西暦2201年1月。残された国々はガミラス戦役の反省から国連を強化した地球連邦政府の樹立を決定した。
残された有力国を中心として、地球は幾つかの州に再編されることになる。
人類同士でいがみ合っていては異星人に対抗できないという考えは誰しも持っていたので、極端な反対はなかった。
しかし主導権を手放すかどうかは別だった。
原作以上に力を蓄えてしまった日本はアジア州へ編入されることはなかった。他国は日本の生産力と科学力がアジアと
結びつくことを恐れたのだ。
アメリカは日本と中国と手を組むのを警戒した。ロシアも隣国であり、伝統的に覇権思想の強い中国が日本と
同じ州になるのを嫌がった。中国は日本を取り込むことを目論んだものの、米露欧の反発で頓挫する。
「ここまで異星人にボコボコにされたのに、まだ隣国と争うか?」
防衛軍司令部で報告を聞いた参謀は呆れ顔だった。同席していた艦長服を纏った男は肩をすくめる。
「まぁ史実よりも余裕があるせいでしょう」
「全く……それにしても復興スピードが速いな。さすが、ヤマトの世界のだけはある」
各国は確かに主導権争いに血眼になっているが、参謀達が根回しした防衛艦隊再建は承認していた。ガミラス帝国の
残党が襲撃してくる可能性は否定できなかったのだ。彼らも再び地球を焼かれるのは御免だった。
すでに巡洋艦クラスの軍艦の建造と配備に並行して、太陽系各所で防衛拠点の建設も行われていた。
「まぁあれだけ壊された戦艦がすぐに直り、毎年壊滅する宇宙艦隊がすぐに復活する世界ですので。
23世紀の脅威の科学力といったところでしょうか」
「人的資源の補充は無理だがな。正直、20年は必要だろう」
そう言うと参謀は話題を変える。
「日本政府はアジア州への編入ではなく、極東州の形成という形に持っていくことにしたそうだ」
「極東州ですか?」
「ああ。まず弱体化したロシアから樺太と北方領土を買い取り日本領に編入。そして日本と台湾で極東州を形成する」
日本政府は近隣諸国の合併に熱心な国を横目にして、自国周辺の再編を最小に留めた。
彼らが目指す先は地球ではなく宇宙の彼方だった。勿論、地球復興のために努力はするが州を必要以上に大きく
するつもりは皆無だった。むしろ太陽系の再開発、そして外宇宙探索を重視していた。
「連邦の首都はどこに?」
「当面は日本。メガロポリスだろう。だがあまりこちらが独占しすぎると外野が煩い。首都の名誉はいずれ欧米に譲る
必要があるだろう。特にアメリカは、かつての地位にご執心だからな」
旧アメリカ合衆国を中心とした北アメリカ州は虎視眈々と復権の機会を狙っていた。
ロシアとEUが主体となったユーラシア州は復興を優先しつつも、弱体化しているアフリカ州や無人と化した地域へ介入する
チャンスを伺っている。アジア州ではインドと中国が綱引きを繰り返していた。
「地球防衛軍は宇宙軍と空間騎兵隊のみになる。恐らく陸海空軍は各州の州軍という形になるだろうな」
「緩やかな連邦制、夜警国家が関の山ですな。アメリカ合衆国程度に団結できれば御の字だ」
「そうだ。当面は日本人にとって負担が大きい世界になりそうだ。何しろ防衛軍は一番被害が少ない日本人が主力を担う必要がある。
産業界、その後押しを受ける政治家とも喧嘩することになる」
「だとすると無人化、省力化は不可避ですな」
「ああ。ラジコン戦艦、いや自動戦艦を採用しないといけないだろう。景気が回復し民間の活力が増せば増すほど、軍人を削れという
声が大きくなるのは目に見えている」
復興が加速し、人手が足りなくなる状態では軍拡など不可能だった。産業界から総スカンを買うし、市民も反対するだろう。
彼らはより良い生活を求めているのだ。
しかし今後、幾度も異星人に襲われることを知っている転生者としては軍拡に手は抜けない。そうすると行き着く先は原作同様の
省力化、自動化、無人化だった。
「原作の防衛軍はそれなりに合理的だった、というわけですな」
「相手が悪すぎたのだろう。何しろ相手はディンギルを除いて全て強大な星間国家だ。勝てたのだけでも奇跡に等しい」
「さすがヤマトといったところでしょうか」
「だろう。だがヤマト1隻のみに期待することは出来ん」
「では?」
「新兵器開発を急ぐと同時に、戦艦整備を中心とした次の防衛艦隊整備計画とは別枠で、新型戦艦と新型戦闘空母建造を
司令部に上申する」
「……『ムサシ』と『シナノ』ですか」
「大和型戦艦三姉妹が揃えばかなりの打撃力になる。それにボラー連邦との接触のためには長い航続距離を持つ船が要る」
「外宇宙探索任務も兼ねると」
「そうだ。不測の事態は避けなければならん。それに……うまくすれば将来、ヤマト3姉妹のうち、どれかに乗れるかも知れん」
「……それが本音では?」
発足した地球連邦政府は戦艦整備を主眼とした新たな防衛艦隊整備計画を採択した。
復興のために必死な各国からすれば、乾いた雑巾を振り絞るかのような負担であったが、大きな文句は言えなかった。
何しろ人類の80%以上がついこの間死んだのだから。
そして何より日本が『ムサシ』と『シナノ』を復活させることを発表したことも、防衛軍再建に関与させた。何しろ今や 地球を救ったヤマトは防衛軍の象徴であると同時に日本の躍進の象徴でもある。
日本が大和型戦艦三姉妹を全て復活させるというのは途方も無いインパクトであった。
「いつまでも日本に地球の守護者を気取らせられん!」
各州、特に北アメリカ州は負けてられんとファイトを燃やす。
かくして参謀も意図せぬところで急速な軍拡が実現することになる。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第7話
転生者たちは来るべきガトランティス帝国との決戦に備えて、地球防衛艦隊整備計画を力強く推進した。
尤も一部の人間は「ダンボール装甲の艦隊で大丈夫か?」と危惧する者もいたが、アナライザーの簡易量産型の
ロボットをダメコン要員として大量配備すること、さらに万が一の場合はマニュアル操作によって艦を操作することが
できるようにすることで誰もが妥協した。
「凝った艦を作っていたら間に合わん」
参謀が全てだった。何しろガトランティス帝国はすぐに来る。現状の地球で大量生産できる艦でないと意味が無いのだ。
「アンドロメダがやられたのは、中枢が破壊されて操作不能に陥ったからだ。逆にマニュアル操作に切り換える
ことが出来れば、タイタン基地には帰還できた可能性はある。この戦役で、2隻のアンドロメダ級が生き残れば
後の戦役も随分と楽になる」
余裕が出来たこともあり、アンドロメダ級戦艦は2隻が同時に建造されることになった。
転生者たちとしては2番艦であるネメシスには収束型波動砲を搭載したかったのだが、波動砲の大火力による
敵艦隊撃滅に拘る人間を説得し切れなかった。
「何はともあれ、原作よりも戦力は強化できる。ムサシには収束型波動砲を積めたからよしとしよう」
しかしこのとき数名が、特に防衛軍の関係者が顔を顰める。これを見た参謀は嘆息する。
「……まだ根に持っているのか? 仕方ないだろうに」
「それは根に持ちますよ。ムサシを航空戦艦にするなんて」
ヤマト級2番艦となるはずのムサシは、連邦内部の取引でキエフ級空母をモデルとした航空戦艦として
建造されることが決定された。設計図を見た転生者は「PS版かよ」と謎の突っ込みを入れたという。
「純粋な宇宙戦艦となると他の州が煩かったんだ。それに次世代の空母の実験という名目があれば予算も得やすかった」
「ではシナノは?」
「ムサシの運用経験を基にして本格的な宇宙空母にすることにしたそうだ。建造は……早くともガトランティス戦役後だ」
「下手したらペーパープランで終りそうですね」
防衛艦隊再建が進められる中、参謀は人事部に艦隊勤務を希望した。
何しろこれから来るのはあのガトランティス帝国。そしてこれを迎え撃つのは最盛期の地球防衛軍。大艦隊決戦になる
のは目に見えている。
「今こそ、目立つとき! この目に優しい緑色の軍服から、黒色の渋いコート(艦長服)にクラスチェンジするときだ!」
しかし彼の望みは敢え無く却下される。
「な、何故ですか、長官!?」
長官室で参謀は防衛軍長官である藤堂に詰め寄るが、返答は非情だった。
「防衛軍再建のためには、君のような宇宙戦士が必要だからだ」
「ですが防衛艦隊再建は順調です。私が居ないからと言っても……」
「私は君の軍政家としての能力を買っているのだ。逆風の中、ヤマト計画を根回しして実現。人類復興の第一歩となった
『特急便』、さらに太陽系の治安回復や防衛軍再建に大きな貢献を果たした君を戦場に出すのはリスクが大きすぎる」
一言で言えば「お前はこれからもデスクワークをやれ」であった。
「し、しかし前線は指揮官が……」
「古代君(兄の方)が居る。それに温存していた日本艦隊の指揮官もいる。いずれ沖田君も復帰できる。
君が出て行く必要はない」
「……」
「それに彼らも言っていたぞ。君のような頼りになる人間がいるから、自分達は安心して戦っていられるのだ、とな」
ダメだしだった。参謀は肩を落として長官室を後にする。
この様子を見ていた古代(進)や真田は意外そうな顔をしていた。
「真田さん、あの人が?」
「ああ、ヤマト建造を実現させた名参謀だ。ガミラス戦役のころから切れ者参謀として名を馳せている」
「しかし安全な司令部に務めているのに、あんなに前線に出たがる人がいるなんて」
「彼も立派な宇宙戦士、そういうことなんだろう。沖田艦長や土方教官も彼のことは褒めていたよ。前線の言うことに
真摯に耳を傾けて、自分達をサポートしてくれる人物だと」
事情を知る人間からそれば突っ込みどころが満載だった。
しかし事情を知らない人間からすれば、参謀はまさに後方で働くために生まれたような人間であったのだ。
かくして参謀は、これまでやったことが原因で前線に出る道を閉ざされることになる。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第8話
防衛軍再建の功績で参謀は参謀長にクラスチェンジした。
これによって防衛軍総司令部では確固たる地位を参謀(元)は得た。だがそれは同時に防衛会議などの上位組織と
駆け引きする時間が増えることを意味しており、彼が希望した晴れやかな舞台とは真逆の仕事だった。
「来る日も来る日も、書類と会議ばかりか」
参謀長は相変わらず密談の場として使っている地下都市の防衛軍司令部でため息をついた。
「仕方ありません。軍隊というのはそんなものです」
「いいじゃないか、君は。新しい概念の戦術の研究に余念がない。ガトランティス艦隊が来ても活躍できるだろう」
「命がけですよ。数分で『ヒペリオン艦隊壊滅!』なんて言われる可能性だってあるんですから。尤も防衛艦隊を
壊滅させた戦術で、敵を迎え撃つっていうのは燃えますが」
眼鏡をかけた男はそう不敵に言った。参謀長は一瞬、彼の背後に謎の踊りを踊る老人の姿を幻視したが気にしない
ことにした。
「防衛会議では楽観的なお偉方が多くて、こっちは大変だよ。
あの長官は人望は厚いし、決断力もあるが……政治力については心もとないからな~」
「そこをサポートするのが参謀、いえ参謀長の仕事でしょうに」
「ふん。体のいい、厄介ごと処理だ。全く、どいつもこいつも文句ばかり言いやがって。まぁここで不満を言っても
仕方ない」
そう言って彼は気分を切り替える。
(取りあえず目の前のガトランティス戦役を乗り越えることに全力を注ぐことにする。これを乗り切ればまだ
華々しく活躍できる機会はあるはずだ)
彼は諦めが悪かった。
「経済状況は? 防衛艦隊を強化するには、経済の再建が必要不可欠だ」
参謀長の質問に、連邦政府高官となった元日本政府高官が答える。
「各州の再建は急ピッチで進んでいる。また防衛軍再建にも意欲的だ。おかげで次の防衛艦隊整備計画も予算が確保できる
見込みだ。しかし……」
「その代わりに、横槍も煩いと?」
「ああ。まぁ何とか押さえているが……やはり外圧であるガミラスが消えたことは大きいな。ボラー連邦のような国家が
あることが判れば、危機感を煽れるし、防衛軍強化ももっとスムーズにいくだろう」
次の週、防衛会議では防衛軍長官の藤堂と参謀長から太陽系外の星域の探索が提案された。
「我々は太陽系外の情報は無知に等しい。もしもガミラス、いやそれ以上の敵対勢力が居たら目も当てられない」
「ガミラス帝国の残存艦がゲリラ攻撃を仕掛けてくるとしたら太陽系外に基地を作る可能性が高いでしょう」
「万が一に備えて、地球外で移民できる惑星を探索させるべきです。出来なくとも新たな資源を発見できれば大きな利益になる」
「備えあれば憂い無しとも言う。危機管理の重要性はガミラス戦役のことからお分かりでしょう?」
参謀長はそう言って出席者を説得した。太陽系の開発こそ最重要と考える人間も少なくなかったが、ガミラス戦役の恐怖を
逆手にとって参謀長は説得した。何しろガミラスは本星こそ壊滅したものの残存戦力は侮れない。
また全く未知の敵対勢力がいる可能性も否定できず、藤堂の強い要望と事前の参謀長の根回しもあって防衛会議は太陽系外の
探索を承認した。この任務にはガミラス戦役の武勲艦であり、長距離航海が可能なヤマトが当てられることになった。
ちなみに艦長には暴走の危険がある古代進ではなく、完結編では地球艦隊司令官を務めていた男が就任することになった。
「栄転おめでとう」
参謀長は軽い嫉妬交じりでそういったが、本人(勿論転生者)は激怒した。
「お前は俺を殺すつもりか?! ヤマトの艦長なら古代兄にでもやらせればいいだろう! PS版じゃ大活躍じゃないか!」
「彼には別の任務がある。それにヤマトはTV版のように改装して出撃させるぞ。旧式化はそこまで気にしなくても」
「違う。ヤマト艦長そのものが死亡フラグじゃないか。歴代ヤマト艦長は、古代弟を除いて殆ど死んでいるんだぞ!」
劇場版を含めるとヤマトの艦長というのは死亡率が高い。第一艦橋が被弾しない代わりの人柱ではないかと思えるくらいだ。
死ななくても大怪我する可能性が非常に高いポストと言えるだろう。まぁ第三艦橋勤務に比べれば遥かにマシと言えるが……。
「くそ、俺にも主人公補正があれば!」
「そんなものは名無しキャラにあるわけないだろう。ああ、それと間違えるなよ。爆雷波動砲はまだ無いからな」
「言っておくが、あれは『拡大』波動砲だ。聞きづらいが……」
「そうか……しかし普通の波動砲と何が違ったんだ?」
「知らん。あっという間に全滅したからな、地球艦隊。完結編の戦艦は結構好きだったんだが」
何はともあれヤマトは再び地球から飛び立つことになる。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第9話
原作同様に改装され戦闘力を大幅に強化されたヤマトは、未知の世界である銀河系中央を目指して飛び立った。
と言っても艦長は最初から目的地や状況を知っていたが……。
「バース星か」
ヤマトの艦長室でヤマト艦長となった男は原作を振り返る。
「バース星はボラー連邦の保護国となっていたな。まぁラム艦長のように、バース星人も軍人として起用されていたから
奴隷化まではされていないようだが……」
ガミラス帝国やガトランティス帝国は人類の奴隷化か絶滅を突きつけたし、ディンギル帝国は人類殲滅、デザリウム帝国は人類の
肉体を手に入れようとしていた。この四ヶ国については交渉の余地がない。
「まぁ新興国家だから舐められるのは間違いないだろうが……ガミラスを打ち破ったという実績を強調すれば、何とか
なるやも知れん。しかし相手はあの気難しい独裁者だ。少しでも機嫌を損なえば大変なことになる。全く面倒な仕事だ。
まぁ古代弟は、兄と沖田艦長が生きているおかげで、少しは気性が穏やかだ。私が気をつけていればあの首相と口論する
ようなことはないだろう」
そういった後、彼は艦長室を後にした。
何しろヤマトは改装を受けたものの、その後の訓練は十分とは言えないのだ。
不測の事態に備えて、練度を高める努力は必要だった。
「私が人柱にされないためにも頑張らなければ」
ヤマト艦長という死亡フラグを押し付けられた男は割を必死だった。
一方、地球防衛軍はアンドロメダ、ネメシスを完成させた。2隻はただちに訓練に取り掛かる。またアンドロメダ級の
3番艦以降の建造も進められている。
また航空戦艦(転生者の間では機動戦艦と呼称)であるムサシの建造も進められていた。ヤマトに比べて太くなった
艦体を利用して60機もの艦載機を搭載できる。また飛行甲板が広いこともありヤマトよりも余裕を持った運用が可能
となっている。
武装もほぼヤマトに準じるものであり46センチショックカノン砲こそ前部2基6門に減じたが、パルスレーザーは
針鼠のように搭載されている。さらにアンドロメダ級と同様にダメコン要員として簡易量産型アナライザーが多数搭載
されており、ヤマトに迫る防御力を持っている。ちなみにヤマトでは何故か第一艦橋の上にあった艦長室は撤去され
変わりにレーダーやセンサーなどの索敵用の機材が詰め込まれた。
総合的な能力ではヤマトを超えるのではないかとさえ、関係者の間では囁かれていた。
「あとは長距離航海任務に適した巡洋艦が建造できれば完璧なのだが」
ドックでムサシを見上げて参謀長はため息をつく。
地球防衛軍はこの時点では沿岸海軍に過ぎない。
またイスカンダルまでの航海で波動砲が活躍したこと、また拡散波動砲が実用化できたことで防衛軍の戦術は波動砲
に依存している。おかげでやたらと波動砲を艦に搭載したがる風潮があった。
「空間磁力メッキと同様の技術を敵が持っていた場合に備えて、航空戦、砲雷撃戦の研究、それに新たな対艦、対空兵器の
開発が急務だな。他の新兵器も開発を急がなければ」
波動カードリッジ弾、コスモ三式弾の開発は急ピッチで進められていた。
ガトランティス帝国戦までには何とか間に合う見込みだ。だがそれでもガトランティス艦隊とは絶望的な差がある。
「前衛艦隊に勝てても、次は都市帝国、それに巨大戦艦が相手。些か荷が重い。
やはり……可能ならばボラー連邦を、ガトランティス戦役に引きずり込むのが望ましい」
戦術で勝つための算段をしつつも、参謀長は戦略で状況の打開を目論む。
「だが……太陽系に来る、無礼な客人を歓待する用意もしないとな。我々のホームに入り込んでただで帰れると思うなよ」
太陽系に侵入して防衛軍の撹乱を行うであろうナスカ艦隊の早期の捕捉と撃滅は必須だった。
足元の安全なくして決戦はない。
「それにしても金星基地を叩かれただけで、エネルギーが全ストップはないな」
原作で金星基地を叩かれただけで、あっさり機能が停止した地球の体制のもろさを思い出して参謀長は頭痛を覚えた。
勿論、この世界では万が一に備えてバックアップを取っているし、地下都市に臨時のエネルギー供給施設もセットして
いる。仮に地上の施設が爆撃されても何とかなる。
「まぁ金星基地襲撃を防げれば言うまでも無い。コスモタイガー�の早期警戒機仕様を配備しておこう」
コスモタイガー�の早期警戒機の生産は急ピッチで進んでいる。
有利に戦うには、まずは先に相手を見つけなければならない。これはこれまでの戦訓から明らかであり、反対はなかった。
また地球側に余裕があることもこのような装備の充実を可能にした。
参謀長としては11番惑星にも艦隊をおきたかったのだが、さすがに人員と予算の面から無理だった。しかしそれでも
定期的にパトロール艦が派遣され周辺を警戒するようにし、非常時に備えて偵察衛星、通信衛星も多数設置している。
「参謀長は心配性ですな」
防衛軍司令部ではそう囁かれるほどなのだから、どれほど力を入れているか分る。
「当面やることだけでも太陽系防衛体制の強化、テレサの通信の傍受の準備、ボラー連邦との交渉の用意、他にも色々と全く
地味な仕事ばかり増える」
彼の地味な仕事(重要度は高い)に終わりが来るのかは、誰にも分らなかった。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第10話
紆余曲折の末、ヤマトは取りあえずバース星にたどり着いた。
途中でトラブルで遭難していたボラー連邦船籍の輸送船のクルーを保護していたこと、そしてボラー連邦の警備隊の
攻撃に反撃せずに通信を呼びかけ続けたことで、ある程度信用され、ヤマトは総督府から寄港の許可を得た。
ヤマトクルーは新たな宇宙人(それも人型)との遭遇や人が住める惑星の発見から、少しテンションを上げていた
ものの彼らの上司である艦長は気が気でなかった。
「さて、いよいよか」
ヤマト艦長は己を奮い立たせる。ファーストコンタクトは何とかなったが、相手はソ連みたいな国なのだ。
油断などできるはずがない。
「蛇が出るか、鬼が出るか」
艦長がそう覚悟した後、輸送船のクルーを助けてくれたことへの感謝の印として総督府での会食へ招待された。
最初、艦長は古代のみを連れていくつもりだったのだが、古代の提案で第一艦橋のメンバーや佐渡先生まで連れて
行く破目になった。所詮、名無しキャラでは主人公の押しには勝てなかった。
「これが補正とでも言うのか……それとも歴史の修正力とでも言うのか?」
嘆息しつつも、艦長は彼らを連れて総督府に赴いた。勿論、不用意な発言は慎むように厳命していたが。
バース星総督府の会食でヤマトクルーはボラー連邦についての説明やバース星が保護国になった経緯について
説明を受ける。
「ようするに侵略したってことじゃ?」
「胡散臭くないか?」
非常に小さな声でであったもののヤマトクルーの発言に顔を引きつらせそうになる艦長。彼らの発言が聞こえて
いたらと思うと気が気でない。
(こ、この連中は……そういえば原作でも命令無視はよくあったよな……はぁ~原作で防衛軍首脳がヤマトクルーを
厄介者扱いした理由が判るよ)
だが何とか場の空気を悪くすること無く、会食は終った。
「次に想定されるのは、囚人による襲撃だな」
原作の設定どおり強制収容所がある場合は、囚人達による襲撃が予想される。警戒は必要だった。
原作との乖離によって、相手が持っているのが衝撃銃だけとは断言できない。ここで下手にヤマトクルーを死傷
させるとガトランティス戦役に支障が出る可能性がある。
「戦闘班、及び空間騎兵隊は警戒体制をとれ」
ヤマトには万が一に備えて空間騎兵隊も同乗していた。勿論、斉藤はいないが、陸戦になっても十分に戦える
ようになっている。
「ここで囚人達の暴挙を口実にすれば、交渉の糸口になるか?」
そして予想通りやってきた囚人達は、古代率いる戦闘班と空間騎兵隊の攻撃によって成す術も無く撃滅される
ことになる。何しろ相手は衝撃銃、こちらはコスモガンやレーザー自動突撃銃なのだ。勝負にならない。さらに
陸戦のプロである空間騎兵隊さえ居る。大人と子供の喧嘩だ。
「彼らは一体、何だったんでしょうか?」
古代はそう疑問を呈する。勿論、艦長は知っていたが教えるわけにはいかない。
「装備や練度からして正規軍ではない。だとすれば犯罪者か、テロリストだろう。どちらにせよ、軍服を着用せずに
戦闘行為をした以上、テロリストとして処分するしかない。生き残った者は尋問する。準備をしておけ」
「は!」
生き残った囚人の尋問の最中に、ボラー連邦軍バース星警備隊隊長であるレバノスが訪れて謝罪した。またその後に
刑務所(本当は強制収容所)からの脱走者の引渡しを要請した。
勿論、艦長は断ることは無かったが、囚人達による被害について話し合いをしたいと伝える。レバノスは少し逡巡した後
頷いて艦を後にした。
「何とか交渉の取っ掛かりになれば良いが。ああ、それにしても頭と胃が痛い……全く、何でこんな面倒なことを」
この不幸な艦長は不平不満を漏らしつつ、自室で薬を飲んで暫く休んだ。
だがヤマトからの報告を受けた地球連邦政府は休むどころではなくなっていた。何しろ銀河系の半分を支配する
広大な星間国家が居ることが明らかになったのだ。
ガミラスが居なくなったことで気を緩めていた政治家や防衛軍高官は無様なまでに慌てふためいた。一部の
高官は「ヤマトを超える戦艦を持っているのだから恐れる必要は無い」と主張したが、防衛軍司令部の会議の席で
参謀長はそんな意見を切って捨てる。
「相手がガミラスより強大であったらどうする? それにガミラスは多方面に戦線を抱えていた。だが彼らには
それが無いのだ。地球より優勢な生産力を背景にして、大量の物量で押し寄せられたら大変なことになる」
「では、手が無いとでも?!」
「ないことはない。そのためのアンドロメダ級の大量建造だ。それに太陽系の防衛計画の策定も進めてある」
参謀長は万が一に備えて(実際はガトランティス戦役に備えて)、土星空域での決戦を考慮した防衛計画を
策定していた。これがあればガトランティス艦隊が攻め込んできても、土方が独断で戦力を土星に集めなくても
済む。
「しかし敵を攻め滅ぼすのは難しい。何しろ、こちらは太陽系周辺での戦いを想定しているのだ」
「ですが敵を撃退しつづければ」
「防戦一方となると息切れする可能性があるぞ。それに再度の総力戦は地球経済にも悪影響を与える。
こちらにできるのは、地球は簡単に滅ぼせるような勢力ではないことを向こうに示し、相手が戦争しようとする気を
なくすことだろう。幸い、ガミラスに勝ったという実績もある」
実際には言った以上のことを考えていたのだが、それは口に出来ない。
(さすがに、いきなり彼らと同盟を組むとか、最悪の場合は傘下に入るとは言えんからな~)
そんな参謀長の考えを知ることなく、藤堂は深く頷いた。
「参謀長の言うことは最もだ。今の地球は戦争よりも復興と成長が必要だ。
万が一の事態に備える必要はあるが、最初から喧嘩腰になるのは拙い。しかし必要以上に弱腰になることもない」
藤堂の言葉に不満そうな人間も黙り込む。それは参謀長にないカリスマのなせる業だった。
こうした地球防衛軍の姿勢から連邦政府も次第に落ち着きを取り戻す。
一部の高官はガミラス戦役の悲劇を繰り返さないために不可侵条約のような条約を結べないかとさえ主張する。
「戦争にならないように、交流を深める必要はあるだろう」
「相手が格上の存在として交渉するしかあるまい。幸い、ガミラスのように『絶滅か、奴隷化か』を要求して
きているわけでもない。多少は話が出来るだろう」
「それに広大な星間国家と交流ができれば外需が見込めます。いきなり大規模な貿易はできないでしょうが、我が国の
産業を強化した上で交流を重ねれば……」
大統領を含めた連邦政府の高官たちは、大統領府でボラー連邦に関する情報の収集を行う事、そして国交を開く
準備をすることを決定する。
だがその後、一人の軍人についての話題になる。
「しかしあの男、やりますな」
「ああ。彼が言ったように探査計画をしていなかったら、あのような国家があることなど分らなかった。
アンドロメダ級戦艦を建造しただけで宇宙の守護者を気取っていた自分が恥かしい」
「こうなると、ボラー連邦以外にも広大な星間国家がある可能性は否定できませんな。参謀長が進めていた
太陽系防衛計画が役に立ちそうです」
「何にせよ、恐るべき先見性だな。政治家の能力もある。防衛軍の参謀長に留めておくのは勿体無いかも知れん」
参謀長が前線で華々しく活躍する日は、また遠くなりそうだった。
最終更新:2014年01月27日 17:04