144 :トーゴー:2014/01/25(土) 23:40:17
ユフィルートしげちーSS 第四話:穏やかな午後



多忙なブリタニア皇族といえど、毎日仕事というわけではない。
普通の人間は適度に休養を取らないとかえって仕事の能率が下がってしまうし、
仕事量自体が各皇族の間でかなりの差がある。
共に有力皇族の出身とはいえ、学生であり次期当主というわけでもないカズシゲと、
同じく学生で彼に嫁ぐことが決まっているソフィーに多くの仕事が課せられるかと言えばそうではなく。

「何時聞いても良い音色だよね。ソフィーのピアノは」
「・・・ありがとうございます」

このように、二人で休日を過ごす日も珍しいものではない。

「次は、何の曲がよろしいでしょうか?」
「そうだね・・・ラヴェルの『水の戯れ』がいいな」
「分かりました。少しお待ちくださいね」

いそいそと目当ての楽譜を探し出し、カズシゲの希望した楽曲を奏でるソフィー。
カズシゲはアフタヌーンティーを楽しみながら、彼女の演奏に聴きいる。
帝都ペンドラゴン、ソフィーの私室。ソフィーの元を訪れたカズシゲは、ゆったりと午後のひと時を過ごしていた。

(やっぱり綺麗な音楽を聴きながらだと、紅茶もより美味しく感じるよね)

ご機嫌なカズシゲ。
ちなみにカズシゲが飲んでいる紅茶はソフィーが淹れたもので、お茶請けのスコーンも彼女のお手製。
シュナイゼルの娘だけあってソフィーは多芸だ。楽器演奏、料理、作詩等々、様々な分野で才能を発揮する。
もっとも、その代わりなのか彼女の運動神経はかなり残念なことになっているのだが・・・
カズシゲは伴侶に時速80kmの拳やアームレスリングで600万円稼ぐ怪力などは求めていないので気にしていない。

まあ、カズシゲとしては少々尽くされ過ぎのような気がしないでもないが、
カズシゲの為に色々やっている時のソフィーはとても嬉しそうなので止める気にはならない。
むしろ、こういうのを一緒にやれば喜ぶのでは?とカズシゲが手伝ったりすることも度々あり、
今ではカズシゲのお菓子作りの腕もちょっとしたものになっていたりする。
その後はソフィーに代わってカズシゲがピアノを弾いてみたり(ソフィーに比べればはるかに難易度の低い曲だが)して、
二人はゆったりと紅茶を楽しんだ。

145 :トーゴー:2014/01/25(土) 23:41:20
「大きい・・・ですね」
「そう?」
「あ、動かないでください。やりにくい・・・ですから」
「そうだね。ごめん」

ソフィーに言われてカズシゲは身体を固める。

「・・・っと。取れました。・・・耳掃除はきちんとしないと駄目ですよ?」
「そうだね。気をつけるよ」

大きな耳垢を見せられ、苦笑いするカズシゲ。
ティータイムの後、カズシゲはソフィーの膝に頭をのせて耳掃除をしてもらっていた。

「はい。こんなところですね。もう起きあがっていいですよ」
「ありがとうね。・・・じゃあ、今度はソフィーが横になって」
「はい・・・」

恥ずかしそうにしながら、ソファーに座り直したカズシゲの膝に頭を埋めるソフィー。
元々はソフィーがカズシゲの耳掃除をするというだけだったのだが、
ある日カズシゲが『お返しにソフィーの耳掃除をしたい』と言い出し、
ソフィーが押し切られた結果互いに相手の耳掃除をするようになった。

「・・・じゃあ、左耳からいくね」

――もっとも、ソフィーは耳掃除をマメにしているのか耳の中は綺麗なことが多い。
どちらかというと『膝枕をしてもらう理由づけ』としての意味が強いのではないかとカズシゲは思っている。
カズシゲとしては、膝枕くらいソフィーがして欲しいと言えば喜んでするつもりなのだが・・・
ソフィーの性格上それは難しいことだろう。
まあ、そういう恥ずかしがって素直に甘えることができないところもまたカズシゲは愛おしいと思っているのだが。

「・・・・・・」

黙って掃除されているソフィーは何となく嬉しそうな雰囲気を漂わせており、ついついカズシゲの頬も緩む。
とはいえ、このように無防備な姿を見せられると悪戯をしたくなるもので、

「・・・ふぅーっ」
「ひゃっ!?・・・もう!ふざけないでください!」
「はは、ごめんね」

このようにカズシゲが耳に息を吹きかけたりするのはよくあることである。

146 :トーゴー:2014/01/25(土) 23:42:41
耳掃除を終えたあと、二人はソファーに並んで座って談笑していたのだが・・・
      • こつん

「え?」

右腕に何かが当たった感触。カズシゲが右を見ると、ソフィーがカズシゲに寄りかかるようにして寝息をたてていた。

(疲れてるのかな?)

寝ているのならせめて掛けるものを、と思ったカズシゲだったが、ソフィーを起こしてしまいそうなので諦めることにした。

「まあ、暖房はきいてるし大丈夫だよね」

仮にも皇女殿下の私室なので、室温も湿度も完璧に整えられている。

「・・・ん?」

右腕が引っ張られるような感覚。ふと視線を落とすと、カズシゲの右の袖をソフィーが握りしめている。

「そんなことしなくても逃げないよ」

カズシゲは苦笑いしながら、左手で愛おしげにソフィーの頭をそっと撫でる。
カズシゲの周囲で髪の触り心地が良いと言われる人物といえば、いとこのシュゼット・ヴィ・ブリタニアがいるが、
ソフィーの髪もそう劣るものではないとカズシゲは思う。
まあ、カズシゲはシュゼットの髪を触ったことがないので比較はできないが。

147 :トーゴー:2014/01/25(土) 23:44:19
      • 温かい。
なんだか安心できて、全てを委ねたくなるような――
寝起きの頭では、上手く言葉をまとめられない。
表現なんてどうでもいいや、と思ったソフィーはその温かさに顔を寄せ、頬ずりする。
そのまま再び眠りに落ちようとして――ふと、この温かさは何なのだろう、と思った。

(確か・・・今日は休日で、カズシゲさんをお迎えして・・・)

そこまで考えたところで、ソフィーの意識は一気に覚醒した。

(まさか・・・・・・)

ソフィーが恐る恐る目を開けると、彼女を見つめるカズシゲと目が合った。

「――――っつ!?」

思いっきり身体を引くソフィー。

「目が覚めた?」
「え、あ、その、わたし・・・!」
「ああ、途中で眠っちゃって、その後腕に抱きついてきたんだよ。憶えてない?」
「そ、その、申し訳ありませんでした!」

真っ赤になりながら頭を下げるソフィー。

「謝る必要なんてないよ?ソフィーに抱きつかれるのは嬉しいし、動けなかったけどずっとソフィーの寝顔を見ていられたしね」
「し、しかし・・」

ソフィーとしてはそれで納得はできないらしい。

「じゃあ・・・お詫びにキスしてもらおうかな」
「あ・・・はい・・・」

カズシゲの提案に、恥ずかしそうに頬を赤らめながらキスを待つように目を閉じるソフィー。

「違う違う。ソフィーが僕にキスするんだよ」
「え・・・ええっ!?」

顔を真っ赤にして驚くソフィー。

「・・・嫌だって言うなら無理強いはしないよ?」
「嫌だなんてことは・・・ありません、けど・・・」

消え入りそうな声で呟いたソフィーは、カズシゲにそろそろと顔を近づけると、しばし躊躇した末に遠慮がちに唇を重ねる。

「んっ・・・」

自分からキスするのは慣れていないためか、ソフィーのキスは上手とは言い難い。
しかし、カズシゲにはその拙い様もまた愛おしく感じられる。

「・・・はぁ。・・・きゃあっ!?」

カズシゲは唇を離したソフィーを不意打ち気味に抱き寄せると、そのまま口づけする。

「・・・たまにはソフィーの方からしてもらうのもいいけど、やっぱり僕は自分からする方が好きかな」
「もう・・・」

照れたように言うカズシゲに、ソフィーも困ったような笑みを浮かべながら、幸せそうに目を細めた。

148 :トーゴー:2014/01/25(土) 23:45:05
以上です。
最後の方はオチが思いつかなかったのでかなり適当になっていますが・・・
次回はまた閑話で嶋田さんの話を投稿しようと思っていますが、正直詰まっているので後回しにするかもしれません。

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最終更新:2014年02月22日 19:02