697 :taka:2013/10/26(土) 13:24:46
開戦より三ヶ月が経過し、太平洋の戦域の収束が始まった。
米軍は日本海軍の更なる東進を阻止すべく、ミッドウェー島及びハワイ島の絶対死守を決断。
必然的に
アメリカ本土~ハワイ島~ミッドウェー島の航路は重要さを一気に増した。
何せ、2つの島に数百機の戦闘機に爆撃機、ミッドウェー島に5000の海兵隊、
ハワイには5個師団に要塞守備隊、海兵隊を合わせれば8万の将兵が駐屯しているのだ。
米軍にとって2つの島を日本軍から守るのに必要な事は何か?
敵機動艦隊を壊滅させるのも確かだろうが、大前提として補給線を維持する事だ。
飛行機で言えば代替え機、補修用の部品、爆弾から魚雷に銃弾や機関砲弾、航空燃料が必要となる。
予備役を含めれば二島で10万を超えそうな将兵も、飯を食うし病気にもなるし、実戦にも訓練にも弾は居る。
本土から遠く離れた島に10万もの大兵力を展開させ、それを維持させるだけの物資弾薬がどれほどの量か。
米国であればそれを維持するのも容易いだろう……邪魔さえ、入らなければの話であるが。
そしてこの邪魔者達は、この日米の戦争に置いて日本が誇る機動艦隊と同じぐらいアメリカ海軍に恐れられ憎まれた。
今まさに彼らの攻撃を受けているこの哀れな船団のように、散々煮え湯を飲まされたからだ。
「3番艦が被雷、落伍します!」
「ガッデム! 護衛艦の電探は何をしてやがるんだ! ジャップの潜水艦を捕捉出来ないだなんて。
これだけしこたま攻撃を受けてるのに1隻も見つからないとはどういう事だ!」
船団の旗艦で悲嘆を叫びをあげる海軍大佐の嘆きもむべなるかな。
ハワイを発った時には、この護送船団には大小15隻の輸送船と、西海岸からやってきた護衛用駆逐艦及びリバー級フリゲートが10隻前後。
更に旗艦として軽巡洋艦が護衛艦隊の総指揮をとった。ハワイとミッドウェーに配置されたカタリナ飛行艇も可能な限り対潜哨戒に参加した。
しかし、開戦から続く不景気な戦況を味わい続けた米海軍将兵、そして輸送船に乗った増援の兵士たちは不安を拭えなかった。
何せ、ハワイに来るまでも何度か雷撃を受け、少なからぬタンカーや輸送船が大破、沈没している。
そんな悲惨極まりない彼らではあるが、彼らには希望があった。
ハワイで合流する護衛艦隊に、非常に心強い存在が居たからだ。
「大丈夫だ……ハワイで護衛空母と合流さえすれば、俺達の船団はジャップの潜水艦なんかに負けはしない!」
力説している艦長の視線に、先行している護衛艦の艦尾に魚雷が命中し爆雷が大爆発して轟沈する光景が映っていた。
護衛空母。
正規空母より搭載機数や対空兵器の搭載量は低く、排水量も半分程度。
その分大量生産が可能で場合によっては商船などからの改造も可能。
脆弱性から機動艦隊同士の殴り合いには向かないが、航空機輸送や主要航路の哨戒、敵潜水艦などの狩りだし等には最適と言える。
英独戦での海上航路確保の重要性を戦訓として学んでいた米海軍は、当然世界有数の海軍国である日本に対する戦術を幾つも検討していた。
勿論、日本海軍が多数の長距離用潜水艦を保有している事は明白であり、それらに対する対抗策に護衛空母が構想として乗っていたのも事実である。
ただ、戦争直前の海軍の方針は正規空母の生産を優先していた。彼らは自分達が負けるわけがないと信じきっていたからだ。
しかし、その方針も開戦から僅か数ヶ月で変更せざるを得なくなった。
序盤の序盤でいきなり太平洋方面に展開している空母の半分が撃沈、更に1隻が撃沈されエンタープライズも大破し長期の修理を余儀なくされている。
こうなれば尚更正規空母の生産と機動部隊の再建を急がねばならないのは当然だったが、恐るべき海狼達の暴食の宴がそれに待ったをかけた。
護衛艦の電探にも感知できず、北米の西海岸にすら姿を現す潜水艦隊が、米国の主要航路を食い荒らしまくったのだ。
重いボディーブローを絶えず打ち込まれるこれらの通商破壊は、無尽蔵の生産力と人材を誇る米国ですら悲鳴をあげた。
甚大な損害を重ねながら任務を続ける護衛艦隊の将官達。
このままでは航路が全て遮断されると猛抗議してくる海運業界の突き上げを食らいまくった海軍は方針をまた変えた。
698 :taka:2013/10/26(土) 13:25:17
「このままでは本土以外の米軍の拠点が全て干上がってしまう! 忌まわしい日本の潜水艦隊を撃滅する事も優先されねばならない!」
かくして護衛艦と護衛空母の増産の促進、それに搭乗する潜水艦ハンターのパイロット達の育成が始まった。
これらの努力は第六艦隊の補助艦艇である伊号に損害を与え、活動を抑制するなどそれなりの効果を上げた。
だが、日本側にとってこれは想定していた事態の内だった。
史実に置いても甚大な損害を連合国に与えたUボートを封殺した原動力の1つは護衛空母だった。
動く海上航空基地とも言えるこれらによって大西洋のエアカバーは完成し、潜水艦にとっての安息の海域は無くなったのだから。
ならばどうするか。
答えは簡単である、傘をへし折ってしまえばいい。出てくる端から全て。
ついでに、傘に乗っかっている鬱陶しい連中もやっつけてしまおう。
「見ろ、おいでなすったぞボーグ級だ。ハワイで船団に合流した奴だな」
覗いていた潜望鏡を下ろしつつ、呂号の艦長は口の端をにやりと吊り上げた。
「平安丸の戦隊司令部より通達。ボーグ級を攻撃する艦へ魚雷斉射を許可する。ボーグ級を決して逃がすな、轟沈を期せよ、との事です」
「言われるまでもなし、各艦に通達。敵哨戒機を回避する為、ボーグ級並びに護衛艦へ聴音雷撃を実行せよ。
割り振りは打ち合せの通りだ。護衛戦力撃滅後、通常雷撃により船団を攻撃しこれを殲滅すべし!」
「艦長、張り切ってますな」
「1万トン程度とは言え空母だしな。それに魚雷の使用制限が解除されると清々する」
「些か活躍し過ぎて、魚雷の生産が追い付かないのと生産割り当てで芋を引いた水雷戦隊から抗議が来たそうですね」
「ったく、ふざけた話だよな。活躍出来なくて抗議が来るならまだしも、活躍して文句なんか言われたくねぇよ」
電探からのデータを算出し、襲撃版に打ち込みながら艦長はぼやいた。
べらんめぇな口調の艦長であるが、仕事は流石17万トンを撃沈した潜水艦エースである。
ボーグ級の航路を割り出し、6本の魚雷全ての発射データも素早く打ち込んでいく。
やがて全ての準備が整い、後は攻撃を待つのみ。
ボーグ級への攻撃開始とともに護衛艦隊への攻撃が開始されるので、今は静かなままだ。
そう、まるで嵐の前の凪のように。
「目標ボーグ級。1番から6番まで連続発射。てぇー!」
死神から六本の魚雷が放たれ、ボーグ級の横っ腹目掛けて突き進んでいく。
この時ボーグ級から飛び立った3~4機が対潜哨戒を行っていたが、ボーグ級への六本の雷跡が見えるまで随分時間がかかった。
通常、この時代の潜水艦は潜望鏡を上げれる深度まで浮上し、潜望鏡を見ながら襲撃を行う。
勿論その時には上空から船体は視認しやすくなり、搭載した小型対潜爆弾での攻撃も船団への警告も容易となる。
だが、呂号は最新型の電探により潜航したまま、正確に敵艦を雷撃する事が可能だった。
故にこの哨戒戦法は呂号対策として不十分である事を米海軍はこの船団の悲劇を持って知る事となる。
699 :taka:2013/10/26(土) 13:25:48
ボーグ級は艦載機からの連絡で慌てて回避を行おうとしたが、既に手遅れだった。
艦底に到達した魚雷の磁気信管が次々と作動。艦尾を掠めていった六本目を除き5本の魚雷がボーグ級の真下で爆発した。
僅かな生き残りの士官によると、文字通り身体が宙に浮き上がり次の瞬間猛烈な爆発で床に叩きつけられたという。
例え正規空母の強度でも堪えようがない爆発と船体に開いた穴は、もはやダメージコントロールだの防水隔壁だの問題にならない状態であり。
総員退艦の命令すら出せず、船団の希望であり心強い護衛艦隊の大黒柱であったボーグ級は被雷から僅か2分足らずで海底へと沈んでいった……。
だが、それを悲嘆する暇は護衛艦隊にも、船団にもなかった。
護衛艦隊はボーグ級への被雷を合図にするかのような一斉攻撃を受け、重大な損害が続出し組織的な反撃すら行えず。
船団はパニック状態に陥り接触事故が相次ぎ、護衛艦隊を駆逐した呂号の群れが通常雷撃に移行する前に8隻が損傷し2隻が沈没する有り様。
最終的に護衛艦隊は2割、船団は3割しか海上に留まれず。(しかも損傷艦多数
生き残りは漂流者を救助する余裕すらなく距離的に近いミッドウェー島に逃げ込んだ。
海上は漂流者達の悲鳴や「ヘルプ!」と叫ぶ声で溢れかえり。
翌々日にミッドウェー島からやって来た艦隊によって救助されたのは海上に放り出されたたった3割だったという。
あまりにも血が流れた所為か、戦後深夜にこの海域を通過すると真っ暗な海面から助けを求める声が聞こえるという噂が流れた。
「そう言えば艦長、何故ボーグ級に六本も魚雷を撃ち込んだのです? 上手く当てれば二発で沈むと思いますが」
「ああ、それに関してだがな」
任務終了後、補給のため海上母艦に向けて移動している呂号の艦長室。
航海日誌を書き込んでいる艦長にふと副長が疑問を投げかけると、渋面の艦長は声を抑えてこう答えた。
「副長、米国の護衛空母には大体20機から30機位の戦闘機か艦爆を搭載できる。
つまり、今日潰したボーグ級には戦闘機なら20~30人、艦爆なら40~60人のパイロットが乗っていた訳だ」
「そうなりますね」
「パイロットを育成する大変さは航空畑の連中から嫌という程聞いている。米国だって同じだろうよ。
船員と同じくパイロットも戦う技術者だ。基礎技術を教え込み、飛行機を操るという実施を行う。
海上の船から飛んで広い海原から敵船を探し、正確に位置を味方に知らせる哨戒機パイロットも一人前になるのにさぞ手間がかかるだろうよ」
「はい、それは確かにそうですが……それが?」
「今日、ボーグ級を一気に沈めたのはな。その育てるのに大変なパイロットを根刮ぎ海に沈める為だ。艦から逃げ出す暇すら与えずにだ。
飛行機は工場が稼働して材料があれば次を作れる。だが、人間はどうだ? 無知で飛行機に乗った事もない奴を一人前に育て上げるまでどれくらいかかる?
それこそ、ひと通り出来るようになるまでに育てるだけで巡洋艦が出来上がるぞ。ベテランだのになるには更に実践を積んで生き延びなければならない。
上層部はな、優れた対潜哨戒任務を行えるパイロットが育つ前に海の底へと送る事で後々の航空的技量の優位維持と潜水艦戦での優位を維持するつもりなのさ。
これから護衛空母と、それに乗るパイロットは呪われた運命をたどるんだろうな。我々呂号に寄って集って狙われ、残さず海に沈められるんだ……」
「………」
とある米国船団の船員が吐き捨てた言葉。
「何が護衛空母だ。あいつら護衛艦隊や船団のどれよりも真っ先に沈みやがる」
やおい
最終更新:2014年04月06日 18:43