403 :落日の新大陸:2013/12/02(月) 01:31:59

落日の新大陸

「大統領……」
「何だ……」

憔悴しきった表情を浮かべながら執務室に入ってきたのは信頼の置ける補佐官であったが、今の彼はそんな信頼する部下の顔など見たくもなかった。
ここ暫く……。いいや、彼の国との戦争が始まって以来、彼は部下の顔を見るという事に恐怖を覚えるようになってしまったのだ。何故ならば、彼の前に現れた部下の報告は皆一律に同じであり、耳にするのが嫌になる話ばかり。開戦以来ずっと続く変わらない報告はきっと今日も同じだ。

「西海岸ロサンゼルス沖に大和級戦艦8隻。大鵬級空母8隻を中核とした約300百隻の艦艇からなる敵艦隊が襲来し――“もういいッ!!”」

執務机に思い切り拳を叩き付けて淡々と、それでいて声を震わせながら続けられていた言葉を中断させる。
やはり、いつもと何ら代わり映えのない報告であった。
一つだけ違う点があるとすれば、それは今までが太平洋での話であったのが、遂に西海岸での話に切り替わり始めたこと。

「カリフォルニアが……落ちたのだろう……」

アメリカ西海岸の肥沃な大地を持つカリフォルニア州。
今其処には自由の国であり神に愛された祖国アメリカの支配権が及ばない地となっているのだろう。
そういう意味で落ちたのかと聞いた彼の幽鬼のような眼光を受けた補佐官は力なく頷いた。

「そうか……」

思えば開戦劈頭から負け続きだ。
中国各地に展開している在中米軍は初戦で撃破された。それもF6Fなどの充分な高性能機を配備していたのにも拘わらず、彼の国――日本の戦闘機はまるで七面鳥撃ちでもするかの如き容易さで撃ち落としていった。
敵の戦果に対して味方の戦果無きに等しいものであり、なぜこれほどまでの一方的敗北を喫してしまうのかと頭を悩ませたりもした。

そして、その理由を知ったとき、彼は決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったことを思い知る。

“日本の戦闘機はプロペラのない奇妙な形をした新型機”
“音の速さに匹敵する速力”
“ロケット弾と味方機を一瞬の内に撃破してしまえるような強力な機関砲を搭載している”

自分たちは今、何と戦っているのだろうか。
合衆国がその肥沃な土地を奪い取るために難癖を付けて開戦した相手は日本という亜大陸に存在する黄色人種日本人。


405 :落日の新大陸:2013/12/02(月) 01:32:41

そうだ。黄色人種。黄色い猿のはずではないか。
その黄色い猿が自国戦闘機の倍以上もの速力を出す世界に存在し得ない新しい推進機関を備えた新型戦闘機を開発し、実戦配備している。
おそらくは開戦の段階で既に量産体制に移行し、損失機の補填など幾らでも可能な状態にあったのは間違いない。
現にフィリピン沖で戦闘した太平洋艦隊が全艦撃沈の憂き目を見たとき、優に10万tはあるであろう恐ろしく巨大な空母から発艦した戦闘機もプロペラが無かったと報告されている。
艦上機も陸上機も、その全てがプロペラの無い未知の新型機で統一されているのだから、疾の昔に量産されていたと考えるのが自然だ。

「なぜだ……なぜ神が選びしこの合衆国でさえ成し得ないことを、あの黄色い猿はやってのけるのだ……!」

もはや認めざるを得ない。極東の大陸に引き籠もっていた猿共は欧米白人諸国が長年に掛けて築き上げてきた技術を更に上回り先を行く、まさにオーバーテクノロジーとでも言うしかない高度に発展した科学技術力を持っているのだと。
その上、あらゆる資源が豊富なあの大陸では無尽蔵に兵器を量産することが可能。
合衆国と同じくらいの生産力を有していると見るのが正解であり、その上で合衆国を上回る技術体系を既に確立している。

開戦からこの方、全ての戦闘で負け戦を喫しているのがそれを証明している。
ミッドウェー、ソロモン、ニューカレドニア、アリューシャンを次々と奪われ、オーストラリア・ニュージーランドは宗主国イギリスに付き従い動かない。
そしてハワイ真珠湾を攻撃され短期間の内に陥落。返す刀とばかりに西海岸へと迫ってきた。
ロサンゼルスの空にはあのプロペラの無い戦闘機と共に、計画中のB-29スーパーフォートレスが小鳥に見えてしまうほど巨大なフガクと呼称される爆撃機が舞い、
海には10万tオーバーの空母と10万tでは利かない、下手をすると倍の20万tはあるのではないかと思えるような鉄の城が幾つも浮かんでいる。
それら東洋が誇る日本無敵艦隊の前に、栄光ある合衆国艦隊は蹴散らされ、抵抗する術を失った。
そして今日この日、神に愛された神聖なる合衆国の一部が日本の軍靴に踏みにじられたのだ。
不思議と悔しさや憤りを感じない。唯々無限の喪失感と無力感を覚える。
神に選ばれた人間が、たかが黄色い猿如きに一矢報いることすら出来ずにこうして追い詰められているのだから。

“日本には勝てない”
“日本と戦争になれば合衆国は負ける”

今更ながら無茶な要求を持たせて日本に突き付けさせた時に忠告してきたハルの言葉が真実であったと思い知らされたわけだ。


406 :落日の新大陸:2013/12/02(月) 01:33:13

カリフォルニアは失陥した。

だが、これで終わりだとは思っていない。日本軍の進撃速度からしてネヴァダ、オレゴン、ワシントンと次々に奪われていくだろう。
そうしてロッキー以西を失い、あの巨人機は悠悠と空を駆けワシントンDCやデトロイトに飛来して爆撃を始めるに違いない。
地上戦でも日本の戦車の前にはM4では太刀打ちできずにスクラップと化しているとの報告が上がっている。
陸でも海でも空でも、合衆国陸海軍に勝ち目がないというのは明らか。もう、打つ手など残っていない。
されど、認めたくはなかった。

アメリカが日本に負ける。
アメリカが日本に対し降伏する。

それだけは断じて認めるわけにはいかない。
神に愛され世界の頂点に立つべきは合衆国であり、その地に住まう白人であるべき。
日本人などという絶海の大陸に生息する猿であってはならないのだ。

「大統領……」
「なんだね」
「神は……神が選んだのは……」

“日本やも知れません”

土台勝つことなど不可能な日本相手に道理の通らぬ要求を突き付け、合衆国を亡国へと導びこうとする愚劣なる大統領ヒューイ・ロングは、補佐官の言葉を聞いて机に倒れて塞ぎ込む。

「もう何も聞きたくない。悪いが出て行ってくれ……」

ただ、現実から逃げることしか考えなくなってしまった大統領の姿に侮蔑の視線を送った補佐官は、何も言わずに執務室を後にした……。

八百万の神に愛された大陸――日本。
唯一の神にしか愛されていない新大陸――アメリカ。

(アメリカは……アメリカは日本にだけは手を出すべきではなかった)

誰もいない執務室で一人塞ぎ込むロングの心に響いた自分自身の呟き。
それこそが、合衆国大統領でもなく白人至上主義者としてでもない、人間ヒューイ・ロングという男の本音であった。

だが、もう全ては遅すぎたのだ……。


407 :落日の新大陸:2013/12/02(月) 01:34:23

終わりです。
日本大陸に手を出そうとしたアメリカの末路を書いてみました。
新大陸であるアメリカは、日が昇る大陸である日本には勝てないという感じですね。

それでは失礼致します。



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修正者:Call50
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最終更新:2014年05月23日 22:00