595 :フォレストン:2014/01/03(金) 11:00:40
皆さん、お年玉(英国面)ですよ~

提督たちの憂鬱 支援SS 憂鬱英国ヘリコプター事情

『アテンションプリーズ。
 当機はまもなく、目的地のロンドン・ヘリポートへ着陸致します。
 シートベルトをお忘れなきようお願い致します…』

英国はロンドン上空を飛行する50人乗りの双発機。
ただし、一般的な航空機と比較すると、この機体は少々、いや、かなり特徴的な外見を持っていた。
双発機であるのは確かなのであるが、胴体は寸詰まりなデザインであり、何よりも胴体直上に配置されている、巨大なメインローターの存在が一般的な航空機とは一線を画していた。

そんな異形とも言える機体は、現在速度を落としつつ、着陸態勢に入っていた。

「機長、速度110ノットまで低下しました」
「よし、補助コンプレッサー始動。チップジェット点火」
「補助コンプレッサー始動確認。チップジェット点火します」

コンプレッサーの過給音の後に轟音。
気流に任せて自然回転していたメインローターの先端から、ジェットストリームが噴出し、猛然と回転をし始めた。

メインローターの出力を確認した機長は、さらに速度を落とし、目的地のロンドン・ヘリポートへ無事着陸したのだった。

上記は、1960年代以降の英国の都市部間路線では、よく見られた光景である。
都市中心部のヘリポート同士を結ぶ、この航空便は、空港迄のアクセス時間が掛かる固定翼機よりも時間が短縮可能なうえに、シャトル便として運航されたので、ロンドンっ子の足として重宝されることになる。

596 :フォレストン:2014/01/03(金) 11:07:12
1950年代。
FB-1ジャイロダインの改良型が、先年の軍事演習で評価され、それなりの受注を得て、経済的に潤ったフェアリー社であったが、それだけでは満足せず、より大型で高性能な機体を計画していた。

ちなみにジャイロダインは、ヘリコプターでも固定翼でも無くコンバーチプレーン又はジャイロプレーンのカテゴリーに属する航空機であり、ヘリコプターとして垂直に離着陸し、オートジャイロとして水平飛行するヘリと固定翼機の合いの子のような機体である。

離陸時はエンジンでクラッチを介して補助コンプレッサーを駆動し、抽出した空気をローター先端から噴射する。エンジン出力の大半はコンプレッサー駆動を担い、ピッチとロールの制御はサイクリック・ピッチで行い、ヨーの制御はプロペラピッチ差動で行うようになっていた。

高度が上がると、ローターピッチを変えてヘリコプターとして前進し、さらに速度が上がると、ローターはオートジャイロと同様の自由回転となるが、この時点で揚力の40%はローターが担っている。
ローターが自由回転になった後は、プロペラの推力で前進し、ピッチとロールの制御にはサイクリック・ピッチと一緒に、固定翼機と同じ補助翼と昇降舵も使用し、ヨーの制御は方向舵で行うのである。
なお、着陸の際はこれとは逆の手順となる。

当時は、復興によるロンドン中心部の渋滞が、社会問題化しており、渋滞対策として、都市中心部のヘリポートを結ぶ近距離航空機として、フェアリー社が運輸省に売り込んだのであるが、これに運輸省側が強い興味を示し、正式に開発が開始されたのである。

後にBEA(ブリティッシュエアウェイズ)も関心を示し、さらに軍用輸送機としての可能性も注目されたことから、陸軍からも支援を受けて開発することになった。

最初フェアリー社は、乗客20人乗りのタイプYを提案したのであるが、BEAの要求により、より大型な乗客40人乗りの機体を、フェアリー ロートダインとして開発することになったのである。

三者三様の意見を取り入れた結果、可能な限り旅客スペースを取るために、寸胴な機体形状となり、機体後部には左右両開き式の貨物ドアが設けられた。
主翼下のエンジンナセルにターボプロップエンジン(ネイピア エランド 3250馬力)を2基装備した双発機であり、胴体上部の4枚のメインローター先端にチップジェットを各一基ずつ装備した。
軍用も考慮して、原型機の後部胴体には左右両開きの貨物扉が設けられ、軍用機のシリアルナンバー『XF521』が付与されたのである。

ジャイロダインという先例があるとはいえ、機体規模が違い過ぎるために、あまり参考にならず、成功が危ぶまれたのであるが、心配とは裏腹に、原型機は安定した飛行を見せて関係者を安堵させたのであるが、問題が無いわけではなかった。

ジャイロダインよりも高出力な、チップジェット4基が発生させる爆音と、胴体に近く配置されている双発のターボプロップエンジンの爆音とが相まって、実用上無視出来ない騒音が発生したのである。

最終的には、胴体の再設計と、チップジェットのサイレンサー形状の工夫で、なんとか実用上問題無いレベルにまで、騒音を低減させた。
特にチップジェットのサイレンサーは、じつに40種類もの形状がテストされ、技術者達の苦労は相当なモノであったと言う。

騒音対策に時間を取られてしまったため、本格的な飛行は1958年にずれ込んでしまったのであるが、同年内に水平飛行で最大速度307km/hを記録した。これは従来の回転翼機よりも50キロ近く優速であり、当時の回転翼機の世界速度記録を樹立したのである。

フェアリー ロートダイン 原型機

全長:17.88m
全幅:2.83m
翼幅:14.17m
全高:6.76m
ローター径:27.43m
機体重量(全備):14968kg
飛行速度(最大):307km/h
航続距離:724km
エンジン:ネイピア エランド 3250馬力×2
積載量 乗員2名 乗客40人

597 :フォレストン:2014/01/03(金) 11:10:44
原型機の成功をうけて、早速量産型が開発されることになった。
当時フェアリー社は、ウェストランド社に吸収合併されていたのであるが、ウェストランド社は、開発中であった大型ヘリコプター、ウェストミンスターとロートダインを比較して、ロートダインの開発を選んだのである。

量産型は更に大型の50人乗り、エンジンはより大出力のロールスロイス タイン(4955馬力)2基、チップジェット駆動に専用のガスジェネレーター2基を装備していた。
原型機のチップジェットの燃焼室は各1基だったが、騒音対策の為に量産型の燃焼室は9基に増やして、更なる騒音低減を図っていた。

英連邦内のエアラインから多数注文が来たので、前途洋洋かと思われたロートダインであるが、開発費の高騰と、固定翼機より運用経費がかかることが予想されたため、議会で問題視され、政府補助金が削減する寸前になり、開発中止の危機に陥った。
しかし、以下の事情で政府補助金が継続されたのである。

  • 従来の回転翼機に比べ、比較的構造が簡単で最終的な運用コストは下げられる見通しがあった。
  • インフラが崩壊しているブリティッシュコロンビアでは大型VTOL機が必須であること。
  • 戦地での緊急輸送、特殊作戦用に有用なので、陸軍が欲していること。

構造が従来の回転翼機よりも、オートジャイロに近い構造を持つロートダインは、構造が比較的シンプルで技術的にも枯れており、既に充分な信頼性を確保していた。
必然的にメンテナンス時間が伸びて、運用コストが低減されたのである。

崩壊した北米にあって、ブリティッシュコロンビアは、比較的被害は少なかったのであるが、それでも西部沿岸部は津波で壊滅、内陸部も崩壊後の混乱で空港インフラが破壊されており、その復興は未だ途上であった。
治安も良いとは言えないため、安全に移動する手段として、ロートダインが強く望まれたのである。

ロートダインは、軍用輸送機としても開発されていたため、陸軍から政府に強く働きかけがあったとされる。
完全装備の1個小隊を高速で前線に輸送可能であり、軽車両や支援火器を輸送出来る大型VTOL機は陸軍からしてみれば、魅力的な兵器だったのである。

ウェストランド/フェアリー ロートダイン 量産型

全長:19.67m
全幅:3.44m
翼幅:17.22m
全高:7.06m
ローター径:31.72m
機体重量(全備):21700kg
飛行速度(最大):320km/h
航続距離:1180km
エンジン:ロールスロイス タイン 4955馬力×2
積載量 乗員2名 乗客50人


ウェストランド/フェアリー ロートダイン 陸軍用

全長:19.67m
全幅:3.44m
翼幅:17.22m
全高:7.06m
ローター径:31.72m
機体重量(全備):22700kg
飛行速度(最大):320km/h以上
航続距離:1180km
エンジン:ロールスロイス タイン 5250馬力×2
積載量 乗員2名 完全武装の1個小隊or4トンの貨物

598 :フォレストン:2014/01/03(金) 11:15:37
1960年に1号機がロールアウトし、BAEに引き渡された。
なお、英国における、ロートダインの最大のカスタマーはBAEであり、最盛期には100機以上運用していた。
現在も機体数は減ったものの、近代化改装を施して未だに現役である。

英陸軍にも順次引渡しが開始され、こちらはブリティッシュコロンビアを中心に配備された。
陸軍向けは時代が進むごとに、エンジン出力の向上や、燃料タンクの増量、機体形状の空力的リファイン等により速度と積載量が向上していき、最終的には性能も外観も全くの別物と化した。
なお、海軍も後に艦隊間輸送用の機体として、着艦装備を追加したうえで、シー・ロートダインとして制式採用している。

1960年代以降になると、地方空港用に小型で安価な双発ターボプロップ機、いわゆるコミューター機が台頭し始めるのであるが、ロートダインは空港ではなく、都市間のヘリポートをメインに運航するので、競争相手にはならず共存することに成功するのである。

英国内のみならず、カナダやオーストラリア等の英連邦内でも広く運用されたロートダインであるが、日本の航空会社では運用されておらず、その知名度は絶無に等しかった。
しかし、とあるイベントによって、当時の日本人に強烈なインパクトを与え、後々にまでコアなファンを生み出すことになるのである。

1967年。
映画『007は2度死ぬ』のためのプロモーション活動の一環として、1機のロートダインが、帝都上空を飛行した。
もちろん事前にフライトプランは提出済みであり、飛行そのものには何の問題も無かった。

機体には、当時日本でも人気の出始めた007の意匠が全面にペイントされており、機体下部のスピーカーからは、例のテーマを大音量で流しながら飛行するロートダインは、帝都上空を周回後、英国大使館に設置されたヘリポートに着陸したのである。
その後、大使館の観光客に無料で遊覧飛行を行ったのであるが、空から帝都を見ることが出来るということで、観光客からは大好評であった。

この企画を推進したのは、映画製作会社ではなく、駐日英国大使館であった。
製作会社側は、あまりにも無謀では無いかと反対したのであるが、日本人以上に日本人を知り尽くしているとまで言われる、英国大使館のスタッフは、日本政府側との折衝を全面的に引き受け、計画を完全に成功させたのである。
英日の雪解けムードの演出と、さらに映画の宣伝、将来日本にロートダインの売り込みをかけるための布石として、一石三鳥の良策であった。

映画のプロモーション終了後、ロートダインは連絡用の機体として、制式に英国大使館へ配備された。
大使館から空港まで、最短で移動出来る手段として重宝されたほか、プロモーション時に行った遊覧飛行が好評で、再開要望が強くでたために、不定期ではあるが遊覧飛行用としても使用されることになった。
さすがに無料では無かったが、50人乗れる機体のため、料金は格安に設定することが出来たのである。

また、幅広で寸胴な機体はペイントが映えるため、英国大使館スタッフの趣味嗜好が全開になった塗装が定期的に施された。
女神ブリタニアや、セ○バー、ヘル○ング、その他萌え絵が全面塗装された、ロートダインが飛行する様は帝都の風物詩と化すのである。

599 :フォレストン:2014/01/03(金) 11:17:34
あとがき

皆さん明けましておめでとうございます。
ささやかですが、お年玉SSですw

さて、今回の主役となったロートダインですが、史実では開発費の高騰と、固定翼機と比較した際の運用コスト高が懸念されたこと、とどめにミサイル万能論による予算削減の煽りをうけて開発中止になっています。

しかし、憂鬱世界では欧州枢軸の脅威もあるので、簡単に予算は削減されないでしょうし、史実とは違って、ミサイル万能論は出るにしても時期尚早な気がします。
それにインフラの崩壊した北米の地では、大型VTOL機の需要は高いと思いますし。

ちなみに実際の飛行映像はこちら↓
ttp://www.youtube.com/watch?v=y9633v6U0wo

これほどまでに完成度の高い機体を、開発中止にした史実の労働党政権の罪は重い…!
それに戦後の、英国面あふれる機体の数々を開発中止にしているんですよね。洋の東西を問わず、左巻きの連中は碌なことしませんね!(#^ω^)

憂鬱世界なら、史実の構想のように都市間のヘリポートを結んだり、インフラの崩壊した旧北米の短距離航空路線、さらに軍用として、史実オスプレイを先取りした運用など、夢が広がりまくりですw

年明け早々に駄文失礼しました。
皆さん今年もよろしくお願い致しますm(__)m

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最終更新:2014年01月07日 21:07