ディンギル帝国を名乗る国家と偶発的な戦闘を切っ掛けに大規模な戦闘に陥ったとの報告は即座に首都の中央政府と
そのトップであるべムラーゼにも届けられた。
本来なら辺境の小国など気にもしないのだが、ガトランティス帝国に痛い目に合わされ、辺境の新興国がトンでもない
強敵であることを思い知った直後であったので、ボラー連邦政府首脳は事態を軽視しなかった。
「全力をもって叩き潰すのだ! 機動要塞、プロトンミサイル、それに新開発したワープミサイル。あらゆる物で潰せ!!」
「了解しました!」
べムラーゼはディンギル帝国の殲滅を、そう制圧ではなく殲滅を命じた。
また情報収集の結果、ディンギルが宗教国家であることが判明すると、べムラーゼはディンギルへの嫌悪を露にする。
「シャルバート教と結びついたら手を焼くだろう。
狂信者共が神の名の下に戦うのなら、奴らの望むとおりに奴らが崇める神の御許に送ってくれる。女子供も容赦するな。
生き残ったとしても、新たなテロリストになるだけだ」
「で、では捕虜はどうされます?」
「捕虜もいらん! ディンギルは見せしめのために民間人諸共、根こそぎ殲滅するのだ。何も残すな!!
それと地球人共にボラー連邦の恐ろしさを見せ付けるのだ!!」
「防衛軍に参戦を要請すると?」
「参戦ではない。武官なり役人を機動要塞に搭乗させるか、それとも2、3隻の小艦隊をボラー艦隊に同行させるのだ!
そして我がボラーの恐ろしさを直に見せ付けるのだ!!」
「了解しました!」
べムラーゼの厳命は直ちに前線部隊に伝達された。
地球防衛軍によって面子を潰されたこともあり、今度活躍しないと大粛清になることを理解している軍人達は本気だった。
「全軍出撃!!」
小国と言えども、油断は出来ない。
これが嫌と言うほど理解している男達は、悪戯に戦力を逐次導入することなく、機動要塞を中心とした大機動部隊を集結させ
それをもってディンギルの母星がある恒星系へ侵攻を開始する。
本気になったボラー連邦軍はディンギル帝国軍の実に6倍もの数の艦船でディンギル本星がある恒星系に押し寄せた。
「ワープミサイル発射!」
敵の監視網を察知し、自力で小ワープすることでそれを突破するというボラー連邦期待の新型ミサイルは期待通りディンギル帝国軍の
監視網を突破した。そして5個の弾頭ミサイルに分離すると次々にディンギル帝国軍の前線基地に降り注いだ。
「一体どこから現れたというのだ?!」
「わ、判りません!」
「とりあえず、本星に救援要請を!」
だが彼らは本星からの援軍を見ることは無かった。
ボラー軍はディンギル帝国軍の前線基地がある惑星をワープミサイルによる奇襲で大打撃を与えた後、プロトンミサイルで星ごと
消し飛ばした。周辺に居たディンギル艦隊は爆発に巻き込まれて壊滅した。
だがその光景を見ても、ボラー軍の指揮官達は気を抜かない。
「偶発戦闘で生き残った艦からの報告では、連中は極めて強力な対艦ミサイルを保有しているらしい。
戦艦クラスでさえ一撃で撃沈する破壊力を持っている。油断は禁物だ」
二度も痛い目に合っているボラー軍は、相手を侮ることはなかった。
「艦載機を発進させ、周囲を厳重に警戒せよ! 敵の大型機(水雷艇のこと)の接近を許すな!!」
ボラー軍は持ち込んだ大量の空母や戦闘空母から常に警戒機を発進させ、ディンギル帝国軍の決戦兵器であるハイパー放射ミサイルを
防ごうとする。いくらハイパー放射ミサイルが強力でも制空権を奪われ、奇襲さえできない状況では発射母機である水雷艇ごと撃破され
何の役にも立たない。またハイパー放射ミサイルでは艦船は撃破できても機動要塞は潰せなかった。
ディンギル軍が誇る移動要塞母艦はボラー自慢のブラックホール砲によって、一撃で周辺の艦隊ごと破壊されてしまう。
「力業だな」
防衛軍から派遣されてきたパトロール艦隊とそのパトロール艦からの映像を見ていた防衛軍首脳は慄然とした。
勿論、議長もその一人だ。しかし彼は冷静に次の手も考えていた。
(さすがソ連がモデルの国だけはある。ミサイルと人海戦術で押し寄せられたら、ディンギルも堪らないな。
いやむしろ彼らを他山の石として新兵器開発と軍備強化を進めるのが良いだろう。
ハイペロン爆弾対策も兼ねたプロトンミサイルの防御策を構築すれば、一石二鳥だし。
まぁディンギル帝国には、せいぜい頑張ってもらって防衛軍強化の踏み台になってもらおう)
ボラー連邦軍は真綿で締めていくように、ディンギル帝国軍を追い詰めた。
当然、降伏してきた者もいたが、ボラーは情報を取った後はさっさと裁判にかけて処刑していった。
「ボラーの敵に容赦は不要だ!」
勿論、ディンギルも似たようなものだった。捕虜となったボラー軍人は国民の前で公開処刑されていく。
ボラーが神を信じぬ者たちであるということがディンギル人の反感を煽り立てていたので殆ど文句は無かった。
「これは聖戦である!」
大神官大総統であるルガールはそう言って国民を鼓舞した。しかし戦況は変わらず、彼らはジリジリと追い詰められた。
こうしてディンギル帝国は最後の賭けとして、残存する艦隊を掻き集めて、母星周辺宙域で決戦に出た。
ルガールは宇宙艦隊の指揮権を自身の長男であるルガール・ド・ザールに任せた。
「神を信じぬ愚か者共を生かして帰してはならぬ!」
ルガールは自身の長男にそう言うと、司令部に戻っていった。
その姿を見送った後、ルガール・ド・ザールは巨大戦艦ガルンボルストに乗って出撃した。
ガルンボルストを含むドウズ級戦艦、カリグラ級巡洋戦艦を中心とした大艦隊はボラー艦隊を迎え撃つべく出撃した。
ディンギルの総力を挙げた艦隊であり、その規模は地球防衛艦隊に勝るとも劣らない規模であったが、それでもボラー艦隊の
規模に比べるとお寒い限りだった。
しかしディンギル帝国軍に後退は許されなかった。何しろ後方には母星があり、ここで敗れることは自分達の滅亡を意味する。
「ここで食い止めるのだ!」
ルガール・ド・ザールはそう勢い込んだが、ボラーは実に情け容赦が無かった。
ハイパー放射ミサイルによる損害をものともせずに、物量にものを言わせた波状攻撃を実施。
これによって一時的に本星の守りが薄くなったのを見ると、プロトンミサイルの飽和攻撃を実施したのだ。
「ディンギル人どもよ、ボラー連邦からのプレゼントだ。有難く受け取るが良い。
そして地球人よ、これがボラーの力だ。思い知れ」
首相官邸で前線の映像を見ていたべムラーゼはニヤリと笑う。
そして彼が笑った直後……ディンギル本星は実に5発ものプロトンミサイルの直撃を受けて、宇宙の塵となった。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第32話
地球と似た規模の国家である『ディンギル帝国』がボラー連邦の猛攻によって、僅か1週間で消滅したことは地球に衝撃を与えた。
ブラックホール砲、プロトンミサイル、ワープミサイルなどの戦略兵器群はどれも地球には無いものであった。
「あんな兵器で飽和攻撃されたら防衛艦隊は全滅するぞ」
防衛軍の某高官はそう呟いて頭を抱えた。
超大国『ボラー連邦』の真の恐ろしさを思い知った人間達は、ボラーがガミラス以上にトンでもない相手ではないのかとさえ考えた。
「ガミラスではなく、ボラーが攻めてきていたら人類は終っていたかもしれない」
「敵には回せませんな」
「ガトランティスに完敗したのに、すぐにあれだけの艦隊を揃えられるなんて……化物か?」
連邦政府が震え上がる中、議長を筆頭にした転生者たちは元気に動き回っていた。
議長は連邦政府大統領府で熱心に説いて回った。
「当面はボラー連邦には低姿勢で臨むべきです。その間に対抗手段を探りましょう」
「そのようなことが可能なのかね?」
「不可能ではありません。人類の総力を結集すれば絶対に克服できます! しかし今だけは屈辱に耐え宥和に徹するべきです。
幸い、先方はこちらとの友好関係を崩すつもりは無いと言っています。最大限、それを利用するべきです」
「………」
「ボラー連邦はアンドロメダ星雲への侵攻を目論んでいます。これに協力することを表明すれば向こうの歓心は買えるでしょう」
「艦隊規模の遠征になるぞ。犠牲も少なくない」
「1、2個艦隊の犠牲で地球が守れるなら十分実行する意味があります。ただこの手の遠征は経験がありません」
そう言って議長はイスカンダルへの艦隊派遣を提案する。
「この手の大遠征はヤマトしか経験がありません。この航海は防衛軍全体にとっても有益なものになるでしょう。
さらにガミラス星に残された技術を接収できるかも知れません」
反対意見は出なかった。
かくして後日、防衛会議の席でイスカンダルへの表敬訪問とガミラス星調査を兼ねた艦隊の派遣が決定されることになる。
「藤堂長官、前線部隊には迷惑を掛けますが、宜しくお願いします」
防衛会議の後、議長は実戦部隊を統括する藤堂に頭を下げる。
原作よりもマシな状況とは言え、アンドロメダ級やヤマト級を含む戦艦3隻、機動戦艦1隻、宇宙空母2隻を中心とした30隻の
艦隊を遥々イスカンダルに送るのだ。それだけ前線の負担は大きくなる。
「頭を下げなくても良いよ、議長。私も今回の派遣の必要性は理解している」
「はい」
「しかしボラーに頭を下げ続ければ、我々は良いように使い潰されるぞ。そうなれば、いずれは完全な従属の道しかなくなる」
「勿論承知しています。ですがジリ貧を避けるために破滅を選択するのは愚かなことです。
幸い、ボラーは敵対すればこちらを破滅させようとしますが、味方である姿勢をしめせば話を聞いてくれます。
味方であることをアピールし、その間に彼らに対抗できる力を身につけることが必要です」
「『今日の屈辱に耐える』か。沖田君も同じ事を言っていたな」
「それこそが今の地球に必要なことなのでしょう。何を譲歩し、何が譲れないかを政府と協議する必要があるでしょう」
「ふむ」
「防衛軍は地球人類を守る盾であり矛でもあります。しかし武器である以上、消耗しますし、使い方によっては自らを傷つけます。
持ち主が正しく武器を使用できるようにサポートするのも我々の仕事です」
「そうだな。全く、ガミラス戦役の時とは大違いだ」
「時代の変化なのでしょう。私のようにガミラス戦役からの生え抜きは、前線での仕事のほうが向いていると思うのですが」
この言葉に藤堂は笑う。
「君が議長を務まらないのなら、今の防衛軍で統合参謀本部を統括できる人間はいない。自信を持ちたまえ」
(私としては、こんな仕事は嫌なんですけどね。地味だし)
心のうちでため息をつく議長。
だが彼の心情など、藤堂が知る由も無い。
「実戦部隊の皆も議長を信用している。これからも(後方で)頑張ってくれ」
まだダメなのか……と、SAN値が減る議長だった。
SAN値が減った議長であったが、実験艦隊が統合参謀本部の指揮下に入ることが正式に決まると少しは持ち直した。
まぁ実際には防衛省とも話をする必要があるのだが、それでも自分が乗り込める艦があるというのは議長のテンションを
上げさせた。
「よし。みなぎってきた!」
議長はとりあえず実験艦隊『第01任務部隊』を立ち上げた。
旗艦として白羽の矢が立ったのは、建造中の主力戦艦『アイル・オブ・スカイ』だった。
「旗艦としての機能が低いから改造する必要があるだろう」
「武装を減らして無人艦の指揮機能を強化すると?」
だがこの秘書の言葉に、議長は首を横に振る。
「いやここは本格的に改造しておきたい。実験艦ということもある。この際、色々な新装備も載せれるようにしたい」
「……誰に改造を任せるおつもりで?」
「勿論、地球が誇るマッドサイエンティスト、もとい技術者の真田さんか大山さんだろう」
(嫌な予感しかしませんが……)
秘書は冷や汗を流す。
「二重銀河に行く前にヤマトは改装するんだし、そのテストになる艦があってもおかしくないだろう?
まぁ真田さんは忙しいからダメかもしれないが……」
「はぁ……(ダメだ、この議長)」
こうして不幸(?)なことに『アイル・オブ・スカイ』は大改装されることになる。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第33話
ディンギル帝国の終焉を見せ付けられた地球連邦政府は、ボラー連邦の圧倒的力に震え上がった。
このため議長が主張したように、表向きだけでもボラー連邦に服従しつつ密かに力を蓄えることを決意した。
「ボラーに対する抑止力の整備。これが重要です!」
こうした声に押されて、ガトランティス帝国軍から得た潜空艦と破滅ミサイルの技術を組み合わせた艦の建造が
計画された。
「現代(?)に蘇った戦略原潜といったところだな」
計画案を見た議長がそう呟いたように、この艦は防衛軍が初めて建造する報復攻撃用の艦だった。
ステルス化した艦体で敵の警戒網を突破し、艦首に格納された破滅ミサイル(のデットコピー)で相手の主要惑星を
破壊するというのが、この艦のコンセプトだ。
「MAD。相互確証破壊をこの世界で目論むとは……」
密談の席で転生者の一人はそう嘆息する。
「実に夢も希望もないですね」
「まぁボラーのワープミサイルもMIRVっぽいですし、ある意味、現実(?)に追いついたということでしょう」
「しかし本当に抑止力になるんですか? ボラーの首都は地球から見て銀河の反対側ですよ?」
この疑問に議長は渋い顔で答える。
「ないよりはマシだろう。生存性もある。
あとこの艦は別に使えなくても良い。地球を滅ぼすと大打撃を受けると相手に思わせれば、作る意味がある」
「ボラーをいたずらに刺激するだけでは? それに予算は?」
「完成しても即座に公開はしない。時期を見て行う。
予算については現在の主力戦艦の建造を打ち切りにしてひねり出す。主力戦艦建造計画はカモフラージュとして残すが」
この言葉に全員がショックを受ける。
「い、良いのですか? それでは防衛軍の増強が……」
「ガトランティス戦役での消耗が少なかったから問題ない。
それに次期主力戦艦の建造が計画中だ。この艦の整備が終れば、すぐに新型戦艦の建造に取り掛かる」
「新型戦艦? タケミカヅチではなく?」
全員の脳裏に、ハイパー放射ミサイルで呆気なく撃沈されていった防衛艦隊の姿が映し出される。
「まさかと思いますが、あの爆雷、いえ拡大波動砲を装備したダンボール戦艦ですか?」
「いや、あのやられっぷりからすると、あの装甲を『ダンボール』と言うのは『ダンボール』に失礼だろう。
むしろ……薄紙?」
「竹と紙で出来た戦艦と言われても、納得するやられっぷりだったからな……」
曲がりなりにも主力戦艦なのに、ミサイル数発で木っ端微塵に吹き飛ばされていく様はあまりにも印象的だった。
「その拡大波動砲搭載艦だ。一応、『ナガト』級という名前だ」
「ナガトですか? むしろ新型の対艦兵器に爆沈される様からすると『ローマ』のほうが……」
「不吉だからそれは無しだ。それに今回のナガト級の建造にはアンドロメダ級の運用データや各国が建造している
改ヤマト級のデータも使われる」
各州で建造されている戦艦はヤマトやムサシのデータを参考にして建造されている。
スペックではヤマトを凌駕していると言って良い。これで乗員のスキルを上げれば強力な戦力になる。
このことを理解した転生者たちは少しは明るい顔になった。
「それなら、何とかなるかも知れませんね」
「防衛艦隊主力は健在だし、各州の戦艦が加われば大幅に戦力UPだ」
「それにヤマトの系譜とあれば、ボラーも無視できないでしょうし」
仲間の表情が明るくなったのを見て、議長は話を続けた。
「あと主力戦艦の改装も進める。今の砲戦能力では不足だからな。それに速度も上げておきたい」
「出来るのですか?」
「何とかなるだろう。しかしデザリウム戦役までに全てを改装するのは無理だろう」
「……」
「だが改装の完成度は高くなるはずだ。実験艦も作るからな」
「……わざわざ参謀本部の指揮下において、データ収拾の名目で自分が乗れる戦艦を魔改造と?」
この突っ込みに議長は視線をそらす。
「何を言っているんだ。これは必要なことだぞ。それに、これがうまくいけばヤマトの能力は原作以上に強化できる」
「……まぁ良いですが」
「そういえば、この艦は無人艦隊の旗艦としての能力もあると聞きましたが、大丈夫なんですか?」
転生者の中には無人艦隊は『直前まで敵の接近に気付かず奇襲され、良いところ無く全滅した〈ヤマト世界最弱の部隊〉』
という印象があった。
「この世界では太陽系内外には厳重な警戒網を敷いている。そう簡単に奇襲はされない。重核子爆弾を阻止できれば尚更だ。
それに無人艦隊のコントロール機構は、十分な試験運用の後にタケミカヅチやアンドロメダ級4番艦に設置される。
運用実績も十分だし、改アンドロメダ級のタケミカヅチの防御力は高いから、すぐに撃沈されて制御不能にはならない」
この言葉に誰もが納得して引き下がった。
こうして地球防衛軍はボラーへの備えを考慮しつつ、デザリウム戦役に向けて軍備の整備を進めた。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第34話
地球防衛軍イスカンダル派遣艦隊こと第8艦隊(臨時編成)は、ヤマトのテーマソングをバックにして地球から旅立った。
港で第8艦隊出航を見送っていた議長に、不思議そうな顔で秘書が尋ねる。
「それにしても誰が作詞作曲したことになっているんです?」
「旧日本国財務官僚にして連邦政府某高官だ。あと他にも何人かが関わっていたらしい」
「暇人ですか。というかガミラス戦役のころから何をやっているんですか?」
「知るか……全く、そんな暇があるんだったらこっちの頼みを聞いて、もっと融通を利かせて欲しいものだ。
こっちは相変わらずモブキャラ一直線なのに、真面目に仕事をしているというのに」
(真面目ですか? アイルオブスカイの例を見ると……)
アイルオブスカイは魔改造されつつあった。
もはやこの艦は防衛軍の第一線で活躍している主力戦艦と同型艦とは思えないものとなっている。
「まぁ良い。彼らが戻ってくるころにはアイルオブスカイもドックから出ている。ふふふ、宇宙で直接彼らを出迎えてやるさ」
「仕事を片付けてからにしてください。ちなみに、この式典のあとは、ボラー連邦軍との会談なので」
「……逃げちゃダメかね?」
冗談半分の言葉だったが、秘書はきっぱり却下した。
「ダメです。ヤマト建造の功労者にして、地球でも有数の軍略家である『議長閣下』との会談を先方も楽しみにしておられます」
「……胃薬を用意しておいてくれ」
「頭痛薬も準備しておきます」
「頼む」
議長が『あー!』と叫びたくなるような激務に晒されている頃、第8艦隊司令官になった転生者(ヒペリオン艦隊司令官)は
ネメシスの艦橋で来るべき暗黒星団帝国、いやデザリウムとの戦いを考えていた。
(戦力的には十分……だろう。ヤマト、ムサシ、ネメシス、加賀の4隻。それに宇宙空母が2隻も居る。
護衛の巡洋艦、駆逐艦を入れればデザリウム艦隊を封殺できる。巨大戦艦がいくら逃げても数で押し潰せるだろう)
卑怯も糞もなかった。
数の優位で一気に押し潰すことを第8艦隊司令官兼ネメシス艦長は考えていた。
(α任務部隊以外は脇役、いやサポートに徹するのが良いだろう。下手に目立つと死亡フラグだからな)
他力本願極まれりだが司令官は本気だった。
そんなことを考えて黙りこんでいる司令官に疑問を感じたのか、艦橋のスタッフが尋ねる。
「司令?」
「ああ、すまない。各艦に通信を繋げてくれ」
「了解」
通信兵が通信回線をつなげる。それを確認すると司令官は口を開いた。
「イスカンダルへの表敬訪問に加えて、これは艦隊規模の遠洋航海の経験をつむ航海でもある。
ヤマトという先駆者が道を開いたとは言っても、油断はできない。順次、訓練は行うので各艦、用意は怠るな」
「「「了解しました」」」
ガトランティス戦役で被害らしい被害が出ていないため防衛軍の人材は原作より恵まれていた。
おかげで司令官は加藤兄弟や山本、坂本といった豪華すぎるメンバーによる模擬空戦を眼にすることになる。
(これならいける。イスカンダルに付く頃には練度も相当に上がっているだろう)
だが世の中、そうは上手くいかない。
第8艦隊がイスカンダルに向かう中、マゼラン星雲ではすでに戦乱の機運が高まっていた。
崩壊する都市帝国から運よく脱出したデスラーは、ガミラス帝国の残存部隊を糾合して一度ガミラス本星に戻っていた。
それは転生者たちが知る歴史よりも早い時期であった。
戦闘空母の艦橋で、デスラーは死の大地と化したかつての母星を見ながら、副官のタランに語った。
「ヤマトへの復讐を遂げるには、ガミラスを再興し力を蓄える必要がある」
「はい。地球人はかなり力を蓄えています。
ヤマトの準同型艦、それにヤマトを遥かに超える大型戦艦も配備されていると」
「加えてボラーという後ろ盾も得ている。奴らを倒すのは簡単ではない」
デスラーは、ボラー連邦という一大星間国家と手を結んだ地球とヤマトを現状で打ち破るのは難しいと判断した。
故にマゼラン星雲周辺で生き残っていた旧ガミラス帝国の残党や本星から脱出できた人々を結集させ、新たな新天地の
獲得を目論んでいた。
「新天地で国家を樹立し力を蓄えた後、必ず奴らに鉄槌を下す。これは誓いだ」
だがそんなデスラーの前に、ガミラシウムとイスカンダリウムを得るために送り込まれてきた暗黒星団帝国軍が現れる。
派手に星間戦争をしていた彼らにとって、無主の地と化していたマゼラン星雲は絶好の狩場だった。
勿論、かつての帝国の版図を食荒らそうとする暗黒星団帝国を名乗るハイエナ共を、デスラーが容認できるはずがなかった。
加えてガミラス本星にまでその食指を伸ばそうとする姿勢は、デスラーだけでなく、他のガミラス軍将兵の怒りを買う。
「叩き潰せ!」
デスラーの号令の下、旧ガミラス帝国軍と暗黒星団帝国軍の間で戦闘が開始されることになる。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第35話
ボラー連邦大使や駐在武官との会談を終えた議長は、執務室に戻るとソファーに突っ伏した。
「何なんだ、あの評価は?」
議長の名声(笑)は、地球だけに留まらずボラー連邦にさえ届いていた。
ボラー連邦からすれば、議長はガミラス戦役の勝利と地球連邦という新興国の躍進を支えてきた功労者の一人であり
その知略でもって現在も防衛軍を支えている非常に優秀な参謀畑の軍人であった。
「正当な(笑)評価なのでは?」
秘書の言葉に、議長はムッとした顔になるが、すぐに諦めたような顔になる。
「……私の輝かしい出番が。安○先生、艦隊指揮を執りたいです」
「とっくの昔に試合は終っています。夢見てないで仕事してください。ただでさえやることは多いんですから」
「防衛軍の人不足は深刻だな……」
「優秀な官僚や将校は畑からは取れません。議長が頑張ってもらわないと。それと後身の教育も」
「やることだらけだな。重要だが地味なものばかりとは」
「役職柄仕方ないかと。おまけに、我々はもともと……モブですし」
顔を背けながら言う秘書。どうやら彼も思うところはあるようだ。
「それを言うなよ……悲しくなる」
こうして議長の仕事は再開される。
「くそ、絶対、アイルオブスカイで宇宙に出てやる~! 幸い、建造は順調だし、自動戦艦の建造も進んでいる。
実験艦隊が地球周辺に遊弋する日は遠くない!!」
自動戦艦『クレイモア』。
アンドロメダと同等の火力(拡散波動砲2門、51センチショックカノン12門)を持つ10万トン級自動艦は
防衛軍(あと議長)の期待の星であった。何しろ無人ゆえに無茶な運用が出来る。また人手不足の解消にもなる。
「議長、叫ぶのも良いですが、手を止めないでください」
「……ああ」
仇敵である地球防衛軍の統合参謀本部でそんな脱力満点の会話がされていることなど、露も知らないデスラーは
暗黒星団帝国軍と壮絶な殴り合いをしていた。
当初、ガミラス軍は航空戦力と得意の高速機動で暗黒星団帝国軍で圧倒した。
暗黒星団帝国軍の巡洋艦部隊は戦闘空母や三段空母から発進した攻撃機によって翻弄された上、デストロイヤーから
ビームとミサイルを叩き込まれて散々な目に合った。
「地球人のほうが余程、手強かったぞ」
ガミラス軍人はそう言って暗黒星団帝国軍を嘲笑した。
だがそのまま黙っている暗黒星団帝国ではなかった。
「生意気な。滅んだ国が今更、我が国の邪魔立てをするとは!」
マゼラン方面第1艦隊司令官デーダーは、猛将らしく乗艦の巨大戦艦プレアデスを先頭に立ててガミラス軍へ猛攻を加えた。
ヤマトの主砲さえ防ぐ堅牢な戦艦を前に、さすがのガミラスも分が悪かった。
加えて事態を憂慮したマゼラン方面軍総司令官メルダースが要塞『ゴルバ』を前線に出すと戦局は暗黒星団帝国側に
傾いていった。
デスラー砲さえ跳ね返すゴルバに、ガミラス軍は手出しできなかった。ガミラス艦や三段空母が次々に撃沈されていく。
「何と言う火力と防御力だ」
さすがのデスラーもゴルバの圧倒的な攻防能力には手を焼いた。
赤いカラーリングの戦闘空母の艦橋では、ゴルバの戦闘映像を見て誰もが息を呑んだ。
「総統……」
「判っている」
タランの言葉をデスラーは遮った。
「だが、このまま逃亡するような真似をする指導者に、兵士達が付いてくると思うかね?」
「それは……」
だが、そんなデスラーをさらに窮地に追いやる報告が入る。
かつてデスラーが侵略戦争に明け暮れていた頃、ガミラス帝国は多くの国を敵に回していた。
これらの国々が、デスラーの帰還と旧ガミラス帝国軍の集結という事態を見過ごすわけが無かった。
加えてデスラー率いるガミラス帝国軍残党は、暗黒星団帝国に苦戦を強いられている。これは絶好のチャンスだった。
彼らは連合を組んでガミラス軍の横っ面を殴りつけた。
「おのれ!」
デスラーはこの横槍に憤怒したが、完全に自分の自業自得であった。
「戦線を立て直す!」
だがデスラーの手腕をもってしても暗黒星団帝国軍と、反ガミラス連合軍との二正面作戦は厳しかった。
しかも反ガミラス連合軍の存在を知った暗黒星団帝国軍司令官メルダースは、彼らに取引を申し込んだ。
「旧ガミラス帝国全土を併合するつもりはない。我々が最も欲しいのはガミラスとイスカンダルの資源だ」
反ガミラス連合軍は全面的にそれを信用することはなかったが、デスラーよりかは話が通じる相手と判断し
彼らと手を結ぶことに同意する。
反ガミラス連合軍の回答を聞いて、メルダースは満足げに頷く。
「これでガミラス星の制圧は時間の問題だな」
ある程度連携が取れた二大勢力に挟まれて戦線が完全に崩壊しなかっただけでもデスラーの手腕が如何に優れているかが判る。
だが戦線の崩壊そのものは時間の問題でもあった。暗黒星団帝国軍はガミラス本星があるサンザー太陽系の外縁部まで迫っており
彼らが侵入してくるのは時間の問題となっていた。
「ヤマトに復讐を遂げることなく、終わるというのか」
デスラーがそう零すほどに、ガミラス帝国軍残党は追い込まれていた。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第35.5話
デスラーが追い込まれている頃、議長は自宅に知人達(転生者)を招いて麻雀大会を開いていた。
参加者は統合参謀本部議長、与党の長老政治家、連邦の財務次官、某財閥総帥というマスコミに知られたらゴシップ記事でも
書かれそうな面々であった。
「たまには、遊ばないと」
「アナログゲームばかりだがな。まぁこの歳になってゲーセンに行くことはないが」
「いやゲームセンター自体まだ殆ど無いじゃないですか。そもそもTVゲーム自体が……」
「まぁガミラス戦役の影響で、そういった娯楽が潰れたから仕方ない。とりあえず過去の作品の再現でも始めとこう。
たとえば、そうインベー○ーゲームとか」
「総帥、あなた前世で何歳だったんですか?」
長く続いたガミラス戦役の影響は、娯楽にまで影響を与えていた。
経済の大半は軍需に傾いていたし、戦争後半になると娯楽にかまける余裕などなかった。このため娯楽産業の多くが衰退した。
地球連邦は復興と飛躍の道を進んでいるとは言え、娯楽産業の本格的な復活はまだ遠かった。
「それで、レートは?」
財務次官の質問に総帥がニヤリと笑いつつ答える。
「デカリャンの2万4万で」
しかしその提案に、議長が異を唱える。
「そんな玄人みたいな賭けはお断りだ。というかバレたら拙いだろう」
「だな。というか政治活動はただでさえ金が要るのに、こんなところで無駄遣いできるか。
というか次官、何でそんなに金を持っているんだ?」
「ははは秘密です。それにしても、議長も長老もノリが悪いですね……」
「まぁ余り毟るのも可哀相だ。先ほどのレートの10分の1でやるか」
「「総帥……」」
「さっさとはじめるぞ。時間もない」
「「やれやれ」」
こうしてゲームは始まる。
それぞれが勝つべく思考を巡らせつつも、何故か話題は仕事や社会情勢にシフトしていく。
「完全に平和になったら戦略シミュレーションゲームでも作りたいものだ。潤いがあれば社会にもっと余裕が生まれる」
「ヤマトを元ネタにした奴か? ゲームバランス崩壊は確実だな。それと議長、防衛機密の関係もあるぞ」
「宇宙戦争の定番である銀○伝は無理でしょう。宇宙戦艦の形が違いすぎる」
「もっと一般受けするほうが良いな。投資するなら資金を回収したい。こちらとしてはスポーツの復興も進めて欲しい」
「総帥の意見には政治家としても同意するな。ゲーム作るよりは賛同者も多いだろう。健全な魂は健全な肉体に宿るとも言う」
「確かに……尤も我々が言っても説得力皆無では?」
「「「議長、それを言ったらお終いだろう(ですよ)」」」
話をしている最中にも、付けっぱなしにしていたラジオから音楽が聞こえてくる。
そこにはガミラス戦役の頃の悲壮さは無かった。
「何はともあれ、平和は良いことだ。子供達に夢と希望を与えられる」
「大人の仕事だからな」
「尤もその大人の数も減ってしまって大変ですよ。戦災孤児の問題もある。これでまた戦争は勘弁してもらいたいですが」
財務次官がさりげなく対デザリウム戦に苦言を呈する。これに議長と長老が苦い顔で答える。
「仕方ないだろう。連中を放置していたら脇腹を刺される危険が高い」
「それに二重銀河を潰しておかないと銀河交差が起こらない可能性がある。あのボラーが強大なままで存続されると面倒だ。
まぁそのボラーとの関係が些か微妙になったのは、防衛軍のせいだが」
長老の冷たい視線に、議長はわざとらしく咳をして誤魔化す。
「……ボラーは?」
「(誤魔化したな)ディンギル吹き飛ばした後は、アンドロメダ星雲侵攻にご執心だよ。
向こうはアンドロメダ星雲への侵攻を成功させるために、こちらが得たガトランティスの技術や情報に興味を示している」
長老の言葉に全員が顔を顰める。
「やはり」
「そう来るでしょう」
「まぁ当然だな」
全員とも当然という顔になった。
「連邦政府はボラーの申し出があったら、断れないと考えている。あっさり無条件に呑めば舐められるから交渉には持ち込むが」
「向こうがどこまで話に乗ってくれるかは微妙ですね」
「次官の言うとおりだ。まぁこちらには『暴れん坊の』防衛軍とヤマトがいるから、少しはハッタリが通用するかもな」
(まだ言うか……)
実際、ガトランティス軍を打ち破った防衛軍の実力はボラーで評価されていた。『一惑星の国軍』としては破格であると。
「まぁ暫くは我慢でしょう。ボラーと交流を持ちつつ、現在はボラーの支配下の国家や衛星国とも接触しないと」
「だな。復活編までには多少は地盤を固めておかないと」
「軍も準備を急ぎます。しかし、遊んでいるのに話が仕事関係ばかりというのは……」
「議長、仕方ないよ。職業病みたいなものだ」
こうして夜は更けていく。
「俺達の出番、これだけ?」
「メタ発言は良いから、さっさと打て」
最終更新:2014年01月27日 17:34