557 :フォレストン:2013/11/26(火) 04:43:58
日本の擬人化が○子なら、英国の擬人化は…?

提督たちの憂鬱 支援SS 憂鬱英国駐日大使館事情3

1950年8月末。
残暑厳しい帝都の駐日英国大使館の一室で、3人の紳士達がテーブルごしに顔をつき合わせていた。

「彼はどうした?」
「今こちらへ向かっているとのことです。ギンザでスシを食べていたそうです」
「やれやれ、相変わらず美味いものには、目が無いようだな」

笑いに包まれる一室。
テーブルには紅茶とスコーン、ミルクチョコ等のスイーツが山盛りにされた大皿がおかれ、会議というよりは、何かの打ち合わせのような雰囲気であった。

「すみません、遅くなりました」

図ったようなタイミングで、ノック音と共に、部屋へ入ってきたのは、長身ハンサムな、歳は中年に差し掛かっているであろう、一人の紳士である。

「フレミング君、今日もレストラン巡りかね。外食ばかりだと、体に悪いのでは?」
「美食はともかく、大使館に女性を連れ込まないようにしてくれ給えよ?」
「外地勤務だからって、あまり羽目を外される困る。
 先日も電話越しに、奥さんのヒスを受けた職員が泣いていたぞ?」

入室するなり、容赦ない突っ込みを喰らって、固まった紳士であるが、それも一瞬のことであった。

「美食は私のライフワークですし、日本のレディ方とも合意の上でお付き合いしているから、問題無しですよ」

不適な、それでいて愛嬌のある笑顔を見せるこの男の名は、イアン・フレミングと言う。
第二次世界大戦時は、海軍情報部に所属してスパイ活動に従事していた彼であるが、数年前から心労で倒れた前任者を引き継いで、駐在海軍武官として勤務しているのである。

実は日本勤務を希望した最大の理由が、退屈な結婚生活から逃げるためというのは、半ば公然の秘密である。

プレイボーイで鳴らした彼は、幾人もの恋人がいたのであるが、不義として裁判沙汰となり、不本意ながらも結婚することになってしまったのである。
そんな彼であるから、振って湧いたような、日本行きの話は渡りに船であった。
かくして、イアン・フレミング大佐は、駐在海軍武官として駐日大使館勤務となったのである。

離婚は出来なかったが、退屈な結婚生活から開放された彼は、その反動か、趣味である美食と恋愛に全力投球することになる。
後に、日本全国食べ歩き本や、史実の007シリーズを執筆することになるのであるが、それはまた別の話である。

558 :フォレストン:2013/11/26(火) 04:45:52
駐日大使   ロバート・レスリー・クレイギー卿
商務参事官  ジョージ・ベイリー・サンソム卿
駐在陸軍武官 フランシス・スチュワート・ギルデロイ・ピゴット大佐
駐在海軍武官 イアン・フレミング大佐

上記の4人が、1950年当時の駐日大使館の主要な人物である。
海軍武官である、イアン・フレミング大佐は、当時は有能な海軍士官といった程度でしかなかったが、転生者には007シリーズの原作者として、非常に良く知られた人物である。
そのため、原作ファンである転生者に、影に日向に付き纏われることになるのであるが、ここでは割愛する。

そんな重要人物4人が、盗聴対策が万全な大使館の一室で何を話しているのかと言うと…。

「諸君、今年の夏コミもご苦労だった。年末の冬コミに向けて一層の努力を期待する」
「しかし、年々多様化しているコミケを見ると、日本人の底知れぬ力を感じますね。
 我が国もこうありたいものです」
「今回も好評でしたな。コミケ参加以来、売り上げが右肩上がりで、笑いが止まりませんな」
「所詮はサブカルチャーと侮っていましたが、その発想、表現力も素晴らしいものがあります。
 私も創作意欲が湧いてきましたよ」

…夏コミの反省会であった。
しかし、コミケの売り上げが、本国政府から支給されている活動費程で無いにしても、かなりの金額になっていたのである。
それ故に、たかがコミケと疎かに出来ないのであった。

この他にも、大使館内に設置された店舗の売り上げや、グッズの販売益も無視出来ない金額となっており、これらは円建てで大使館内の金庫に保管され、現地活動費として活用されていた。
その大半が、原稿やインク、スクリーントーンや、服飾代、その他の書籍購入費が占めているのを、現地活動費と言えるかどうかは微妙ではあるが。

559 :フォレストン:2013/11/26(火) 04:48:18
「さて、恒例の夏コミの報告が終わったところで、ここからが本題だ。サンソム卿?」

駐日大使であるクレイギー卿に促された、サンソム卿が立ち上がり、今回の本題について説明を始める。

「今回、皆さんを招集したのは、夏コミの報告だけではありません。
 本題は別にあります。皆さん、これを見ていただきたい」

そういって全員に手渡したのは、抜き身の刀をかざした、黒髪をポニーテールにまとめた少女が描かれたポスターであった。

「これは?」
「コミケでも良く見るキャラですな」
「そうです。日本という国家を擬人化した存在、○子です。
 今回の本題というのは、我が国にもこういう存在を作ることなのです」

○子は、戦前の兵士募集のポスターに登場して以来、国内の若年層に完全に受け入れられた存在であり、新聞その他メディアにも頻繁に登場し、海外でも日本そのものとして描かれることの多い、世界的にも非常に認知度の高いキャラである。

「待ってください。
 そういうのなら、我が国のジョン・ブルや、今は亡き、アメリカのアンクル・サムもその類では?」

フレミングの意見に、うなずく紳士達。

「確かにその通りです。しかし、それでは駄目なのです」

フレミングの意見に同意しつつも、否定するサンソム卿。

「確かにジョン・ブルは、我が国を端的に表現したキャラクターと言えます。
 しかし、このキャラには決定的なものが欠けているのです」
「「「それは一体…?!」」」
「萌えです。ジャパニーズ・モエですっ!」

サンソム卿の力説に、他の紳士達が盛大にずっこけたのは言うまでも無かった。
このあと1時間に渡る理詰めかつ、誠心誠意溢れる説得によって、全員にイエスと言わせた、サンソム卿は、英国擬人化プロジェクトをスタートさせるのであった。

560 :フォレストン:2013/11/26(火) 04:50:42
英国擬人化プロジェクトは、早速本国政府へ伝えられた。
直ちに円卓が召集され、有識者達で議論が交わされた結果、以下の条件が付けられたものの、それ以外は、全面的にサンソム卿の意見を取り入れることになった。

  • 英国由来のものに限ること。
  • 英国人のみの手で完成させること。

至極真っ当な条件であり、特に反対する理由も無かったため、大使館内はもちろん、本国にまで、広くデザインを求めたのである。

「いや、広く意見を求めるとは言ったが…これは多すぎるのではないかね!?」
「選択肢が多いことは素晴らしいことですよ?さぁ頑張りましょうか!」
「しかし、まさか部屋のほとんどを占めることになるとは…」
「これを全部見るんですか?いったい何時までかかることやら…」

英国本土にまで募集をかけた結果、数十万通の応募のエアメールが大使館に届いたのである。
その全てに目を通すことを考えると、思わずげんなりしてしまう紳士達であった。
しかし、彼ら以外にも参ってしまっている人間達がいたのである。

「畜生!また大使館宛かよ!?」
「局長、また英国からのエアメールが来ました。もう保管し切れませんよ!?」
「トラック持ってこい!まとめて、ぶちまけてこいっ!」

この時代、郵便番号とあて名住所を読み取り、指定された区分け口に自動的に仕分け、集積する、郵便区分機は未だ実用化されておらず、仕分けは人海戦術に頼らざるを得なかったのである。
列強の中で、最も発達した郵便システムを持つ日本も例外では無く、大量のエアメールで、他の郵便物の処理が滞り、社会問題化する寸前であったと、当時の関係者が述懐している。

561 :フォレストン:2013/11/26(火) 04:52:52
熟慮の末、最終的に決まったデザインは、女神ブリタニアを大使館職員が現代風(萌え絵)にリデザインしたものであった。

具体的なデザインであるが、英国のプリマスにある、ブリタニア像をベースにデザインされており、古代ギリシア・ローマ風の鉄兜をかぶり、ユニオンジャックが描かれた盾と海原を統べるトライデントを持つ、美女である。

○子よりも頭一つ長身であり、文武両道で、時に厳しく、時に優しい存在。
それが、英国を擬人化したキャラである、女神ブリタニアである。

『金髪碧眼にした、コーネリア?』

最初に見た転生者の一言が、全てを端的に表していると言えよう。

ここで、簡単に説明しておくと、女神ブリタニアは、英国の愛国歌であるルール・ブリタニア(Rule, Britannia!, 統べよ、ブリタニア)に出てくる女神である。

この世のはじめ 神の命を受け
碧海の中から興る ブリタニア
「これこそ証 国の証ぞ」と
守護天使らは斯く 歌い合えり
統べよ、ブリタニア! 大海原を統治せよ
ブリトンの民は 断じて 断じて 断じて 奴隷とはならじ

汝より祝福されえぬ国は
暴虐なる支配者の前に伏すだろう
なれども汝、豊かに自由に繁栄し
他の恐れと羨望 その身に浴びるを 感じるだろう
統べよ、ブリタニア! 大海原を統治せよ
ブリトンの民は 断じて 断じて 断じて 奴隷とはならじ

他国らがさらに畏怖して見つめる程
汝は尚も威厳もて育つべし
自然の樫の根付くことを除き
汝に服す 天裂く疾風の如く
統べよ、ブリタニア! 大海原を統治せよ
ブリトンの民は 断じて 断じて 断じて 奴隷とはならじ

汝を屈さす力無き 暴君の
汝をおとしめんとする 試みは全て
怒りに代えて 寛大なる情熱と
彼らの悲劇と 汝の名声立たしむ
統べよ、ブリタニア! 大海原を統治せよ
ブリトンの民は 断じて 断じて 断じて 奴隷とはならじ

汝にとって 支配は田舎の平和な地までも
汝の都市は 商業の繁栄をうけ
汝のものは全て 僕なる海原と
汝を取り巻く 数多の海の国
統べよ、ブリタニア! 大海原を統治せよ
ブリトンの民は 断じて 断じて 断じて 奴隷とはならじ

自由を見いだし給う 九女神
汝の幸福のため 浜辺を整えり 
ああ聖なる島よ! 無比の美を冠し
正義を守る 雄々しき心を秘めた
統べよ、ブリタニア! 大海原を統治せよ
ブリトンの民は 断じて 断じて 断じて 奴隷とはならじ

上記は英国の愛国歌である、ルール・ブリタニアの歌詞の邦訳である。
特に最後の一節は、侵略を受け続けた歴史を端的に示している。
現在の英国の状況に最も当てはまる歌であり、その歌に出てくる女神ブリタニアをモチーフにしたキャラは、当然のごとく大使館側はもちろん、円卓でも全会一致で可決、採用されたのであった。

562 :フォレストン:2013/11/26(火) 04:55:06
その後、硬貨や切手に描かれたり、政府の広報ポスターに登場するなどして、英国の若年層に絶大な人気を博したのである。
後年、これに刺激を受けた、他の英連邦諸国でも、同様の擬人化キャラが作られるのであるが、それはまた別の話である。

ちなみに日本国内で認知されるきっかけとなったのは、やはりというか、案の定というべきか、大使館職員の手による同人活動であった。
キャラクターの性質上、○子と共に描かれることが多く、その関係は世相を反映していることが多かったという。
具体的には1950年代は、敵対的中立、1960年代は中立、それ以降はすこしずつ仲良くなっていき、次第に共闘する描写が増えていくことになる。

お約束と言うべきか、大使館職員や、本国の作家、日本の同人作家等、多くの人間に描かれているうちに、いろいろと属性が付加されていったのである。

  • 年齢を密かに気にしている。
  • 紅茶とスコーンが無いと死んでしまう。
  • 常に礼儀正しいが、必要ならいつでも毒を吐ける。
  • 謀略を好むが、実は槍の名手でもある。
  • ○子のことを、ひどく気にしている。

上記が基本的な属性であるが、その他にも後付でいろいろ追加されていったのである。
このことを知った、夢幻会の関係者、特に最大派閥であるMMJに属する人間は、英国を好意的に見るようになり、対英政策に反映されていくのである。

もっとも、夢幻会の良識派と言われる人間達は、このことに頭を抱えていたりするのであるが。
後日このことを知って、時の総理大臣が、屋台で某海軍大将に愚痴をこぼしているのが目撃されたそうであるが、世の中は押し並べて平和であり、割とどうでも良いことであった。

563 :フォレストン:2013/11/26(火) 04:56:45
あとがき
英国にも撫子に相当する擬人化キャラを作るべく、大使館職員が暴走してしまいました(汗
撫子に伏字が入っているのは、掲示板ではほぼ公式扱いされていますが、本編に出ていない以上、支援SSの独自設定であり、使用するには作者の許可が必要と判断したからです。
許可がもらえたら、伏字解除ということで、一つよろしくお願いします。

次に大使館職員に関してですが、無名だった、海軍武官枠にイアン・フレミングを抜擢しました。
言うまでもなく、007シリーズの原作者です。
拙作SSの設定では、戦後も軍に留まっていたことにしています。
結婚生活から逃げるために、日本行きを希望したのが、今回の設定です。
もちろん、奥さんは本国に置いていきました。というか本人が嫌がりましたw

若い頃のフレミング自身は、ロンドンの遊び人に知れ渡るほどの筋金入りの遊び人だったらしいので、そりゃ結婚生活は人生の墓場でしょうねぇ。
長身、黒髪、碧眼、裕福、名門、スポーツ万能、そして、お洒落とあって、かなり女性にはもてたらしいというか、もてない理由が無いですね。リア充爆発しろ!(マテ

気楽な単身赴任生活となり、歯止めが効かなくった彼は、きっと日本で浮名を流しまくることでしょうw
また、本人は超美食家とも言える生活習慣だったそうで、その結果寿命を縮めてしまいましたが、ヘルシーな日本食を食べれば長生き出来るかもしれません。

肝心の007シリーズですが、退屈な結婚生活を紛らわすために書き始めたらしいので、この世界ではどうかと思いますが、日本の同人活動を見て刺激を受けて書き始めたということにでもしておきましょう(オイ

で、ここからがようやく本題であるブリタニアの話です。
元ネタは当然、ルール・ブリタニアに謳われている女神ブリタニアです。
これを大使館職員がリデザインしたのが、当SSに出てくる女神ブリタニアです。
転生者が語っていますが、ぶっちゃけ金髪碧眼化したコーネリアです(爆

名前も被るし、イメージもぴったりです。
清廉潔白でありながら、必要なら泥も被れる強さもありますし。

それにしても大使館SSは書きやすいなぁ。
そのうちシリーズ化してしまいそうで怖いですw

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最終更新:2014年01月07日 20:57