495 :フォレストン:2013/10/13(日) 14:31:04
彼らは何処に行こうとしているのか…

提督たちの憂鬱 支援SS 憂鬱英国駐日大使館事情2

英国の国会議事堂の奥に、普段使われていない一室がある。
後に円卓の間と呼ばれることとなるその一室は、英国の真の中枢というべき円卓の面々が不定期に会合をするために使用している部屋であった。

その日の円卓の会議の議題は、サンソム卿が本国へ提出した報告書(サンソム・レポート)に関することであった。

「日本のサブカルチャーを利用した英日友好推進だと?」
「荒唐無稽ですが、著名な日本研究家でもあるサンスム卿の言うことなので、無視は出来ません」
「スキャンダル絡みでしたが、実際に駐日大使館では、対英感情の好転に成功しています。可能性は十分あるかと」
「しかし、単に英日友好だけを推進しても意味が無い。我々は日本に追い着くためにありとあらゆる手段を講じる必要がある。」

円卓で有識者達を集めて議論した結果、以下の方針が決定された。

  • 日本のサブカルチャーを利用して、対英感情を好転化させる。
  • 駐日大使館の一部を開放して、英国文化の発信基地とする。
  • 日本国内における諜報活動の強化と担当者の増員。
  • 日本の技術・文化の研究のために、大使館内に研究所(新館)を増築。

計画遂行にあたっては、総責任者として、サンスム卿が任命された。
親日派であり、著名な日本研究家であることを考慮すれば、妥当な人事であったが、円卓側の人間は知らなかった。彼を含む、大使館の主要な人間のほとんどが汚染されていたことを…。

496 :フォレストン:2013/10/13(日) 14:32:38
この時代の憂鬱日本のサブカルチャーというと、やはり漫画や同人誌があげられる。
それゆえに大使館内でも同人誌を作ろうとする動きが出てきたのは、ある意味当然のことであった。

最初はお気に入りの同人誌の模写から始まり、果ては漫画家のアシスタントとして働く剛の者まであらわれた。その甲斐あってか、数年後にはコミケに出展している作品と遜色ないほどのレベルに達したのである。

同人誌だけでなく、コスプレやフィギアにも力が入れられた。サンソム卿が要請して、本国より、金属、皮革、服飾職人らを文化研究の名目で呼び寄せたのである。本職の人間が作っただけあり、その完成度はそんじょそこらのモノとは比較にならぬ完成度であり、大使館観光の目玉となった。

もちろん、大使館の職員が日本国内でそういった活動をすることには問題があるのだが、サンソム卿は文化交流で押し通した。そもそも交渉ごとで英国紳士に適う人間はそうそういるはずもなく、日本側の担当者は理詰めで、ぐうの音も出ないほどに説得されたのであった。

ちなみに史実日本では、漫画と並ぶ有力なサブカルであるアニメであるが、憂鬱日本ではテレビ放送は既に始まっていたものの、未だ白黒テレビが主力なため、カラーテレビの普及が急がれているのが現状であった。

アニメを一刻も早く放送したい転生者達であったが、カラー化は最低条件であった。
その代わり国内に映画館が大量に作られており、アニメは劇場版をメインに展開していたのである。

497 :フォレストン:2013/10/13(日) 14:35:16
英国文化の発信基地として、大使館の敷地を一部開放して飲食と展示スペースにすることになったのであるが、何を出すかで大論争となった。

「何は無くとも最優先で紅茶とスコーンを!」
「スコッチは絶対に外せないだろう!」
「エールとフィッシュ&ポテトもだ!」
「うなぎのゼリー寄せを…!」
「ハギスとブラッドソーセージも…!」

飲食スペースで出す食べ物からして、揉めに揉めたのである。

「日本人に本場のメイドを知らしめてやるのだ!」
「サヴィル・ロゥのスーツを!」
「英国のクラッシックを日本人に!」

展示スペースは展示スペースで何を出すかで、それこそ大使館職員同士で骨肉の争いが繰り広げられたのである。

最終的に複数の店舗形式にして、パブと食事処、スーツ仕立て屋を敷地内に出店することとなった。クラッシックの演奏は実現しなかったが、後に倫敦交響楽団として、実現することになる。

かくして、駐日英国大使館(の一部)が一般人向けに開放されたわけであるが、最初はコスプレやフィギア、ヴィクトリアンメイド目当てのヲの字の連中が圧倒的に多く、純粋な観光目当ての人間は少なかったようである。外務省の某は喜んで入り浸っていたようであったが。

関係者は頭を抱えたが、めげずに日本人の好みを研究し、改良していくことで徐々に受け入れられていくことになる。後に『トーキョースタイル』と呼称され、英国に逆輸出されていくのである。

駐日英国大使館は、日本における英国文化の発信地であると共に、英国に対して日本文化の発信地ともなったのである。

498 :フォレストン:2013/10/13(日) 14:41:48
日本国内での諜報活動であるが、ヒューミント(HUMINT:Human intelligence)は戦前の裏切り行為により、協力的な人間が激減していたこともあるが、下手に接触すると日本側を刺激することになりかねないので、控えられていた。代わりにオシント(OSINT:Open sourse intelligence)とシギント(SIGINT:Signals intelligence)に力が入れられた。

オシントで、公開資料を集めている情報解析チームは、新聞や雑誌、テレビといったメディアの報道を継続的にチェックしたり、書籍を集めて読み込み内容を分析する事で地道に情報を収集していった。

「情報収集のために、是非ともコノミンの新刊をゲットせねば!」
「コミケも良いが、神保町も良いぞ!掘り出し物があるからな!」
「まったく、アドミラル・シマダには感謝してもしきれないな。こんな素晴らしいものを広めてくれたのだからな」

何故か公費で、漫画や同人誌を大量に購入していたが、あくまでも情報収集の一環であったため、問題視されなかった。

なお、英国でも日本の最高指導者として有名な嶋田であったが、いわゆる同人の生みの親であったことを英国に広めたのも駐日大使館職員だと言われている。後に英国で開催されたコミケでも、嶋田の銅像が飾られたという。

シギントによる解析であるが、元々駐日大使館には本国と直接通信出来るアンテナがあったので、これに専用アンテナを追加装備することで、容易に日本国内のラジオや無線を受信出来た。しかし、受信する分には問題無かったのであるが、別の問題が発生したのである。

「なんだこれは!?チャンネル数が多すぎて把握出来んぞ!?」
「民間ラジオだけでもこれか!?業務用無線とかも含めたらとても手が足りないぞ!」

戦前よりラジオ普及に力を入れていた夢幻会によって、日本全国、特に都心は電波銀座とも言える状態になっていたのである。AM放送だけでなく、史実よりも前倒しして始まったFM放送まで含めると、当時の英国のラジオ放送とは、文字通り桁違いのチャンネル数であった。

この事態にスタッフを大幅増員して対処することになった。
再編されたシギント班はラジオと無線の2チームに分けられたのであるが…。

「いやぁ、あの子の声かわいかったよなぁ!早く週末が来ないかなぁ!」
「セイユウだっけ?これがジャパニーズ・モエというやつか…!」

ラジオ解析班はあっという間に、萌えラジオの虜となり。

『もう仕事が多すぎて過労死しそうです。あぁ休みが欲しい(バーロー声)』
『そうなんですか、トー○ョーさんも大変なんですねぇ』
『あの腹黒大魔王に何度泣かされたことか…!(バーロー声)』

無線解析班はアマチュア無線に嵌ってしまったのである。
こんなザマでも、さすがは英国紳士というべきか、仕事はきっちりこなしていた。いや、その分性質が悪いというべきかもしれないが。

499 :フォレストン:2013/10/13(日) 14:46:08
苦労の末に手に入れた情報であるが、本国へ持ち込めなければ意味が無い。
安全で確実な方法は、マイクロフィルムを外交特権で持ち出すことであったが、この方法は時間がかかり、即応性に欠けるため、より早く安全な方法を作る必要があった。

最初に考えられたのは、暗号無線で本国と直接交信することであるが、これは最初は否定された。英国では既にエニグマと、さらに強力なローレンツ暗号をコンピュータで解析した実績があったが、日本のコンピュータ技術は英国のさらに先を行っているのは確実なため、下手な暗号無線などあっという間に解析される恐れがあったためである。

しかし、即応性を考えるとこれ以上の手段は無いのが実情である。
暗号技術者を交えた関係者達は必死に考えたあげく、以下の結論に達したのである。

  • 変換を複雑化すると手間がかかりすぎて即応性に欠ける。
  • どんなに暗号返還を複雑化しても、コンピュータで総当りされればいずれ破られる。

一般的な暗号は鍵(キー)があれば解読出来るのであるが、鍵が無くても高性能なコンピュータがあれば、どんなに複雑な変換をしたとしても、多少時間はかかるが、必ず解けてしまうのである。この事実に関係者達は頭を抱えてしまったが、ある一人の発言が問題の解決に光明をもたらすことになる。

「破られる前提で、常に新しい暗号を使用すれば良いんじゃね?」

検討の結果、変換が極めて簡単な単一換字式暗号(シーザー暗号)に、辞書は英国で発売されている適当な書籍を使用することになった。原文と書籍を比較して、その文字のずれをアルファベット順に数値化したものを暗号として用いたのである。

なお、この暗号を使用した後はただちに新しい書籍に変更された。一見何の変哲も無い書籍(実際にそうなのであるが)なので、日本国内へ持ち込む際にも全く怪しまれなかったという。

使用頻度はそれなりに多かったものの、使用後に必ず辞書(書籍)を変更したため、常に新しい暗号を使用しているのと同じであった。それゆえ、この暗号の解読に日本側の暗号解読班は梃子摺ることになるのである。

500 :フォレストン:2013/10/13(日) 14:47:54
大使館内に増築された新館では、日本の技術と文化の研究が行われていた。
日本のあらゆる文化と技術の研究に力を入れていたが、特に力を入れていたのはコンピュータ関連技術であった。

「秋葉の品揃えは素晴らしいな!パーツが手に入れ放題だぜ!」
「トランジスタやICを我が国でも生産出来るようになるのは、何時の日になるやら…」

技術者達は秋葉でパーツを買い漁り、独自にコンピュータ(ミニコン相当)を自作する域にまで達していたのである。

ハードだけでなく、ソフトウェアの研究も行われていた。英国では機種に依存する機械語やアセンブリ言語が主流だった時代に、ALGOL系列のプログラミング言語を開発したのも、英国大使館に常駐していた技術者であった。当時の日本のプログラミング言語は日本語ベースでの記述だったので、それを英語ベースに構築し直すのには相当の苦労があったのであるが、ここでは割愛する。

後に本国へ帰国した技術者らであるが、当時の英国は日本で主流となっているICではなく、パラメトロン全盛であったので、その技術のすり合わせに苦労することになる。

この時代の英国では初期型ICの作成は実験室レベルでは可能になっていたのであるが、いざ量産するとなると、歩溜りが悪すぎて採算が取れなかった。パラメトロンの性能向上も既に限界にまで達していたので、史実ゴトーペアを実用化して凌ぐことになるが、その際にも大使館帰りの技術者達が大いに役立ったのは言うまでもないことである。

文化面では日本のファッション、食文化、そして文学の研究が行われた。
後に英国で日本文化を紹介するという名目で、雑誌『JAPAN』が刊行されるのであるが、その際に駐日大使館の研究成果が生かされることとなる。

その後も、外務省の某と共謀してウィスキーブームを作りだしたり、○マやへ○シングの同人誌を出したり、ス○ライ○ウィ○チーズのアニメ化の際には設定考証に全面協力したりと、ありとあらゆる手段を用いて英日友好に邁進したのである。

その一方で、日本から重要な情報を本国へ送り続けていたため、日本側の公安当局者と、暗闘を繰り広げることになる。この二面性はある意味英国紳士らしいと言えるだろう。

501 :フォレストン:2013/10/13(日) 14:49:56
あとがき

前作で書き足りないところがあったので、補完として続編を書いてみました。
英国大使館はどこに行こうとしているのか…(汗

テレビ放送に関してですが、史実日本では1960年にカラーテレビの本放送が始まっているので、技術進化が20年は早い憂鬱世界でも、それほど普及していないのではないかと思い、ああいう描写となりました。戦争が終わって、これから民生に力を入れるなら、あと10年くらいで爆発的に普及するかもしれませんね。何か大きなイベントがあれば起爆剤となるのでしょうが。

白黒テレビでアニメを放送するとは思えないので、アニメ文化は映画をメインということにしました。通常アニメよりも金がかけられるので、その分質は高いのではないでしょうか。

英国で満足した食事を摂りたいなら、3食ブレイクファストにすべきだ。なんて格言があったりしますが、紅茶とスコーン以外にも美味しいものはあるはず…あるといいな…(弱気

史実日本では1953年に開始されたFM放送ですが、憂鬱日本では前倒ししても大丈夫でしょう。史実アメリカでは1941年から放送開始していますし。到達距離はともかく、雑音の少ないクリアな音声が聞けるFM放送は、憂鬱日本では広く普及すると思います。

本編で某陸軍軍人が、無線で2chを再現する野望を抱いていましたが、おかげで憂鬱日本ではアマチュア無線が流行っているのではないでしょうか。アマチュア無線免許とか、史実よりも簡単に取れるかもしれませんねw

暗号に関してですが、元ネタは某艦隊シリーズに出てくる、岩波暗号です。
読んだのはだいぶ昔だったので、おいらの記憶も曖昧なのですが、確か置き換え式の暗号だったと思います。解読に岩波文庫が必要となるので、後世日本にしか使用出来なかったはず。
しかし、そんな暗号でも頻繁に使用していると、たとえ鍵の設定を変えていたとしても、日本語におけるひらがなの使用頻度から、統計的に類推されて解読されてしまいます。ならば、1回限りの使い捨て暗号にしてしまえば良いのでは?というのが今回の暗号だったりします。
英国でしか発売されていない、書籍を使用した1回限り使用可能な暗号。これを破るには相当難儀すると思います。

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最終更新:2013年10月20日 19:22