213 :名無しさん:2013/11/23(土) 15:42:24
ネタ。
鏡じゃないよ
「姉さん姉さん、ちょっと協力して貰いたいことがあるんだけど」
クルシェフスキーのお屋敷というか宮殿にお泊まりしていた一繁はサクラを呼び出して協力して欲しいと申し出ていた。
「協力って何をすればいいのですか?」
「二時間だけでいいから時間作って」
現在彼の自由は剥奪されている。他ならぬ母モニカの手で部屋に閉じ込められて、一歩たりとも外に出る事を禁じられているのだ。
理由は言わずもがな、赤い点数が差し迫っている状況に鬼の怒りが頂点に達してしまったことによる自業自得。
しかし、それでは困るのだ。何せ今日は予約していたモンハンとファイナルドラゴンファンタジーの最新作が発売される日。
クルシェフスキー領の中心都市ポートランドには日本のゲームショップの系列や姉妹店が多く、日本で予約したという確認さえ取れればこちらでも購入が可能。
こんなところで机とにらめっこしている場合ではないのだと切実に訴える。
協力を求められたサクラも彼がこの日のためにと何ヶ月も前から貯金していたのは知っている。
「ハア……。二時間、二時間でいいんですね?」
仕方がない、本当のことを言えばバレてしまった時が怖いのでしたくはなかったが、弟の切実なお願いに渋々承諾せざるを得なかった。
幸い、今日は両親・祖父母が揃って西海岸諸侯の集まる会合に出席しているため、お屋敷にいる人間で一番強い権限を持っているのは彼女だったのである程度の誤魔化しは利く。
といっても部屋の前で立っている一繁の見張り番を退かせることは出来ないであろうが。
見張り番は一繁を部屋から出さぬようにとのモニカの勅命を受けている故にサクラの命令は一切受け付けないのだ。
それじゃあどうすることも出来ないだろ、というのは彼女の事情を知らない者くらいである。
「それじゃあオッケーってことで」
一繁が手渡したのは二本の赤いリボン。かなりの長さがあるそのリボンを受け取ったサクラは自身の長い金髪に結び、巻き付けていく。
リボンで結んだ髪を体の前に流している母と同じ様な感じにした彼女は、次に碧いカラーコンタクトを両目に入れた。
「うん、これで完璧にモニカ・クルシェフスキーだ」
「いつも言ってますけど、こんなことがお母様に知られたら私も大目玉なのですから絶対に時間通り帰ってきて下さいよ」
「わかってるわかってる」
ひとこと言い含めた後、サクラは部屋に置いてあったロープを大きなクローゼットに結び付け、窓から垂らして下に下りる準備を完了させる。
「では作戦決行です」
「イエッサー!」
※※※
214 :名無しさん:2013/11/23(土) 15:43:18
「は?カズシゲ様に御休憩ですか?」」
微動だにせず立っていた見張り番は急な主の帰還に直立不動のまま返事をした。
「ええ、あまり拘束しすぎても頭に入らなければ意味がありませんから少し休憩させてリラックスをと思いましたので」
「はあ、しかしモニカ様。まだご帰宅なされるお時間ではないようですが・・・ それにシゲタロウ様や旦那様奥様は?」
「えっ? あ、ああはい。あの、忘れ物をしてしまいましたので、その、」
「それならば屋敷の者にご連絡下されば」
「いえ、自分の忘れ物を他の者に届けさせるわけにも参りませんので」
「それならば宜しいのですが」
「あの、それではカズシゲを」
「ああ、そうでしたね」
「サンキュー姉さん恩に着るよ!」
「いいですか二時間!二時間ですよ!絶対に時間厳守ですからね!」
「そんなにしつこく言われなくてもわかってるから大丈夫だって」
弟を屋敷の外に連れ出したサクラはしつこいくらいに言い含める。
調子に乗りやすい弟はこれくらい言っておかなければ関わっている自分までとばっちりを受けてしまいかねないのだから、しつこく言うに越したことはない。
「じゃあダッシュで行ってくるよ」
中学生の分際で原付をかっ飛ばしていく弟の背を見送りながら、本当に大丈夫なのだろうかと不安になってきた。
もし事が露見すれば地獄が待っている。
目の色を除いてすべてが母と同じという外見をしているので、カラーコンタクトさえ外さなければまずバレないだろうとは思うけれど。
「さて、とりあえずのところ、屋敷で帰りを待つことにしますか」
そう言って気を抜いた彼女が振り返ると。
「はうっっ!!」
そこには自分の姿を映している原寸大の鏡があった。
自分と同じ姿を移すその鏡には、一点だけ違うところがあると知っている。
それはカラーコンタクトではない天然の澄んだ碧い瞳。
――少しお話しでもしましょうか――
薄ら寒い微笑みを称えた姿見のサクラは、反射的に逃げようとした彼女の首根っこをひっつかまえて、ずるずると引き摺っていった。
最終更新:2013年11月23日 21:38