534 :二二三:2014/01/15(水) 02:07:12
久々にネタを投下~

原作inサッドエンドで神主嶋田さん
モニカさん死亡してるので要注意~


頑張ったね



どのような強運の持ち主であれ、どんなに強い運命の絆を持つ者たちであれ、全てが全て、良い結末を迎えるとは限らない

ほんの少しでも何かが変われば
また、僅かたりとも変わらなければ
辿り着く場所は絶対幸福の中の少数不幸へと至ることもある

これはそんな少数不幸へと辿り着いたことすらも認識できない
運命で結ばれた二人の哀しく優しい出逢いと別れの話



嶋田繁太郎

日本という国の静かな山村に産声を上げた彼の家は代々続く古い神社の家系であった
彼は幼い頃より〔将来はお前が神主になるのだぞ〕と言い聞かせられ、彼自身もそれを目標に宮司の仕事を教わりながら幼少から修行に励み続けた
父曰く“繁太郎には才能がある”だそうで、その証明とでもいうのか、昔から神社の周辺で不思議な物を見掛けることが多く、普通の人には見えない存在を視る目を持った彼は、その不思議な物、俗に言う幽霊・亡霊といったこの世に未練を残してさまよっている者たちを導き、逝くべき場所へと送り出す力があったのだ

故に彼は彷徨える御霊を神の身許へ送るこの仕事こそが天職であると考え、厳しく辛い修行の毎日ながらも充実した日々を過ごしていく

皇歴2010年
神聖ブリタニア帝国の侵攻で始まった第二次極東事変
戦火は都市圏全てに及び徹底的な破壊と殺戮の末に日本は降伏
しかし当時四十半ばであった嶋田が住む山村は余りにも田舎の過疎地であり、侵攻地点からも遠く離れていた為に、直接的な戦火に巻き込まれることはなかった
田舎故に出逢いもなく独身貴族となっていた嶋田であったが、大切な両親はもちろん、村人も家族のような存在であり、誰一人傷付くことなく終戦を迎えられたのは不幸中の幸いであったと言えるであろう

日本降伏

日本人として悔しくはあったが、負けは負けとして受け入れなければならない
彼は強い信念と共に潔さというのも兼ね備えていたのだ


そして始まるブリタニアの占領統治と日本の植民地化

日本はその名を奪われエリア11となり、彼自身を含む村人も皆イレヴンと呼ばれるようになった

だがやはり彼が住む山村はブリタニアにとっては全く重要でない田舎の過疎地でしかない
お陰で東京疎開のような厳しい環境と差別の下に置かれるのではなく、彼も家族も村人たちも、以前と変わらぬ毎日を過ごせていた

皇歴2017年

黒の騎士団という一大レジスタンス組織が結成され、日本解放に向けて世の中が動き始めても彼の毎日は変わらず、神社に来る参拝者に挨拶したり、境内の掃除をしたり、偶にサボって“掃除する振り”をしていたりと日々平穏であった
唯一平穏と言い難いのは戦争や占領統治、ブリタニア第三皇女ユーフェミアが起こした虐殺事件などで日本全国で大勢の人が亡くなったからか神社の幽霊が増えてしまったこと

毎日毎日、夜遅くまでお祓いして天へと送り出してもキリがないくらいに増加し続けていく幽霊

「過労で死にそうだ…」

ついて出る弱音も死んだ者たちは聞いてくれない。来る日も来る日もお祓い、お祓い、お祓い
まるで世界中の幽霊が集まっているのではと思えるほどに多くの御霊を祓い続けていた

そんな幽霊たちは皇歴2018年から2019年に掛けて更に数が増えてしまった
今までのような日本人の幽霊ばかりではなく、明らかに外国人、ブリタニア人と思わしき幽霊までもが嶋田神社に集まってきたのだ

豪奢な髪をロール状に巻いた髪型の初老の老人

足元にまで伸びた長い髪の少年

危険な香りがする黒髪の女性

〔先輩がいませんよルキアーノ様!〕と叫ぶ、とてもエッチなレオタードを着た若い女性と、その女性を引き連れたオレンジ色の髪をした不良みたいな青年

テレビで見たことがある者、まったく知らない者、多種多様な幽霊たちが現れては嶋田の手により天に召されていく

(幽霊たちはこの神社をあの世へ渡る為の集合場所だとでも考えているのだろうか?)

増え続ける幽霊に手を焼く嶋田はもうウンザリだと溜め息を付きながらも流れ作業のように彼らを浄化していった

535 :二二三:2014/01/15(水) 02:08:54
“第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア即位!”

“ナイトオブラウンズ4名以下ロイヤルガードと親衛隊、簒奪者ルルーシュ討伐に飛び立つ!”


「敵討ちか」

社務所で一服していた彼はテレビに映るブリタニア最強の騎士集団が帝都ペンドラゴンを急襲する様子を他人事のように呟きながら眺めていた
実際に他人だから何かを言うべき立場ではないというのもある。自分はこの神社の神主でありブリタニア最強の騎士たちとは何の関わり合いもなく、ブリタニアがどうなろうが関係ないのだから

そうやって他愛もない事を考えながらテレビを眺めていると、ふと黄緑色のKMFが目に入る

「あの機体」

何となく気になった黄緑色のKMF。何か懐かしいような知っているような、そんな気がしたのだ

どうしてこんなに気になるのか?

ジッと目で追っていたその機体は

次の瞬間には、緑の翼を持つ白いKMFの銃から発射された閃光に撃ち抜かれて爆発四散していた

「……」

あの機体のパイロットは死んだだろう。あの至近距離からコックピットを撃ち抜かれたのだから助かる訳がない

見知らぬ人物、会ったこともないそのパイロットの死が


何故か悲しかった




皇歴2019年夏


漸く訪れた平和。といっても神社の仕事に精を出す殆ど変わりない毎日だが、そんな嶋田の変わった事と言えば前世の記憶という物が蘇ったことであろうか
先日訪れた参拝者、辻正信に声を掛けられた瞬間、彼の魂の奥底で眠っていた全ての記憶が蘇ったのだ

〔お久しぶりです嶋田さん〕

〔辻……さん?〕

前世の自分はこの世界とは違う世界の昭和という時代で大日本帝国なる国の宰相であったこと
それより以前となる前々世では平成と呼ばれる時代でごく普通のサラリーマンだったこと
それら“自分”という人間を構成する最も大切な記憶
それを今の今まで忘れていたことが怖くて仕方がなかった

〔辻さんはいつ?〕

〔全部が終わってからですよ。まったくもって残念でなりませんね。せめて二十年早く思い出していれば何かできたと思うのですが〕

〔人生こんなものですよ〕

此処はコードギアスという世界らしいことも辻に教えられたが、それを知ったところで意味はない。全て終わったあとなのだから

〔まあ、こうなった以上は何もすることありませんし、お互いに余生をのんびり過ごしましょう〕

〔辻さんからそんな言葉を聞けるとは……〕

〔何を言います。私も今世では普通人ですから嶋田さんに無茶な量の書類を渡しに来るなんてことはありませんよ〕

〔無茶だという自覚はあったんですね〕

懐かしい前世の話に花を咲かせたあとはお互いの近況などを語り明かした
そして夢幻会ではない純粋な普通の飲み会を旧会合メンバー集めてやろうとの話を最後に彼は帰って行った


辻との再会を思い出していた彼は日が傾き始めた午後、箒を片手に境内へと赴く

「いつの間にかいなくなったな」

一時期境内に溢れ返っていた幽霊たちも戦乱の終結に伴い少しずつ減っていき、現在ではもう視ることが無くなっていた
とはいえ偶に現れることはあったが数が少ないので祓うのも簡単だ
天に上っていく魂を静かに見送る普通の日常が帰ってきた
これが正常であり今までが異常だったのだ

「前世でもそうだったが、やはり戦争なんてものは碌なものじゃないな」

嶋田は自分なりの考えを纏めて境内を掃除する

やがて日の傾きは地平に消え行くほどまでになり、街灯の少ない辺りを暗闇が浸食してきた。もうすぐ夜だ

「ふぅ、そろそろ終わりにするか」

今日はもう参拝者が訪れることは無いだろう。そう考えて切り上げようとしたが

「ん?」

視界に写り込む何かに気付き足を止めた。境内の端、敷き詰められた砂利の上で女性が一人佇んでいたのだ

536 :二二三:2014/01/15(水) 02:11:16
「女の……幽霊、か?」




その女性は流れるような長い髪を頭の左右に結い上げ赤いリボンで纏めた、KMF専用の白い飛行服姿をしていた
前髪は眉が隠れるくらいで切りそろえられ、その下から覗く蒼い瞳がまっすぐ此方を見つめている

服に刺繍された紋章からすると、恐らくはあの戦争で死んだブリタニア軍のKMFパイロットなのだろう

何となく気になった嶋田は、その女性の幽霊に近付き話し掛けていた

「こんばんは」

女性の幽霊は話し掛けられたことに驚いて目を見開く

『見えるの……ですか?』

「ええまあ、何の因果か幼少期より貴女のような死人が視えるんですよ」

『死人……そう、私は……、私は死んだのですね……』

「ええ、お気の毒ですが」

嶋田は彼女に手を伸ばし、その透けた手に触れようとしたが、結果はすり抜けるだけで触れることはなかった

「このように肉体を持たない魂だけとなった貴女には生きている私では触れることすらできませんよ」

『……』

女性は押し黙りすり抜けた手を見詰めて悲しそうな表情を浮かべている

『思い出しました……、私は…私は逆賊に討たれて……』

「……」

『仲間だと…思っていた……、彼は、イレヴンではあったけど、同じ仲間だと……』

こんな若い身空で死んだのだ。さぞや未練も多いだろう
“彼”というのが誰を指しているのかはわからなかったが、恨んでいるのだろうか?
どうしてこんなことになってしまったのかと嘆き悲しむ彼女に嶋田がかけてあげたのは、昔誰かに聞いたか、それとも耳にしたか、定かではないが、ふと浮かび上がってきた言葉だった

「この世はね。こんなはずではなかったことばかりなんだよ」

他人行儀な言葉使いを改め、砕けた感じの口調に変えながら、嶋田は続ける

『……』

「こんなはずじゃないこの世界で精一杯頑張るしかない。君は精一杯頑張ったかい?」

『私は……』

思いも寄らぬ彼からの問い掛けに彼女は一度言葉を切ったあと、もう一度口を開いて言った

『私は、自分の信念を貫き通しました』

537 :二二三:2014/01/15(水) 02:11:52
自分の信念を貫き、精一杯、全力で生き抜いた

空の色を思わせる蒼い瞳を力強く此方に向けて言い切った彼女に、嶋田は口元を緩めて微笑み掛けながらそっと手を伸ばし彼女の頭に触れようとする

「そうか……よく、頑張ったな」

無論のこと触れる事はできない
彼女は既に死んでいて、この場に在るのは魂だけなのだから
あくまでも撫でる仕草をしているだけ
頑張った者を誉めるのは当然である
それが見ず知らずの女性であろうが、彷徨える魂の救いになればいいと

「だから、精一杯頑張った君は、もうゆっくり休んでいいんだ。誰かを恨んだりしないで、ゆっくり休もう」

嶋田は撫で続ける、決して触れること適わぬ彼女の頭や髪を
憎悪を抱いて逝くべき道を見失わないようにと

『………あたたかい』

嶋田の優しさに触れた彼女は、瞳を閉じながら一筋の涙を流した
何処へ行けばいいのか?
父や母はどうなったのか?
どうして私は仲間であった者に討たれ死ななければならなかったのか?

無念、悔恨、ほんの少しの恨み、死後も彼女をこの世に縛り付けていた鎖が解かれていく

『あなたの手……とても、とてもあたたかい……』

薄くぼんやりしていた彼女の魂が光を発し始めた。この世の全てから解放された彼女は、漸く天に昇れるのだ

『ありがとう……』

「大した事はしてないさ。これが俺の仕事だからな」

天に昇り始めた彼女は最後に一つだけお願いがあると言った

『どうか、どうか私の両親に出逢う事があれば、お伝えください
モニカは、モニカは父上と母上の娘として生まれ、生きて……幸せであったと……』

「わかった。必ず伝えよう」

『ありが……とう』

夜の星空へと吸い込まれるように消えていくモニカ・クルシェフスキーと名乗る彼女との出会いと別れ
彼女の姿が消えても尚、空を見上げていた彼は

「やはり戦争は碌でもない……」

若い身空で命を落とした彼女の冥福を祈りながら、一抹の淋しさと悲しみに胸を痛めていた

538 :二二三:2014/01/15(水) 02:13:42


同じ頃

「いい加減に成仏しろ」

『イ・ヤ・よ、いっくんが死ぬまで取り憑いてる♪』

「誰がいっくんだ!」

前世が海軍大臣であった事を思い出したとあるフェリーの船長は、何故かいきなり自分の前に現れたレオタード姿の金髪美女の幽霊に取り憑かれて大変な目にあっていた


後々、この船長のフェリーでは夜な夜な船幽霊が現れると噂になるのだが、それはまた別のお話

539 :二二三:2014/01/15(水) 02:18:58
終わり~
必ずしも嶋田さんたちが政治家・軍人・要人として生まれ変わるとは限らないをコンセプトにしてみました

嶋田さんは神社の神主で一般人
いっくんも民間フェリーの船長さんで一般人
辻さんもサラリーマンで一般人

他の人たちもみんな一般人で前世の記憶が戻ったのはR2終了後の時間軸です~

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年02月22日 17:37