227 :パトラッシュ:2014/01/11(土) 09:32:57
シャルロット・デュノアSIDE(3)
えっと、なぜ僕は校舎の屋上で倒れているんだろう? 初夏の太陽に焼かれるセメントの熱さを頬に感じながら、白目を剥いて気絶した箒と口から泡を吹く鈴を見やる。向こうでは全身を痙攣させるラウラに、黒い液体を吐くセシリアがいて……そ、そうだ、あれは三十分前、セシリアの一言で始まったんだ――。
「一夏さん、今日はお弁当にサンドイッチを作ってきましたの。ご一緒にいかがでしょうか」
昼休み、食堂へ行こうとした一夏の前に、大きなバスケットを抱えたセシリアが立ちはだかった。周囲を囲んでいた箒とラウラ、鈴と僕から一斉に視線の矢が飛ぶのを、鉄壁のシールドではね返しながら。
(セセセシリア、そそそれはわわ私たちへのせせ宣戦布告とうう受け取ってよいのだな)
(あら、わたくしたちは最初からライバルだったはずですわ)
(嫁を餌付けしようという作戦か)
(軍人なら先手必勝こそ正義ではありませんの)
(ふ、ふん、あたしの方が昔たっぷり中華料理を作ってあげたんだからね)
(とっくに忘れたと仰っていたではありませんか)
(ふうん、イギリス人がフランス人に料理で戦いを挑むなんて命知らずだね)
(フランス料理の時代は終わったのです。これからは英国が世界の料理界にユニオンジャックを掲げるのですわ)
――数秒間でこれだけのセリフが頭上をとびかうのに気付かず、一夏バスケットの中身を眺めた。
「へえ、セシリアは料理をするのか。貴族のお嬢様って聞いていたから、自分ではしないと思っていたけど」
「このくらい女のたしなみですわ。うちのメイドのチェルシーは料理のプロなので、いろいろと教わっておりますの」
おいしそうなサンドイッチがにぎやかに詰まったバスケットを見て、思わず拳を握る。ISでは到底かなわない以上、一夏を攻略するのは女子力がカギなのは確かなんだ。僕も料理はできるけど、母さんに教わった田舎の家庭料理くらいしかレパートリーはないし……。
日当たりのいい校舎の屋上に場所を移して、一夏はロースとビーフ入りサンドイッチを食べたが何だかビミョーな表情になった。
「う~ん、何というか、昔よく食ったコンバットレーションに似た味だな」
「い、一夏さん、それはつまり、わたくしの料理が戦闘食並みだと言うのですか?」
「実際よく似た味だし」
「そんなはずありませんわ、チェルシー直伝の由緒正しいイングランド料理が! 皆さんも食べてみてくだされば、一夏さんの誤解も解けるでしょう」
「うーん、見た目はおいしそうだね」
「軍隊生活が長くて味覚が変わったのか」
「セシリアがこれほど作れるとは意外よね」
「……(く、餌付け作戦は思ったより有効か)」
卵とハムのサンドイッチをつまんだ途端、口の中で爆弾が破裂したようなショックに気が遠くなってひっくり返った。舌から手足まで痺れ、頭がぐるぐる回る。な、何が起こったんだ?
「おい、みんなどうした? 俺は平気だったのに、まさか毒が? 待ってろ、すぐ千冬姉を呼んでくるから!」
だめだ、身体に力が入らない。広い川の向こうにお花畑が見えてきた。母さんがおいでおいでと呼んでいる。
「セ、シリア、メイドに料理を教わってるんじゃぁ……」
「い、いつも、チェルシーの料理ぶりを見ていたのに……」
「見てただけじゃ、だめでしょうがぁ……」
「り、料理ではなく生物兵器を作ったのか……」
ああ、気が遠くなる。指先が冷たくなり、呼吸が苦しくなってきた。これが死ぬっていうことなのかな。まさか、こんな死に方をするなんて想像もしてなかったよ。織斑先生たちの声が遠く聞こえる。
「一夏、何が起こったのだ?」
「わからない、セシリアが作ったサンドイッチを食べてたら突然」
「おいしそうじゃありませんかぁ。これが――✤✪✞✚♛☭☠卐!」
「山田先生、しっかりしろ! ええい、学園内で毒物テロが発生するとは」
あ、意識が真っ暗になってきた。母さん、もうすぐ僕も逝きます……。
※2014年初の投稿です。今年もよろしくお願いします。wiki掲載は自由です。
最終更新:2014年01月12日 13:41