536 :フォレストン:2013/11/20(水) 18:20:29
軍事パレード、それは英国面発露の場…!
1950年初頭。
戦後の復興と新植民地である、ブリティッシュコロンビアの経営に、一定の目処が立った英国は、経済的には多少なりとも余裕が出来つつあった。
しかし、ドーバー海峡を挟んだ欧州枢軸との睨み合いは未だ続いており、頼みの綱である日本との関係修復は未だ途上と、その前途はお世辞にも明るいとは言えなかった。
この事実は世相にも反映され、当時の英国民へのアンケートでは実に8割近い回答が、将来に対して悲観的なものとなっている。
戦後間もないころは、復興にだけ専念していれば良かったのであるが、少し余裕が出来て、現実を見たら欝になったといったところであろうか。
当然ながら、政府もこの事態を理解しており、経済政策に並行して国民の意識高揚を狙った方策を実施しているのであるが、戦後復興のために経済製作が優先されたために、後手に回っているのが実情であった。
この現状に誰よりも心を痛めていたのが、時の英国国王にして、国策決定の最高機関である円卓の盟主であったジョージ6世であった。
彼は円卓の場でこのような発言を残している。
「私が英国国王でいられるのは、愛する国民が支えてくれているからである。
その国民が窮している最中に何もせずにいて、何が王か。
諸君らには苦労をかけることになるが、なんとかしてもらいたい。」
この言葉に、身分職業関係無く参加していた円卓の関係者は、一斉に総立して臣下の礼を取ったという。
537 :フォレストン:2013/11/20(水) 18:24:15
「陛下がこれほどまでに心を痛めておられたとは…」
「これはなんとしても、国民の意識を高揚せねばなるまい」
「しかし、時間も予算も厳しいものがある。取れる手段は限られるぞ」
「なに、ジョンブルにはジョンブルのやり方というものがある。
クラウツや蛙喰いに目に物見せてくれようではないか!」
催事のために、ジョージ6世が退席した後の円卓では、その後も議論が続けられた。
しかし、彼らの表情には最初の悲壮感は見られず、やる気と使命感に満ちていた。
英国に生きる者として、国王陛下に頼られて、NOと言える紳士は存在しないのである。
議論の結果、以下の方策が決定された。
- 国王夫妻による英連邦内の巡幸。
- 国内外へ英国の健在ぶりを示すための、軍事パレードの開催。
国王夫妻による、英連邦内の巡幸については、細部の調整と、各方面への根回しが必要なので、後日改めて協議することになった。
そのため、もう一つの課題である、軍事パレードの実現に向けて、詳細を煮詰めることになったのであるが、こちらはこちらで、問題が山積みであった。
「ドイツに対抗出来る兵器が有ると分かれば、国民も安心出来るだろう」
「出せる兵器はあるのか?陸海空軍とも未だ再建中でそんな余力はとても…」
「試作機や少数生産で終わったものがあったろう?それを改修して参加させれば良い」
正規戦力は未だ再建中であったため、試作機や少数生産で終わった兵器をパレードのメインに据えることにしたのであるが、さすがにこれには参加者の中から反対の声も出た。
「そんなものを出して大丈夫か?パレードだけなら大丈夫でも、その後の火力演習で不具合が出たら世界中から笑いものにされるぞ?」
「開発当時は、技術が追い着いていなくて、お蔵入りになってしまったが、現在なら対応可能とDMWDから技術レポートが届いているから大丈夫だろう」
戦後、ドイツとの再戦に備えて、数々の(英国面満載な)新兵器を開発していた英国であったが、その大半は試作機か、良くても少数生産に留まっていた。
性能は画期的であったが、信頼性やコストに問題があったためである。
しかし、戦後から5年経ち、ディーゼル技術の発展や、真空管に変わる小型高性能で信頼性の高いパラメトロン素子の開発等、現在の技術を持ってすれば実戦化には問題無いとDMWDより、技術レポートが提出されていたのである。
DMWD(多角的兵器開発部 : Department of Miscellaneous Weapon Development)は史実では、海軍の組織であったが、この世界では陸海空3軍の統合技術研究所として機能しており、かの有名なネビル・シュート、チャールズ・デニストン・バーニー卿、バーンズ・ウォリス博士らを要する技術MADの巣窟となっていた。
軍事パレードに参加する兵器は、彼らの手によって実戦に耐えうるように魔改造されることになったのである。
538 :フォレストン:2013/11/20(水) 18:28:31
1950年12月14日。
英国ロンドンの近郊で開催された軍事パレードには、物見高いロンドンっ子は勿論のこと、日本や欧州枢軸側からも武官や外交官が招待され大盛況であった。
街路沿いに翻るユニオンジャック、軍楽隊の演奏に合わせて更新する近衛兵たち。
ここまでは通常の国王陛下の誕生日を祝う軍事パレードである。しかし、その後半部分は例年とは全く違うものとなっていた。
「なんだあの怪物は…!?」
「どうみても我が国のティーガーより大きいぞ…!?」
「…(トータスktkr!)」
近衛兵の後ろから、轟音を撒き散らしながら低速で機動する、ドイツ風に言うならば重駆逐戦車と言える鋼の塊が存在していたのである。
A39 トータス重突撃戦車。
史実とは違い、ティーガー対策として開発された、この重戦車であるが、重装甲故の機動力の低さと、高コストにより少数生産に終わっていた。
配備しようにも重すぎて、英国本土内のインフラでは耐えられなかったため、そのままお蔵入りしていたのである。
今回のパレードでは、道路を破壊することが無いように、ゴム製のキャタピラを装備しての参加である。
「ふん、ただの張りぼてだろう。あの図体で高速で動けるわけがない」
「パレードに参加するのがせいぜいのドン亀だろう。我が国の機甲師団の敵では無いな」
「…(よく見ると全長が長いような気が?エンジン変えてるのか?)」
招待された一部の武官達はそう嘯いたが、エンジンやミッションも含め、徹底的に改修されたトータスはドン亀どころか、鋼鉄の狂獣であることを、その後に行われた火力演習で思い知らされることになる。
「なにあれ、かっこいい!」
「何やら分からんが、頼もしく感じるな…」
近衛兵、重戦車の後に続くは、エンフィールド小銃に市街地迷彩で身を固めた、第2歩兵師団から選抜された精兵達である。
迷彩服に合わせたメイクを顔面に施している兵達は、ある種異様で、また頼もしくもあったためか、概ねロンドンっ子達には好評であった。
「実戦で効果が実証されない限り、我が国での採用は無いでしょうな」
「英国も愚かなことを。そんな小細工よりも砲の一つでも作った方が良かろうに」
「…(史実のドイツって大戦中に迷彩服開発していなかったっけ?)」
武官達、特にドイツ軍人は、迷彩服に関して否定的な立場だった。
これは正面装備の拡充に手一杯で、他の分野に目を向ける余裕が無かったためである。
正面装備偏重な考えを、当時のドイツ軍人はむしろ当然として受け止めており、このことは後々の軍の編成に影響を与えるのであるが、ここでは割愛する。
その後も、牽引式の200連ロケット砲搭載トレーラーや、対戦車用の25ポンド・ショルダーガンを車載化したランドローバー等、新世代の英国陸軍の姿を国内外に印象付けたのであった。
539 :フォレストン:2013/11/20(水) 18:33:40
「ジェット戦闘機だ!」
「かっこいいなぁ。乗ってみたいなぁ」
パレードの最後には、空軍が現在配備を進めているジェット戦闘機である、デ・ハビランド ヴァンパイアの編隊が上空に飛来して、観客達を大いに湧かせることとなったが、これだけでは終わらなかった。
同一高度より、正対する形で同数のプロペラ機の編隊が飛来したのである。
「スピットファイア?なんでこんなところに?」
「おい!?あれを見ろ!?」
突如始まった、入り乱れての模擬空戦に観客達は悲鳴交じりの歓声をあげた。
ロンドン上空で繰り広げられた模擬戦であったが、最終的な勝利はヴァンパイア側に挙がったものの、プロペラ機もかなり善戦しており、特に低高度ではヴァンパイアを圧倒し、中高度でもほぼ互角の戦いを繰り広げたのである。
ヴァパイアと激闘を繰り広げたプロペラ機は、スピットファイアではなく、その改修型であるスパイトフルであった。
エンジンをレシプロからターボプロップに換装し、細部を改修したこの機体は、プロペラ機ながら最高速度800キロを越える超高速機であった。
今回の模擬空戦に参加した機体は、そのスパイトフルの最新バージョンであるF.Mk21の先行量産型であり、最高速度は900km/hを超えていた。これは初期のジェット戦闘機を超える速度であり、プロペラ戦闘機の到達点とも言える機体に仕上がっていたのである。
「ジェット戦闘機と互角にやりあうプロペラ機だと…!?」
「八百長じゃないのか…!?こんなことありえる筈が…!」
「…(ターボプロップの高速戦闘機とか、どこの紺碧世界だよjk)」
プロペラ機がジェット機と渡り合うという、非常識な光景を見せ付けられた武官達は唖然としたという。
日本側の武官(じつは転生者)はどちらかというと呆れていたようであったが。
史実では、早々とエリアルールが発見されたため、超音速戦闘機が実用化されたのであるが、この世界では日本以外では発見されておらず、当然のことながら、日本側もエリアルールを秘匿していた。
そのため、英国もドイツもジェット戦闘機の最高速度は1000km/h前後に留まっていたのである。
ドイツは英国に先んじてジェット戦闘機である、Me262を配備し、その後継となる機体も開発中だったのであるが、未だに音速の壁を破れていなかった。
そんな中で時速900キロ超えのプロペラ戦闘機の登場である。
速度は多少劣っていても、それ以外の上昇力、旋回性その他の性能は上回り、状況と戦法次第では互角以上に戦えることが判明したため、ドイツ側は、開発プランを白紙もしくは全面変更するハメになった。
同時に、ドイツ空軍内に存在していた、英国空軍に対する楽観論も吹き飛ぶことになったのである。
540 :フォレストン:2013/11/20(水) 18:36:03
軍事パレードは午前中に終了し、午後からは場所を移して英国陸軍火力演習が開催された。
規模こそ大きくなかったものの、質を優先させた結果、招待された一般客はもちろん、武官、外交官の度肝をぬくことになった。
まず先陣を切ったのは、200連ロケット砲の一斉射撃であった。
牽引式トレーラーに載せられた200発のロケット弾が、グループ毎に時間差をつけて発射され、着弾地点を豪快に耕したのである。
トレーラー10台、合計2000発のロケット弾攻撃の威力と、その攻撃範囲の広さに、観客達はしばし声が出なかったという。
「馬鹿な…戦艦並みの火力と言うのか…!」
「ふん、ロケットなど邪道の極み!戦場でものを言うのは大砲なのだ!」
「…(史実のロケット砲艦の焼き直し?そういえば開発はイギリスだったような気が)」
日本側の武官(転生者)の思ったとおり、史実のロケット砲艦のシステムをそのままトレーラーに載せただけのシロモノであるが、低コストで大火力を実現するには合理的な手段であった。
対地ロケットの有用性を、この演習で再確認した英陸軍は、さらに高性能な対地ロケットの開発に傾倒していくことになる。
その副産物としてクラスター弾頭、低コストで高性能なダブルベース火薬を採用した、固体ロケットモーターなどの副産物を産むこととになり、これが誘導弾や弾道ミサイル、さらに人工衛星につながっていくのであるが、それはまた別の話である。
541 :フォレストン:2013/11/20(水) 18:39:33
続いて登場したのは、パレードにも参加していたトータス重駆逐戦車である。
ミーティアからデルティックにエンジンを換装した結果、1400馬力という大出力を得たトータスは、猛然とダッシュした。
開発当初は信頼性に問題のあったデルティックエンジンも、技術的な熟成が進んだおかげで、戦場での酷使に耐えうるレベルになっていたのである。
『大尉殿ぉ!こいつはご機嫌ですね!』
『おぉよっ!まさかここまでのものになるとはなぁ!頑張った甲斐があったぜっ!』
開発段階から、トータスに関わっている戦車兵達にとって、この演習は最大の見せ場であり、それ故に相当に気合が入っていた。
そんな彼らの操る『ドン亀』は、時速50km/hの全速から急停止、超信地旋回後に全速後進、再びダッシュして急坂を難なく登りきるなど、その図体に見合わない、鋭い機動は、見る者を圧倒したのである。
このような無茶な機動を支えたのは、戦車兵の技量だけではなく、搭載されていたメリット・ブラウン操行変速機の恩恵であった。
低速走行時の安定性と動力伝達効率の高さも相まって、トータスはカタログスペック以上の機動力を発揮することが出来たのである。
『ターゲット発見!』
『フルブレーキ!停車後に発砲だ!タイミングは任せるが外すなよっ!』
『了解…ファイヤー!』
その後、ターゲット視認位置に到達したトータスは、搭載された62口径32ポンド戦車砲で、1000ヤード先のターゲットを一撃で撃破したのであった。
「馬鹿な!?なんであの図体であそこまで動けるんだ!?」
「ヤバイ…!総統とポルシェ博士がこれを見たら、また発作を起こすぞ!?」
「…!?(なんか史実のトータスと別物過ぎるんですけど!?)」
名前とは裏腹な、従来戦車とは一線を画する機動力に、招待された武官達が顔を青くしたのは言うまでもない。
もっともドイツ側は別の意味で戦々恐々だったのであるが。
案の定と言うべきか、後日この事を知った伍長閣下と某博士が、当然のごとく暴走し、関係者の胃と精神に多大なダメージを与えたことを付け加えておく。
542 :フォレストン:2013/11/20(水) 18:44:49
陸戦の王者が去ったあと、次なる刺客は空からやってきた。
「なんだこの音?」
「凄い爆音だ…って!?上を見ろ上をっ!」
「あれは一体何なんだ!?」
高回転型遠心コンプレッサ特有の鋭い高音、ジェットブラストの低音、ギアの唸り、そしてローターの風切り音とが混ざった独特のサウンドは、何も知らない観客を不安にさせる音であったが、日本側の武官の反応はまた違ったものであった。
(この音は間違いなく、YS-11のエンジン、ダートではないか!?
というか、ヘリに…いや、あれはジャイロダイン!?)
転生者である彼が見たものは、史実のフェアリー社が開発した複合ヘリの一つである、FB-1A ジャイロダインの編隊であった。
1944年に日本軍が行った、北満州平定作戦で、ヘリ部隊が活躍したことを掴んだ英国は、直ちに陸軍主導で同様の機体を開発するように航空メーカーに働きかけた。
初期のヘリコプターは、非力なエンジンに重量過大で、ホバリング性能はともかく、速度も航続距離も今ひとつであった。
史実と同様にこの問題を解決すべく、複合ヘリが研究されたのであるが、その中の一つが、このジャイロダインである。
空冷星型エンジンでコンプレッサーを駆動し、その空気をローターの両端から排気して、ローターを駆動、ホバリング後は、その駆動力を主翼に配置した2つのプロペラに回して飛行した。
最高速度は時速200キロを超え、これは開発当時としては画期的なことであった。
この性能に歓喜した陸軍は、直ちにヘリ部隊の運用法の研究に取り掛かったのであるが、基本的に侵攻や奇襲という攻撃的な作戦に投入される傾向が強い兵器であったために、全面的な守勢に追い込まれている英国では、今ひとつ使い道が見つからなかったのである。
そのため制式採用は見送られ、少数生産されるに留まったのであるが、運用法の研究自体は将来のために継続されたのである。
現状で使い道が見つからず、倉庫に半ば放置されていた機体をDMWD(多角的兵器開発部)のMAD連中が徹底的に魔改造を施した。
エンジンを非力な航空用レシプロエンジンから、ターボプロップに換装、主翼の推進用プロペラを牽引式からプッシャー式にすることで、主翼を兵装架として使用可能となり、側面に大型の乗降用ドアを設けることによって、素早い乗り降りが可能となったのである。
外見からして、後継機のジェットジャイロダインに近いものになったが、中身も性能も完全に別物であった。
『目標に到達!』
『よし、ロケット弾、煙幕も派手にばら撒け!』
『降下開始っ!』
高速でターゲットに接近したあと、ホバリング、主翼からロケット弾を発射して、周辺を制圧しつつ、ラペリングで兵を降下させる。
降下する兵は、戦後に再編されたSASの精鋭達である。
史実では各国の特殊部隊のモデルとなっただけのことはあり、この世界でも最高レベルの練度を持つ彼らは、瞬く間に降下を成功させた。
いわゆる典型的なヘリボーン作戦であるが、関係者に与えた衝撃は大きかった。
ヘリコプターの有効性に気付いた、(日本を除く)各国の関係者は上層部にヘリ部隊の創設を強く働きかけることになるのである。
543 :フォレストン:2013/11/20(水) 18:53:39
火力演習のトリをつとめるのは、地上攻撃機であった。
想定されるドイツ戦で、機甲師団の上陸を最も恐れている英国らしいチョイスであるが、真打登場とばかりに、最後に登場しただけのことはあって、外見からしてただものでは無かったのである。
(なんで…!?なんでセ○バーの絵が機首に描かれているんだぁ!?ここは戦競じゃないんだぞ!?)
日本側の武官(しつこいようだが、転生者)が頭をかきむしっているのを、他の武官らが訝しげに見る中、猛禽達が牙をむいた。
主翼に搭載したロケットランチャーが火を噴き、ターゲットを次々と爆砕、そのまま武官らがいる貴賓席をフライパスしていく。
その最中で、不幸にも彼は見てしまった。見えてしまった。
主翼の裏側に描かれているセ○ス・ヴィクトリアと赤服の旦那の姿を…!
(こんなところにも、あの痛い連中の影響が…!やはり、あいつらは滅ぼさなければなるまい!)
なにやらぶつぶつ言い始めた、日本の武官を不気味に思ってか、こっそり距離をとる各国の武官達であるが、別にこれは『彼ら』のせいではない。
じつは駐日英国大使館のスタッフの仕業だったりするのであるが、割とどうでも良いことである。
フライパスした後、反転して戻ってくる双発くし型の独特なシルエット。
この攻撃機、元々は日本の超重爆『富嶽』を邀撃するために開発された、マイルズ リベルラMK-Ⅲを改造した対地攻撃機なのである。
ジェットエンジンが実用化されたために、重たい航空用ディーゼルを積んだ本機は、本来の用途に使われることもなく、お払い箱になったのであるが、空力に優れた機体設計と、双発故にエンジン換装が楽なメリットがあったことで、エンジン開発や武装のテスト機として細々と生産が続けられていたのである。
対地攻撃機にするにあたっては、エンジンをネイピア ノーマッドから、ロールス・ロイス ダートに換装することで、浮いた重量をコクピット周りと機体下面、エンジン周辺を装甲化することで対応している。
装甲重量は3トンにも及び、当時としては桁外れの重防御であった。
桁外れの重防御に負けず、攻撃面も充実していた。
巨大な主翼は対地ロケット弾を大量に装備出来るように改修されており、敵兵やソフトスキン目標に絶大な威力を発揮することを期待されていた。
ちなみに、双発くし型という独特な機体レイアウトのおかげで、発射したロケット弾が、前翼を吹き飛ばしてしまう事故が、評価試験中に発生していたため、量産機ではロケット弾を水平では無く、下方に数度傾けて装備していた。
傾けることにより照準し辛くなることが懸念されたが、照準機が改良されたことと、馴れると高度を下げることなく発射出来ると、意外とパイロット達からは好評だったという。
ロケット弾だけでなく、もう一つの武装もまた凶悪であった。
『ターゲットインサイトぉ!』
『ファイアー!』
機首に装備された40mm機関砲の猛打で、あっという間にスタボロにされていくターゲット。
その威力に観客はもちろん、武官達も戦慄したのである。
本機の最大の特徴とも言える、対戦車戦を強く意識したこの武装が、元々は廃物利用とも言える、QF2ポンド砲とその弾薬の再利用から開発がスタートしたのは、意外と知られていない事実である。
戦後になって、産廃化しかけていた、この砲と弾薬をなんとか再利用出来ないか、改めて開発されたのが本砲なのである。
最大の特徴は、発砲時のガスや反動ではなく、モーターでボルトを駆動する点である。
いわゆる史実のチェーンガンである。
ボルトを電動モーターで動かすことにより、不発射弾やジャムによる連続発砲不能状態を回避することが可能であり、不発射弾はそのまま他の正常に発射された弾丸の空薬莢と同様に強制的に排出されるようになっていた。
連続射撃不能になる原因の一つが取り除かれ、連射が中断する危険が大幅に低下し、電動のため、発射間隔を一定の範囲内で調節することも出来るという副次的なメリットもあったため、その後陸海空軍問わずに採用されていくことになる。
戦後初となる軍事パレードと火力演習は成功裏のうちに終わった。
その後、ジョージ6世国王夫妻による全国巡幸も行われ、国民は歓喜に沸いたのである。
このことが国民の意識改善に効果があったのかは、不明であるが、このころから新聞その他のメディアで明るい話題が増えたのは事実である。
将来に希望を見出す人間が増えたのか、英国のサブカルチャーの萌芽は、このときまさに始まっており、1960年代以降に花開くことになる。
どん底で喘いでいた英国であったが、少しずつであるが盛り返していくことになる。
後世の歴史家は、この一連のイベントで、英国の真の復興が始まったと記している。
544 :フォレストン:2013/11/20(水) 18:57:12
あとがき
戦後から5年も経てば、少しは余裕も出そうなものですが、憂鬱世界の英国の閉塞感というか、重苦しさは深刻なものだと思うのです。
それを吹き飛ばすとまではいかないまでも、多少和らげるくらいの意味でも、なんらかのイベントが必要だと思った次第です。
もちろん、これ単体では意味は無いのですが、国王陛下の巡幸イベントも合わせれば、それなりに効果があるのではないかと。
一番確実なのは、日本との関係回復なんですけどね。
それが出来ないから苦労してるんですよねぇ…(´・ω・`)
国王夫妻の巡幸については、また別にSSを書きたいですね。
英国にもお召し列車はありますし。
軍事パレードと火力演習の中身が英国面満載ですが、英国故に致し方なしです。
でも技術的には無理はしていないですよ?年代的にはほぼ史実に準じています。
以下、登場させた兵器です。
A39 トータス重突撃戦車
全長:11.058m
全幅:3.912m
全高:3.048m
全備重量:84t
乗員:7名
エンジン:ネイピア デルティックJr.
最大出力:1400 HP/2100rpm
最大速度:51km
航続距離:180km(巡航用追加燃料タンク使用時)
武装:62口径32ポンド戦車砲Mk.Ⅰ(60発)
7.92mmベサ重機関銃×3(7500発)
装甲厚:50~279mm
前面279mm
側面152mm
後面76mm
車体50mm
サイドスカート50mm
史実トータスと同じく固定砲塔であり、対戦車戦闘を意識して、より重装甲化されている。
エンジンルームが拡大したため、車体が延長されているが、これはデルティックエンジンを搭載しただけでなく、変速機も含めてパワーパック化したことによるものである。
このころになると、デルティックエンジンの信頼性も確率されていたものの、一度故障すると現地の整備兵には手におえなかったため、エンジンごと交換する必要があった。
そのため、整備兵にとって、かえって手間のかからない戦車となった。
火力演習で、その優秀性が認められ、全ての車両が改修された後に北米防疫線に配備された。
ネイピア デルティックJr.
形式:液冷対向ピストン型18気筒36ピストン 2ストロークディーゼルエンジン
筒径×行程:105mm × 160mm ×2
総排気量:49.86L
全長:1934mm
全幅:1325mm
全高:1148mm
乾燥重量:1785kg
燃料:直接噴射式
公称出力:1400HP/2100rpm
元は魚雷艇用のエンジンを、重戦車用のパワーユニットとして、再設計したもの。
オリジナルであるデルティックをスケールダウンし、さらに信頼性向上のためにデチューンが施されている。
トータス重駆逐戦車では、これを横置きに搭載し、後輪駆動にすることによって、パワーパック化を実現している。
開発元のネイピア&サンの努力の結果、通常のディーゼルと変わらない信頼性と、オーバーホール周期を達成したが、一度故障すると、エンジンごと交換する必要があり、その度に技術者が駆り出されることになった。
545 :フォレストン:2013/11/20(水) 19:01:27
あとがき(続き)
エンフィールド小銃 No.4 MkⅡ
戦後数年経ってから、採用された英国陸軍の制式小銃。
細部も含めて、史実と同一である。
具体的には、トリガーの回転軸をトリガーガードから銃本体へと移した事で、より洗練され、機能が向上したモデルである。
概観上の特徴は銃床をブナ材に変え、肩当て部分が真ちゅうに戻された点が、No.4 MkⅠとの違いである。
No.4 MkⅡの導入に際し、イギリス陸軍は在庫となっている全てのMkⅠをMkⅡ規格に改修した。
200連ロケット砲搭載トレーラー(荷台のみ)
全長: 13.11m
全幅: 2.59m
全高: 1.49m(荷台のみ)
全備重量: 20.0t
武装: ロケット弾発射機×200
最大射程: 12000m
英国陸軍が開発した、面制圧兵器。
元々はドイツ軍の上陸作戦を水際で叩くために、製作された急造兵器である。
史実では水際上陸作戦の際の海岸砲撃に使用されたロケット砲艦(Landing Craft Tank (Rocket):LCT(R))のランチャーをフルトレーラー形式の荷台に搭載したものである。
火薬式ロケット弾ランチャーを荷台の真横方向に200基搭載している。
トラクターに荷重がかからない、フルトレーラー形式のため、連結部分の規格さえ合えば非力な車両でも牽引可能であり、通常はモーリスC8装甲車で牽引したが、軍用のランドローバーで牽引した例もある。
(大戦時の)駆逐艦40隻分という絶大な火力を誇るが、発射後の再装填は、一つずつ人力で装填するものであり、非常に大変であった。
しかし、基本的に1発撃ったら再発射することはあり得ないので、問題視されなかった。
急造兵器としては、高い実用性を持っていたが、やはり急造故の不便さもあり、1960年代には華南共和国へ払い下げられている。
25ポンド・ショルダーガン(Ordnance, RCL, 3.45 in Mk 1)
口径:87.6mm
全長:1.74m
重量:34kg
最大射程:900m
使用弾種:対戦車成型炸薬弾、HESH、煙幕弾など
PIATの代替として開発された、携帯用無反動砲。
史実バーニー・ガンの燃焼ガスによるベンチェリ管周辺の腐食磨耗問題を解決したモデルであり、余剰になったPIATは国内のホームガードに配備された。
無反動砲であるため、ロケット弾に比べて弾道が安定しており命中率は高かった。
後に車載用の台座が開発され、軍用のランドローバーに搭載されている。
ランドローバー(2ドア ピックアップ)
全長:3353mm
全幅:1549mm
ホイルベース:2032mm
エンジン:1.6L I4エンジン
変速機:マニュアル4速
最高速:80km/h
史実のランドローバー
シリーズⅠを軍用にしたもの。
極度に頑丈な構造と、短い前後オーバーハング等のオフローダーとしての優れた特長は、無改造でも軍用として使用に耐えうるものであった。
兵員輸送や、荷台に重機、無反動を搭載して、永らく英陸軍の足として活躍した。
SAS用の特装車など、配備された場所や任務によって、数々のバリエーションがあるのが特徴。
546 :フォレストン:2013/11/20(水) 19:07:08
あとがき(続きです)
デ・ハビランド ヴァンパイア(後期生産タイプ)
全長:9.4m
全幅:11.6m
全高:2.69m
自重:3450kg
動力:ロールス・ロイス ニーン遠心式ターボジェットエンジン
最大速度:920km/h
航続距離:1900km (増槽付2200km)
武装:AN-M3 20mm機関砲×4
爆弾225kg×2 または 爆弾454kg×2 または ロケット弾×8
初期生産型のヴァンパイアは、それなりの性能を示したが、余剰推力の少なさによるコントロールの難しさや、燃料搭載量が少なく航続距離が短すぎる点が指摘されたため、燃料タンクを増量し、エンジンをダーウェントからニーンに換装したタイプが後期生産型として生産された。
スーパーマリン スパイトフル F.Mk21
全長: 9.861m
全幅: 9.827m
全備重量: 4.130kg
エンジン: ロールス・ロイス タイン Mk.515 軸出力5730馬力+排気推力
最大速度: 900km/h
実用上限高度: 13100m
航続距離: 1400km (増槽付1900km)
武装:AN-M3 20mm機関砲×4 爆弾 980kg
乗員:1名
スパイトフルの最終生産型。(海軍向けの機体はシーファングと呼称)
二重反転プロペラと後退翼が本機の最大の特徴となっている。
後退翼は、疾風からパk…、参考にしたものであり、流体力学を用いた解析により最適化された形状となった。
そのため従来モデルでは成しえなかった900キロの大台を突破することに成功している。
フェアリー FB-1A ジャイロダイン
全長:7.62m
全幅:
翼幅:5.38m
全高:3.07m
ローター径:15.768m
機体重量(自重/全備):1829kg/2377kg
飛行速度(最大):250km/h
上昇限度(実用/限界):3150m/2180m(地面効果なしのホバリング限界)
航続距離:不明
エンジン:ロールス・ロイス ダート Rda.1 軸出力1250馬力
機体内燃料搭載量:227.3リットル
武装 対地ロケット弾ランチャー×2(主翼兵装架)
積載量 パイロット1名+兵員4~5名 貨物1360kg
1930年代に概念設計が開始された、オートジャイロとヘリコプターの合いの子のような機体である。
史実では高速化の手段として一時期流行して、その後廃れた複合ヘリコプターの一種である。
原型機との違いは、エンジンを9気筒星型エンジンから、ターボプロップに換装、主翼を後方に移設して、推進用のプロペラを牽引式からプッシャー式に変更、それに伴い、機体の両サイドに両開き式の大型ドアが設けられている。
外観上は後継機である、ジェットジャイロダインに酷似している。
エンジン出力が倍増したことにより、当時のVTOL機としては、画期的な250km/hの高速を発揮出来たが、純粋なヘリコプターに比べると、利便性に劣るため、従来型のヘリコプターが高性能化すると、徐々に退役していった。
547 :フォレストン:2013/11/20(水) 19:08:38
あとがき(続きです)
マイルズ リベルラMK-Ⅳ
乗員:1名
全長:13.4m
翼巾:前翼15.2m 後翼 21m
全高:5.6m
空虚重量:9864kg
全備重量:12160kg
動力:ロールス・ロイス ダート Rda.10/1 × 2 軸出力2750馬力
水噴射時 軸出力3030馬力
最大速度:690km/h
航続距離:1900km
実用上昇限度:13000m
武装:40mmチェーンガン 1000発(機首)
対地ロケット弾ランチャー×8(主翼兵装架)
富嶽邀撃機として、開発されたリベルラMK-Ⅲを対地攻撃機として改修した機体。
搭載エンジンをネイピア ノーマッドから、ロールス・ロイス ダートに換装し、コクピットや、エンジン周り、機体下面を装甲化している。
その装甲重量は3tにも達するが、エンジン交換だけで、2t軽くなり、トータルの差し引きで計算すると1tの重量増にとどまっている。
長大な主翼にはロケット弾を大量に装備することが可能であり、対地攻撃に絶大な威力を発揮することを期待されていた。
また、機首に搭載されている40mm機関砲は、QF2ポンド砲を改修してボルト駆動を電動化したものであり、この世界におけるチェーンガンの先駆けでもあった。
システムは2ポンド砲の本体の後部に電動モーターを配置し、チェーンでボルトと繋がれていた。
システム全体でも全長4m足らずであり、信頼性を重視した頑丈な構造にしたにもかかわらず、重量は500kg以下であった。
発射速度は毎分200発である。
使用する弾丸はオリジナルそのままの、40×158Rであり、これをベルト給弾で1000発、発射出来るようになっていた。
この40mmチェーンガンは、その後、装甲車の主兵装となり、また艦隊近接防空の要となり、より小型化したものは、航空機用の武装として、そのバリエーションを増やしていくことになる。
最終更新:2014年01月20日 12:42