102 :名無しさん:2013/09/12(木) 18:23:45
突発ネタ。
声が同じだからこういう事もあったりして
私立アッシュフォード学園日本校からほど近い繁華街にあるゲームセンター。立地条件の良さから一日の売り上げも良く、それを反映するかのように最新機種の導入も早いこの店はいつも満員御礼だ。
客層には日本の大企業や名家。ブリタニアの留学生と在日ブリタニア人貴族子女が多いのもあってか不良のたまり場的雰囲気は皆無の所謂優良店である。
「次こそはノーミスでラスボスシャンブロを攻略して隠しボスのフリーダムとFTOステージにいって見せるぜ」
「ノーミスで全クリしなきゃシークレットステージに挑戦できないとかあのゲーム難しすぎだよ」
「フリーダムはブリタニアのクルシェフスキー侯爵が昔乗ってたKMFフリーダムを元にしてるとか聞いた事あるけどもう一体の隠しボスFTOってなにを元にしたんだろうな」
店内から出てくるハイソな雰囲気の学生達は皆楽しげに遊んでいたゲームの内容を語り合っている。
そんな少年達がいる一方、肩を落として溜息を付きながら入り口の自動ドアを潜ってくる少年がいた。
「はぁぁぁ どうしよう」
まるでこの世の終わりが訪れたときの人類みたいに暗い表情でブツブツと呟く少年は手の平には平等院鳳凰堂が描かれた土色の硬貨が数枚。
その硬貨、元はお札と組み合わさっていた物なのだがいま彼の財布にお札は入ってなかった。
ゲームセンターという場所でありがちな不良君たちによるカツアゲに合った訳でもなく、落としたというのでもない。
ではそのお札が何処に消えたのかと言えば、それはゲームセンターに設置されている両替機の中。
このお金、実は彼のお小遣いなどではなく、母親から渡された参考書の購入費なのだ。
ビデオゲームにしろメダルゲームにしろゲーム・娯楽といった物はとかく人を熱くさせる。
彼の場合もそうであった。お小遣いの範囲内で遊ぼうとして熱くなりすぎた結果、参考書代に手を付けてしまった。
そうなればもう後の祭り。幾ら後悔した処で使った金が戻ることはない。
「母さんに殺される・・・」
彼の母親は世間一般で言うところの教育ママとは少し違って、本気で怒らせたら説教程度では済まないのだ。
お小遣いの減額とか拳骨を落とされるといった甘い物ではなく、精神を鍛え直すとかで物理的な扱きを受けさせられる。
父親の方はそこまで厳しい人ではなく少々の事は大目に見てくれる物の、約束事を破った場合は母同様に怖い。
つまり、彼はいま絶体絶命の状況におかれているのだ。
103 :名無しさん:2013/09/12(木) 18:26:25
こらカズシゲッ こんなところで何をやってるのッッ 宿題は終わったんでしょうねッ
「ひいッッ!」
肩を落として歩いていたとき、不意に背後から聞こえた怒声。それは母の声に他ならず、掛けられた瞬間悲鳴を上げた彼は条件反射の如く振り向き様に土下座していた。
「ゴッ、ゴメンナサイッ!つい我慢出来なかったんですッ!金輪際このような事は致しませんのでどうかお許し下さいッッッッ!!!」
プライドもへったくれもなかった。普段は深窓の令嬢宜しく大人しい美貌の母だか、怒らせたときの恐ろしさを嫌と言うほど知っているため下手な言い訳を考える余裕など欠片ほども持ち合わせていない。
ましてや反抗心を持って逆ギレするなど死刑執行書に嬉々としてサインするような物だ。
だからひたすら謝り倒して反省の態度を見せる。それで許してくれるほど甘い人でないのは分かっていても他に方法など有りはしないのだから。
「ぷッ あっははははッ!」
するとどうだろう。母が大笑いを始めてしまった。
これは許してくれたのかと思い恐る恐る顔を上げてみる。
「ああ――ッ!?」
見上げた先に居たのは、長い金色のロングヘアと外見年齢が十代後半から二十代というのは同じな物の、母とは違うまったくの別人。
「リ、リーラおばさ――ッ「お姉さんでしょ?」お、お姉さん」
リーライナ・Y・ヴェルガモン。父親の昔馴染みの奥さんだ。その隣には八十にもなるのに昔と同じでまったく衰えを見せない坊主頭の男性が立っていた。
因みにこの五,六十代でも通用しそうな外見の老人が父親の友人である山本五十六。
「すまん一繁くん 君の後ろ姿を見掛けたコイツが面白そうだからとかでな」
「だって如何にも僕何かやりました的な感じで肩落としながら歩いてるんだから」
「し、心臓に悪いからやめてください・・・・」
本気で心臓に悪い。何故かと言えばこのリーライナという女性は母とそっくりなのだ――声が。
彼女以外にもアーニャという知り合いの女性もよく似た声をしているので時々からかわれる事があった。
「変だなって思ったんですよ 母さんて怒ってるときでもですます口調だから」
「クルシェフスキー卿は良家の子女だからな 幼い時分からあの口調だったと聞くからリーラが真似をしたところですぐに化けの皮が剥がれるだろう」
「真顔で失礼なこと言ってくれるわね わたくしも良家の育ちで御座いますわよ?」
長い髪をかき上げながら口元に手を当てる彼女の仕草は中々堂に入っていたが。
「お前がやると偽物のような気がしてならんな」
リーライナが良家の子女というのは本当だ。ブリタニアのヴェルガモン伯爵家の名は政界でも普通に出てくるのだから。
ましてや今は伯爵位を継承した当主。
「お二人は何してたんですか?」
「え?ああ私達?私達は今週末の連休に何処か旅行にでもと思って行き先の下調べをしてたの 多分温泉地になりそうだけどね ほらいっくんがもうお爺ちゃんだから」
「お前も人のこと言えるほど若くはないだろう・・・・」
「おあいにく様だけど私は今でも女子高生で通用するから で?カズシゲくんは何をやっちゃったのかしら?」
104 :名無しさん:2013/09/12(木) 18:27:09
言ったところでどうなる物でもないが、誰かに聞いて貰えば少しは楽になるかもと母から貰った参考書代を遊びに使ってしまったと洗い浚い話した。
「なるほどね まあモニカさまの教育方針は家と違って相当厳しいからね」
家と違ってとは言ってもヴェルガモン伯爵家の次期当主や山本の跡継ぎである子供への教育が厳しいのは知っている。あくまで母モニカと比較すればの話をしたに過ぎなかった。
日本の総理を務めていた嶋田やブリタニアの重鎮で西海岸諸侯の盟主という立場のクルシェフスキーが子供を甘やかせているなどシャレにならない。彼が例え両家の跡継ぎに関係なくとも彼が持つ名前の意味はとてつもなく重いのだ。
「だから怖くて逃げたいって気持ちも分からなくはないけど逃げても何も解決しないわよ」
「嶋田やクルシェフスキー卿の教育方針はさておき 俺からは正直に話して謝れとしか言えんな」
「そんなッ こんなことバレたら母さんに殺されますよッ」
「だが自分でやった事の責任は取らなければならん ましてお金の事は曖昧にはできんぞ」
それが人としてのルールだと山本は彼を諭す。
「君はクルシェフスキー卿から参考書代としてお金を預かった訳だが言うなればそれは決められた枠内でなら使っても良いと認められたお金だ 枠外では使用してはならないお金を使った以上許されん それが分からん君ではないだろう」
「・・・・」
少ない小遣いでゲーセン通いしてたら一回はありそうだと。
最終更新:2013年10月21日 11:38