843 :トーゴー:2014/01/20(月) 00:03:07
ユフィルートしげちーSS 第三話:エル家の人々(後編)



「はぁ・・・・・・」

陸軍省からの帰途に就いたカズシゲは、先ほどまで会っていた人物のことを考え溜息をつく、

(コーネリア伯母上は公人としては問題ない人なんだけどなぁ・・・)

カズシゲの母ユーフェミアの実姉であるコーネリアは、
武門の皇族リ家の当主に相応しい武勇と軍人としての能力を持つ有力皇族の一人である。
その武と人柄に惹かれ、彼女に憧れるブリタニア兵士は数多い。

(趣味がマトモなら・・・腐ってさえいなければ、僕はあの人を素直に尊敬できたのかもしれない・・・)

ブリタニアとユーロブリタニア(現AEU)は日本との交流を深める中で、日本のサブカルチャーをも吸収していった。
両国の上流階級にもその影響を受けた人物は多い。
ブリタニアではクロヴィス皇子が日本の伝統文化への研究を行ったりしているし、日本の漫画やアニメは皇族にも好まれている。
欧州でもイタリアの宰相は様々なメディアミックスのなされた日本の某育成ゲームシリーズの大ファンだ。
駐日大使を務めたこともあるコーネリアもまたその一人なのであるが・・・その方向性が問題だった。
彼女が進んだのは大多数の男性が反応に困るであろう耽美な趣味・・・要するに貴腐人と化してしまったのだ。
もっとも、ギルフォードらの奔走やコーネリアが元々胸を張って公表できる趣味ではないと自覚していたこともあって
この情報が拡散することはなく、コーネリアの周囲や他の皇族への感染拡大はどうにか押し止めることができたが。
なお、ギルフォードとダールトン、そして二人に泣きつかれたシュナイゼルの胃が大いに荒れたのは言うまでもない。

(まぁ個人の趣味に口を出すのは良くないことだけど、あれが周囲に広がるのは嫌だからなぁ)

大抵の男性はコーネリアお手製の『ダールトン×ギルフォード』ものを発見しまい卒倒した
ギルフォードのようにはなりたくないだろう。
もっとも、ソフィーはBLを嫌悪している節があるのでカズシゲはそれ程心配していなかった。
どちらかというと、その心配をしていたのはカズシゲの父である嶋田繁太郎である。
幸いユーフェミアの手によって『嶋田×辻』の薄い本が作られたりするような事態にはならなかったのだが・・・

844 :トーゴー:2014/01/20(月) 00:04:11
「お帰りなさいませ、殿下」

リ家の離宮、正門前。
カズシゲは、いつものように門番に迎えられる。

「うん。何か変わったことはなかった?」
「宰相府よりヴィルジール殿下がお見えです。旦那様がお相手していますが、殿下にも会いたいとのことで・・・」
「ヴィルジール殿が?わかった」

来客のことを聞くと、カズシゲは急いで離宮の中に入る。
応接室に向かって進むと、向こうから歩いて来た使用人に遭遇した。

「殿下、お帰りなさいませ」
「うん。父上とヴィルジール殿は?」

「既に宰相府よりの件の話は終わられたようで。現在はヴィルジール殿下が一人でお待ちになっています。殿下がお帰りになった際には急がなくて良いので来て欲しいと伝えてほしい、と・・・」
「わかった。御苦労さま」

カズシゲは応接室に急ぐ。


「ご無沙汰しているよ。カズシゲ君」
「お待たせして申し訳ありません、ヴィルジール殿」

カズシゲは待たせてしまった客に頭を下げる。

「それは急に来た私の責だ。それにしても、卿(けい)はまた私をそう呼ぶのか。義兄上、と呼んで欲しいと何度も言っているのだがねぇ」
「はは・・・それはまだ早いですって」

宰相府首席補佐官、ヴィルジール・エル・ブリタニア。
帝国宰相シュナイゼルの嫡子にして将来の宰相候補と目される奇才である。
大仰な口調と身振りが特徴だが、長身の美形であるためそれがさまになっている。

「さて、まずは要件の方を済ませるとしようか。欧州の方の話を聞きたいのだったよねぇ?」
「はい。」
「そうだねぇ・・・まずはフランスの王配シン殿下だけど・・・」

要件というのは、欧州を外遊していたヴィルジールの目から見た欧州各国の情勢や力関係、
将来性のある人材についての話などを聞かせてもらうという約束である。
ヴィルジールの数日間の欧州出張が決まった後、カズシゲはヴィルジールにこの事を頼んでいたのだが、
なかなか互いのスケジュールが合わず延び延びになっていたのだ。

845 :トーゴー:2014/01/20(月) 00:05:15
「・・・こんなところ、かねぇ。質問は?」
「そうですね、まずオランダの・・・」

「・・・だねぇ。質問は以上でいいのかな?」
「はい。ありがとうございました」

欧州の話と質疑応答を終え、カズシゲはヴィルジールに頭を下げる。

「大したことじゃあないさ。それより、これから来客の予定はあるかな?」
「いえ・・・今日は特には」
「ではここで少しゆっくりさせて貰おうかな。向こうではのんびりし難くててねぇ」
「帰って仕事しないで大丈夫なんですか?」
「なに、ここ数日は病欠が出たせいで超過勤務気味だったんだ。彼は今日復帰したから、少しくらい休んでもバチは当たらないさ」
「・・・ルルーシュ伯父上、怒りますよ?」
「そうは言っても、副宰相と首席補佐官とで仕事量が違うのは仕方ないだろう?私の方が仕事を早く終えるのに文句を言われてもねぇ」

そう言って溜息をつくヴィルジール。

コンコン
「・・・殿下、よろしいでしょうか?」

と、ドアがノックされ向こうから使用人の声がする。

「どうしたの?」
「エル家よりソフィー殿下がいらっしゃったのですが・・・」
「ソフィーが?」

カズシゲはヴィルジールを見る。

「私は構わないよ?私がいては不味いようなら帰るしねぇ」

とヴィルジールが言うので、カズシゲはソフィーを迎え入れる。

846 :トーゴー:2014/01/20(月) 00:06:33
「あれ、お兄様?」

ここで兄に会うとは思っていなかったのか、怪訝そうな声を上げるソフィー。

「私はカズシゲ君と約束があったのでねぇ。そう言うソフィーはどうしたんだい?」
「あ、はい。先日リ家より提案された案件に関する書類を届けに・・・」
「それだけならわざわざソフィーが来る必要はないだろう?本当の理由を是非聞きたいものだねぇ」
「あ、その・・・チーズケーキを焼いたので、カズシゲさんに・・・」

そう言って箱を取り出すソフィー。
姫君らしからぬことだが、ソフィーの趣味はお菓子作りである。
ソフィーも皇族なのでそれなりに忙しいのであるが、時間がある時にはこのようにケーキを焼いたりしている。
まあ、彼女が作ったお菓子は常にカズシゲに届けられるので、単にお菓子を作るのが好きなわけではないのは明白だが。

「ありがとう。・・・あ、そうだ。時間があるようだったらソフィーも一緒に食べようよ。ヴィルジール殿もいるし・・・」

嬉しそうにケーキを受け取ったカズシゲが提案する。

「おや、私もご相伴に預かっていいのかい?」
「いいよね?ソフィー」
「・・・カズシゲさんが望まれるのであれば、わたしは構いません」

鼻歌でも歌い出しそうな口調で聞くカズシゲに、ソフィーも微笑みながら答える。

「ありがたいことだねぇ。では返礼に紅茶とフォークにナイフを調達してこようか」

そう言ってヴィルジールは部屋を出ていく。

「あ、これはその書類です」
「あ、うん。確かに受け取ったよ」

カズシゲはソフィーから書類の入った袋を受け取ると、隣の空いている椅子に置く。

「伯父上から何か託(ことづか)ってる?」
「はい。来週の日曜日の午後一時から例のダム計画について関係皇族間で話し合いを行いたいので、リ家の方から誰か一人よこして欲しい、と」
「来週の日曜日の午後一時?確か・・・その時間帯は伯母上と伯父上は軍の仕事で東海岸へ、父上は南部への視察、母上は後援貴族との会談があったはずだから・・・僕が行くことになるかな。ソフィーのその日の予定は?」
「その日は仕事が・・・離宮に帰るのは会合が終わった一時間後になる予定です」

ちょっと残念そうにするソフィー。

「そうか・・・じゃあソフィーが帰るまで待たせてもらおうかな。来週の日曜日は午前中しか予定が入ってないし」
「そんな・・・わざわざ待っていただかなくても・・・」
「別にソフィーが可哀そうだから待つわけじゃないよ。僕がソフィーに会いたいから待つ。分かった?」
「あ・・・はい・・・」

言い聞かせるように言うカズシゲに、嬉しそうに微笑むソフィー。

「相変わらず仲が良さそうだねぇ」
「あ、ヴィルジール殿」

いつの間にか、ヴィルジールがナイフと人数分の紅茶に食器を持った使用人を引き連れて戻ってきていた。
使用人は紅茶と食器を配り、ケーキを切り分けると邪魔をしないようすぐに退室する。

「じゃあ、いただきます・・・」

カズシゲは一口ケーキを食べる。

「どう・・・ですか?」
「これ・・・前と味が違うみたいだけど、材料を変えた?」
「はい。前回とは違う銘柄のチーズを使ってみたのですが・・・」
「うん、美味しいよ。僕はこっちの方が好きかな」
「良かった・・・」
笑顔で答えるカズシゲに、安心したように表情を緩めるソフィー。

「うんうん。そうだろうさ。少なくとも卿にとっては私以上に美味に感じるだろうさ」

そんな中、しきりに頷きながら口を挟むヴィルジール。

「・・・私の味覚がおかしいみたいなことを言わないで下さいよ」
「いやいや、そういう意味じゃないさ。ソフィーのお菓子には、卿への愛という最高の調味料がたっぷり入っているのだからねぇ。私には、その恩恵がないからねぇ」
「お、お兄様・・・!」
「おや、私は何か間違ったことを言ったかな?」
「そ、それは・・・」

にやにや笑ってからかい続けるヴィルジールと、顔を赤らめるソフィー。
カズシゲは我関せずとばかりに黙々とケーキを食べていたが、その頬には赤みがさし、口元は緩んでいた。

847 :トーゴー:2014/01/20(月) 00:08:48
「・・・そういえば、約束というのはどのようなものだったのですか?」

ケーキを食べ終わり三人で紅茶を飲んでいると、不意にソフィーが二人に尋ねてきた。

「ああ、ヴィルジール殿に欧州の話を聞かせてもらったんだよ」

カズシゲがソフィーの質問に答える。

「・・・お兄様は、カズシゲさんの頼みには鷹揚ですよね。伯父上のことはあまり助けないのに・・・」
「将来の義弟だからね。それにカズシゲ君は熱心だから、教える側にもつい熱が入るのだよ。まあ、熱心なのがいき過ぎて父上のようになるのは看過できないがねぇ」

冗談めかした口調だが、ヴィルジールの顔にはどこか真剣そうな色が浮かんでいる。

「それは心配しないでください。ソフィーに寂しい思いをさせないように、できる限り頑張るつもりですから」
「カズシゲさん・・・」

真剣な表情で言うカズシゲ。それを聞いて、ソフィーは顔を赤らめつつ恥ずかしそうに微笑む。

「寂しい思いをさせないように・・・か。」

ヴィルジールは重々しく頷く。

「ふむ。確かに結婚後の卿らは毎晩深夜まで乳繰り合っていそうだがねぇ」
「ふぁっ!?」

驚いて変な声を上げるカズシゲ。ソフィーは・・・フリーズしている。

「でもソフィーは身体が弱いのだから、無理をさせてはいけないよ?・・・まあ、ソフィーは卿に愛され過ぎた結果であれば、寝込んだとしてもむしろ喜びそうではあるがねぇ・・・」
「えっ、あっ、だっ、ち、違います!」

明らかに何か誤解しているヴィルジールに慌てて訂正しようとするカズシゲ。

「違うのかい?カズシゲ君は優しく大事に、そして徹底的に可愛がり、ソフィーもそれに流されそうなイメージがあるのだがねぇ・・・」
「そっちじゃなくて、今のは、できる限り一緒にいるようにするという意味だったんです!」
「ん・・・?ああ・・・子供を大勢作るという意味ではなかったのか」

      • ヴィルジール・エル・ブリタニア。彼が『天才』ではなく『奇才』と呼ばれる所以は、このズレた一面にあったりする。
まぁ、宰相府の中ではマトモな部類ではあるのだが。

848 :トーゴー:2014/01/20(月) 00:10:35
「・・・おっと、もうこんな時間か。さすがにそろそろ戻らないとルルーシュ伯父上が乗り込んできそうだから帰ろうかねぇ」

「あ、ではわたしも・・・」

フリーズしたソフィーを再起動させた後、三人はしばらく歓談していたが、
そろそろ帰らないと不味いとヴィルジールが立ち上がり、それを見てソフィーも帰ろうと腰を上げる。

「ああ、私はすぐに帰る。ソフィーは急がなくとも構わないのだよ?」

そう言って急いで立ち去ろうとするヴィルジール。

「どうしたんですか?途中まで一緒に帰ればいいのに」

彼の行動に疑問を感じたカズシゲが問いかける。

「私がいては色々としにくいだろう?ほら、お別れのキスとか」
「しませんよ!」

同時に大声で否定するカズシゲ。

「しないのか・・・では、失礼させてもらうよ」

残念そうにしながら帰っていくヴィルジール。

「まったく、あの人は・・・ソフィー?」

愚痴を言いながらカズシゲがソフィーの方を見ると、彼女は俯いて何やら考え事をしている。

「どうかした?」
「・・・した方が良いんでしょうか?その、お別れのキス、とか、・・・」
「え?そ、そうだなぁ・・・僕としては、興味はある、かな」
「そ、そうですか・・・」

そう言った後、照れくさそうにそっぽを向くカズシゲと、俯いたままのソフィー。

「・・・では、失礼させていただきますね・・・」

会話が途切れたまま、帰ろうとするソフィー。

「・・・ソフィー」
「何ですか・・・んぅ!?」

呼ばれて振り返ったソフィーに、カズシゲが後ろから口づけする。

「・・・ぷはっ・・・な、何を・・・!」
「またね、ソフィー」
「あ・・・はい。また・・・です」

抗議の声を上げようとしたソフィーは、
カズシゲに別れの挨拶を言われると、何かを理解したようにして恥ずかしそうにそそくさと帰っていく。

「・・・たまにはソフィーの方からもこういうこと、して欲しいんだけどなぁ」

カズシゲの呟きは、誰に聞こえるでもなく消えていった。


ちなみに、ヴィルジールからこの日の話を聞いたシュナイゼルらから
『確かに結婚後の卿らは毎晩深夜まで乳繰り合っていそう』というのは否定しなかったことについて
イジられることになるのだが、それはまた別の話である。

849 :トーゴー:2014/01/20(月) 00:12:42
以上です。
しかし、やっぱり登場人物が少ないと書きにくいなぁ・・・
やはりここはオリキャラ大量生産による『アッシュフォード学院編』を作るしかないか・・・

次回ですが、しげちーからいったん離れて
ルルーシュ視点で、一癖も二癖もある人々に囲まれて心労の絶えない日々を送る彼の姿を描いた
閑話を書こうかと思っています
また、まだユフィルートには春閣下や千早のようなアイマス関係の人物がいませんので、
次回ではアイマスキャラをモデルにした人物を登場させる予定です。

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最終更新:2014年02月22日 17:56