583 :影響を受ける人:2014/01/01(水) 19:00:47
転生地質学者の憂鬱



彼が目を覚ましたのはちょうど嶋田繁太郎に彼が憑依したころだった。
目を覚ました彼はあたりを見回すと、知らない人たちと写真でしか見たことのない若いころの曽祖父、祖父が自分を見ている。
一時は混乱したが、とりあえず頭を打った際の混乱だろうとして、静かに安静しているよう言われて布団に寝転がった。
そして思い浮かべるとこの身体の主は、祖父がいっていた屋根から転落して死んでしまった祖父の弟であることが判明。

「自分は大叔父になってしまったのか・・・」

彼は憑依する前にお酒を飲んでいて、酷い酔い方をしていたのだが記憶がぷっとりとない事に気が付く。
そして衝撃が襲ってきたことも思い出すと、自分は交通事故で死んだ可能性が出てきた。
大叔父の体が生きていいる以上、乗っ取ってしまった可能性は捨てきれなかったが、医者には「もう目を覚ます事は無いと思っていた。奇跡である」とまで言われていたので、大叔父が身体をくれたと解釈して生きることに決めた。

そして彼は前世の職業である地質学者を目指すことにする。
けして家庭は裕福とは言えなかったが、転生によるブーストなのか以前よりも覚えが良く、成績もうなぎのぼりだった。
そんな彼が目指すものは・・・

「地震を、完璧とは言わないまでも予測できたならば!」

であった。

彼の両親は地震による津波で死亡し、思い出の品も、家も失っていた。
悲しみに沈んでいた幼少期。
同じ様な思いをした人々がいて、地球に住む以上は絶対に付き合っていくしかない災害に立ち向かう事を決めていた。

彼が死んだのは、予測率が23%まで向上した計測器の完成に喜び仲間内で飲んでいた、そんな時だったのだ。

彼はあれで満足していなかったため、この世界でも予測できる計器を作ろうと奮闘する。
しかし、実家が裕福でない為に彼は勉強をしつつも働かなければならず。
遅々として進んでいなかった。

「くそ! せっかく未来知識があるのに生かせないなんて・・・
 しかし、この世界は異常だ。日本がこうも巧く世を渡り歩いているなんて、普通ありえないぞ。
 絶対自分以外の転生者がいる・・・それも政府に意見できるぐらいのだ。
 もし接触できるならば・・・」

彼は一つの懸けをしてみることにする。
転生前の知識から逸脱した行動をする史実の有名人を探り出し、その人物に対して【地震:神戸・淡路 新潟 福島沖】という手紙を送る。
後は待つのみ。

受け取った人物は、最初は戸惑ったが地震と地名のキーワードですぐに送り主が転生者だとわかり、すぐに上の組織・・・『夢幻会』に届けた。
こうして彼は思惑通りに『夢幻会』との接触に成功した。

585 :影響を受ける人:2014/01/01(水) 19:01:21
地震をメインに研究していた彼の知識は、耐震研究をしていた部門にとってはありがたいものであり。
すぐに同じような経験を持った転生者とも仲良くなれ。
そして将来地震が起きる場所に赴き、調査できるまでになってようやく満足できた。

精度の高い地震検知器はトランジスタ開発を待たねばならなかったが、それでも“地震が起きる場所の事前調査”が出来るのはうれしかった。
充実した毎日を送る中、他の転生者たちは紛争していた。
回避しようとしていた対アメリカ戦が、急速に現実化しようとしていることに焦りを覚えていたのだ。

彼は何時もの通り日常を過ごしていたが、世界情勢は急速に悪化していくのを新聞で読み取り。
日本は大丈夫だろうかと少々心配していると・・・急に召集された。

「済まないな、急に呼び出して」
「いえ。それで用件はなんでしょうか?」
「カナリア諸島に行ってもらいたい」
「え・・・カナリア諸島ですか?」
「ああ。ラ・パルマ島のケンブレビエハ火山を調べてほしいのだ」
「・・・」

明らかにおかしな要請だ。
カナリア諸島のケンブレビエハ火山は、それなりの活火山とはいえ注目すべきところなどないはずだが・・・

「今海軍はあそこに潜水艦基地を作ろうと思っている。その下調べだよ」
「それならば海岸近くのですから、自分の専門では・・・」
「いや、実はだね・・・温泉が掘り当てられないかなぁ・・・と思っていてね」
「はぁ・・・わかりました」

釈然としない気持ちだが、支援を受けている身である以上。
いかねばならないと判断し、承諾した。

この時の判断を、彼は後に承諾しなければよかったと後悔する。

カナリア諸島に到着し、ラ・パルマ島のケンブレビエハ火山の調査が翌日から始まった。
温泉を掘り当てるのはかなり掘らないとだめだが、「今回の調査だけで掘るつもりはない、段階的に掘る」と言われていたので、そんなモノかなと思った。

日本と比べてあまり良い生活ではなかったが、それでも生前に見たインターネットで“巨大津波を起こすかもしれない火山”を一目見れたのは良かった。
ほぼ田舎のようなものなので空気は良いし、落ちていた体力を戻したり、体重を減らせたので満足する。
そして調査が終わった頃、小さな慰労会が開かれた。

「お疲れ様です」
「いえ。たいしたことはしていませんよ」
「それでも、ご協力して頂いたのですから・・・ささ、もう一献!」
「では、ありがたく・・・」

仕事をしたという達成感から、日本から持ち込まれた酒はうまく感じる。
酔いが少し早い彼は、早々に退席しようとしたが勧められるままにお酒を飲んでしまう。

「ふぅ・・・」
「はは、大分飲まれましたね」
「ええ・・・もう、戻ろうかと思います」
「そうですか・・・ああ先生。インターネットで巨大津波が起こると言っていたことがありますよね。
 それって・・・

 どこが“震源地”になると思いますか?」

この時のことを彼はよく覚えていない。でも、はっきりと答えたような気はしている。

だが翌日起きた彼は、深酒で痛む頭を抱えながら荷物を持って船に乗船し、彼は帰国の途に就いた。
そしてそれからしばらくして、カナリア諸島、ラ・パルマ島のケンブレビエハ火山が大噴火を起こして大西洋大津波が発生した。

「そんな馬鹿な!!」

その報を聞いた彼は大声で叫び、そして調査した資料を見ようと研究室に駆け込んだ。
しかし・・・研究室には何もなかった。
大急ぎで室長に問うと、軍から資料を寄越す様に言われたのですべて提出したと言われて愕然とする。

(自分が見た時はまだ安定していた。
 噴火する予兆なんてなかった!
 自然にそうなっとは思えない・・・なら人為的にか?
 それも無理だ。いくら火薬を集めた所で噴火なんて・・・
 いや待てよ・・・火薬じゃなくて、別の物・・・
 原子爆弾なら可能だ! あの圧倒的な爆発があれば噴火を誘発できる!
 だが、証拠はないぞ・・・ これはあくまでも自分の推測でしかない。
 そもそも、原子爆弾を製造していたという証拠なんてない。
 だ、だが・・・調査資料を押収したのは何のためだ?
 証拠隠滅のためだとしたら・・・自分は・・・)

586 :影響を受ける人:2014/01/01(水) 19:02:49
帰宅する彼の足取りは重く、生気が抜け落ちたような顔で部屋に入り、そのまま布団に倒れ込んだ。

しばらく彼は研究所に顔も出さず、そのまま部屋に引きこもってしまう。
もし推測通りであるならば、自分は巨大な陰謀の肩を知らずに担いだことになる。
しかも、自分が最も嫌う“地震”と“津波”が引き起こされた。
その所為でアメリカ東海岸は壊滅。

自分と同じ目にあった人たちを“生み出して”しまった。
世の中が連戦連勝の日本軍進撃に沸く中、彼は食事をろくにとらず、風呂も入らず、ただぼんやりと過ごしていた。

死ぬべきか?

どうして?

自分は片棒を担いでしまった。

なんの?

人殺し・・・

どうやって?

“地震”と“津波”で・・・

どうしたいの?

償いたい。

償い?

そうだ。死んで償おう・・・それでも背負えるとは思えないけど・・・

彼は首を吊った。




彼は死ななかった。
死ねなかった。
心配になった大家が彼の部屋を開けると、ちょうど首を吊る姿が目に入り慌てて止めたのだ。

しかし衰弱していた彼の体は、体格のいい大家に吹き飛ばされて壁に激突。
そのまま入院する事になった。

「死ねなかった・・・」

ポツリとつぶやくが、静かな病室に吸い込まれて消えた。
治療を受けている時に同僚たちが着て励ますが、この世に有らずと言う彼の様子に匙を投げてしまい。
最終的には誰も来なくなってしまった。

別にいい、ほっといて欲しい。

生きる気力もなく、ただ茫然と過ごす日々がまたやってきただけ・・・
こんな男に金をかける必要などない。
そう判断し、外に出て飛び降りしようと決めた時、看護婦が手紙を持ってきた。

「貴方にです」
「自分に?」

587 :影響を受ける人:2014/01/01(水) 19:03:22
なんだろうと思うと差出人は最後に、一緒に御酒を飲んでいた海軍士官。
一瞬嫌な顔をしたものの、日付を見て見ると火山が噴火する前であり、送った場所はカナリア諸島のラ・パルマ島だった。
慌てて手紙の封を切り、中身を見る。

【お久しぶりです。お元気でしょうか?
 この手紙をお読みになっているのは貴方であることを前提に、書かせていただきます。
 もしあなたが火山噴火を不審に思っているならば、それは正しいとお答えします。
 そして推測も正しいでしょう。
 あの火山を噴火させる以上、強力なものが必要です。
 あなたが忌み嫌う方法でこの一手を打つことは、貴方との交流で私も正しいのか自信が持てなくなりました。
 しかし、私は前世において諸外国からの圧力を受け続ける日本を売れいていました。
 そして勇敢に、国のために戦った人たちを、否定などできませんでした。
 この世界に来て、私は日本を誇れる国にしたいと思って奮闘してきました。
 アメリカの実力は知っての通りです。
 このまま戦っても史実の通りになってしまう。
 それを回避する為には、何煮が何でもしなければならないと判断しました。
 今回の策謀に私は志願し、死ぬ事も視野に入れて行動してきました。
 すべては日本の、この国で生まれる子どもの未来のためです。
 ですが、それはアメリカにも言えるという事を、貴方との交流により思うようになりました。
 しかしこの策謀はもう止められません。
 この被害がどれほどになるのか見当もつきません。
 私は責任を取る事にしました。
 私は貴方の罪も背負う事にしました。
 言葉ではこれ以上旨く言い表せられませんが、貴方が気に病む負担を少しでも軽減できれば、そう思っています。
 もうお分かりかもしれませんが、この手紙が到着する頃には、私は噴火に巻き込まれて死んでいるでしょう。
 これが私なりのケジメですが、付き合わず。そのまま地震の研究をしてほしいと思っています。
 その研究は将来には絶対必要なものです。
 そろそろお話をやめたいと思います。
 このお手紙を持っているとあなたの身に危険が迫ります。なので焼却処分して頂きたい。
 貴方に罪を背負わせる事になってしまった私を恨んでください。罵っても構いません。
 それを糧にしても貴方には生きてほしい。
 それでは長々と失礼いたしました。
 来世があるならば、もう一度会えるならば、どうか殴り飛ばしてください。
 さようなら。 〇〇より】

読み終えた彼は只手紙を睨み付け、そして涙を流し続けた。
屋上に上り、途中でライターと灰皿を拝借し、そのまま火をつけて手紙を燃やした。
そして燃え尽きるまで手紙を見続けていたが、風に灰が全て吹き飛ばされてようやく視線を上げた。

彼はこの後無事に退院し、研究室に戻った。
仕事に打ち込む姿勢はそのままだったが、どこか鬼気迫るものがあったという。
そして彼は結婚せずにそのまま一生を過ごした。
生涯を地震研究に捧げて・・・

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最終更新:2014年01月07日 21:03