927 :パトラッシュ:2013/11/02(土) 08:47:33

earth様作『嗚呼、我ら地球防衛軍』と某作品のクロスオーバーのネタSSの勝手な続編PART29

シャルロット・デュノアSIDE(2)

「短い間だけど楽しかったなあ……その記憶を汚してしまう真似は、僕にはできないよ。一夏やみんなに下劣なスパイだなんて思われるくらいなら――」

 楽しい時間は突然終わった。今日の午後、パリのデュノア社から極秘回線で電話があり、父の正妻のあの女が「まだ織斑一夏のIS技術について何も盗めてないの? いつまで待たせる気!」とヒステリックにわめきたてたのだ。学年別トーナメントで一夏のパートナーになったと弁明したが、「だったらなおさら早く手に入れられるはずでしょう。この無能者!」と怒鳴った挙句、「さっさとその貧弱な体を差し出して、たらし込むなりしなさい! あんたみたいな泥棒猫の小娘には、ぴったりの役回りだわ!」と命じたのだ。
 あの女には僕なんてその程度だとわかっていたけど、自分を餌に一夏を籠絡しろという命令はショックだった。しかし、拒否すれば強制送還と幽閉が待っている。彼女にはそれだけの権力があるのだ。

「僕の一番大事な人に軽蔑の目で見られるなんて耐えられないよ……ならいっそ……」
 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの待機形態のペンダントをはずしてベンチに置く。夜空の星はまぶしいほど美しいのに、なぜ人の住む世界は息もできないほど汚いのだろう。ふらふらと手すりに近づき下を見た。
「さようなら一夏、せめて僕の思い出だけは美しいまま持っていて――」
「そこまでだ、デュノア」
 聞き覚えのありすぎる声が、踏み出そうとした足を凍らせる。織斑先生と青い髪の女性。確か生徒会長だったか。
「父親の正妻からの電話に参っているらしいな」
「ど、どうしてそれを……」
「デュノア夫人は極秘回線を使えば盗聴されないと単純に考えたようですが、あの程度のセキュリティーなど学園の保安システムの前ではスピーカーも同然です。これは一夏さんの属する地球防衛軍と国際IS委員会が結んだ協定を公然と破る行為にほかなりません。国際IS委員会に告発するだけの証拠も揃っています」
「――そこまで知られたならデュノア社は終わりですね。僕も馬鹿な真似をしなくてすむけど、フランス政府は面子にかけて許さないでしょう。もう学校にはいられませんよ」
「心配ない。同じことを考える馬鹿が出ないよう、徹底的に痛い目に遭ってもらう。お前の身柄もだ。せっかくのパートナーがいなくなったら、私の弟が悲しむからな」
「一夏が、僕を……」

 その後の一週間は、驚きの連続だった。「内部告発」を受けたパリ警視庁がデュノア社を家宅捜索し、社長夫人と取り巻きがフランスIS委員会の有力者と共謀して多額の政府補助金を横領し、スイスの銀行に隠匿していた容疑で逮捕されたのだ。先日までフランス経済界の有力者だった女は、一気に地位も財産も権力も失って裁判を待つ身に転落した。
 IS委員会幹部がデュノア社と癒着していた事実を暴露されたフランス政府は、僕の身柄の件で騒ぎが大きくなるのを望まず、引き続きIS学園留学が認められた。一方、第三世代IS開発に後れをとっていたデュノア社は政府支援を打ち切られ倒産かと思われたが、白式を開発した日本の倉持技研と技術・資本提携して傘下に入ることになった。どこまで織斑先生や更識家が関与したのか、知るのが怖いけど。

 学年別トーナメントの前夜、訓練を終えて部屋に帰ると携帯に父からのメールが入っていた。離婚して社長も辞めたという。「お前の母より会社を選んだ私の弱さがすべての原因だ。パリの邸宅を処分し、二人が暮らした家に移った。お前が帰る日を待っている」と結ばれていた。なぜ母が愛人の道を選んだのかと恨んだこともあったけど、初めて父と母が愛しあっていたことを悟った。
「一夏、君は僕を選んでくれるかな。いや、母さんのように日陰の身でいいから僕を愛して一夏の子を授けてくれたら、それで僕は満足するだろう。やっぱり親子なのかな、僕と母さんは」

 ※シリアスモードのシャル実家編でした。次回から学年別トーナメント編です。

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最終更新:2013年11月03日 16:32