105 :Monolith兵:2013/10/29(火) 00:46:19
ネタSS「とある中隊長の奮闘」
あの冬戦争は結局冬戦争の敗戦で終わった。しかし、フィンランド軍の勇戦は日本人の心の琴線に触れ、日本とフィンランドの距離は近くなった。その為、官民軍共に積極的な交流が持たれ、多くの人々が両国を行き来する事になった。
だからだろうか。このような事になったのは。
「何で俺こんなところにいるんだろ・・・。」
そう呟いたのは、フィンランドで8千のソ連兵相手に奮闘し、見事撃退した奇跡の小隊を率いた小隊長改め中隊長だった。彼はフィンランドでの戦功を認められ見事昇進を果たし、同時に中隊長に任命されていた。そして、当然イリヤ・ジェルジンスキーや船坂弘も彼の元にいた。
だが、今回彼の元にはそれ以外にも超人たちがいた。
「中尉殿。そんな浮かない顔をしてどうしたのですか?」
そう中隊長を気遣ったのは日本人ではなかった。ニュカネンと言うフィンランド人だった。
日本はフィンランドから撤退後、連合国として対独戦を戦った。しかし、イギリスはドイツとの戦争にギブアップし、
アメリカからの支援を受け入れるのと引き換えに日本を連合国から追い出した。
そして、アメリカは目論見どおり日本を暴発させる事に成功し、日米戦争が始まったのだった。しかし、戦争が始まって以来アメリカは負け続けていた。中国は降伏し、米
アジア艦隊は壊滅し、グアムやミッドウェーは日本に占領されていた。
また、日本潜水艦の跋扈によりハワイと米本土の補給戦こそ何とか保たれているものの、それ以外は鉄の鯨の餌場と化しており、その為にアメリカは艦隊保全主義に走った。主力艦や護衛の駆逐艦や軽巡の数が揃うまで、何とか海軍の将兵を死なせないようにするためだ。そうしなければならないほど将兵の損耗は著しかった。
だが、日本にしてみればそれは都合が悪かった。ハワイは太平洋艦隊の根拠地に相応しい防備を持っており、連合艦隊の総力を持ってしても早々落とす事はできない。そこで、日本海軍は米太平洋艦隊をハワイから炙り出すために様々な策をめぐらす事になった。
その策のひとつの為に、彼と彼の率いる中隊はここにいた。
「いや、なんでもない。」
本心ではこれからのことを思うとこれでもかというほど憂鬱なのだが、それを部下に話すわけにもいかない。彼は中隊長なのだ。部下を動揺させるような事は言えない。
その時、海軍士官が中隊長に声をかけた。
「・・・着いたのか?」
「はい。予定海域に到着しました。これより浮上しますので準備願います。」
彼らが乗っているのは潜水艦であった。彼らの目的地はハワイ。彼らの目的は、ハワイで破壊工作を行い艦隊をハワイから離れさせる事であった。もっとも、誰もその成功を信じてはいなかった。当の中隊長もだ。ハワイには10万近い兵士がいるのだ。むしろ、混乱を引き起こした後に行う重爆による夜間爆撃の方がメインだった。
その為に、彼らは10隻近い潜水艦に分乗しハワイ近海でゴムボートに乗りハワイに上陸する予定であった。これまでの調査により、アメリカ側はかなり近づかない限り潜水艦を補足することは出来ず、ゴムボート程度ならばレーダーにも映らない事がわかっていた。だが、上陸できてもそれ以降はほぼ運頼みであり、全滅する可能性が非常に高かった。
だが、彼らはその作戦に選ばれた。もっとも、彼らが選ばれたのは
夢幻会上層部の意思があることは疑いようも無かった。何といっても、某仮想戦記の
登場人物の幾人かが彼の中隊に配属されたからだ。それのみならず、殺戮の丘で共に戦ったものもいた。そう、シモ・ヘイヘを初めとした超人たちもだ。
暫くして、潜水艦は浮上しゴムボートに中隊長たちは乗り込みオアフ島を目指し漕ぎ始めた。
107 :Monolith兵:2013/10/29(火) 00:47:04
オアフ島へ上陸して数日。中隊は無事合流を果たし、次々と戦果を挙げていた。
主要な施設こそ襲撃していなかったが、飛行場のガソリンタンクに迫撃砲を打ち込み爆破したり、持ち込んだり奪ったりした地雷を用いて各地に地雷原を作り米軍を混乱させたりもしていた。また、各基地周辺で火事を起こしては薄くなった防備を突いて襲撃しては武器弾薬を奪い、更に地雷原を増やしたり迫撃砲を至る所に打ち込んだりしていた。
これに対し、米軍も手を拱いていたわけではない。無いが、ハワイの住民の要請により彼らの不安を解消する必要があった。その為、各地に兵士を配置し、巡回規模を大きく頻度を増やすなどをせざる得なくなり、中隊長は薄くなった防備を更に突く事が可能となっていた。
「よし、今回はここを襲撃する。」
そういって中隊長が地図上で指差したのは、太平洋艦隊の一大根拠地「真珠湾」だった。各小隊長や中隊幕僚はみな真剣な顔をしており、誰一人として反対の声を上げなかった。これまでの作戦の数々が全て成功に終わり、あまつさえ1000近い損害を敵に与えたのだ。天狗になったわけではないが、ハワイでの作戦は”殺戮の丘”に比べれば天国と地獄と言っていいほど、彼らにとってはたやすい事であった。
その中で、一人の大男が手を上げた。イリヤ・ジェルジンスキーだ。彼はあの冬戦争での功績により特務少尉に昇進し、第2小隊長を率いていた。彼の元には船坂弘とシモ・ヘイヘが配属さえていた。
「狙うならでかいのを狙うべきだ。」
イリヤは獰猛な笑みを浮かべながら、地図を指差した。そこにはこれまでの偵察によって1隻の戦艦が停泊している事が解っている場所であった。
「戦艦は無理だ。乗り込むまでどれだけの警備を掻い潜らなければならないか。下手を打てば全滅だ。」
だが、イリヤは一言だけで答えた。
「俺だけで行く。」
その言葉に中隊長だけでなく、幹部会議をしていた全員が驚いた。だが、中隊長はその一方で可能性はあると考えてもいた。何と言っても、原作(?)では戦艦を沈めているのだ。
「・・・いいだろう。だが、船坂とヘイヘ、ニュカネンを連れて行け。」
中隊長がそう言うと、イリヤはニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。
そして、作戦実行日の深夜。真珠湾は炎に包まれていた。イリヤたち4人を支援する為に、中隊は各小隊に散らばって時限爆弾や地雷を仕込み陸軍基地の警備を散らした。また、簡易の自動発射装置をつけた迫撃砲(鹵獲品)を大量に設置し、あたかも陸軍基地を大兵力が攻めるように偽装した。
一方で、これまで海軍基地には一切手を出さなかった為、海軍基地では比較的士気が緩んでいた。そこに陸軍基地の襲撃である。海軍兵たちは「またか。」「陸軍の連中なんてたいした事ないな。」などと言い合い、立ち上がる煙をただ見るだけであった。
「なんてチョロインだ。」
その中を中隊長たちは海軍基地内に侵入していた。イリヤたちは既に別れていた。後は、時限爆弾をそこら中に仕掛ければ終わりだ。部下と手分けをしてとりあえず手近にあるとある建物に侵入した彼らは、運よく弾薬庫を見つけ本物もダミーも何十も仕掛け、さあ撤収という時になって巨大な爆音が当たりに響いた。
「やった!」
そう、イリヤたちが戦艦を爆破したのだ!そう思い中隊長は窓から外を見た。すると、赤々と燃え上がる巨大な炎と天高く間で上がる黒煙が見えた。だが、何やら場所が海上ではなく陸上に見えた。すると、再び轟音が響き、また違った炎が立ち上った。それを見た中隊長は直感的に理解した。
「爆発しているのは戦艦じゃない。重油タンクだ!」
そう、燃え上がっているのは重油タンクだった。イリヤは戦艦ではなく重油タンクを爆破したというのだろうか?その疑問は次の瞬間氷解した。重油タンクから立ち上る炎と黒煙、その向こうから一瞬炎が見たのだ。発砲炎だ。
「おいおい。あいつら戦艦乗っ取ったのかよ・・・。」
何とイリヤたちは戦艦を乗っ取ったのだ。と言っても、主砲塔だけだ。そして、主砲を重油タンクに撃ったのだった。無論、弾薬庫には時限爆弾を設置しており、後は逃げるだけだった。
暫くそれを見ていた彼だったが、騒がしくなってきた為に部下たちを慌てて集めて撤退を開始した。途中で幾度も無く敵兵と鉢合わせしたが、その度に撃退し、無事海軍基地から脱出する事に成功した。
108 :Monolith兵:2013/10/29(火) 00:48:23
その翌日の夜、中隊は再び合流した。だが、前日の戦闘で幾人も戦死してしまった。また、行方不明者も少なからず出ており、これ以上の作戦の続行は不可能ではないかと思われた。行方不明者の中にはイリヤ・ジェルジンスキーも含まれていた。
「ジェルジンスキーは、私たちを逃す為に甲板に出て敵兵を引き付けましたが、戦艦の主砲に撃たれて・・・。その後、戦艦は爆発沈没しました。」
船坂曹長の話に中隊長は天を仰いだ。あの化け物が死ぬなど有り得そうも無かった。しかも、原作で出てきた話である。ひょっこりと現れて暴れまわるだろうと考え、頭を振ってため息をついた。
(結局俺たちはイリヤの引き立て役か・・・。だが、それも面白い。)
そう考え笑みを浮かべた彼は、撤収までの作戦を説明し始めた。潜水艦が中隊を拾いに来るのは今日の深夜になる。その間で出来るだけ敵に見つからないようにしなければならない。仮に見つかった場合は潜水艦での脱出は不可能となる。
その為に、隠していたゴムボートを引っ張り出すまでの間、敵をこちらに来ないようにしなければならない。敵の目を引きつける為に、彼らは最後の襲撃を計画していたのだ。とはいえ、実際に襲撃するわけではなく、自動射撃装置を付けた機関銃や迫撃砲などの重火器による基地や軍官舎の攻撃だ。その仕込みは既に終わっており、後は時間が来るのを待つだけであった。
だが、それは不幸にも叶わなかった。巡回中の米軍兵に見つかり戦闘に入ってしまったのだ。不幸中の幸いと言うべきか、増援が来るまで時間が掛かりそうだが、撤退はほぼ絶望的と見てよかった。
「皆、良くここまで私について来てくれた。もはや撤退は不可能だ。アメリカに降伏しても、不正規戦を行った私たちはまともに捕虜として遇されないだろう。この上は最後の一兵まで戦い、日本軍恐るべしと奴らの脳みそに焼き付けてやろうではないか!」
冬戦争で何度も死線を掻い潜り、ここオアフ島でも死闘を続けてきた中隊長は、以前とは見違えるほどの成長を遂げていた。もはや彼に迷いは無かった。
「俺たちの名前は未来永劫軍事史に輝き続けるだろう!僅か120名足らずで敵兵5000以上を葬り戦艦を沈めたのだ!もはや我らが生涯に一片の悔い無し!」
その言葉と共に、啜り泣く声がそこかしこから聞こえた。中隊長は毀れそうな涙を堪え、最後の命令を下そうとした。
「総員我に・・・。!?」
続け、と言おうとしたその時、遠くで何かが爆発する音が聞こえた。木々の隙間から真珠湾の方角から巨大な炎と黒煙が上がっているのが見えた。
「もしかして・・・。」
その時、車のエンジン音が聞こえてきた。全員身構えたが、ジープに見覚えのある顔があることに部下の一人が気付いた。そう、イリヤ・ジェルジンスキーだ。運転席には彼と比べると小柄な男がおり、イリヤに首元を押さえられていた。どうやら米兵を脅してここまで運転させていたようだ。
「遅くなった。さあ、帰ろう。」
米兵の顔を軽く殴り気絶させたイリヤはそれだけを言って敬礼をした。中隊長も多くは言わず返礼をした。
「中隊長、潜水艦から連絡が。我々は撤退できます!」
通信兵の言葉に中隊全員が歓声を上げた。慌てて中隊長はそれを制止したが、イリヤが近くにいた米兵たちをミンチにしてきたと言うと一層歓声が上がった。
「本当に、お前はたいした奴だよ。」
そういって中隊長はイリヤの体を叩いたが、ただ掌が痛いだけだった。
109 :Monolith兵:2013/10/29(火) 00:49:09
結局、彼らは無事日本へと帰りつけた。日本への帰路に潜水艦の中で聞いた話だと、最後の爆発音は真珠湾にいた艦艇が爆発した音なのだという。無論それをなしたのはイリヤ・ジェルジンスキーだ。イリヤは海中に逃げた後、隠し持っていた時限爆弾をそこかしらの艦に仕掛けまわったのだという。
彼は時限爆弾を8個ほど持っていたはずで、実際には戦艦3隻空母1隻が沈んだようだ。沈んだと言っても遠浅の真珠湾である。その内にサルベージされ再就役するだろう。
だが、それまでに連合艦隊はハワイ攻略を仕掛けるだろう。太平洋艦隊が事実上壊滅した今、連合艦隊を止めることができるのは陸海軍航空隊だけだが、質量共に連合艦隊に劣り、潜水艦による締め付けにより更に戦力に差が開く事は疑いようが無かった。
誰にも期待していなかった彼らは、誰からも切望と尊敬を受ける英雄となったのだ。
そして、この戦いはその後伝説となった。僅か一個中隊で10万以上の敵兵を敵地で翻弄し、戦艦4空母1を沈め、重油タンクを破壊し、飛行場や陸軍基地を攻撃し5000人以上を葬り、オワフ島を地雷原に仕立て上げたのだ。
日本に帰還した彼らは東京で凱旋パレードを行い、天皇陛下直々に勲章を授与され、全員が2階級特進することになった。彼らの功績は未来永劫歴史に輝く事になるのだ。
一方、ここは夢幻会が会合を開いている料亭である。
「もしやとは思っていましたが、・・・こんな事になるとは。」
「彼らは良くやってくれました。ええ、非常によく。だからと言ってこれは・・・。」
嶋田と伏見宮は2人とも項垂れていた。
「ま、まあ、そう気を落とされずに。」
「東条さんはいいですよね。オアフの奇跡で陸軍の株は鰻上りですもんね。」
東条が嶋田に慰めの言葉をかけるが、嶋田はただ東条を恨めしそうに見るだけだった。
「まま押さえてください。」
珍しく辻が2人の仲を取り持った。流石に気が引けたのだろう。
「今回のことは申し訳ありません。戦時中だというのに・・・。」
辻がこれまた珍しく嶋田に頭を下げた。嶋田は顔を歪めながらもそれを受け入れた。
「まさか、海軍不要論が出てくるとは・・・な。」
そう、中隊長たちが特にイリヤが奮闘した結果、米太平洋艦隊は壊滅した。これをなしたのが陸軍の僅か1個中隊だったと言うのが、全ての原因だった。とある国会議員はそれを嶋田に突きつけ、巨大な海軍は不要ではないのか。海軍は陸軍の輸送と護衛だけすればいいのではないかとぶつけたのだ。
これを言った議員には与野党問わずに非難が飛び事なきを得たが、陸海軍の外で陸軍派と海軍派が争うなどと言う奇妙な事実は夢幻会を困惑させた。過激な新聞社の中には陸軍と海軍とを比べて、海軍は陸軍よりも攻撃精神が弱いという記事をぶち上げたりもしていた。
その為に、件の過激な陸軍びいきの議員ではないが、海軍の予算を削減しそれを陸軍に回すべきだという議員が少ないながら増え始めているのだ。
「本当にどうしてこうなった・・・。」
結局、独裁者嶋田繁太郎(笑)の力で何とかしたのだが、これで陸軍と海軍との間に小さいながらも溝ができてしまったのは、仕方の無い事であった。
最終更新:2014年03月28日 00:23