470 :フォレストン:2013/09/18(水) 20:29:10
チャンスの神は前髪しかない
戦後英国の空軍上層部を悩ました問題の一つとして、『富嶽』の迎撃手段がある。
もちろん英国としては、日本と戦争することなど欠片も考えていないのであるが、そこに脅威が在るならば、備えるのも軍の勤めなのである。
富嶽の存在と性能について英国はかなり早い段階でその情報を掴んでいた。
全長:50m前後
全高:20m弱
全幅:70m弱
自重:100t前後
最高速度:800km/h以上
航続距離:12000km以上
実用上昇限度:1万1千m以上
爆弾15トン搭載可能
精度はやや甘いがほぼ的中させているのは、さすがは世界有数の情報網を持つ英国情報部であると言えよう。
同時に空軍上層部は頭を抱えることとなる。
『こんな化け物どうやって撃墜しろと!?』
『戦闘機よりも速く、高く飛ぶ超重爆を迎撃するなんて魔女でも呼ばないと無理だ!』
頬の筋肉を引き攣らせつつも、要撃機に必要な性能を算出した結果、以下のようになった。
最大速度 830km/h以上
上昇力 10000mまで7分以内
実用上昇限度 13000m以上
武装 爆撃機を確実に撃墜出来る武装であること。
要求性能は上昇力と到達高度、武装を重視(というか残りは無視)している。
護衛戦闘機を随伴してくるのでは無いかという危惧もあったが、そちらは新型のスピットファイアが相手をするので問題無いとされた。
471 :フォレストン:2013/09/18(水) 20:30:00
かくして仕様書がメーカーに配布され、要撃機開発となったのだが、ここで問題が発生した。
主要な航空メーカーは新型スピットや、爆撃機の設計・生産に追われており、新規で要撃機を開発する余裕が無かったのである。
そこで白羽の矢が立ったのが、多数の民間軽飛行機と奇抜な軍用機の試作機を設計していたマイルズ・エアクラフトである。
この時期のマイルズの経営は鳴かず飛ばずであり、主要メーカーの下請けをして食いつないでいる状況であった。新型要撃機の開発は、まさに渡りに船だったのである。
それに何よりも大きかったのは、いつか本格的に戦闘機を作りたいという若手技術者の情熱であった。軍用機でまともに生産したのは、試作機か練習機しか無かった彼らにとって、要撃機だろうがなんだろうが関係無かったのである。
まったく未知の分野であるため、マイルズの技術者は要撃機について空軍関係者に熱心に聞いてまわった。
その結果…
- 爆撃機との距離を詰めるために、速度が重要、運動性は二の次である。
- ある程度まではレーダーで誘導されるが、戦闘距離になると目視が物を言うので、視界が重要。
との意見からまずは視界を確保出来る双発戦闘機として開発が始まったのである。
幸いにして、過去に双発串型のリベルラ(M.39 Libellula)を試作したことがあり、技術的には問題無かった。
- 迎撃のチャンスは一瞬しかない。一度チャンスを逃すと再攻撃は難しい。
- 豆鉄砲はいくら撃ち込んでも無駄。可能な限り大口径が望ましい。
との意見から、一撃必殺の大口径砲が望ましいと判断。ちょうど試作された空対空114mm無反動砲があったので、これを搭載することにした。双発機なので、燃料タンクを翼内に移せば搭載スペースに問題は無かった。
照準には砲身に併設してある弾道を調整したスポットライフルを使用した。スポットライフルの弾丸は全て曳光弾となっており、弾頭はデ・ヴィルデ弾頭となっていた。
命中すると派手に火花を散らすので、照準に都合が良かったのである。
472 :フォレストン:2013/09/18(水) 20:31:19
若手技術者達の暴走気味な熱意によって、機体設計は瞬く間に進んでいった。
機体のシルエットはベースとなったM39リベルラに酷似しているが、それをより大型化し、空力的に洗練したものとなった。
最後に問題となったのが、エンジンである。
例によって例のごとく、高性能なエンジンは新型スピットや爆撃機に優先して振り分けられているので、使用することが出来なかった。軍部としても富嶽の要撃機の重要性は分かってはいるものの、目下の脅威であるドイツ空軍への対処を優先せざるを得なかったのである。
途方にくれた技術者達であったが、ここで悪魔のささやき、もといセールスがあった。
どこで聞きつけたのか、英国有数のエンジンメーカーであるネイピア&サンが、自社の航空用ディーゼルエンジンを売りこんできたのである。
セールスマン曰く、
- 航空用ディーゼルは燃費が良い。
- 航空用ディーゼルは高高度性能に優れる。
- 今ならお安くしておきますよっ!
とのことであった。
この手の経験が少なかったマイルズ・エアクラフトは、海千山千な巧みなセールストークにのせられてしまい、購入契約を結ぶことになったのである。
当たり前のことであるが、セールストークというのは良いことを重点におき、欠点は隠すものである。言っていることに嘘は無いが、全てを話すわけでは無いのである。問題化しなければ、それで良し、問題化したら、聞かれなかったと白を切れば良いのである。
しかし不幸なことに欠点は問題化してしまった。
実機が完成し、テストしてみたものの、高高度性能、速度は一応満足すべきものだった。
ただ、上昇性能だけが満たせなかった。ディーゼルゆえのレスポンスの鈍さに起因するものなので、エンジンの改良でどうにかなるものでは無かった。
再び途方にくれた技術者達であったが、彼らは諦めなかった。
上昇力が足りないなら、別の何かで補えばよいのである。
ちょうど、ドイツでロケット機を研究しているとの情報が入ってきたので、補助推進にロケットを使用することで上昇力を確保することにしたのである。
主翼の設計を一部変更し、外部兵装搭載架を増設、ここに対地ロケットを流用したロケットブースターを搭載したのである。ここでの技術蓄積が後のRATO(rocket assisted take offの)に繋がったので、世の中何が幸いするか分からないものである。
マイルズ リベルラMK-Ⅲ
乗員:1名
全長:13.4m
翼巾:前翼15.2m 後翼 21m
全高:5.6m
空虚重量:8864kg
全備重量:11160kg
動力: ネイピア ノーマッド2型改 水平対向型12シリンダー液冷ディーゼルエンジン(2ストローク、排気エネルギー回生機構付き)×2
離床出力 軸出力換算3200馬力(2100rpm、ブースト圧 620kPa)
水噴射時 軸出力換算4195馬力
最大速度 830km/h
航続距離 2100km
上昇力 10000mまで7分以内(加速用ロケットブースター使用時)
実用上昇限度 13000m
武装 空対空114mm無反動砲(30発)
本機は制式採用されたものの、富嶽対策という特殊用途なため、生産は後回しにされ、要撃機型は少数が生産されるにとどまった。しかし、空力に優れた機体設計であったことと、エンジン換装が容易な双発機であったため、ターボプロップや果てはターボファンにまで換装されて生産が継続され、様々な用途に使用されることになる。生産機数はこちらのほうがはるかに多いという奇特な機体となった。
473 :フォレストン:2013/09/18(水) 20:52:21
あとがき
今回は富嶽用要撃機について書いてみました。
何かないかな~?と英国航空機メーカーの機体を探してみたら、超かっこいいマイルズリベルラを発見して即ネタにしましたw
大型機キラーには双発大口径砲、仮想戦記ネタでは鉄板ですし。
空力的に洗練された機体に大出力エンジンと大口径砲を積んで、爆撃機に肉薄するのはロマンです(力説
史実のマイルズリベルラはM35とM39の2種類の試験機が作られたのですが、今回の機体はM39をスケールアップして空力的にさらに洗練したものという設定です。M35、M39に続く3代目なのでMK-Ⅲというわけです。
エンジンはおいらの支援SSではお馴染み?のネイピア ノーマッドですが、高高度用にチューンされているという設定です。正直この大出力を以ってしても830出せるかは微妙、というかレシプロ機で実用域で800キロ以上出せる機体というのは寡聞にして知りません(汗
ノーマッドはターボプロップもどきで、排気出力もそれなりにあるので、高高度でそれが作用したらなんとかなるかも?
ディーゼルでレスポンスの鈍さと加速のトロさはロケットブースターで補うことに。
上昇時と緊急加速時に使用して、不要になったら投棄します。
武装は一撃必殺の空対空114mm無反動砲です。
恐ろしいことに実際に英軍は作っていたようです(汗
こんなものを実際に当てるとしたら、スポットライフルが必要不可欠なわけで、スポットライフルを銃身に併設してあります。曳光弾+デ・ヴィルデ弾頭という組み合わせなので、視認性は抜群ですw
バリエーション展開として、対地攻撃機型、艦載型も考えましたが、さすがに冗長になるのでカットしました。いずれ設定スレで出すかもしれませんw
最終更新:2013年09月28日 18:41