546 :パトラッシュ:2014/03/15(土) 10:03:09
セシリア・オルコットSIDE(3)
合宿二日目の朝食後、訓練場となる切り立った崖に囲まれたビーチに生徒が集合していますと、珍しく時間に遅れたラウラさんとぶつかりそうになりました。
「あら、ラウラさん、ひどく疲れてるみたいですけど」
「じ、実は、教官と久しぶりに早朝訓練をしたのでな」
「そうですか。さすが一番弟子ですわね」
納得して頷きましたが、げっそり頬のこけたラウラさんは煤けた表情で笑うだけでした。一体どうしたのでしょう?
なぜか大きく削り取られた跡のある砂浜で、織斑先生が全員を見渡します。
「全員集まったな。始める前に篠ノ之、お前の機体が更新されることになった」
搬入されたコンテナから出された赤い装甲のISは、腰に日本刀型のブレードだけが装備された近接戦闘特化型でした。
「第二世代型の『紅椿』だ。打鉄より戦闘能力がやや向上したが、あくまでもデータ採集を最優先している。特におまえは剣道が得意だから、白兵戦での戦闘訓練を多くやってほしいそうだ」
「わ、わかりました……」
確かに一夏さんを除けば、一年で最も武術を嗜んでいるのは箒さんです。にしてもデータ収集目的とはいえ、旧型の第二世代機でも彼女だけ続けて専用機を与えられるのは妙ですわね。
急加速で飛翔する紅椿は二百メートルほど上空まで達したところで何とか空中に停まり、箒さんは刀を抜いて振ってみます。そこへ織斑先生の指示で鈴さんが「甲龍」の衝撃砲≪龍咆≫を十連発で発射しましたが、何と箒さんは刀を振るって全弾撃墜しまったのです。わたくしのブルー・ティアーズでも難しいのに信じられません。
「すごいわね。あれは剣道の有段者である箒にしかできないわ。さもなくば宇宙での戦争を知っている一夏くらいしか」
「そういえば一夏さんは――」
急いで探すと、一夏さんは山本少佐にISの使い方を教えていました。訓練にまで参加するとは予想外でしたが、教師用の「打鉄」を展開した山本さんは鮮やかに上空へ飛び上がります。まだわたくしたちには及びませんが、初めてのIS訓練とは思えないほど巧みな飛行術や緊急停止を見せます。専用機組以外を見ていた山田先生が「ほへー、山本さんすごいですね~」と感心したように見上げていました。
「織斑先生、山本少佐は本当に初めてですの?」
「こちらで適性試験を受けたら、判定はSランクだったそうだ。間違いなく才能はあるな」
Sランクの人は、十万人にひとりいるかいないかと聞きます。私でもAランクだったのに、初のIS装着であれほどの技量を示すとは。
「一夏さんやラウラさんもですが、本職の軍人は武器の取り扱いに長じておりますわね」
「それはそうだけど……」
見事な着地を決めた山本さんを、隣でシャルロットさんが眉根を寄せて見ていました。
「どうしたのです、シャルロットさん」
「ねえセシリア。山本さん、妙に肌の色がいいような感じがしない?」
「そういえば……」
一夏さんと話すISスーツ姿の山本少佐は、昨夜一夏さんに指圧してもらっていたときに比べ、明らかに肌に艶がのっているようです。
「何だか腰周りが充実してるような……」
「おまけに一夏とあんなに親しそうに話してさあ……」
「ま、まさかあの二人は……」
猛烈に嫌な予感で周囲の空気が冷たくなります。そういえば一夏さんは、自分より人間としても軍人としても優れた女性でなければ結婚しないと明言していました。考えてみれば、まさに山本さんはその条件に当てはまる人ではありませんか。
「一夏さんと山本さんが恋人同士……」
「じょ、冗談じゃないわ。もしそうなら殺してあげるけど」
「――いくら鈴でも、一夏と山本さんに勝てるとは思えないよ」
「く、いいいいちかああああ」
思わず血のにじむほど拳を握り締めたところへ、スマートフォンで話していた山田先生が胸を揺らしながら大慌てで走ってきました。
「お、織斑先生、大変です! 学園本部から緊急連絡がありました!」
※次回、銀の福音編です。
最終更新:2014年03月23日 13:12