94 :第三帝国:2013/09/28(土) 01:06:43
衝号抜きの太平洋戦争』~第2章~「アメリカの誤算」

当初アメリカはこの戦争に対して極めて楽観的な見方をしていた。
たしかに、日本はちょん髷をしたサムライからたかが70年程で近代国民国家へと生まれかわり、
挙句世界でも有数の列強にいるとはいえ、アメリカと日本との国力差は隔絶していた。

一例に挙げると憂鬱世界の日本が保有する船舶は合計1800万トン(本編44話より)
現実の歴史の1941年開戦時では650万トンであったことを比較すると夢幻会の奮闘は無駄ではないが、

対するアメリカは【戦時中に】3300万トンもの建造を行っており、
よく知られる『リバティ級』貨物船は戦時中に2700隻、約2000万トンも建造した。

戦艦、空母といった大型戦闘艦船についても、
戦艦は【41年~45年の戦時中に】ノースカロナイナ級、サウスダコダ級、アイオワ級の合計10隻を竣工させ、
空母は【正規空母だけでも】4年間で合計22隻、軽空母と護衛空母も合わせると全部で115隻も作ってしまった。

なお、駆逐艦、護衛艦の類は4年間で約850隻と考えたくもない数が作られ、
しかも、現実の歴史では戦局が連合軍に有利になると戦艦『モンタナ級』の建造中止を始めとして、
自ら意図的に生産に制限を掛けていたので、現実の歴史も展開によってはさらに戦艦や正規空母が作られた可能性がある。

などと、まさに化け物じみた工業力を保有しており、
いくら辻が世界恐慌を利用してその富をむしり取ったとはいえ、
この当時のアメリカの工業力は未だ世界一位で、その自信は決して根拠がないものではなく、
財界ではようやく設備投資ができると喜び、むしろ長期戦を歓迎していた。

だが、この世界の異分子たる夢幻会はそれを承知の上でアメリカに対して戦争を挑んでおり、
窮鼠と化したネズミの怖さと異分子がもたらした変化がアメリカの楽観的予想を破壊した。

日本ついに宣戦を布告する、
と報告を受けたアメリカ太平洋艦隊はさっそく事前に回航された大西洋艦隊と共に中部太平洋への侵攻、決戦の強要。
さらにフィリピンの援護とサイパン、グアムを拠点化して通商破壊を展開すべく準備を開始。

真珠湾へ陸軍を始めとする膨大な戦力を集結させたが、
海兵隊の航空機の輸送も兼ねて真珠湾へ向かっていた空母『レキシントン』が魚雷を2本被雷。
これにより中破。が、なんとか真珠湾まで辿りついたが知らぬ内に気化した航空燃料が真珠湾の水道半ばで爆発。

甲板が派手に吹き飛び、
一瞬で乗員の大半が死亡する惨事で、
悪い事に爆発の衝撃で航路が斜めによれてしまい。
改造巡洋戦艦の巨体は水道を塞ぐ形で海の漁礁と化してしまった。

キンメル大将は全力で復旧作業をするように指示したが、
最短でも半年~3カ月程の時間がかかると報告を受けて既存の計画の修正を考慮したが、

続けて、空母『ホーネット』が魚雷4本を受けて大破、
しばらくして沈没、さらにはアジア艦隊の生き残りの駆逐艦がアジア艦隊が文字通り全滅したとの報告をした。

1か月もたたない間に受けた損害に彼はしばし絶句。
そして、これは始まりに過ぎないと予想し事実そうなった。

日本はフィリピンと中国で攻勢を開始すると共に、
これまで海軍が構築してきた通商破壊ドクトリンに従い手当たりしだい船を沈め始めだした。

太平洋から30隻、カナリア諸島を拠点として大西洋から5隻の潜水艦。
さらに『愛国丸』を始めとする仮装巡洋艦などを加えると合計40隻による通商破壊はアメリカの海上航路を混乱状態に陥れた。

夢幻会の介入で日本海軍は潜水艦を戦闘艦船ばかりを狙う艦隊決戦ドクトリンの補佐ではなく、
ドイツ海軍と同じく輸送船を積極的に沈め回る正しい潜水艦の運用をするようになっている。

また、海軍全体のドクトリンとして、
太平洋全体を利用した通商破壊と艦隊によりゲリラ戦を採用していたので、

潜水艦関係の技術開発、配備に対して常に努力を重ねて来ており、
ついに完成した呂号潜水艦はこの世界で日本海軍が生みだした究極の通常型潜水艦であった。
呂号潜水艦は史実のUボートXXI型をモデルにして開発建造されたもので、

95 :第三帝国:2013/09/28(土) 01:07:22

(参考本編31話)
基準排水量:1,800t
全長:85.00m
全幅:8.00m
安全潜行深度:150m
船体形状:葉巻型
船体構造:複殻式
主機関:艦本式22号10型ディーゼル2基、2軸推進

水上時
  • 機関出力:4,250馬力
  • 最大速力:17.0ノット
  • 航続距離:16ノットで9,200浬

水中時
  • 機関出力:5,000馬力
  • 最大速力:19.5ノット
  • 航続距離:6ノットで300浬

武装
  • 20mm単装機銃3基3門【艦橋部1基、前後部引き込み式各1基】
  • 53.3cm魚雷発射管6基【艦首に6基】
 魚雷搭載数:24本
 機雷搭載数:24個
 付属:対空対水上電探、シュノーケル、自動装填装置、硬質ゴム製無反響タイル

水中最大出力19.5ノットは当時如何なる列強の潜水艦になく、
各国の潜水艦概念が『潜ることができる艦』でしかないのに対して『潜ることが専門の艦』で、
列強の潜水艦の水中速度が精々8ノット程度の中で如何に革命的な存在であるかが分る。

しかも、この速度だとハンター・キラーである駆逐艦、
護衛艦は探索のために速度を上げて追う事も出来ないので逃走するのは極めて容易い。

さらに厄介なのは硬質ゴム製無反響タイル、
流体力学的外観設計で静粛性が極めて高く、アクティブソナーを用いての発見も難しい。

魚雷は日本海軍の切り札である酸素魚雷を採用していた上に、
史実のドイツ海軍が開発したパターン魚雷を始めとする各種多彩な魚雷を用意しており、
今は数は少ないとはいえ、水雷戦隊と同じく誘導魚雷すら装備していた。

96 :第三帝国:2013/09/28(土) 01:08:04

このようにチートとしか表現できない代物であったが、
艦政本部さらに反応炉動力を利用した潜水艦の開発に血眼となっており、
その莫大な費用に辻を始めとする財務官僚の血圧を上げ、説得する嶋田の胃を痛めさせた。

もっともそれが実現されるのは先の話で、数の上で主力となるのはこの呂号潜水艦は、
ブロックごとに建造できるので中小の造船所でも建造でき、電気溶接で纏めて組み立てることが可能。
などと量産性が極めて高く、元のモデルは海軍リソースが潜水艦に集中していたとはいえ末期の1年間に280隻近くも建造した。

かくして、
対潜ノウハウが確立されていないアメリカの対応と合わさって、海軍の通商破壊は成功を収めつつあった。

加えてアジア艦隊が開戦初日に全滅したため、
アジア方面で監視の任務についていた潜水艦が続々と太平洋に進出し、
相手が船団すら組んでいなかったためフィリピン―ハワイ―アメリカ本土の航路はズタズタに引き裂かれた。

余談だが、そのためアメリカ海軍の資源配分が巡洋艦や正規空母ではなく、
目先の問題を解決するために駆逐艦、護衛艦、護衛空母へ資源を集中させる効果をもたらした。

そして早期に空母を3隻も失いアメリカ海軍に残された空母は、

『エンタープライズ』
『サラトガ』
『ワスプ』

の3隻のみとなってしまい、
真珠湾の逼塞状態と合わさって実質何もできないまま日本に次の一手を打たれてしまう。


次話:第3章「南海への攻勢」目次

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最終更新:2014年03月23日 13:47