939 :トーゴー:2014/01/22(水) 09:19:45
ユフィルートしげちーSS 閑話:ルルーシュの憂鬱



「はぁ~~~~~~」

眠っている間に溜まった書類と、それを処理している間に追加された書類を片付け、ルルーシュは大きく息を吐く。
神聖ブリタニア帝国副宰相を務めるヴィ家当主、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの仕事は多い。
現役時代の嶋田や昔のシュナイゼルほどではないにしても、世間一般の基準からすれば激務であることに変わりはない。

「・・・ナナリー」

ルルーシュが執務机の端に視線を動かすと、写真立てにナナリーの笑顔が写っている。少し心が和んだ。

「最近ナナリーに会えてないな・・・今日定時に帰れるようなら、会いに行ってみるか・・・」

ナナリーに会うことを想像し、笑みを漏らすルルーシュ。
だが幸せな時間はすぐ終わりを告げた。

「・・・叔父上、仕事です」

そう言ってルルーシュの執務室に入ってくるのは彼の甥、ヴィルジール・エル・ブリタニア。
さらにその後ろからは何人もの文官が続き、ルルーシュの机にいくつもの書類の山を築いて帰っていく。

「・・・・・・・・・ヴィルジール」
「何でしょうか?」

ルルーシュはヴィルジールが嫌いだ。
何せ積極的に仕事をルルーシュの元に送り込んでくる。
ルルーシュがナナリーに会いに行こうと考えた日には、ほぼ確実に書類の山でルルーシュの帰路を塞ぐ。
何故彼が自分以外の全てから高く評価されるのか、ルルーシュには理解できない。

「・・・今月俺が休むことができる日は?」
「休暇ですか。今月で休日にできるのは・・・12日と27日。半日でよろしいのであれば8日の午後、16日の午後、19日の午前、21日の午前、30日の午後ですな」

手帳を取り出して答えるヴィルジール。

「・・・他の日はどうだ?14日とか・・・」
「・・・無理ですな。休暇にできるのは先ほど挙げた日時のみです」
「・・・ならいらん」

そして何より嫌なのは、ナナリーに会えそうな日を尽く仕事日にすることだ。
そのせいで、ルルーシュがナナリーに会う回数は昔に比べ激減している。

「それなら仕事を減らしてくれ。俺はここ数日、宰相府から出ていないんだぞ」
「『72時間働けますか』が宰相府のモットーだった頃の父上に比べればはるかにマシなはずですが・・・」
「だがな、たまには早く帰って家族を喜ばせるという・・・!」
「ミレイ叔母上はともかく、ご息女たちは別に喜ばないのでは?」
「ぐっ・・・」

ルルーシュの娘たちは彼を嫌っている。理由は分からないが、反抗期という奴なのだろうか?と彼は考えている。
それだけならまだ我慢できるのだが、
あろうことかルルーシュの下の娘はこのヴィルジールの婚約者候補で、しかも当人はまんざらでもなさそうなのだ。

(何故俺を嫌ってこんな性悪男を気に入るんだ!)

と、ルルーシュにとっては癇癪の種の一つである。
ヴィルジールの大仰な口調がこういう時には嫌みにしか聞こえないこともあるが。

「・・・・・・」

そういうわけで、ルルーシュのヴィルジールを見る目は自然のキツいものになってしまう。

「・・・あの、叔父上」

ヴィルジールは困惑したような表情を浮かべると、

「そんなに熱い目で見られても、私に男色の気は無いのですがねぇ・・・」
「違う!」
(これだから俺はこいつが嫌いなんだ!)

940 :トーゴー:2014/01/22(水) 09:20:50
「・・・殿下、サインをお願いします」

ヴィルジールが帰って数十分後、くたびれたワイシャツを着た男が入ってくる。

「・・・シルヴァーベルヒ。今日は午後から皇帝陛下がお見えになる予定なんだからきちんと服を着ろ」
「まだ時間があるでしょう?それに何度も言いますが、堅苦しい服装をしていると仕事の能率が落ちるのですよ」
「だからと言ってその格好で出歩くな!何度衛兵に拘束されたと思っているんだ!」
「その度にすぐに開放されていますし」
「その度に俺が呼び出されているだろうが!何故他の奴を呼ばないんだ!」
「今誰が宰相府にいるのか分からないでしょう?ルルーシュ殿下はほぼ確実に執務室にいますから」

ラザール・シルヴァーベルヒ。
シルヴァーベルヒ伯爵家当主で宰相府の誇る異才だ。
その才能は誰もが認めている。一国の宰相も務まるだろう。極めて優秀だ。優秀なのだが・・・見た目が問題だ。
ボサボサに伸びた髪に無精髭が伸びたような髭面の上、
『堅苦しい格好をしていると仕事の効率が40%落ちる』と言って常にラフな格好をしている。
そのせいで不審者に間違われることが少なくなく、初出仕の日に門番に逮捕されたという笑えないエピソードの持ち主だ。

「それより殿下、早く仕事をしないと昼食を取る時間が無くなりますよ」
「うっ・・・」

確かにシルヴァーベルヒの持ってきた書類の量を考えると、早く仕事を再開しないと昼休みを削ることになるだろう。

「・・・分かった。だが陛下がいらっしゃるまでには着替えろよ!」
「分かっていますよ。では」

手をヒラヒラ振りながらシルヴァーベルヒは帰っていく。

(本当に分かっているんだろうな・・・)

941 :トーゴー:2014/01/22(水) 09:22:12
「・・・・・・・・・」

昼休み。素早く昼食を胃に押し込んだルルーシュは、自分が疲れる理由を考えていた。

(ここに足りないもの・・・それは癒しだ!ナナリーは呼べないとしても、あの連中よりはマトモな人間を・・・)

職場の環境改善を決意したルルーシュはパエッタ子爵のもとに向かう。


ジュンイチロウ・パエッタ。
名前の通りブリタニア人と日本人のハーフ。パエッタ子爵家の当主で、宰相府の人事担当者だ。
母方の実家が日本で名の知れた芸能プロダクションを経営しており、
人を見る目には自信があるらしく『ティンときた』人材を宰相府に引っ張ってくる。
彼の言う『良い面構え』というのはルルーシュにはよくわからないが、彼がスカウトしてきた人材はいずれも優秀である。
ルルーシュとしては才能だけではなく人格も考慮して欲しいのだが。

「ルルーシュ殿下か、どうしたんだね?」

パエッタ子爵はルルーシュが新人の頃から何かと世話になっている人物なので、
人前でなければ敬語を使わないことをルルーシュは許可している。

「なに、ちょっとお願いしたいことがあるだけだ」
「ふぅむ、聞けるかどうかは内容によるが・・・」
「・・・まともな人材が欲しいんだ」
「・・・無理だ」
「何故!?」
「だって、以前君は私が用意した秘書を全員落としただろう?それで確信した。私に君がまともと考える人材は用意できない」

そう言って首を左右に振るパエッタ。

「・・・そうか・・・・・・」


「・・・・・・」

憮然とした表情で執務室への帰路に就くルルーシュ。
だが彼は諦めない。
戦えルルーシュ!妹との穏やかな一日を勝ち取るまで!

942 :トーゴー:2014/01/22(水) 09:23:34
「はい、これ。シュナイゼル義兄上へのプレゼントに、って探してた・・・」
「これはこれは・・・ありがとうございます、叔父上」

その頃、自分の執務室に戻っていたヴィルジールは叔父であるスザクの訪問を受けていた。

「ヴィルジール君にはいつもルルーシュの動きを封じてもらっているからね」
「その件に関しては、礼は不要です。副宰相の動向によっては宰相府の権威に傷が付きますからな」

      • そう、ヴィルジールがルルーシュに過酷な労働を強いるのはスザクの依頼を受けてのことだったのだ。
スザクが何故そんなことを依頼したのかと言えば・・・

「それにしても、30代も半ばになっていまだに妹離れが出来ないとは・・・叔父上も困ったお方だ」
「まったくだよ。ナナリーはとっくの昔に兄離れしたのに・・・」

      • いい歳して妹にべったりな彼をナナリーから引き離す為だ。
当のナナリーもいい加減煩わしく感じている。
ルルーシュが娘たちに嫌われるのも、そのシスコンっぷりを引かれているからなのだが・・・本人は気づいていない。

「それで、ルルーシュのナナリー依存症は?」
「・・・申し訳ありません。改善の兆しは・・・」

申し訳なさそうに首を振るヴィルジール。

「謝るのは僕のほうだよ。君にはルルーシュに嫌われる役をやってもらっているのに・・・」
「・・・なに、誰かに嫌われるのも上に立つ者の務めです。・・・本当に、長い戦いですな」


果たしてルルーシュのシスコンが治療される日は来るのだろうか?
それは誰にも分からないが、確実なことが一つだけある。
――ルルーシュがナナリーへの執着を捨て去らない限り、彼が書類の海から抜け出す日は永遠に来ないだろう。

943 :トーゴー:2014/01/22(水) 09:24:16
以上です。
ヴィルジールはルルーシュにとっては嶋田さんから見た辻ポジですが、それ以外の人からは良き同僚であり上司です。
ルルーシュの子供たちはオリキャラ大量生産を予定している『アッシュフォード学院編』にて登場させる予定です。

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最終更新:2014年02月22日 18:13