- 336. earth 2011/12/24(土) 22:05:24
- 投下します。
史実では64年で終った昭和の世は、敗戦を免れたこの世界では65年が経っても尚続いていた。
大日本帝国は太平洋全域に加え、インド洋をもその勢力圏に組み込み、一大海洋国家としてこの世界に君臨していた。
欧州枢軸と緩やかな冷戦構造を構築していたものの昭和65年、西暦1990年にもなると欧州枢軸と大日本帝国との技術格差は
歴然としており、両者が全面核戦争をしても勝つのは日本側といわれていた。尤も、大日本帝国としてはそんな馬鹿げた賭けをする
つもりは欠けらも無かったが……。
この世界最強国家として君臨する帝国の宰相を任されていたのは、かの伝説の宰相の息子である嶋田忠司だった。
「ふぅ……疲れるな」
首相官邸の執務室で嶋田は椅子に座ったまま背を伸ばした。
そんな様子を見て一人の眼鏡を掛けた美女が労いの言葉をかける。
「お疲れ様です。閣下」
「……君と違って歳には勝てないのでね」
「女性に対して歳の話題はどうかと思いますが?」
「ただの女性なら、な」
そういって忠司が皮肉をぶつけたのは大蔵大臣である辻政子。かの魔王の娘だ。
歳はすでに40代を過ぎているが20代でも通用する程若く見えるのだ。
ちなみに夢幻会の前世記憶を持ちの世代は彼女を見て、「峰不二子かよ」と突っ込みを入れている。
「……大陸の実験の成果と思ってしまうよ」
「まさか」
大日本帝国の軍事技術は史実世界の同年代(1990年)に比べて、15年〜20年ほど先行していた。
ただ宇宙兵器の開発と配備は積極的に進められており、その分野では史実を遥かに凌駕していた。
北米での形振り構わぬ技術の収奪、北欧諸国との連携、教育制度の充実による優れた人材の確保、アメリカが滅んだことで列強
同士の争いが頻発したことが日本の技術の進歩を加速させたというのが表向きの理由だった。
しかしもう一つ理由があった。そう戦中から行われていた人体実験によって未来情報を限定的ながら入手できるようになったことも
日本の躍進を支えていたのだ。
「まぁ良い。社会福祉についてだが……」
そこまで嶋田が告げた瞬間、軍から首相官邸に途方もない報告が飛び込むことになる。
- 337. earth 2011/12/24(土) 22:06:17
- 「日本海に巨大な壁が現れた?」
「はい。しかもその壁は水中にも続いているようでして」
あまりにイレギュラーな事態に誰もが慌てた。そしてその壁から突如として1隻の船が出現し、帝国海軍とコンタクトを
取ってきたことがさらに混乱に拍車を掛ける。
「日本国海上保安庁?」
「何だ、その組織は?」
召集された閣僚や軍人達は一様に首をかしげた。だが一部の未来の情報を知る者たちは彼らの正体を悟った。
嶋田は素早く辻に小声で話しかけた。
「まさかと思うが、未来世界の?」
「信じられませんが……間違いないでしょう」
「ということは、目の前のアレは未来へ続く門といったところか。全くどこの誰だ、あんな迷惑な物を作ったのは……」
彼らにとって未来情報は必要だったが、未来世界との交流は必要なかった。
「ですが無視する訳にもいきません。向こうにも同じものがあるとなれば……」
「行き違いになれば戦争か。幸い、向こうは20年先だから対抗は可能だが……本土のすぐ近くが戦場になるのは好ましくない」
「接触して、出来れば穏便に『こと』を済ませる。これが適当でしょう」
「やれやれ……」
父親とそっくりの疲れ切った表情で嶋田はため息をついた。
最終的に大日本帝国政府は向こうの世界とのコンタクトを決意した。
だがそれからは問題の連続であった。平成世界は、こちらの昭和世界とは全く異なる歴史を辿っていた世界であった。
このため昭和世界の存在は彼らにとって大きな混乱を齎したのだ。
「大西洋大津波だと?」
「アメリカやソ連が負けて、大日本帝国とナチスドイツが勝った?何の冗談だ?」
大日本帝国としては平成日本との二国間交渉にもっていきたかったのだが、日本政府にそんなことが出来るわけが無く
このゲートは国際的な問題になった。
そして中でも過剰反応したのは……韓国政府であった。反日を国是とする彼らは、並行世界とはいえ大日本帝国という存在を
認めるはずがなかった。
「ゲートは我々の領海付近にある。管理権は我々のものだ!」
「並行世界の同胞を虐げる日帝は謝罪と賠償を行うべきだ!」
「日帝の非人道的行為を調査するために調査団を送るべきだ!」
彼らはそう声高に主張して憚らなかった。一部の人間は自重を求めたがそんな声はかき消された。
「大日本帝国の亡霊が復活しようとしているのだ! 落ち着いていられるか!!」
- 359. earth 2011/12/24(土) 22:58:45
- >>338-339
を改訂したのを投下します。
そんな声は中国でも挙がった。しかし国家指導部は冷静だった。
「問題なのは大日本帝国の影響で日本が右傾化することだ。それをまず阻止しろ」
「大日本帝国は放置と?」
「相手は門の向こうだ。戦いを仕掛けるとなれば敵の本国の間近で戦うことになる。苦戦する可能性は高い」
「……」
「それに、相手がどのような思考回路を持つのか、どれほどの実力を持っているかが問題だ。それを計る必要がある」
「では?」
「ああ。韓国を唆す。米国も同じような考えだろう」
こうして韓国は米中の後押しを受けて平成日本を訪れている大日本帝国の交渉団に対して、無理難題をぶつけた。
さらに韓国艦隊がゲート周辺に遊弋して威圧し始める。一方の平成日本政府は韓国のやり方を追認するしかしなかった。
「舐めやがって!」
帝国政府関係者はいきり立ったが、嶋田は冷静だった。
「門の調査は済んでいない。超常現象に頼って戦争を行う愚は冒せない」
「では放置すると?」
この問いに辻が妖艶な笑みを浮かべて答える。
「問題ないでしょう。所詮、彼らは門の向こう側に居るのです。いくら騒ぎ立ててもこちらに影響はありません」
「しかし彼らを放置すれば門周辺の安全が」
「でしたら、こちらに来てもらって、我々の力を見てもらえば良いのです」
「ですが軍事機密の漏洩に……」
「こちらの手札をある程度見せるのも、手ですよ。どうですか、総理?」
「……良いだろう。彼らに帝国の力を存分に知ってもらおう」
- 360. earth 2011/12/24(土) 22:59:41
- 「「「………」」」
招待された平成世界の代表団は顔面蒼白の状態だった。特に大日本帝国を挑発していた韓国関係者の顔色は悪い。
彼らが居るのは原子力空母『蒼龍』。大日本帝国海軍が誇る最新鋭にして最大の原子力空母だ。
このニミッツ級に匹敵する超大型空母は、今回開かれた観艦式の旗艦を務めていた。そしてその艦上に特別に招かれた平成世界の
人間達がいた。
「これ程とは……」
アメリカ海軍関係者は、日本帝国海軍の戦力を見くびっていたことを嫌と言うほど自覚させられた。
量だけならまだ想定内といえなくともないのだが……。
「艦載機が全てステルスだと? 馬鹿な……」
「それに対艦兵器も桁違いだ。正直、彼らと戦うとなればかなりの犠牲が出るぞ」
「第7艦隊だけでは返り討ちだな」
F−22に匹敵する空母艦載機に、史実日本海軍の陸攻と同様に対艦攻撃を重視したステルス攻撃機『深山』、中国が開発している
対艦弾道弾のようなものまであるとなれば、もはや笑うしかない。
「少なくとも軍事的オプションは危険すぎる」
そんな彼らににこやかな顔で嶋田が話しかけた。
「楽しまれましたか?」
「ははは。それは勿論です。実に有意義な時間でした」
彼らの前に居るのは70歳の老人。だが昭和世界最強国家である帝国の宰相を務める男の眼光は鋭かった。
「それは良かった。何しろ、そちらは20年もの先の世界ですから、失望されるのではと危惧していましたよ」
「まさか、貴国の実力はよく判りました」
「それは有難い。『帝国』としては21世紀世界と良好な関係を持ちたいと思っていますから」
「勿論、我々もです」
21世紀世界の盟主とは言え、経済が疲弊しているアメリカに、これだけの軍備をもつ軍事大国と戦う愚は冒せない。
いや健在であっても、これほどの国家とゲート越しに殴りあうのは厳しかった。
「次は是非、そちらの世界の観艦式に招待していただきたいものです。21世紀ともなれば素晴らしい兵器があるでしょうし」
この一言に誰もが顔を引きつらせることになる。
- 361. earth 2011/12/24(土) 23:00:44
- あとがき
TSネタでは韓国艦隊だけでも撃滅したのですが……ますます地味になった(笑)。
まぁ戦争なんてしないに越したことはないですからね……。
最終更新:2018年12月12日 22:05