12 :とても暑い日本の夏:2013/11/03(日) 17:38:54
小ネタ。
提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生。
嶋田さん独身。性格改変注意。
嶋田さんとモニカのロマンス。
それほど甘くありませんが甘め。
二二三氏の副官さんを御拝借+自己設定。
依然されていた日本の真夏にマントは危ないのではという議論からの思い付き。
時系列は皇歴2019年の夏。
13 :とても暑い日本の夏:2013/11/03(日) 17:39:34
とても暑い日本の夏
8月というのは日本、そしてブリタニアにとって色々と重要な式典が多い月。
1年を通して行われる式典の凡そ3割がこの月に集中している事からも分かるように、8月という月自体が両国にとって非常に大きな意味を持っているのだ。
言うまでもなく8月は日ブ両国が太平洋を舞台に血で血を洗う大いくさを起こした月にして、それを終息させ、平和と友好を、そして何があっても互いを信じ抜くという誓いを交わし合った月。
開戦。
講和。
平和友好条約。
そして同盟関係を築き上げた月――それが8の月だ。
故に、この月に開催される式典には両国の皇族・貴族・政財界の重鎮が出席するような大変重要度の高い物が多く、その内の日本の帝都東京で開かれていたある式典会場には、ブリタニアの重鎮であり皇族を除けば最も位が高い女性の姿もあった。
両手に嵌めた黒いグローブ。騎士にしては珍しく腰まで入ったスリットスカートの白い騎士服に、膝まである黒のロングブーツ。
そして両肩から身体の前に流して赤いリボンを結び巻き付け残りは背中に流したお尻の辺りまで届く真っ直ぐな金色の髪と、深い海、また澄み渡った青空のような色をした双眸を持つ、黄緑色のマントに身を包んだ見目麗しいその女性。
大日本帝国在勤ブリタニア大使官附主席駐在官、所謂駐在武官の筆頭として日本で勤務している、神聖ブリタニア帝国ナイトオブラウンズ第12席ナイトオブトゥエルブ――モニカ・クルシェフスキー。
そんな重鎮も重鎮の彼女は今、参加している式典に於いて大変困難な状況下に置かれている。それは体温の上昇、激しい動悸、目眩息切れ、発汗の停止という、身体の不調を鑑みても明らか。
否――それが全てであると言っても過言ではない異常事態である。
生まれ持った才能に鍛錬を重ねて身についた高い身体能力と、それに裏打ちされた体力の持ち主である彼女が、この様な状況に追い込まれているのが異常事態でなければ何だというのだ。
では何故、戦場ではなく、また大きな事故や災害現場でもなく、政治的プレッシャーに苛まされるような事もない公務の一つとして出席している式典にて身体が不調訴えているのか?
ぶっちゃけてしまおう――――暑い。以上。
そう暑い。とっても暑い。倒れそうなくらいに暑いのだ。
気温は実に36℃という夏休み大好きで、お外で遊び回る子供達も真っ青な猛暑日である。
これは百葉箱等の、日光を遮る場所で観測された気温なので、直射日光の当たる屋外では40℃に達していてもおかしくはないだろう気温だ。
この式典会場は正に太陽が燦々と照り付ける屋外に設置されている。つまり此処は気温約40℃の灼熱地獄の真っ直中なのであった。
主席駐在官に任命されて日本で勤務するようになってから今年で3年目となるモニカも、当然、日本の夏が暑いのは良く知っていたし、過去2回も経験しているのだから結構慣れてきていた筈なのだ。
しかし、結果から言えばその考えは甘かったと言わざるを得なかった。
生まれも育ちも日本の、純日本人でさえ、暑さに慣れたと言いきることが出来ないというのに、たかだか2回くらい日本の夏を経験した程度で今年は大丈夫とか豪語していた自分が甘かったとモニカは揺れる視界の中で考える。
しかも今自分は分厚いとまでは言わない物のマントを着用している。熱を吸収しやすい濃色ではなく比較的マシな黄緑のマント。しかしながら内側の生地は紫色なので気分的には暑苦しく感じてしまう。
というよりも……こんな暑い日にマントを着用して直射日光の下突っ立っているなんて正気の沙汰とは思えない。
何処の誰がこんな熱の籠もるような服装で外気温40℃の灼熱地獄の下、日中を過ごしているというのだろうか? 街を歩いている人達や一般出席者の服装を見てほしい。誰1人としてこんな暑苦しい格好などしていないではないか。
14 :とても暑い日本の夏:2013/11/03(日) 17:40:20
マントの内側に蒸し蒸しとした熱が籠もって意識が朦朧とし、思考能力が低下してくる。
(………暑い……死んでしまう……)
正直な話、こんな暑苦しいマントはさっさと脱いでしまいたい処であった。
だが、いまはプライベートで来ているのではなく、ナイトオブトゥエルブとしてこの場に立っている。
ラウンズの正装が騎士服とこのマントである以上、脱ぎたくても脱げないのだ。
「モニカ様……」
隣に立つナイトオブトゥエルブ親衛隊隊長にして、自身の副官を勤める精悍な顔つきの男が小さな声で話し掛けてきた。
「もしや、御気分の方が優れないのでは……? 何でしたら私がスピーチを代わらせて頂きますが……」
そう気遣いの言葉を掛けてくれる年上の副官。
本来ラウンズの直属とは言え、一親衛隊の隊長に代役など務まる筈もないのだが、彼はクルシェフスキー家に仕える伯爵の爵位を持つ騎士でもある。
時と場合によっては名代という形で行事に参加することも可能な身分ではあった。
「い、いえ…、大丈夫です……問題ありません。……お気遣いの程、痛み入ります……」
だが、自らの立場上、彼の好意に甘えるわけにはいかなかった。天下のラウンズが暑さで式典をリタイアなどすれば、また日本のマスコミ――口の悪い人達は『マスゴミ』と呼んでいる週刊減退や、舞朝新聞に嫌がらせのような記事を書かれてしまう。
良い意味でも悪い意味でも貴族が大きな力を持つブリタニアで、彼の新聞社や週刊誌のような記事を書いたりすれば、皇族貴族に対する不敬の罪で重罪になること必定であったが、日本にはそこまでの規制はない。
但し、ブリタニア皇帝の代弁者であるラウンズや、日本の政財界とも繋がりの深い大貴族等に対する行きすぎた記事は、それ自体が国益を害することにもなりかねない為、時によっては日本の特高警察が動き物理的に“処分”される可能性はあったが……。
これに付いてはブリタニアでも同じだ。日本の皇族貴族に対する不敬行為、及び誹謗中傷の記事を書いたりしたブリタニアのマスコミも自国の皇族貴族に対し働いた不敬と同等の罪で罰せられる。
正当な記事を書いている分には日本は当然として、絶対君主貴族制でありながらも基本的には言論の自由が認められているブリタニアでも罰せられることはないのだが、とにかく『マスゴミ』と呼ばれている週刊誌・新聞社に付いては誇張したり捏造したりと
表現の自由・言論の自由を悪用していて話にならない。
彼女自身、以前に誇張記事を書かれるという被害にあったことがあるので、彼らが作る言葉遊びには重々注意していた。
まあ、それら含めた諸々の責任や立場以前に――
『で、あるからして今日に至る友好は――』
今舞台上でスピーチをしている自身よりもずっと年上であり想い人であり、そして剣を捧げた相手――嶋田繁太郎がこの炎天下の中頑張っているのだから、
彼の騎士として、彼の前で無様な姿は見せる訳にはいかないのだ。
15 :とても暑い日本の夏:2013/11/03(日) 17:41:06
*
『ご来賓、並びにご出席の皆様、御静聴ありがとう御座いました』
『続きまして、神聖ブリタニア帝国ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー卿』
「はい」
壇上でスピーチを終えた男――嶋田がゆっくりと下りてくるのを見たモニカは、彼女の名を呼ぶ司会の声に、今度は自分の番だと席を立つと、先ほどまで嶋田が挨拶をしていた壇上に向かってゆっくりと歩を進めていく。
(う……これ…は……)
視界が揺れている。完全に熱中症だ。照り付ける太陽の熱線が衰えることはなく、今この時も彼女への攻撃の手を緩めない。
だがしかし、此方に戻ってくる嶋田の姿が揺れる視界に捉えられると、モニカはグッと手に力を込めて気合いを入れなおした。
(嶋田さん……)
何かあったとき、彼が側に居るのと居ないのとでは随分差が生じてしまうようになったと思う。
日本へと渡り来た1年目に彼への思慕を抱き、2年目に彼を必ず撃墜してみせると誓いを立て、そして今年は彼と枕を一つにして眠り、おはようとおやすみのキスまでもを行えるようになった。
直接的に想いを伝えなければ鈍い彼には伝わらないだろう好きという気持ち。だが、心の距離はとても近付いてきたとの確信を抱いている。
そうして距離が縮まっていくに連れ彼への依存度が高くなっているようにも感じたが、同時に彼が側にいるときや彼を想いながら何かをするときは、実力以上の物を発揮できるようになった。
だからこそ、この程度の熱中症如きには負けていられないのだ。
そう思いながら歩を進めていた彼女であったが、悲しいかな、思いが強く気合い充分であると言っても、身体の方が付いてこなかった。
「あ…、」
ぐらっ、と大きく揺れた視界に足がもつれて倒れそうになってしまうモニカ、支える物は無く受け身も取れないだろうから、無様に転倒してしまうなと考えた――が。
「おっと!」
ガシっと身体を支える手が伸びたのだ。
「危ないところだったな。大丈夫かいモニカさん」
丁度すれ違いざまだったのが幸いして身体のふらつきに気付いた嶋田が受け止めてくれた。
「あっ……嶋田…さん……」
暑くなった自分の身体を同じくらい暑い身体が抱き留めている。
「わた、し……少し……暑く…て…っ、」
此方の顔色を覗き込む彼の顔がとても近い。不意に抱き着いて【嶋田さん分】の補給でもしたくなる程に。
しかし、今の彼女にはその気力はあっても体力が残ってない。仮にいつものように頬を擦り寄せようと思っても、身体が言う事を聞かないのだ。
当然、ステージの上でぐらつくモニカを見た来賓や一般来場者もざわめきだす。
「何かあったのか?」
「いや、何かクルシェフスキー卿が御気分が悪いとか……」
「お、おいおい、大丈夫かよ……救急車呼んだ方が…」
皆、彼女の様子を見て一様に心配している。
最強の騎士などと言っても直接的に彼女の戦闘力を目の当たりにした者でもなければ、華奢な身体つきをしたか弱い女性にしか見えないのだから然もありなんといった反応だ。
だが、式典の最中に気分が悪いとかで式を一時中断させてしまった身としては、申し訳なさと情けなさで胸がいっぱいになってしまう。
「モニカさん。俺の顔が見えるか?」
とても心配げな嶋田の声に余計いたたまれなくなり、【嶋田さん分の補給】などと考えていた自分を叱りつけたい。
彼女は自己嫌悪しながら我が身を気遣ってくれる彼に返事を返す。
「………す、少し……ぼやけています…ね……」
眼を細くしてジッと見てみるも曇ったガラス越しに見るような視界が広がり、彼の顔がぼやけて見えるのだ。
想い人の顔がはっきりと見えないのは悲しいを通り越して泣きたくなってくる。
「ダメだなこれは……完全に熱中症だ」
16 :とても暑い日本の夏:2013/11/03(日) 17:42:00
「モニカ様っ!」
恥じ入っていた時、駆け寄ってくる親衛隊長の声が聞こえた。
「ですから申し上げましたでしょうっ、私がお代わり致しましょうかとっ!」
彼は人目も憚らず叱り付けてくる。伯爵位を持つとは言え一親衛隊長に過ぎない彼がラウンズの彼女を叱り付けるなど懲罰物と言えよう。
次期クルシェフスキー侯爵にしてラウンズともなれば、一国の王を怒鳴りつけているような物なのだから。
「ご…ごめんなさい……」
が、彼女は素直に謝る。彼は階級とかそういった物差しで測れるような家臣ではない。
幼少期より仕えてきたクルシェフスキー家の重臣の1人であり、モニカにとっては歳の離れた兄のような存在。
それに自分の甘い判断で大勢の人に迷惑を掛けているのだから、謝るのが当たり前だ。
「嶋田卿、お手をお掛けしますがモニカ様をお願いします」
「ええ、分かりました」
「あ…っ、ダメです…っ、私がスピーチをっ…、」
それでも手にしていたスピーチ用の原稿が親衛隊長に取り上げられた抗議の声を上げる辺り、剣を捧げた嶋田の前で自らの成すべき事すらできないという姿を見られたくないという意思の方が勝っていた。
余人には分からないであろうが、騎士が剣を捧げた主の前で無様な姿を晒すというのは、時に死にたいと思う程の恥辱である。
だが、この場に於いては彼女の意思を優先させるというのは唯の我が儘でしかない。あくまでも彼女の身を第一に考えるのがこの場の最善策であり、尤も場が丸く収まる方法なのだ。
「なりませんっ! 少しは己が身を御自愛なさいませっ! モニカ様には確かにお立場という物が御座いますが、周りに迷惑の掛かる御命令までは承伏致しかねますっ!」
「そういうことだよモニカさん。此処は彼に任せて病人は大人しく休んでいなさい。大体そんな身体で壇上に立たれたら式の進行が遅れに遅れてしまうだろう」
「あうう……」
2人の正論に攻められたモニカは二の句が継げず押し黙らざるを得なかった。
そして強制退場が決定してしまった彼女は――
「ちょっと失礼させて貰う、ぞっと!」
「きゃ…っ!」
その場で嶋田にお姫様抱っこをされてしまった。それもわりかし軽々と言った感じで。
齢60になる嶋田であったが若い頃は海軍で鍛えていたために、モニカのような軽い女性を抱き上げるなど訳もないのである。
「あっ…あうっ、あうっ、」
お陰で羞恥心から言葉を紡げずあうあうと唸る彼女は、熱中症とはまた別の熱が出てしまい、体温の上昇に拍車が掛かっていた。
だが、そんな状況に身を置きつつも逆に朦朧としていた意識がクリアになってくるから不思議でならない。
「ああこれはまずいな、益々熱が出てきたようだ。早く救護所で応急処置をして貰わないと」
林檎より赤いのではないかと思えるほど頬をバラ色に染めたモニカは、こうして嶋田の腕に抱かれたまま壇上から強制退場させられるのであった。
尤も、壇上の横でお姫様抱っこ。これに大きく反応したのは何も当事者たる彼女だけではない。
式典会場に居た『マスゴミ』が一斉にフラッシュを炊いたのである。
ここ最近雑誌の売れ行きが悪い『マスゴミ』は、こういう場面を取ろうと躍起になっている。帝国元宰相とナイトオブトゥエルブにしてクルシェフスキー侯爵家息女の甘いロマンスを激写できればバカ売れ間違いなしの大スクープ。
といった風に思わぬネタが髪の悪戯によりもたらされた訳だが………。
残念無念、後々ゴシップ週刊誌に面白可笑しく誇張して記事を掲載するであろうことは目に見えていたので、会場を警備していた警察や軍関係者によって、今の瞬間のテープとネガを全て没収されてしまうのであった。
結局モニカは嶋田にお姫様だっこされたまま救護所へ連れて行かれ、自身が読み上げる筈であった原稿を代わりに読み上げた親衛隊長のスピーチを聞き終えたところで病院へと搬送される事となったのだが、
彼女が熱中症になった原因の一つに正装として着用していたマントがあったので、この一件以降、日本に駐在している騎士やラウンズのマントは、湿気を溜めないよう工夫された日本の夏仕様が支給される事となる。
当然デザイン見た目は全く同じ物。基本的に統一された規格というのが主流であるブリタニア軍の制服に勝手なデザイン変更はできないからだ。
モニカの場合は黄緑色のマントだが、あの模様もカラーもデザインも全てが決められた物であるから、変更点というのは湿気が籠もらないという一点のみ。
一応ブリタニアにも夏仕様という制服やマントは普通にあったのだが、【日本の夏仕様】という今まで無かった新たな規格が生まれる切っ掛けとなった、ある暑い夏の出来事であった。
17 :休日:2013/11/03(日) 17:42:54
終わりです。
最終更新:2025年03月18日 22:47