295 :パトラッシュ:2014/01/18(土) 22:46:36

earth様作『嗚呼、我ら地球防衛軍』と某作品のクロスオーバーのネタSSの勝手な続編PART39

ラウラ・ボーデヴィッヒSIDE(3)

 最近、一年生の話題は来週に迫った臨海学校一色だ。セシリアの生物兵器で危く死にかけたから、嫁と一緒に療養がてらの旅行もいいだろう。その一夏だが、昼食前に皆と話しているうち、ほとんど泳ぎを忘れている事実が判明したのだ。
「仕方ないだろう。一時は太平洋すら完全に干上がってしまった向こうの世界では、水は貴重品なんだ。お湯がいっぱいの風呂さえも忘れかけてた」
「太平洋が干上がるほどの戦争なんて、ちょっと信じられないわね」
「水中じゃなく宇宙遊泳なら得意だぞ。何か月も宇宙遠征した経験もあるし」
「では一夏さんは、どれだけ宇宙遊泳されたのですか?」
「正確な記録はないけど、船外作業を含めれば四千時間近いかな」
「よ、四千時間だと? 本当か一夏」
 私も唖然とした。現在、地球でもっとも長い宇宙遊泳経験者はロシア人宇宙飛行士の八十時間程度だったはずだ。まだ二十二歳の一夏が四千時間に及ぶ宇宙遊泳を行っているとは、向こうの世界は完全に宇宙を生活の場にしているわけか。

「俺も十年ぶりの海水浴が楽しみだよ。ところで昼メシは――」
 言いかけた一夏に、突然背後から見知らぬ軍服の女が抱きついてきた。二十代半ば頃の、白髪に緋眼という謎めいた異相の美人。
「いーちーか、久しぶりぃ❤」
「え、あ、山本先輩、な、なぜ学園に?」
「もちろん、愛する一夏と会うためよ❤ あなたがいなくなって、ずっと淋しかったんだから❤」
「「「「「一夏(さん)、どういうことだ(ですの)?」」」」」
「馬鹿者ども! 食堂でISを展開するな! 少佐も弟で遊ばないでもらいたいですな」
「すみません、つい面白くて❤」

 教官の一喝と出席簿で騒ぎがおさまると、改めて全員に紹介した。
「織斑の軍の先輩である山本玲少佐だ。現在、来訪中の地球連邦代表団に加わって来られた。その、彼と旧交を温めたいと……」
「旧交だなんて。私たちは一緒に戦った、いわば戦友です❤ 命を助けられたこともあるし」
 く、嫁を褒められるのは嬉しいが、やたらハートマークが乱舞する話し方は無性に腹立たしいぞ。トーヘンボクの一夏と違って、われわれの気持ちを察してからかっているな。しかも、明らかに年上ではないか。クラリッサによれば年上の女に可愛がられる男を日本ではペット呼ばわりするそうだが、まさか一夏も――。
「例の話で代表団が来るのは知っていましたが、先輩の名前はなかったですよ?」
「ヤマトが任務にあたることになってね、私が護衛責任者を務めるから事前に見て来いと言われたのよ」
「ヤマトが出るとは大ごとですね」
「それよりも、またガルマンとボラーの間がきな臭くなっていてね。一夏にも出征命令が出るかな」
 何? 今、聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。
「待ってもらいたい。それは一夏が学園をやめるという意味なのか?」
「休学くらいにはなるかも。こちらは平和続きだそうだけど、私たちの世界では宇宙戦争が発生しているのが当たり前なのよ」
「どちらかが滅びるまで彼らの戦争は続きますね。まあ出征なら連絡が来るでしょうから」
 軍人として当然の話だが、皆は蒼ざめて顔を見合わせた。私も額のあたりが冷える。学園での日常に慣れすぎて、一夏が出征する事態など考えもしなかった。そんな私たちを放置して、彼らは平和すぎる日常会話を続けていた。

「加藤隊長の奥さんの真琴さん、二人目ができたそうよ。年末に出産予定だとか」
「おめでたいですね。こちらの妊産婦向け商品をおみやげにしますか」
「あと佐渡先生から『越乃寒梅』を注文されちゃって。他にワインや化粧品、お菓子なんか頼まれてるの。というわけで一夏、明日の土曜日は荷物持ち兼ガイドとして買い物に付き合いなさい」
「……あの、もしかしてそのために来たとか?」
「当然でしょう!」
 がっくりする一夏に、私を含めて周囲から一斉にきつい視線が飛ぶ。散々やきもきさせた報いだ。せいぜいこき使われてくるがいい。

※甘えん坊の玲でした。恋をして女らしくなったということで。実は構想中のラストに至る伏線です。wiki掲載は自由です。

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最終更新:2014年02月25日 17:50