880 :トーゴー:2014/02/11(火) 00:24:13
ユフィルートしげちーSS 第五話:幼馴染たち



「時間ね。じゃあ、会議を始めるわよ」
「ちょっと待って。一人足りないようだけど」

会議を始めようとする黒髪の少女の言葉に、カズシゲが口を挟む。

「…エミリからは遅れてくる、と連絡が」

黒髪の少女の隣に座る少女が言う。
シュゼット・ヴィ・ブリタニア。帝国副宰相ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの次女である。

「そう…ならいいけど」

それを聞いてカズシゲは引きさがる。

「来月の上旬に何らかのイベントを行う予定よ。今日はその内容について話し合ってもらうわ」

そして先ほどから進行を行っているこの黒髪の少女はジャネット・ヴィ・ブリタニア。
帝国副宰相ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの長女でありシュゼットの姉だ。


カズシゲたちがいるのはアッシュフォード学院の『学園生活装飾部』の部室である。
元々ジャネットは母ミレイのように生徒会長となって様々なイベントを企画したりしたいと考えていたのだが、
ヴィ家次期当主という立場上、忙しい生徒会役員は無理と説得され断念。
その代わりに『学園生活装飾部』なるクラブを設立し、生徒会から委託されるような形でイベントの立案を行っているのだ。
部員はジャネットが声をかけた、彼女と幼少期から付き合いのある面子で占められている。
一応他の部員も募集していたのだが、
過半は有力皇族出身者で残りが上流貴族の子弟という錚々たる顔ぶれのせいか、誰も入部を希望しなかったのだ。

881 :トーゴー:2014/02/11(火) 00:27:34

「誰か意見はある?」
「俺に良い考えがある!」

そう言って立ち上がったのは厳つい青年。
ランベール・ヴィ・ブリタニア。ナナリー・ヴィ・ブリタニアと枢木スザクの三男にして学園生活装飾部のボケ担当である。

「何かしら?」
「ハンドグリッパー選手権!」
「却下」
「おい!そこはせめてどんな内容なのかを聞くのが礼儀ってもんじゃないか!?」

即座にジャネットに却下され、抗議の声を上げるランベール。

「いや、だって、大体内容は予想できるから」
「じゃあ言ってみろよ!」
「一定時間内に何回ハンドグリップの内側を付けることができるか競う…とか、そんなんだろう?」

中性的な容姿の少女が面倒くさそうに言う。
ヴァレリー・ナグモ・エルンスト。ドロテア・エルンストと南雲忠一の長女である。

「競技と筋トレを組み合わせたハイブリットなシロモノだろう!?」

筋トレを競技と言い張っているだけである。

「…私には良さがよく分からないけれど、実際に見てみれば考えが変わるかもしれない。…実演してみせてくれない?」

と、シュゼットが口を挟む。

「実演か…いいだろう。とくと見やがれ、俺のハンドグリッパーを!」

ランベールは鞄の中からハンドグリップを取り出すと部屋の隅に立ち、構える。

「…スタートォ!いち!に!さん!しっ!」

自分で回数をカウントしながら、ハンドグリッパー(?)を始めるランベール。
――恐ろしく地味な競技だ。

「…他に意見は?」

何事も無かったように会議を進行させるシュゼット。だが、いつものことなので誰も気にしない。
ランベールにカズシゲは憐憫の、ソフィーは同情のこもった視線を送るが、それも一瞬のことですぐに会議に復帰する。

「学園中にウォー○ー人形を隠して、リアル○ォーリーをさがせ!というのはどうでしょう?」

そう提案するのは、長身の美丈夫。
アンドリュー・ゴットバルト。ジェレミア・ゴットバルトの次男でランベールの付き人(監視役とも言う)である。
ちなみに彼が主君であるはずのランベールの扱いに非難の声を上げないのは、
シュゼットが主筋ということもあるが、彼もまたこの方が手間がかからなくていい、と思っているからである。

「たしか、それは似たようなものを去年もやったわよね?被ったものをやるのは面白くないし…」
「…大声コンテストならぬ、小声コンテストなどはいかがでしょうか?」
「十五!十六!十七!十八!」
「う~ん、着眼点はいいと思うけど、盛り上がるかというと…」
「全生徒に装備を支給して学園全体を舞台にサバゲー大会とかどうかしら?きっと白熱するわよ?」
「…それ、校舎がボロボロになりそうなんですが」
「四十二!四十三!四十四!四十五!」
「トーナメント方式でのゲーム大会とかどうかな」
「…何のゲームをやるかで議論が白熱し過ぎて進まなくなる気がするのだけど」
「ラストスパート!根性ぉぉぉぉぉっ!」
「いっそ誰かに終日耐久持久走でもやらせて観戦させるか?どこぞの根性馬鹿は喜んでやりそうだが…」
「それはさすがに…走る本人はともかく見ている方が…」

なかなか良い案が出ず、考え込むカズシゲたち。

「うおぉぉぉっ!新記録ぅっ!!」

そんな中、雄たけびを上げる根性馬鹿が一人。

「ランベール、五月蠅いわ」
「おっと、そいつは悪かったな。で、どうだ?俺のハンドグリッパーは!お前らもやりたくなっただろう?」

満面の笑みで言うランベール。

「全然」

それを容赦なく斬って捨てるジャネット。

「な!?ア、アンドリュー、お前はどうだ?」
「殿下…私にもその素晴らしさは理解できかねます」

アンドリューはしかめっ面で目を閉じ、首を横に振る。

「カ…カズシゲ…」
「…ごめん、ランベール」

ランベールに縋るような目で見つめられたカズシゲは、痛ましそうな表情で視線を逸らす。

「ちっくしょおおぉぉぉぉぉぉ!!」

泣きながら走り去るランベール。

「はぁぁぁぁぁ…失礼します」

深いため息をつくと、アンドリューはランベールを追って部屋を出ていく。

「…あいつらを待っている間にエミリが来るかもしれないし、ひとまず休憩にしないか?」

残された面々はヴァレリーの提案に頷いた。

882 :トーゴー:2014/02/11(火) 00:31:24

ガチャ
紅茶を飲みながら雑談することしばらく。ドアが開く音がした。

「ただいま戻りました」

アンドリューだった。その後ろに二人の人影が続く。ランベールと、

「あれ、エミリ?」
「遅れてごめんなさい。ちょっとクラスの用事があったから」

呑気そうな金髪の少女。
山本エミリ。山本五十六とリーライナ・ヴェルガモンの次女にしてランベールの許嫁である。

「何で一緒に?」
「あ、うん。途中でアンドリュー君がランベール君を追いかけてるところに遭って、」
「殿下を宥めるのに協力していただいたのです」

アンドリューが疲れたように言う。

「そんなところだよ~。あ、ほら、ランベール君」

エミリに促され、ランベールがアンドリューとエミリの前に出る。

「俺が間違ってた。お前らに酷評されたからってすぐ諦めるなんてのは男らしくなかった」

謝罪の言葉を述べるランベール。

「俺は今日から、多くの人にこのハンドグリッパーを広める。仲間を増やして、そいつらと話し合って、よりすげえものに昇華させてみせる!」

拳を掲げ決意表明するランベール。

「うん。…まぁ、頑張って?」
「おう!」

嬉しそうに返事をするランベール。
幸い、ランベールがそのように動くというのであれば、カズシゲたちには関係ないので文句はない。
恐らくアンドリューがカズシゲたちに極力迷惑がかからない方向へ誘導したのだろう。
カズシゲが目線と頭の動きで謝意を示すと、アンドリューは疲れたような笑みを返した。

[…大丈夫でしょうか]

小声でソフィーがカズシゲに話しかける。

[…誰にも受け入れられずに絶望したとしても、多分明日の朝には忘れてるだろうから大丈夫]

ランベールは時々このような突拍子もない提案をするが、一晩寝れば頭から消えているというケースが多い。
恐らくこのハンドグリッパーも今朝にでも思いついたのだろうが、それと同じくらい突然に忘れることだろう。

883 :トーゴー:2014/02/11(火) 00:36:11
「ところで、クラスの用事って何があったのかしら?」

ジャネットがエミリに問いかける。

「教材を運ぶのを手伝ってたの。担当の子の片方が今日休んじゃってたから」

お人よしのエミリは、困っている人を見ると助けずにはいられない性質(たち)である。

「でも途中で転んじゃって…教材は無事だったけど、何もないところで転んだから凄く恥ずかしかったよ~」

情けない表情で語るエミリの失敗談に笑みを漏らすカズシゲたち。
だがそんな中、シュゼットは真顔で何かを考え込んでいた。

「…恥ずかしい……そうだ」

シュゼットがぽん、と手を叩く。

「シュゼット?何か思いついた?」

それを見たジャネットが問いかける。

「…どこまで恥ずかしいことができるかを競う大会とか…どう?」
「…面白そうね♪」

気に入った、と言わんばかりにジャネットがニヤリと笑う。

「各クラス…いや、各クラブから代表者を出させて競わせましょう。人数は一人から四人くらいまでにして…」

やると決まれば、それについてのプランを猛烈な勢いで考え出していく。これがジャネットの才能である。

「…で?それをやるとして、学園生活装飾部からは誰を代表として出すんだ?」

次々と案を出すジャネットに、嫌そうな表情でヴァレリーが問いかける。

「決まってるじゃない。カズシゲとソフィーよ」
「ちょ、何で僕たちなんだよ!?」

いきなり自分達に矛先が向いて狼狽するカズシゲ。

「手を組むだのキスするだの、貴方達のイチャつきを衆人環視の状態で行うというだけの簡単なお仕事よ?」
「簡単とかそういう問題じゃないから!」
「は、はい。さすがにそれは…」

そんな環境でそんなことを平然とできるほどカズシゲたちの神経は太くない。

「…姉様、それには少し問題が」

と、シュゼットが横から口を挟む。
思わぬところから援軍が、と二人は安堵の息を漏らそうとしたが…

884 :トーゴー:2014/02/11(火) 00:38:12
「カップルは多数いるから、相応の行為をしなければ大勢に埋もれてしまう危険性が高い」
*1

援軍どころか追撃だった。

「そうね…ちょっとのイチャつきくらいじゃインパクトに欠けるわよね…」

少し考え込む仕草をするジャネット。

「…キス以上のこともしてもらおうかしらね」
「「……!?」」

ジャネットの言葉に、カズシゲとソフィーは顔を紅潮させる。

「……な、何をやらせるつもりだよ!」
「そ、そうです!」

真っ赤になって抗議する二人。

「あら?私は『はい、あーん』とかを考えていたんだけど…」
「…え?ま、まあ、そのくらいだったら…」
「…恥ずかしいですけど、我慢できなくは…」

が、ジャネットの返答が予想外だったのか、一気にトーンダウンする。

「ふぅん。じゃあキス以上と言われて、貴方達は具体的に何を想像していたのかしら?」
「「――っ!!」」

ぼん、とカズシゲとソフィーの頭から煙が上がったように周囲には見えた。
こういったネタでからかわれたことは何度もあったのだが、
今回はジャネットの言葉に自分が考えた『キス以上のこと』を『具体的』に想像してしまったのだ。
――節度を保った関係を続けている二人ではあるが、夫婦間などで行われる行為に無関心というわけではない。
水着姿くらいは見たことがあるから相手の体つきは把握しているし、
異性の身体の構造や子供をつくる方法というものも知識としては知っている。
それに、そういうことを想像したということは当然、相手のそういう姿も想像してしまったというわけで。

「「…………」」

相手の様子を窺おうというのか、二人はゆっくりと真っ赤なままの顔を横に向けるが、
動きが同時であったために目が合ってしまい、慌てて顔を背ける。
それを見ているジャネットはニヤニヤ笑い、
シュゼットとヴァレリー、アンドリューはジャネットに呆れたような視線を送りつつも口元を緩ませ、
エミリは微笑ましいと言わんばかりにニコニコ笑い、
ランベールはよく分からないという顔をしている。
何だかんだいって、彼らも初心なこのカップルを弄りつつも幸せになって欲しいと思っているのだ。


ちなみに、『キス以上』という言葉のインパクトに引きずられて
「そのくらいだったら」と代表になることを受け入れてしまったのに二人が気づくのはかなり後になってからである。
そしてこのイベントは実行こそされたものの彼らの予想以上の激戦となり、
最終的にドクターストップならぬティーチャーストップが入って順位は有耶無耶になったということを追記しておく。

885 :トーゴー:2014/02/11(火) 00:40:51
SSは以上です。

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最終更新:2014年02月22日 19:18

*1 そっちじゃない(です)!