461 :フォレストン:2013/09/09(月) 20:12:25
質でも数でも勝ち目が無いなら奇術を使うしか無いじゃない。
戦後の憂鬱英国はとにかく無い無い尽くしであった。
モノも金も同盟国も無い、まさに孤立無援とも言ってよい状態であった。
バトル・オブ・ブリテンと巨大津波の被害から未だ回復しておらず、再戦すれば空軍は瞬く間に制空権を喪失、陸軍もドイツの機甲師団に蹴散らされるのが目に見えていた。
辛うじて海軍だけは、枢軸側と拮抗出来るものの、その優位がいつまで続くのか分からなかった。
もちろん軍人達は必死に打開策を検討した。が、無い袖は触れないのである。
神様ではあるまいし、無から有を作り出すなんてことは不可能である。
しかし、無いものを在るように見せかけることは可能だった。逆もまた然りである。
462 :フォレストン:2013/09/09(月) 20:13:43
英国陸軍内にAフォースと呼ばれる特殊な部署がある。
戦後、アーチボルド・ウェーヴェル陸軍大将によって創設されたこの部署は、関係者からはマジックギャングと呼ばれていた。
奇術師ジャスパー・マスケリンを筆頭とする、この組織は建築家、絵画修復技術者、大工、化学者、電気設計士、電気技師、画家、舞台技師等から成っていた。
表向きは軍の慰安活動をしているが、本来の任務は欺瞞と防諜であり、そのために実に多種多彩なことを行っていたのである。
この時代の諜報手段はヒューミントと高高度からの写真撮影である。
しかし、戦争が終結したとは名ばかりの休戦状態であり、人の移動も情報も制限されている現状ではヒューミントは効果が出にくく、内部協力者を育成するのも難しい状態だった。
残る手段は偵察機による写真撮影であるが、ここでマスケリン率いるマジックギャングがその真価を発揮するのである。
軍隊で無いものを在るように見せるというと、いわゆるデコイ(囮)である。
彼らは手始めに絵の描かれた布と合板を使ってジープを戦車のように見せかけ、キャタピラの痕跡まで偽装する一方、戦車をトラックに見せかけたりもした。果ては軍隊や軍艦のイリュージョンまで作っている。影の向きまで考慮されたデコイに枢軸側は幾度も騙されることになる。
逆に在るものを無いように見せかけることも行っている。
バトル・オブ・ブリテンにより疎開を余儀なくされた、ロールスロイスのエンジン工場を鉄骨と特殊なネットで完全に覆い、その上にそれらしい田舎の町を偽装したのである。
同様の手段で、いくつかの重要な工場・施設をカモフラージュすることに成功している。
この調子で、ドーバー沿岸に配置されている砲台やレーダーもカモフラージュ…といいたいところだが、さすがに既に所在のバレているものを隠しても意味が無いので、新設されたものだけにとどまった。
なお、カモフラージュされたレーダーは、電波を発信すると存在がバレてしまうので、有事の際まではパッシブ逆探のみの運用制限がかけられた。
水際阻止作戦の要となる戦車や対地ロケットランチャー等の兵器も、ありとあらゆる手段でカモフラージュされた。大規模な場合は前述の特殊ネットでまるごと偽装することもあったという。
463 :フォレストン:2013/09/09(月) 20:14:18
マスケリンの功績はこれだけではない。
憂鬱日本を例外とすれば、最初に迷彩服の重要性に気付いたのが彼らマジックギャングなのである。
最初にブラウン、ウッドランド系迷彩を開発し、その後も市街地用、砂漠用、北米用と次々と新しいブラッシュパターンを作り出していった。とはいえ、予算難にあえぐ英陸軍が全部隊に迷彩服を行き渡らせるにはそれなり以上の時間を要することになる。
さらに迷彩服に合わせるメイクと効果的なカモフラージュ方法について、部隊を指導して回った。こちらは主に北米防疫線に配置されている、一線級の部隊に優先して行われたという。
ジャスパー・マスケリンはその後功績を称えられ、大英帝国勲章のナイト・グランド・クロス称号を与えられた。そのことを彼は死ぬまで誇りにしていたという。
464 :フォレストン:2013/09/09(月) 20:15:07
あとがき
本編にもあるとおり、魔法使いでも呼んで来いと言われるくらいに切羽詰っている憂鬱英国ですが、魔法使いは呼べませんが、奇術師は呼べますということでw
ジャスパー・マスケリンは1930年代から1940年代にかけて活躍した英国の奇術師です。
史実でも同様の活動を行っておりまして、ジープを戦車に、あるいは逆にトラックを戦車に偽装したり、さらに大規模になると…
マスケリンは第二次エル・アラメイン会戦に先立つバートラム作戦に参加した。これはドイツ軍のロンメル将軍に連合軍が南から攻撃してくると思わせるためのもので、実際にはイギリス軍のモントゴメリー大将は北からの攻撃を計画していた。北には千台もの戦車がトラックに偽装されていた。南にはマジックギャングによって二千台の戦車の偽物が置かれていた。偽の線路、偽の無線会話、偽の建築音まで偽装された。偽の水用パイプラインも敷設され、攻撃が行なわれるのはずっと後であるように見せかけた。
…以上wikiより転載。
と、ここまで徹底的に偽装・欺瞞をやっています。
史実ではチャーチルに褒め称えられたものの、公式には全く功績が認められず、マジックギャング解散後は、舞台奇術に戻ったものの、さほど成功せずに失意のうちに死んだとのことですが、憂鬱世界なら藁にもすがる思いの軍部から、全面的にバックアップを受けて思う存分に腕を振るえるでしょう。
工場丸ごと偽装はやり過ぎではないかとの意見が出そうなので、先に言っておきますと、英国ではありませんが、
アメリカで実際に例があります。
詳細はこちら→ ttp://www.cozymax.org/funny/airplane-factory-070827.htm
リンク先にはカモフラージュの裏側の写真もあります。ここまでやれば航空偵察ではまず発見されないでしょう。人とモノの移動が制限されている憂鬱世界なら有効な手段と言えるでしょう。
最終更新:2013年09月28日 18:37