799 :わかる?の人:2013/11/14(木) 23:50:42

――なんでこの戦艦でやるのやら。いや光栄ではあるんだが、俺はあっちも見たかったぜ。
かの戦列艦ヴィクトリーと同じくらい栄光に満ちた戦艦、ミカサのデッキで、彼は歩きながら右手に停泊している戦艦に視線をやる。
戦艦サツマ――その名は、勇猛をして知られるグルカ兵にも匹敵するといわれる、シマヅのサムライたちが支配した国から取られているという。
近代戦艦の全ての概念を覆し、世界各国が保有する戦艦、建造中の戦艦、計画中の戦艦――そのを全て一夜にして旧式艦へと格下げしてしまったイギリス戦艦ドレットノート。
彼女はそのドレッドノートにも匹敵する、弩級戦艦。つまり、いまの時点での世界最強戦艦の一角。
三連装砲塔をすべて船体中心線上に搭載し、うち前方二基は背負い式とし、後方に一基と振り分けたそのデザインは、射界と火力の点でドレッドノートよりも優れているように見受けられた。

おっと。
お目当ての人物の前にようやくたどり着いた。
その人物を訪れる人の波は、けっして途切れることはなかった。
普通なら早々に辟易するだろうに、その人物は超然とした雰囲気を崩さず、静かに応対していた。
大統領だってこうはいかないだろう。
しかし彼は持ち前の負けん気を奮い立たせ、その人物と相対した。
「トーゴー閣下。失礼ながらお聞きしたいことがあります。私は戦艦カンザスのウィリアム・ハルゼー少尉であります」
声に畏れがなかったとはいわない。
例え相手が黄色人種でっても、いささか小柄であっても、未だかつてない伝説を為した男なのだ。
ツシマ海戦――初めてその報を聞いたとき、粗野な面がある彼は、黄色人種が卑怯な奇襲攻撃でロジェストヴェンスキー艦隊を殲滅したのだと感情的に考えてしまった。
しかし、日露戦争についての情報をつなぎ合わせて分析していたアナポリス同期のキンメルとは意見が合わず喧嘩にもなり――そして最終的に論破されて考えが変わった。
いまやハルゼーはあの頃の自分を殴りたくて仕方なかった。
――あいつには金輪際逆らわんぞ。
ちなみに卑怯なのはむしろ日本の同盟国であるイギリスだろう、いう点ではキンメルと意見が一致した。


800 :わかる?の人:2013/11/14(木) 23:51:11

「なんだろうか、ハルゼー少尉」
意外にも、綺麗な英国英語だった。
ごくりとつばを飲み込み、一気に質問をまくし立てる。
「何故、我が艦隊を迎える際、フジ型戦艦を伴わなかったのでありますか?予備艦状態にあるとは聞いております。しかし納得できません。我が艦隊ほどの大艦隊が寄港するのですから、何が何でも現役復帰させて対応するのが順当と考えます」
その質問に、周りの視線――その多くがアメリカ海軍士官のものだ――がハルゼーに集中する。
誰もが聞きたくて、しかし恐るべき日本人たちが何を考えているか分からない故に、ぶしつけに聞くのも躊躇われる、そんな質問だったからだ。
――少なくとも、ステーツであれば俺のいったとおりにする。俺はそう思う。
実際アメリカにおいても、グレート・ホワイト・フリートの世界一周就航は日本との戦争を引き起こす――そういった過激な報道も少なくなかったし、諸外国でもそういう意見は少なからずあったと聞く。
ならば日本だって全力で戦争の、あるいは戦争回避の用意をするだろう。そのためにはまずあるだけの戦力を並べて威嚇し返す。そのはずだ。
ハルゼーの質問に、その男はほんの僅かだけ首肯し、そして自然体を崩さず、答えた。
「我が海軍でも、そのような意見があったことは事実です。ですが、私が反対しました」
彼が、反対した。
その答えに、一瞬にして周囲を沈黙が包んだ。
「どういう、事なのですか?」
ハルゼーはどうしてだか二度もつばを飲んで、ようやく問い返し直した。
「私は、太平洋の友人を迎えるためにここに来ました。ですから、戦支度は不要と考えました」
にこりと、邪気のない笑みが浮かんだ。
しかし、わかる。なぜかわかってしまう。
海軍軍令部長――アメリカでいえば海軍作戦部長に相当する地位にいる東郷のその言葉の裏の意味が。


801 :わかる?の人:2013/11/14(木) 23:52:20

その時おそらく、トーゴーはこうも言ったのだと。
もしも万が一、アメリカ艦隊が攻撃してきた場合は、自分が責任を持ってこれを撃滅する。
グレート・ホワイト・フリートを出迎えたあのとき、戦艦薩摩に大将旗とZ旗が翩翻とひるがえっていたのはアメリカ艦隊へのサービスというだけでなく、彼が座乗していたから――『トーゴーこれに在り』を味方に示すべきと考えたからなのだろう。

敗北感があった。
心根でも、軍人としても、負けてしまっていた。
しかし悔しくはなかった。
さわやかな敗北感とでも呼ぶべき。
偉大な英雄に相対した者にだけ許される雰囲気があった。

ただ一人が大艦隊に匹敵する男。
これが、アドミラル・トーゴー。
これが、大日本帝国海軍の至宝。

「胴上げだ!閣下を胴上げするぞ!」
誰ともしれず号令がかかった。
――ああ、畜生ォ!
ハルゼーたちアメリカ海軍士官達は半ばやけくそになりながらトーゴーへとつめより、胴上げを開始した。

一団とともに偉大な提督を胴上げしながら、ハルゼーは強く強く願った。
――こんな爺さんに、俺もなりてぇ!
その思いが叶えられるかどうかは、神のみぞ知る。


802 :わかる?の人:2013/11/14(木) 23:52:54

以上。Wiki転載Okです。

ハルゼーはなぜか日本フリークになっていたキンメルによって綺麗にされてしまったのだ……
でもこの調子だと、東郷伝説がイチローコピペレベルになりそうですw

わかる?シリーズの本編を書かなきゃならないのになんでこんなのを思いつくのかっ!
 

最終更新:2014年01月16日 22:16