396 :Monolith兵:2014/03/09(日) 06:52:14
衝号抜きの太平洋戦争 勝手に支援SS「ワシントン急襲作戦」B面

 イリヤ・ジェルジンスキーは酷い尻の痛みで目を覚ました。目を明けると星の綺麗な夜空が見えた。首を左右に振りあたりを見渡し、ここが川岸である事を理解したイリヤは体をゆっくりと起こした。

「俺は一体・・・。」

 そこでイリヤは何故自分がここにいるのか思い出した。船坂に自分のパラシュートを渡した後、予備のパラシュートを開こうとしたが上手く開かずに墜落したのだ。イリヤはその巨体と体重の為に通常のパラシュートでは支えきれないという事が解り、一時は作戦のメンバーから外されてしまっていた。しかし、仲間たちが必死にイリヤの重要性を説いた結果、パラシュートを二つ装備するという条件で作戦に参加することを許されたのだ。

 それを思い出しながら、イリヤはポケットからコサック帽を取り出した。これは代々ジェルジンスキー家に伝わるもので、これを持っている限りジェルジンスキー家の人間は死なないというジンクスがあるのだ。これを自分に渡した父は赤軍と戦いシベリアの大地に散ってしまった。ジェルジンスキー家の人間として次の世代に渡すまで死ねないイリヤは、そのコサック帽に軽くキスをして自分の幸運を祝った。

「ライトニング。」

 突然声を掛けられとっさに身構えるイリヤだったが、それが味方を識別する合言葉である事を思い出すと、すぐに返事をした。

「なのです。」

 何故こういう合言葉になったのかは甚だ疑問なイリヤだったが、合言葉を返すと何人かの人影が現れた。服とヘルメット兵装を見る限りイギリス兵のようだ。

「お前は何処の隊だ?」

 そう問い質したのは、弓矢を背負いと手に大剣を持ったイギリス人士官だった。何故弓矢と剣を持っているのだと疑問に思ったが素直に質問に答えた。

「大日本帝国陸軍第○○大隊第3小隊長のイリヤ・ジェルジンスキー中尉であります。」

 相手が自分よりも階級が高い事を見て取ったイリヤは、使い慣れない英語で出来るだけ丁寧に答えた。それに大きく頷いた士官は、自分たちに着いて来いと言い、さっさと歩き去っていった。イリヤはそれに従い追いかけていった。愛用のM2重機関銃は幸いにも近くの河原に落ちており、銃弾も多少は落としたものの手元にあった。
 イギリス人士官の率いる部隊には幾人かの日本人もおり、イリヤの顔を知っている者もいた。先のハワイでの活躍でイリヤは日本では顔を知らない者は居ないと言うほどの英雄であり有名人であったのだ。

 まだ夜明けまで時間のあるワシントンD.C.は各地で銃声が響いていた。アメリカ軍は分散配置されていたが、日英軍もまた分散してしまい、まともに部隊として行動できているのは一握りではないかと思われた。実際、小隊規模以上で行動できたのはこのイギリス人士官率いる部隊の他に3隊だけであり、実際にホワイトハウスまで辿り着けたのは2隊だけであった。

 暫く歩いていくと、突然連続したしかも多くの銃声が聞こえてきた。

「あれはホワイトとハウスの方角だぞ!」

 部隊の一人が囁き、自然と銃を持つ手に力がこもった。周辺の警戒を更に厳しくし、目を光らせる。そして数分後、イリヤたちはとうとうホワイトハウスに辿り着いた。

「・・・敵は少ないな。」

 どうやらホワイトハウスをはさんで向こう側で味方と盛大にやり合っている為に、イリヤたちが対面した敵は少なかった。イリヤはM2を構えいつでも銃撃できるよう準備したが、イギリス人士官、ジャック・チャーチル大尉はそれを押しとどめ、背中に背負っていた弓矢を手に持ち何と矢を番えた。
 あまりな行動に目を見張るイリヤだったが、数人の日本人を除いてみんななれた様子でそれを見るだけだった。
 ジャック大尉は十分弓を引いた後矢を放った。それは綺麗にホワイトハウスを警護していたアメリカ兵の喉元に突き刺さり、アメリカ兵は小さな呻き声を上げて崩れ去った。

「おいおい、マジかよ・・・。」

 日本兵の一人がその光景を呆然と見つめていた。銃火器全盛の現代において、弓矢で敵兵を打ち倒すなど、物語でもありえない話である、というのが一般的な考えだ。だというのに、目の前のイギリス人士官はそんな常識を覆してしまったのだ。
 そんなことを思われているとはつい知らず、ジャック大尉は次々と弓矢を放ち何と3人ものアメリカ兵を倒してしまった。しかし、流石に呻き声と倒れる時の音で異常を感じ取ったアメリカ兵が集まり始め、弓矢による無音の攻撃は幕を閉じた。

397 :Monolith兵:2014/03/09(日) 06:53:13
「ファイヤー!」

 ジャック大尉の号令と共に、部隊の全員がライフルや短機関銃で射撃を始めた。しあkし、短機関銃での射撃はすぐさま止まってしまった。イギリス軍が採用しているステンガンは、戦時急造銃らしくそして何よりもイギリスの兵器らしく欠陥が多く、弾倉一個を使うのさえ一苦労な代物だったのである。
 だが、それを補って余りある射撃がアメリカ兵たちに浴びせられた。日本兵たちの持つ二式突撃銃と、イリヤの持つM2重機関銃である。特にM2は、物陰や屋内に隠れている敵兵を障害物ごと撃ち抜き、アメリカ兵たちに甚大な被害を齎した。それでも、アメリカ兵たちは諦めずに必死に反撃をしてきた。
 イリヤはM2での射撃を続けたまま、ザックに片手を突っ込み3個の手榴弾を取り出した。手榴弾の安全ピンを口で引き抜き、一気にホワイトハウスの窓に向って投げつけた。一瞬の後、ホワイトハウス内で爆音と悲鳴が聞こえ、反撃の手が緩まった。

「総員突撃!」

 ジャック大尉がクレイモア片手に突撃命令を繰り出した。イリヤもM2を撃ちつつ突撃を開始した。そして、突撃と同時に何とも間延びした音が流れ出した。ふと振り返ると、なんとジャック大尉がバグパイプを吹いているではないか!イリヤは思わずため息をつき、手近にいた敵兵をM2で思いっきり殴りつけた。敵兵は吹き飛びホワイトハウスの外壁に衝突し、ピクリとも動かなくなった。

「ホワイトハウスに突入するぞ!」

 日本語で日本兵たちに命令すると、4人の日本兵がイリヤに続いた。途中、何人ものアメリカ兵が行く手を塞いだが、M2の射撃で頭を吹き飛ばされ、手足を吹き飛ばされ、日本兵たちに蜂の巣にされと、次々と倒していった。
 そして、10人ほどのアメリカ兵が守る扉の前まで辿り着いた。恐らくこの先にアメリカ大統領、ヒューイ・ロングがいるのだろう。

「中尉殿、ここではM2は使うべきではありません。」

 日本兵の一人が進言した。たしかに、ここでM2を撃ってしまえば部屋の中にいるアメリカ大統領まで殺してしまう可能性がある。今回の作戦は、アメリカ大統領を生け捕りにせよと命令されている為に、殺してしまうのは不味かった。
 M2の銃身を下げたイリヤは代わりに手榴弾を取り出した。このコサックは、今回の作戦で持てるだけの銃弾と手榴弾を持ってきていた。その数は30を超えていた。97式手榴弾の重量が4550gであるので、30個というのは約14キログラムにも及ぶ。しかも、それに加えて40キロ近いM2重機関銃を持ちそれの弾薬まで携行しているのだ。イリヤがどれだけ人間離れしているか解る物である。
 イリヤは取り出した手榴弾の安全ピンを引き抜き、次々と放り投げた。アメリカ兵たちはそれに驚き逃げようとした。投擲された手榴弾が次々と爆発し、アメリカ兵の何人かがそれの巻き添えを食らった。それを見逃さず、イリヤたちは突撃を始めた。・・・始めようとした所、クレイモアを持った件のイギリス人士官が先に突撃をしていた。
 一人のアメリカ兵が慌てて銃をジャック大尉に向けようとするが、それよりもジャック大尉のクレイモアが振り下ろされる方が早かった。頭をヘルメットごとカチ割られたアメリカ兵は派手に倒れ、ぴくぴくと痙攣した後動かなくなった。ジャック大尉は休む暇も無く、次のアメリカ兵にクレイモアを振り下ろした。振り下ろされたアメリカ兵は銃でクレイモアを受け止めようとしたが、元々クレイモアはよろいごと相手を叩き切る為に考案された武器である。ライフルごと切り裂かれたアメリカ兵は血を撒き散らしながら倒れた。
 しかし、ジャック大尉の活躍もそれまでだった。立ち直ったアメリカ兵たちが銃をジャック大尉に向けたのだ。だが、それよりも早くイリヤたち日本兵がアメリカ兵に襲い掛かった。銃剣で銃床でアメリカ兵たちを次々と無力化していった。そして、終にイリヤは大統領のいるであろう扉を蹴破った。
 そして、蹴破った先にいた敵兵に撃たれた。だが、イリヤは何発もサブマシンガンの弾を叩き込まれたというのに平然としていた。

「え?あっ・・・、ば、化け物め!」

 アメリカ兵が悪態をついて再びサブマシンガンをうとうとしたが、それより先にイリヤのM2が火を噴く前に、アメリカ兵の胸に突然クレイモアが生えた。ジャック大尉がクレイモアを投擲したのだ。クレイモアをはやしたアメリカ兵は自分の胸元を見た後崩れ落ちた。クレイモアが支柱となり足とクレイモアで支えられた状態で絶命した。

398 :Monolith兵:2014/03/09(日) 06:53:49
「アメリカ大統領ヒューイ・ロング閣下ですね。端的に言います。降伏しなさい。」

 ジャック大尉は尊大な態度でロング大統領に降伏を薦めた。だが、ロングの返事は違った。

「サルに媚を売る白人の恥さらしめ!私は絶対に降伏なんかしないぞ!!殺せるものなら殺してみろ!!」

 その態度にジャック大尉は眉をひそめた。こうなれば強硬手段しかない。そう、拉致である。

「俺からももう一度言わせて貰おう。降伏しろ。抵抗は無意味だ。」

 イリヤの降伏勧告にも再び噛み付くロング大統領に、イリヤの短い堪忍袋の尾は切れる寸前だった。

「イリヤ中尉、もういいからこいつを連れて行け。われわれが大統領を確保したと知れば戦闘も終わるだろう。」

 依然として銃声の響きわたるホワイトハウスであったが、日英軍がロング大統領を捕虜にしたと知れば、アメリカ兵たちも降伏するだろう。それは、これ以上の戦死者を出さなくて済み、何よりも自分たちの勝利を確実なものに出来るのだ。
 イリヤは喚き散らすロングを一発殴り気絶させた後、肩に担いでホワイトハウスの外へと向っていった。途中で、大隊長と再開し目を丸くされたが親指を立てると、大隊長も親指を立てて返した。
 そして、イリヤはホワイトハウスの外へ出た。アメリカ兵は降伏し、太平洋戦争、いや両大洋戦争は日英軍の勝利の元で終結した瞬間であった。

399 :Monolith兵:2014/03/09(日) 06:54:20
おまけ

 ワシントンD.Cでの空挺作戦から数ヵ月後、戦後処理の進む中東条英機は陸軍省の執務室で報告書を読んでいた。

「空挺部隊でもやはり重武装かは不可欠か・・・。」

「はい。通常装備の○○大隊はホワイトハウスの守備隊を攻めあぐねていましたが、もう一隊が攻撃に参加して守備隊を攻略する事ができました。これは、イリヤ中尉が持ち込んでいたM2重機関銃によるところが大きいと、戦訓委員会は結論付けました。」

「そうだろうな。まさかいきなり首都に空挺部隊が下りるとは思ってもいなかっただろう。ワシントンを防衛する部隊は軽歩兵部隊だったらしいじゃないか。自動車化はされていたが、機甲戦力は少なかったとか。」

「はい。ですが、装甲車両と戦闘を行った部隊もあります。これを勘案すると、重機関銃や携帯対戦車ロケット砲などの重火器はこれからの空挺部隊には必須になると思われます。」

「うむ。そうだな。」

 史実フォークランド戦争で、イギリス空挺部隊が自動小銃と対戦車ロケットを持ち大活躍した事を知る夢幻会関係者は、空挺部隊の重武装化は規定路線として受け止めていた。また、M2重機関銃による超遠距離攻撃がフォークランド戦争で行われ、イギリス軍に甚大な被害を齎した事を戦訓に、対戦車ロケットのみならず重機関銃や対物ライフルの配備を進めることも考えられていた。

「・・・ところで、この部分だが・・・。」

「・・・それは・・・その・・・一応戦果は出ていますので・・・。」

 東条が問題視したのは、ジャック大尉がクレイモアを振り回して大活躍したところであった。
 日本陸軍は史実と違い火力主義をとっているが、白兵主義者という者は存在した。とはいえ、彼らも最後の仕上げとして白兵戦を考えており、火力の充実は必要であるが白兵戦の訓練も必要であるという立場だった。そんな彼らも流石にクレイモアが活躍したから剣技を訓練に取り入れようとは言わなかった。むしろ、弓矢を用いて無音で誰にも気付かれないまま3人も打ち倒した事を重視していた。これは実用的なサイレンサー開発の促進する事になるのだが、当面の間はクロスボウで代用してはどうだろうかという意見が出されていた。
 さて、白兵主義者がそんな状況であるのに、クレイモアを振り回した事を重視したのは誰であるか?答えは邪気眼派であった。

「何で斬馬刀やら小太刀二刀流やらを採用しようとか言い出すんだ?」

「・・・解りかねます。」

「とにかくこれは没だ没!」

 とは言え、屋内での近接武器の重要性が確認された為、短刀を用いた近接格闘術の研究が薦められていく事になるのであるが、ここでも邪気眼派が暗躍し小太刀が正式装備になりかけた事をここに記しておく。





 一方、クレイモアを振り回した士官の所属するイギリス陸軍では、今回の戦訓から剣が未だ有用な武器であると考えられるようになっていた。しかし、屋外での戦闘では銃が必要であり、それを解決する為に銃弾を撃てる剣を開発する事になったのだが、それはまた別のお話である。


おわり


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最終更新:2014年03月23日 12:05