667 :トーゴー:2014/02/06(木) 23:08:04
ユフィルートしげちーSS 閑話:平穏な世界



「・・・・・・」

ゆっくりと意識を覚醒させ、嶋田繁太郎は目を覚ました。
目を動かして枕元の時計を見ると午前五時。まだ夜明け前だ。
今日は多少寝坊してもいい日だったのだが、二度寝するほどに眠気がなく、どうしようかと首をかしげる。

「・・・シゲタロウ?起きているのですか?」

と、隣から声が聞こえる。左に顔を向けると、見慣れた顔と目が合う。

「ユフィ?ずいぶん早起きだね」

「なんだか目が覚めてしまって・・・そういうシゲタロウもどうしたのですか?今日はゆっくりでもいいのに。もしかして・・・昨夜の延長戦がしたいのですか?」

頬を赤らめて言うユフィ。

「そんなつもりはなかったんだが・・・ユフィがしたいのであれば、お相手しようかな」
「もう・・・」

恥ずかしそうに顔を赤らめながらユフィは嶋田に抱きつき、そして・・・

668 :トーゴー:2014/02/06(木) 23:11:21
「ふぅ・・・今日の分はこれで終わりか」

今日こなすべき書類の山を片付け、一息つく嶋田。
ブリタニア皇族リ家において当主の妹の夫という立場にある彼には、相応の量の仕事が割り振られる。
もっとも、一般人の基準では凄まじい量であっても超大国の宰相を務めていた嶋田にとってはジョギング程度のものでしかないが。

「…旦那様、お客様が…」
「ああ、分かった」

しばらくぼーっとしていた嶋田は、使用人の声で我にかえると応接室に向けて歩き出した。


「お元気そうでなによりです。嶋田さん」
「そういう辻さんもお元気そうですね」

来客は夢幻会の僚友・辻政信。
夢幻会の業務からもほぼ引退した辻は、日本中に作った女学校の名誉理事長を兼任し、
大和撫子に囲まれながら世界経済を操る日々を送っているが、
ブリタニアにも学校を作っているので時折ブリタニアを訪れるのだ。

「日本はどうです?」
「平和なものですよ。周囲に脅威となる国家もなければ国政も安定していますからね」

日本に住む辻は、ブリタニアに住む嶋田に比べて東アジアの情報を集めやすい。
その為、時折情報交換しているのである。

669 :トーゴー:2014/02/06(木) 23:13:25

大清連邦は第二次シベリア戦争後に中華連邦の一管区となったが、
戦後処理で宦官を中心とした汚濁官僚たちは全て排除されており、
国家元首に返り咲いた高亥の下真っ当な国家運営がなされている。
問題は高麗共和国だったが…案外上手くいっていた。

高麗戦争後、高麗共和国の扱いについては議論が紛糾した。
ただし各国がパイを奪い合ったのではない。――静かなるパイの押し付け合いだった。
各国とも高麗半島そのものはともかく、高麗人の面倒を見るなどお断りだったのだ。
ブリタニアは周辺に自国領土がないことを理由に領有や保護国化を辞退。
日本は懲罰が目的であり領土目的と思われるような行為は避けたいと言って領有や保護国化を辞退。
AEUは自国領土での改革に忙しく、これ以上土地を抱え込んでも対処できないとし領有や保護国化を辞退。
中華連邦は先の戦争で高麗に裏切られた清の国民感情を挙げて領有や管区化を辞退。
結局、高麗人の面倒は高麗人に見させようということで、各国が支援する新たな政権を作ることに決定。
数少ないマトモな高麗人を掻き集めた軍事独裁政権『高麗救国軍事会議』が誕生した。
その組織名に夢幻会では「どう見ても失敗フラグです。本当に(ry」「楊文里とかいう軍人がどこかにいないだろうな」
などと騒ぎになったが(史実ポーランドでも同名の機関が存在したのだが、某小説の方を連想した人間が多かった)、
独裁国家運営には手慣れている欧州枢軸系転生者の尽力により順調に国力を伸ばしていた。
今でこそ、高麗の経済政策などを動かしているのは主にAEUから派遣された顧問たちだが、
将来的にはれっきとした国家社会主義国家として一人立ちする予定である。

670 :トーゴー:2014/02/06(木) 23:14:31

「南ブリタニアやアフリカでの合衆国の動きはどうですか?」
「変化はないですね。連中も今は手札がないんでしょう」

対する嶋田が入手し易いのは大西洋方面――南北ブリタニア大陸とヨーロッパ、アフリカの情報。
日ブにとって最大の仮想敵国オセアニアが蠢動する地域である。

「民主共和制原理主義組織は壊滅。旧EUの残党も既に死に体。損切りとばかりに支援を打ち切った以上、彼らが独力で勢力を盛り返しでもしない限り介入はしないでしょう」

南ブリタニアの民主共和制原理主義組織は、十年にわたってブリタニアの捜査から逃れ続けた
最高指導者デイビスが捕縛されると混乱、内ゲバに励んだ末に自滅した。
そしてユーロブリタニアとの統合を拒み、ヒトラー率いるEU主流派と袂を分かった旧EUの共和主義勢力。
密かにオセアニアから支援を受けていた彼らはアフリカ大陸においてAEUに対抗していたが、
元々数が少ない上に人種差別感情の強い彼らは現地住民を虐げ、反乱を起こされて支配領域を失うなどグダグダであり、
AEUに一方的に押された末に今ではゲリラやテロ組織などと呼ぶのもおこがましいほど凋落している。

「…つまりは現状では考慮せずとも問題無い、と?」
「完全に無視するわけにはいきませんが、当面は南ブリタニア諸国とAEUに任せてしまって問題ないでしょう」

辻の問いかけに嶋田はゆっくりと頷く。

「…となると、彼らが動くのは正面の東南アジア方面のみになりますね」
「それも今まで通り小競り合いを繰り返すのが精々でしょう。あそこを征服したところで日本と中華にぶつかるだけですし」

列強と言っていい国力を持つオセアニアではあるが、外交的に孤立している現状では列強相手の戦争はできない。
超大国大日本帝国は国力でオセアニアをはるかに上回る上に、確実に最強国家神聖ブリタニア帝国が参戦してくる。
AEUも日本側につく可能性が極めて高く、この状況でオセアニアに味方する国などいまい。
北からは大日本帝国、東からは神聖ブリタニア帝国、西からはAEUが攻め寄せ袋叩きにされるのがオチだろう。

一方の中華連邦であるが、こちらは懸案事項であった大清連邦を取り込み後顧の憂いをなくしている。
国力でいえば同じ程度。だが超大国三国に敵視されるオセアニアと違い中華連邦は対合衆国戦に全力投球できる。
日ブやAEUが参戦する可能性は高くないが、それでも関係改善が進む中華連邦への好意的中立となるだろう。
彼らが中華連邦側で途中参戦する可能性がゼロではない以上、オセアニアとしては備えの兵力が必要になる。
海軍力に乏しい中華連邦は守勢に徹するだろうが、長期戦になればオセアニアの人的資源が先に枯渇しかねない。
列強と距離をおいている中東あたりを焚きつけて中華連邦に宣戦させるかもしれないが、
中東方面を守るのは中華連邦最強のペルシア管区軍。返り討ちにされるに決まっている。

「この分だと、我々が生きている間には大きな戦争は起きなさそうですね」
「平和が一番ですよ。平和だからこそ、こうして私たちも平穏な生活を送ることができる」
「そうですね。そういえば、近衛さんが…」

特に話し合う必要があるような問題もなかった二人は、平和な会話を楽しんだ。

671 :トーゴー:2014/02/06(木) 23:16:03
「…そうジャネットは嘘をついたんです」
「ふふっ、彼女もひどいことをするものだ」

太陽も傾きだした頃、嶋田はユフィと会話をしながらティータイムを楽しんでいた。

「ランベールはそれを真に受けてしまって、しばらく帰ってこなかったそうですよ」
「まあ、彼らしいといえばらしいのかもしれないね」

話題は、ヴィ家に交渉に行っていたユフィがそこで聞いてきた話。
何かと癖の強い人物の多いヴィ家での出来事は、当事者であれば胃を痛めるだろうが、
第三者として話を聞く分には面白いものが多い。

「それで…あら?」
「メールかな?」

と、二人の携帯電話が着信音を鳴らす。

「クローディア義姉さんからみたいだが…これは…」
「あらあら…ふふっ」

義姉クローディアから送られてきたメールに添付されていたのは、
二人の息子であるカズシゲが許嫁のソフィーから『はい、あ~ん』をされている写真だった。

「以前送った写真のお返しでしょうか?」
「そうかもしれないね。それにしても、仲の良いことだ」

子供の幸せな様を見られるのは、親として嬉しいことだ。
そんなことを考えながら嶋田が顔を上げると、ユフィはお茶受けのビスケットをじっと見ていた。

「…久しぶりにやってみるかい?」
「あ…はい」

ユフィは嬉しそうに答えると、ビスケットを手に取って差し出す。
嶋田は大きく口を開け、それを受け入れる。

「美味しいですか?」
「うん。美味しいよ」

頷きながら、嶋田は幸福感に浸る。
穏やかな日々。完全隠居はならなかったが、仕事に追われることもなくゆったりとした時間が流れている。
世界は平和で、優しかった。

672 :トーゴー:2014/02/06(木) 23:17:08
以上です。
元々は嶋田さんの平和な一日を描く予定でしたが、世界線の解説を求められたりしたので説明回にしてみました。
ちょうど第二話と同じ日のエピソードになりますね。
本来は嶋田さんとユフィのイチャイチャを書くつもりだったんですが、
休日様のSSと照らし合わせながら世界情勢を書くのだけでほぼ力尽きました。
嶋田さんのプライベート用の口調やユフィの口調にもあまり自信がないので書いていると疲れますし…
そして次はオリキャラ大量発生の回…親に似てない性格だったりするがここはキャラクターの方を優先だ!

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最終更新:2014年02月22日 19:16