792 :第三帝国:2013/11/24(日) 17:07:12
衝号ぬきの太平洋戦争~第10章「ミッドウェー海戦Ⅱ」
アメリカ艦隊の受難は水面下からの攻撃から始まった。
艦載機を発艦させてしばらくして突如、第5任務部隊旗艦『ノースカロライナ』に4本の水柱が立った。
いくら戦艦でも潜水艦の魚雷4本、しかもキールをへし折る磁気信管設定だったせいで直ぐに総員退艦を命じなければならなかった。
当然のことながら戦艦を沈めた潜水艦を艦隊総出で探索したが、
犯人である呂号潜水艦は既に悠々と離脱しており、駆逐艦は放出した『ボールド』に延々と爆雷を浴びせ無駄弾を浪費し、
挙句試験的に導入した接触自爆式自走デコイに引っかかり、潜望鏡に体当たりをしたつもりの駆逐艦が1隻沈んでしまった。
久々に海水浴をする羽目になったハルゼーの血圧を上げ、
対する周囲は縁起を担ぐ軍人としてこの不吉極まりない始まりに、
攻撃隊の安否に嫌な予感を誰もが感じ取り、そしてそれは正に現実のものとなった。
無線通信から届くのは悲鳴のみで直衛機に常に先回りされ、
編隊にロケット弾を放ち、攻撃機のクセに戦闘機並みの速度で攻撃してくる逆ガルの機体。
そして、時間が経過すると徐々に悲鳴や罵りの音声の数が減少していった。
450機の航空機がたった一度の出撃で消滅。
その事実に誰もが戦慄してそれが嘘でもなんでもない事実であるのが、
よろけつつ帰還した艦載機はたったの50機程度であったのが語っていた。
そして、午後3時40分。
旗艦『サウスダコダ』のレーダーがついに日本艦隊が放った艦載機を捉えた。
その数約200機、それも自分たちのものよりも遥かに早い巡航速度で向かってきた。
残存する戦闘機を全て飛ばしたが、倍以上の数の『烈風』に取り囲まれて『F6F』はただ逃げることしかできず、
逆ガルのスマートな外見をした攻撃機と爆装あるいはロケット弾を搭載した戦闘機が艦隊に一気に襲いかかった。
米軍側は対空砲火を浴びせて追い払おうとするが、
史実で猛威をふるった対空システムはないためこの時の日本軍ほど圧倒的な威力を発揮していなかった。
だが、
アジア艦隊が航空機の攻撃で壊滅したことを受けて各艦は可能な限り対空火器を強化しており、
特に戦艦はプラットフォームが広いお陰で俄かに防空艦として発揮して、猛烈な弾幕を張った。
しかし、未だ世界最高の練度を有する第3艦隊の空母航空隊はまずは外環の駆逐艦、
巡洋艦に次々と爆弾、ロケット弾、機銃掃射を浴びせ対空火力の斬減を行う。
500キロ爆弾が直撃して大破漂流する駆逐艦。
「駆逐艦の斉射の相当する」ロケット弾の斉射を艦橋に受けて迷走する巡洋艦。
甲板にいた機銃員が20ミリ機関銃の掃射で腕や足をもがれのたうち回り、
そうして開いた穴に本命の魚雷や800キロ爆弾を抱えた『流星』が艦隊の内部、空母に向けて突撃を敢行。
先にやられたのは大西洋艦隊の空母『レンジャー』で、
『流星』の800キロ爆弾が4発直撃、ならびに至近弾多数で爆破炎上、浸水開始。
距離900程度の至近距離で魚雷が両側から16本も投下され、合計7発もの魚雷が命中。
いくらダメージコントロールに優れた米軍でもこれには耐えきれず、艦首を上げてたちまち海の底に沈んだ。
空母『エンタープライズ』も『レンジャー』同様正規空母で目立つ目標ゆえに『流星』が殺到する。
必死に回避行動を取るが800キロ爆弾3発、魚雷2本が直撃して飛行甲板がめくれ上がり大爆発。
大破炎上して酷い傾斜と黒煙を吹き出し沈むのは時間の問題と思われた。
空母『ワスプ』には魚雷3発、爆弾2が命中。
この衝撃で消火栓が故障したせいで有効なダメージコントロールが行えず誘爆を繰り返して大破。
793 :第三帝国:2013/11/24(日) 17:08:01
これを見てこれ以上の攻撃は無用と余った魚雷、爆弾を軽空母に叩きつける。
軽空母『インディペンデンス』は命中した500キロ爆弾が艦底で起爆、「く」の字に折れて轟沈。
『プリンストン』は爆弾1発、魚雷2発が片方に直撃した時点で傾斜、
出来たばかりで未熟な水兵が多かったためダメージコントロールに失敗して横転してしまった。
嵐のような一撃が過ぎた後には、
艦隊のあちこちから黒煙が昇っており主たる損失は、
空母3沈没、2大破。
巡洋艦3隻沈没、2隻大破
駆逐艦8隻沈没、3隻大破
で、その他小中破の艦艇を合計するとさらに増加する。
特に護衛の駆逐艦、巡洋艦の被害は多く戦闘力が著しく低下していた。
また、戦闘機や攻撃機の機銃掃射で各艦では負傷者で溢れかえっていた。
無事なのは戦艦と攻撃を正規空母と護衛の艦隊群をメインにしていたため、攻撃から免れた護衛空母ぐらいであった。
なお、日本側に与えた損害は未帰還20機、全体の約1割。
損傷機は全体の4割に達しており決して米軍が弱いわけでなかった。
特に戦艦が俄かに防空艦として弾幕を張ったのが大きい、もっともそのせいで旗艦『サウスダコダ』には、
帰還が望めない損傷した機による自爆攻撃でレーダー全損の被害を被ってしまう。
また、逆に日本側としてこの程度に損害を押さえられた要員として、
数による飽和攻撃と護衛艦船への攻撃による被害局限戦法、さらには日本艦隊が米艦隊との距離を詰めつつある。
加えて帰還が夕方になるため水上機による誘導など重度の損傷で帰還が望めない機でも何とか帰れるように努力を重ねたお陰だ。
そして午後17時25分。
日本側は帰りが夜間となるが距離を大分縮めたため再度合計200機の攻撃を出してきた。
しかも第1次攻撃で護衛の艦隊の大部分を撃破したと判断したためこの攻撃のメインは残存した空母、戦艦であった。
低速紙装甲の護衛空母3隻を一瞬で沈め『ワスプ』に止めを刺すと、いよいよお待ちかねの戦艦群へ思い思いに抱えた爆弾魚雷を投弾。
戦艦『ワシントン』は爆弾5、魚雷4の命中で大破。
艦歴30年クラスの戦艦『アンカーソー』は防御力に難があったせいで800キロ爆弾が弾薬庫に直撃、轟沈。
『インディアナ』に至っては戦艦殺しの800キロ爆弾が3発、魚雷が砲塔真下に命中して爆沈。
籠マストで有名な戦艦『カリフォルニア』も集中打撃を受けて傾斜停止、後を追うように沈み出した。
新鋭戦艦の『アラバマ』は魚雷3、爆弾4の打撃を受けて大破してしまった。
第2次攻撃が去った後には徐々に暗闇が海面を支配しつつあったが、炎上する艦船の炎が海面を照らしていた。
大破沈没した艦船以外に戦艦『メリーランド』と『ウエストバージニア』『サウスダコダ』『マサセッチュー』は中破、
重巡洋艦『サンフランシスコ』と『インディアナポリス』等が小破しその他巡洋艦クラスも何らかの被害をこうむりアメリカ艦隊は半壊状態であった。
沈没 大破 中破
戦艦3 戦艦2 戦艦4
空母4 巡洋艦2
巡洋艦2
駆逐艦2
残存艦隊
戦艦13
空母1
巡洋艦15
駆逐艦39
794 :第三帝国:2013/11/24(日) 17:08:32
一見なかなかの数の艦艇が残ってはいるが、
中破、大破の艦がかなり混じっており、特に戦艦は無事なのは7隻程度であった。
空母『エンタープライズ』は自走していた『ワスプ』と違い、
しばらく炎上停止、漂流していたお陰で止めを刺す必要もないと第2次攻撃から無視され、
将旗を移したハルゼー中将自身やコックまで動員して攻撃が去った後になんとか消火と自走に成功。
しかし主たる甲板要員の過半が戦死し、飛ばせる航空機もなく損傷が激しいため本土への帰還が決定。
また空母戦艦の轟沈爆沈が相次いだせいで人員の被害も甚大で、
さらに艦長クラスの人材が日本軍の被害局限戦法で相次いで戦死している。
将官クラスでは大西洋艦隊司令長官であるアーネスト・キング大将が機銃掃射を受けて意識不明の重体であった。
そして、陣頭指揮をとっていたハズバンド・キンメル大将は撤退を決断するが、
偵察の結果、思いのほか日本軍が接近――――キロにして距離100を割り込んでいた。
これは米軍側は当初ジャップの空母を叩いた後に水上決戦でケリを付けるために接近していたのと、
日本軍側は攻撃が昼~夕方になり帰還の際には夜間となりその際の損害を嫌って全速で米艦隊に接近したせいである。
悪い事に米軍側は損傷のため速度が出せる艦が少なく、また太陽が昇れば再度の空襲で本当に壊滅してしまう。
それに向こうは自分たちを逃してくれない、現に日本側はこの機会を逃すつもりはなく夢に見た夜戦のために前進していた。
ハズバンド・キンメル大将は自らが殿となることを決断、残存する艦を再編成すると迎撃のために前進。
1943年1月、ミッドウェーにてジェットランド沖海戦以来の大規模な艦隊決戦の幕が開かれた。
最終更新:2014年03月23日 14:03