- 356. yukikaze 2010/02/19(金) 18:25:36
- ユトランド沖海戦書く予定でしたが、クィーンメリー爆沈までA4を7枚超えるってどういうことですかね?
あと、ビーティー提督をどう描写するかで悩んでいる状況ですので、気長にお待ちください。
そのお詫びとしてはなんですが、こういうの作ってみました。
その日、五人の男は、実に居心地悪そうに、ソファーに座っていた。
部屋を見回してみると、彼らが背伸びしても手が届かないであろう高価な美術品が品好く並べられており、益々自分達が場違いな場所にいるという思いに囚われていた。
(「おくつろぎください」なんて言われてもくつろげるわけないよなぁ・・・第一、いくら映画好きだからと言って、山本さんや円谷さんはともかくとして、何だって助監督経験しかない俺や谷口君が呼ばれるんだよ。黒澤君に至っては入って1年目だぞ)
心中溜息をつきながら、本多猪四郎(史実では円谷と組んでゴジラや太平洋の鷲を監督した男)が、机の上に置いてある茶器(素人目に見ても高価であることが分かるので、怖くて誰も手を付けていない)に、座ってから何度目になるか分からない視線を向けたとき、部屋に一人の男が入ってきた。
その姿を見て、五人は慌ててソファーから立ち、挨拶をしようとしたが、男は「そのまま。そのまま」とにこやかな笑顔で、彼らを制すると、まず約束の刻限に遅れたことを詫び、一人一人に実に丁寧な挨拶を交わした。
その応対に、男達は更に恐縮するのだが、帝国最大の名家の当主にして夢幻会の重鎮、そして、後に「特撮映画の父」と呼ばれることになる、近衛文麿は、男達のそういった態度に気にすることはなく、唐突に話を切り出した。
「映画を作って欲しいんですよ。皆さんに」
「映画・・・ですか?」
後年、この時の状況を苦笑いして話すことになる本多であったが、この時は、近衛の言葉をオウム返しにするのがやっとであった。
「そうです。映画です」
対する近衛は、事態を未だ飲み込めていない男達の顔を見ながら、落ち着いた声でそう返答する。
「公爵閣下。申し訳ございませんが一からご説明願えないでしょうか。何分、ここにいる全員がいまいち状況を飲み込めていないものでして」
五人の中で最年長者であり、また近衛とも面識のある円谷がそう切り出してくれたことに、他の四人は心の底から感謝の思いを抱いていた。
近衛もまた、自分の発言が唐突であったことを理解したのであろう。自分の性急さを謝すると、最初から説明を始める。
「皆さんは我が国が世界からどう思われていると思いますか?」
近衛の質問に、五人は顔を見合わせる。一体それと映画作りと何が関係有るのだろうかと?
「残念ながら、未だに馬鹿にされているのが現状です。確かに軍事・経済では一等国と呼ばれるほどの実力を付けましたが、それでも尚、彼らは我が国を馬鹿にしている。文化的に遅れているとしてね」
そう言う奴に限って、我が国の伝統芸能が持つ『美』を理解できない愚か者ではあるのですがね、と、吐き捨てるように呟く近衛に、五人の男達は愕然とした思いを抱いていた。
それはそうだろう。何しろ近衛がいった海外からの評価というのは、彼らのプライドを大いに逆撫でするものであったからだ。
「つまり・・・閣下は連中に大きなシッペ返しを与えたいと? かつてハリウッドにやったように」
そう確認する円谷に、近衛はいたずらっ子のような笑みで肯定する。
「子供じみた発想かもしれませんけれども、いい加減連中の態度には頭に来ていますので、そろそろ灸を据えてやろうかなと思いまして」
その言葉を聞いた本多の耳に、ふと笑い声が聞こえてきた。ぎょっとして見ると、恩師の山本監督が、実におかしそうに笑っていた。そしてそれは山本だけでなく、本多やそのほかの男達からも発せられた。
確かに子供じみているとすれば子供じみているであろう。だが同時に、これ程痛快無比な企てもないであろう。「文化後進国」と見下していた日本が、実は自分たちを超えるものを持っていると知った時の、彼らの間抜け面は確かに見物であろう。
「お話は分かりました、公爵。で・・・我々はどんな絵を撮れば良いのですか?」
そう言う山本の声に、近衛は自分の目論見が成功する事を確信した。
- 357. yukikaze 2010/02/19(金) 18:26:52
- (続き)
山本が総監督として作った「地中海の守り人」は、題材を第一次大戦下の地中海での護衛作戦としたものであったが、発表と同時に、世界中に反響を巻き起こした。その特撮技術の凄まじさもさることながら(多くの批評家が「これは一次大戦で実際に撮影されたものじゃないのか?」と、驚き声を上げたとされる)、好評を得たのは主要登場人物の心理描写であった。
普通、この時期の戦争映画では、自国の将官は常に過ちをせず、敵は残虐で無能という勧善懲悪パターンが多いのだが、この作品では船団護衛をする日英海軍の指揮官にもきちんとミスを描き、また判断の結果に苦悩をするなど、極めて現実的な描写をし、襲撃をするドイツ軍人も、単なる好戦主義者とかそう言ったものではなく、民間船へ攻撃する事へ内心嫌悪感を持ち、にも関わらず実際には民間船を撃沈することで勲章を得た事実に自嘲しているというものであった。
実際、シナリオを担当した黒澤は、第一次大戦で船団護衛に従事した将官に取材を申し込み、当時の状況を丹念に拾い上げるという徹底振りであった。
この作品は、第6回ヴェネチア国際映画祭に出展され、ムッソリーニ賞(最高賞である)を採るなど、日本映画の実力を大いに知らしめると共に、日本文化を見下していた者達の口を閉じさせることになる。
「上手く言ったというべきですかな・・・近衛さん」
「実に見事にね」
辻の言葉に、近衛は薄く笑うと映画の批評記事に目を通した。
「主要登場人物の描写は、テンプレのものではない。だが、脇役については、きっちりとテンプレになっている。黒澤君は嫌がったけどね。だが、あくまでこれはプロパガンダの一環だよ」
そう言って、彼は識者の批評を諳んじる。
「『自己の利益に捉われる中国人船主によって窮地に立たされ、更に戦場につきものの判断ミスをしながらもなお、最後には人種の違いを超えて船団を守りぬく日英の軍人。逆に、当人は騎士道精神を重んじる高潔な人柄なのに、人種差別論者の同僚や部下によって苦悩を重ねる運命にあるドイツ軍人。立場が違えば友となれたであろう彼等が、戦場で戦わなければならないというのは大いなる悲しみである』か。実にありがたい評価だな」
「土肥原君の報告によると、映画の観客は概ねその評論家殿と同じのようですよ。まあプロパガンダは抜きにしても、これは傑作ではありますからね。何しろ戦後日本の映画界を代表する連中を総動員したんだから、そうでなければ困りますが。ああそう言えば、ドイツ宣伝省大臣がこれを購入して、頻繁に上映会を開いているようですが、彼は理解したようですね。我々の狙いに」
そう批評する辻に、近衛もまた同意する。
「さて。これで人種差別論者と中国人に対する潜在的な嫌悪感の種を世界中にばら撒くことには成功した訳だ。後はこれを芽吹かせるだけだが・・・」
「それは我々の仕事というわけですな」
そう言う二人の顔には笑みが浮かんでいた。最も第三者が見れば、それは悪魔の笑みにしか見えなかったであろうが。
ひとしきり笑いあった後、彼は壁にかけてある写真を見つめる。
そこには、山本総監督を筆頭に、この映画で尽力した円谷や本多、黒澤や谷口といった連中が、胸を張って写っていた。
「君達の努力と才能に心から敬意を表させてもらうよ。本当の目的が中国人とナチスへの嫌悪感を植えつけるプロパガンダ映画であったとしても、この作品の素晴らしさは誰も否定できないものだから」
- 361. yukikaze 2010/02/20(土) 13:24:53
- 取りあえず言い訳をいくつか。
まずこの作品作ろうと思ったのが、「映画による世論誘導SSってなかったよな」であり、
じゃあ夢幻会がそういったことをやらかすとしたらと考えたら、以下の目的かなと。
・ 文化後進国と舐めている連中を黙らせる
・ ナチと中国人への嫌悪感を知らず知らずに植えつける
・ 無制限潜水艦作戦への嫌悪感も植えつける
・ 英国の対日感情を、主に国民レベルで好意的にする
ただ、こうした目的を達成する為には、娯楽性の高いプロパガンダ映画では難しいですので
日本映画界のオールスター勢ぞろいでやるかとなり、そうした場合、最もインパクトが強いとすれば
この時期かなと。(実際、1938年に賞をとっているし)
総監督を山本にしたのは「ハワイ・マレー沖海戦」の円谷とのタッグを速めさせたかったから。
この場合、本多は円谷の補佐で、谷口が山本の補佐になるのかなと。
で・・・主要登場人物の心理描写は、芸術家肌の「世界のクロサワ」に任せると。
もっとも、映画撮るのには時間がかかりますので、黒澤には史実よりも2年ほど早く東映に入社してもらいますが。
艦船に関しては桃型が史実でも健在ですので(海保に移譲されているでしょうが)、それを利用しています。
ちなみに海保にとっても海上護衛戦をクローズアップしてもらえれば、組織の格好の宣伝になりますので、
全面的協力をしています。(海軍も対抗して協力したお陰で、予算もかなりつきます)
主役は当時の大スター使うのは確定ですが、端役も後の大スターを使っているという設定です。
まあ冗談抜きに、日本映画史語る上で欠かす事のできない代物になるんじゃないですかねぇ。
最終更新:2012年01月01日 01:24