抱かれたらわかるから……」
※薫は決して多情な女ではありません。ただ一夏に魅入られてしまっただけです。私は旧作も2199も好きですが、旧作の女性キャラの乏しさは如何ともしがたいので2199から取り入れました。wiki掲載は自由です。
最終更新:2013年09月21日 17:19