398 :Monolith兵:2014/06/17(火) 10:24:01
ネタSS「
憂鬱日本欧州大戦 -筆ひげの野望②-」
さて、日英仏がソ連に宣戦布告したときに、一番驚いたのは果たしてどこの国だろうか?それは当事国のソ連でありスターリンであった。スターリンは入念な情報収集の結果、ポーランドを併合するために戦争を起こしても、英仏独共に宣戦布告してこないだろうという事を確信していた。日本がポーランドに兵器などを援助しているのをつかんでいたが、その日本も英仏が戦端を開かない以上、ソ連と事を構える事は無いと(同志尾崎から)情報があがってきていた。
実際、ポーランドに宣戦布告したときにも日英仏独はどうする事も出来ず、ただソ連の不法を非難する事しかしなかった。ソ連の侵略を黙認したのだ。
だからこそ、突然日英仏が宣戦布告して来た事に驚きが隠せず、同時に裏切られたとスターリンは思うのだった。
「英仏は我が国とポーランドの戦争には関与しないはずではなかったのかね?」
執務室でスターリンは怒気を隠そうともせずにモトロフをにらみつけた。
「そ、それは、英仏は予想以上にドイツとの関係改善が進んでいまして…。」
下手したらスターリン批判にも繋がりかねないドイツの急激な変化を言い訳にしたモトロフは、言ってから自分の失言に気がついた。
「ドイツか…。ドイツの急激な変化はいささか不自然だ。もしかすると以前からドイツの反ナチス勢力と日本は繋がってたのかも知れん。」
モトロフの言葉にスターリンは考え込んだ。それを聞いたモトロフはほっと胸を撫で下ろし、スターリンに真意を質した。
「ドイツと日本が繋がっていた、ですか?」
「そうだ。でなければ、あれほど早く混乱を収束させることなど出来んだろう。…ヒットラーを暗殺したのは間違いだったのかも知れん。」
スターリンは現状を鑑みて、自分が過ちを犯したかもしれないことを認めた。スターリンはポーランドの旧ロシア領を回復するための戦争において、ドイツが最大の脅威であると考えていた。確かに旧ロシア領は回復できるだろうが、その後にドイツとの戦争が待っている。その戦争に優位に立つためには、ドイツが混乱してくれているほうが都合がよかった。
そのような理由から、スターリンはヒットラーを暗殺したのだ。実際、ヒットラー死亡後のドイツは酷い混乱に陥り、一時はナチスと武装SSと野党に野党を支持する国防軍との間で内戦が起きる可能性もあったのだ。だが、ナチス党内部の内紛でナチスの足並みが崩れ、その結果武装SSは行動することが出来ずに、ナチス政権は崩壊してしまった。
「英仏のみならず、ドイツと結びついた日本までもが我が祖国に宣戦布告してきた。ドイツまで相手にすれば如何に我が国とて無事ではすまない。」
「では、ドイツを刺激しないようにしませんと。」
「そうだ。東プロイセンには絶対に手を出すな。ポーランド軍が逃げ込んでも追撃は許さん。それと、我が国はドイツに対して領土的野心は無いと全く無いと説明しろ。いいな。」
「はい。ドイツが中立国であるように努力します。」
そうして、スターリンとモトロフとの会話は終わった。そして、ソ連はドイツをあの手この手で連合国になびかない様に手を尽くすのだが、それが逆にドイツを連合国寄りにしてしまう事にクレムリンの住人たちは気がつかなかった。
399 :Monolith兵:2014/06/17(火) 10:24:48
さて、ソ連がドイツを敵に回さないように策を練っている頃、ポーランドでは変化が起きていた。
国境線をソ連軍に抜かれ、一時は総崩れになっていたポーランド軍だったが、英仏がソ連に宣戦布告をし、兵器や部隊の支援を宣言した事でポーランド軍の士気は再び高まった。
幸い、ソ連軍は事前に指定されていた都市などの占領に熱心であり、壊走したポーランド軍の追撃には余り熱心ではなかった。国境線をめぐる攻防戦とソ連軍の鈍い動きによって得られた貴重な時間で、ポーランド軍は予備役の集結を完了させることに成功した。また、ほぼ同時期に英仏による支援物資が続々とポーランドに到着しており、不足していた兵器や弾薬が常備軍のみならず予備役の部隊にも配備されていった。英仏の支援部隊も、僅か10個師団ながら到着した事から、大部分が軽武装の歩兵師団ながら合計で70万を超える兵士を保有する事になった。
そして、ソ連軍の鈍い進撃を尻目に、ヴィスワーブク川に防衛線を構築する事に成功した。ソ連軍がヴィスワ側に到達する頃には、既に防衛隊背は整っており、これまでの戦闘で消耗したソ連軍では用意に突破できないほどの陣地を築いていた。
ソ連軍がようやくヴィスワ川に辿り着いた時、彼らはポーランド軍の陣地を見て絶望に囚われたという。実は、このときのソ連軍はこれまでの戦闘でかなりの損害を出しており、実働部隊は戦前の6割にまで落ち込んでいた。馬鹿の一つ覚えのように、数に任せて正面から攻撃してはポーランド軍に撃退されると言う事を繰り返したのだから、当たり前の結果であった。
そのような事情から、ソ連軍司令官はモスクワに増援を要請していたが、スターリンはモスクワ周辺の戦車師団や狙撃師団を増援に送り込むと同時に、司令官や指揮官を解任や降格させた。それが更にソ連軍を混乱させて戦力が低下していたのだが、スターリンは全ての責任は前線指揮官に取らせた。
結果、ポーランドは英仏の増援部隊と共に2ヶ月にも渡って防衛線を維持する事に成功したのだった。
400 :Monolith兵:2014/06/17(火) 10:26:34
「このままいけば、もしかして第一次世界大戦のように塹壕戦になるか?」
ポーランドの状況を知った
夢幻会内部では、このような声が囁かれだしていた。実際、この時期のポーランドとソ連との戦争はどちらも攻めあぐねて膠着状態に陥っており、前大戦の西部戦線を髣髴とさせる状態であった。
「ここでシベリアを攻めたらソ連軍も降伏するのではないか?」
会合の席上で、伏見宮は陸軍の出席者に尋ねた。
「無茶言わないでください。シベリアを攻めるには戦力が少なすぎます。数千万も動員できる国に攻め入る事なんて出来るわけないでしょう。」
東条は伏見宮の無茶振りに困り顔で答えた。日本陸軍はようやく30個師団程度を保有した程度だったし、史実で2000万とも3000万とも言われるほどの動員をしたソ連軍相手に戦うには、例え100個師団あっても不可能だと考えられていた。
「ソ連軍の侵攻を跳ね除けろと言うのなら自信はありますが、ソ連に攻め入るのは自殺行為です。」
杉山も言葉を重ねて、東条を擁護した。
「いや、冗談なのだが…。」
流石に伏見宮も本気でソ連軍を相手に勝てるとは思ってはいなかった。
「だが、攻め入る様子を見せてソ連軍を牽制する必要はあるだろう?」
「はい。来月には満ソ連国境付近で大規模な軍事演習を行う予定です。合計で10個師団の軍事演習ですので、流石のソ連軍も警戒すると思われます。また、奉天軍と在中米軍の一部も演習に参加しますので、ソ連軍の牽制には十分以上の効果があると思われます。」
「うむ。できるだけ米軍や奉天軍とは連携してソ連に当たってもらいたい。」
「はい。」
日本の役割は極東地域のソ連の戦力を出来るだけヨーロッパ方面に向けないように牽制することだった。少なくともヨーロッパ方面で反撃の体制が取れるまでは、日本はソ連に攻撃を仕掛ける事は能力的にも政治的にも出来なかった。
「それで、ポーランド軍は善戦しているようですが、後どれくらい持ちそうですか?」
近衛は永田に尋ねた。永田もこれまで集めた情報を分析した結果を報告する。
「最低でも後2ヶ月は持ちこたえる事は出来ると思われます。英仏は手元にある兵器弾薬をポーランドに持ち込みましたが、それによって在庫が尽きました。現在の物資の消費速度ですと、2ヶ月ほどで尽きると思われます。英仏も兵器や弾薬の増産を急いでいますが、ポーランド戦で必要とする物資を賄えるようになるのは最低でも半年先になると思われます。」
401 :Monolith兵:2014/06/17(火) 10:27:09
それを聞いて、会合の出席者たちは顔をしかめた。ポーランド軍が持ち直し、ソ連軍の攻撃を跳ね除けたと思ったら、再びポーランド軍崩壊の危機が迫ってきているのである。
「日本からの増援は間に合いませんか?」
「第1陣の1個旅団は間に合うでしょうが、第2陣は確実に間に合いません。空母の到着で制空権は確保できる可能性はありますが、弾薬不足を補えるほどのものではないと考えています。」
日本は1個混成旅団と空母を主力とした艦隊を派遣していたが、それが欧州に到着するのは年末の予定だった。兵器弾薬も持って行っていたが、それらが到着する前に戦線が崩壊する可能性の方が高かった。
「ポーランドは滅ぶ。それは元から考えられていたことだ。では、その後にどうするかが重要だ。」
「おそらくソ連はポーランドに征服後、傀儡政権こそが正統な政府であると認めろと連合国に要求するでしょう。現状ですと、英仏はこれを認めないと思われます。つまり、ポーランド戦役から第2次世界大戦となる可能性が高いです。」
「英仏が戦時体制に移行できるのは1年かかると思われます。ドイツも同じくらいの時間がかかるでしょう。我が国は事前の準備のおかげで、それより早く移行出来ますが、満州に軍を貼り付けておかないといけないので、欧州戦線には直接寄与する事は出来ません。つまり、ソ連がどれだけ早く戦時体制に移行できるかが鍵になります。」
陸軍側の出席者たちの話を聞いた近衛は田中に視線を向けた。ひとつ頷いた田中は口を開き、ソ連の現状を報告し始めた。
「ソ連は既に戦時体制に移行しつつあります。我が国による経済攻撃によって甚大な被害を受けたとは言え、それでも他の列強と遜色ない工業力を有していると思われます。その為、ポーランド征服後はすぐさま次の行動を起こす可能性が高いです。」
「やはり北欧ですか?」
「その可能性が高いです。トルコはドイツと我が国による支援によってかなりの戦力を要しています。また、イギリスがトルコと接触している事を確認しました。おそらく、トルコが攻められる事になれば中東の英軍がトルコ救援に駆けつける事になると思われます。」
日本は対ソ戦略からトルコに支援を行っていた。92式軽戦車
シリーズや重砲、土木機械などを輸出しており、ソ連国境付近にはかなり強固な陣地が出来つつあった。またドイツも戦闘機や火砲や重火器類を輸出しており、ソ連の侵攻にポーランド以上に粘れるはずだった。
「となると、トルコの支援はドイツと協議の上で引き続き行いつつ、北欧の支援を加速しなければならないか。」
「それについてですが、ドイツにフィンランド支援の協力を求めてはどうでしょうか?」
辻の提案に出席者たちは驚いた。
「あの辻がドイツの得になる事を言っただと…。」
「あなたは私を何だと思っているのですか。それに、これは日本にも利益があるのですよ?」
そう言って、辻はドイツによるフィンランド支援がいに日本に得になるかを説明した。
ドイツ経済を建て直す手伝いをしている辻であったが、勿論貰うものは貰っていた。それは株券であったり債権であったり、技術や特許であったり。
そのドイツではポーランド戦の戦訓から、多くの兵器が旧式化していた。だが、その殆どは使いようによってはまだまだ現役になるものもあった。
それらをフィンランドへ輸出しようと言うのである。
「その輸出には日本企業と業務提携している企業を使います。ドイツは旧式兵器を売却できて代金を得られる。フィンランドは貴重な戦車や大砲を得られる。ウィンウィンの関係ですよ。」
なんとドイツの旧式兵器をフィンランドへ輸出する事で、日本も利益が生まれると言うのだ。いつの間に、と出席者たちは思ったが、日本が持つ旧式兵器も少なかったので渡りに船でもあった。
「ではそういうことで。」
そうして、フィンランドの大地で97式中戦車と92式軽戦車がⅢ号戦車、Ⅱ号戦車、Ⅰ号戦車とともに戦うことが決定した。
402 :Monolith兵:2014/06/17(火) 10:27:41
さて、必死の抵抗を続けるポーランド軍では英仏の支援が続々と届いていたが、その中にはドイツ製の兵器も含まれていた。これらはオランダ経由でポーランドに輸出されたもので、その中には8.8cmFlaK18/36も含まれていた。これはスペイン内戦での戦訓もあったが、日本教導団の一木清直中佐が提出したこの対空砲を使った対戦車戦術に興味を持ったドイツ軍が、戦訓の収集もかねてポーランド支援のために輸出したのだ。
そして、一木中佐の考え通り(実際は史実知識)Flak18/36は対戦車戦闘で大活躍をしたのだった。
「すげえ。ソ連の重戦車が一発で吹き飛んだぞ。」
「これを最初から使っていれば…。」
ポーランド軍の兵士たちは絶大な威力を誇るFlaK18/36を見て士気をあげていた。実はポーランド軍にもFlaK18は少数だが存在したが、それらは全て対空砲として使っており対戦車砲としては使っていなかった。国境防衛線が破られた際に、殆どのFlaK18は放棄されてしまった。
そのようにポーランド軍がソ連軍に対して善戦している傍らで、英仏支援軍はソ連軍に大して果敢に攻撃していた。
「くそっ!何だあのデカ物は!こちらの攻撃が全然効いていないじゃないか!!」
「3号車がやられた!一発で吹き飛んだぞ!」
英仏の戦車部隊は防衛線を突破しようとするソ連軍戦車を撃破しようとしたが、逆に撃破されてしまっていた。T-28とT-35は装甲圧はKV-1ほどではなかったが、それでも英仏の戦車砲を弾くことは造作なかった。逆に、ソ連戦車の76.2mm砲は英仏戦車の装甲を易々と貫き、ほぼ一方的な展開になっていた。
その窮地を救ったのがポーランド軍のFlaK18/36や、少数ながら残っていた57mm砲搭載の97式中戦車だったでは、どちらが救援に来たのか解らなかった。
「こんな戦車作りやがって!上層部の馬鹿は何考えてやるんだ!」
あるフランスの戦車兵はそう言って上層部の無能を恨んだ。
一方、フランス軍ほど打ちのめされていなかったイギリス軍だったが、こちらも雰囲気は暗かった。
「確かにある程度はソ連戦車の攻撃は防げる。だが、こっちの攻撃は全く効かないんだぞ!しかも戦闘が長引けば敵の重戦車が出てきてしまう。そうなれば終わりだ。」
イギリス軍はマチルダ戦車こそ及第点を取れていたが、それ以外の戦車は殆どが破壊か撃破されてしまっていた。唯一ソ連戦車と渡り合えたマチルダ戦車も、KV-1や野砲による徹甲弾の攻撃によって次々と撃破されていった。
撤退を決意したものの、重戦車に包囲されてしまい、そこから抜け出すのに更に被害を出してしまい、イギリス軍は手持ちの戦車の殆どを喪失してしまったのだ。もっとも、ただの的でしかなかったフランス軍と比べると遥かにマシだったのだが、それは慰めにもならなかった。
403 :Monolith兵:2014/06/17(火) 10:28:45
一方で、支援部隊の中でもソ連軍を次々と撃破していく部隊もあった。
「6時、敵戦車、距離900!」
「照準よし!」
「撃てぇ!」
車長の命令で76.2mm砲が火を噴いた。砲弾は見事KV-1に命中し大きな爆発音が辺りに響いた。
「1両撃破!次に行くぞ!って、9時方向に敵新手!」
「了解。」
次々とソ連戦車や装甲車を葬っていく戦車の側面には、赤い円とその下に狐娘の萌絵が描かれていた。そう、日本の戦車だ。
「おい、9時方向に敵3両だ。岩陰や戦車の残骸に隠れながら側面に回りこむぞ。」
「はい!」
97式戦車の陰から兵士がパンツァーファウストを抱えて飛び出してきた。彼らは敵戦車の死角をつきながら移動し、敵戦車の側面につくことに成功する。
その時轟音が轟き、敵戦車のうち1両が爆発した。残りの戦車は主砲を発射して進む。砲弾は97式中戦車に命中したが弾かれ、再び97式中戦車が火を噴いた。そして、2両目が爆発する。
彼らは敵戦車がすぐ近くを移動して行くのを息を潜めてやり過ごした後、敵戦車の背面に向かってパンツァーファウストを撃ちこんだ。
「よし!1両撃破!」
そう言って喜んだ兵士たちの顔はどう見ても東洋人のそれではなかった。帽子から見え隠れする髪も茶色だったり赤色だったり金色だったりと、日本人ではありえない色をしていた。そう、彼らは日の丸を掲げてはいるが、日本人ではなく、ドイツ人なのだ。
「しかし、遣欧軍の司令部作りの為にポーランド入りしたと思ったら師団を率いてポーランド軍を支援せよ、だからなぁ。訳が解らなかったよ。」
指揮車両にて宮崎繁三郎少将はエルヴィン・ロンメル少将や西竹一少佐などの幕僚を相手に談笑をしていた。既に戦闘は終了し、部隊は防衛線の内側に撤収していた。
「私も同じです。ドイツ軍と共に、ポーランド軍を支援せよ、ですからね。」
「まあ、やりたい事はわかる。ポーランドと我がドイツはダンツィヒを巡って微妙な感情のしこりが残っているからな。それを考えれば、日本軍に義勇軍を派遣するというのも頷ける。…ただし、部隊の殆どがドイツ軍だと言う事を除けばだが。」
ロンメルの言うとおり、ポーランド入りした”日本軍”の将兵の殆どがドイツ軍で占められていた。いや、トップと幕僚の幾人か、そして何とか編成した1個戦車中隊以外は全てドイツ軍人だった。なんと師団の99%がドイツ軍人だと言うのだから、ロンメルがため息混じりに愚痴を言うのも頷けるものだった。
「それをいったら、私は師団長なのにやってるのは案山子ですよ?実際の指揮はロンメル少将がされていますし、私が動かせる兵は実質ゼロなんですよ?それで師団長を名乗れなんて・・・。」
「いや、失礼した。私の立場もなんだが、貴官の立場も難しいものがあるのだったな。」
ロンメルの謝罪を宮崎は頷いて受け入れた。
これまでの会話から解るように、ドイツは日本軍に義勇軍を出し最低限の支援を行い、日本は1個師団をポーランドに派遣したと言う実績を残すことが出来るという取引が行われたのだった。実際に日本は遣欧軍がポーランド戦終結以前に到着するか微妙だったし、ドイツは両国間の関係から義勇軍を出すことは難しかった。
ドイツはまだ軍備が整っておらず、史実では150個師団以上編成している時期にまだ80個師団程度しか編成出来ていなかった。また兵器の充足率も何とか8割を越えた辺りで、ポーランド国境線を守る部隊に優先的に配備された結果、小銃だけしかない師団と言うのも実際に存在していたのだから、憂鬱ドイツの軍拡がどれほど遅いかわかるだろう。
よって、ドイツは対ソ連戦に参戦するのに現在は消極的だった。だが、ソ連に攻められるのは確実で、単独で戦う事が論外な以上、連合国入りしか残された道はなかった。
だが、それをすればドイツ軍が矢面に立たなくてはならない。軍備の心もとない現在は中立国として振る舞い、軍備が整ってから参戦するのが、ドイツの基本方針であり、連合国の盟主イギリスもそれは承知していた。
そして、軍備が整うまでの時間を稼ぐためにも、ドイツは派兵を決意した。その数は少なかったが、十分な装備と補給によって、連合国にとって有力な戦力になっていた。何と言っても、あのソ連戦車と対等以上に戦える戦車を唯一持つ部隊なのだ。
彼らの奮戦もあって、ポーランド国民のドイツへの感情もかなり改善されており、ポーランドへの直接派兵もそのうち可能だろうと、ドイツ首脳部では考えられていた。
404 :Monolith兵:2014/06/17(火) 10:29:22
「しかし、97j(97式中戦車のドイツ呼称)は凄いな。導入して正解だったな。」
「陸軍大国のドイツ軍人に言われるのはうれしいですな。」
「ですが、我々も多くの事を学ばしていただきました。」
宮崎と西はロンメルに戦車を褒められて笑顔になった。ロンメルらドイツ軍人に97式中戦車の操縦や戦闘訓練を行ったのは彼らだった。だが、彼らはすぐさまその技術を自分たちのものにしてしまった。それどころか、戦車を用いた新たな戦術を作り出し、逆に宮崎らが学ぶ場面も多々あったのだ。
(彼らに戦車の性能では勝っているかもしれないが、戦車の運用ではまだ及ばない。)
彼らは陸軍大国ドイツの底力を思い知り、少しでも多くの物を持って帰ろうと多いに学んだ。そうして、互いに師匠であり弟子であるという奇妙な関係が生まれる事になるのだった。
「戦闘では全戦全勝だが、全体で見れば負け始めている。このまま続けば、いずれポーランドは消えて無くなるだろう。そうなると、ドイツは強大なソ連と国境を接してしまう。それは避けなければならない。今のドイツではソ連相手には戦えない。」
「どうにか年末まで持ちこたえれば遣欧軍が到着します。それに英仏も追加の支援部隊を出すでしょう。ドイツが軍備を整えるまで時間は稼げるはずです。」
「だと言いがな・・・。」
宮崎はロンメルを励ましたが、ロンメルから不安が消え去る事はなかった。そして、ロンメルの不安は的中する事になる。
11月下旬、ソ連は国内から集めた大量の戦車や火砲、兵士を投入してヴィスワーブク川の防衛線を突破するべく大攻勢に出た。その数は優に100万を超え、開発されたばかりのT-100戦車の増加試作などまでをも投入した、まさしく全てをかけた大攻勢だった。
その大攻勢に、ポーランド軍は連合軍は耐える事は出来なかった。個々の戦いでは97式中戦車が多くの戦車を破壊し、大砲はソ連兵を吹き飛ばし、機関銃はソ連兵をなぎ倒した。
また、ポーランド騎兵は敵の背後に進出して、兵站や連絡線を破壊してソ連軍の戦闘能力を殺ぎ落とした。ある騎兵部隊はソ連歩兵の列に装甲車や自走速射砲による支援攻撃の元騎兵突撃をしかけ、壊走させたりもした。
だが、そのような勝利では全体の戦況を覆す事は出来なかった。戦線が突破されては押し返し、疲労と消耗が激しくなる中で、とうとう防衛線は崩壊した。
そこからの出来事は悲惨の一言だった。各部隊は膨大なソ連軍によって各地で分断され各個撃破され、後退しようとした部隊には装甲車両が追撃を仕掛けた。ワルシャワに立てこもった一部の部隊は、街が廃墟になるまで砲撃を打ち込まれた挙句に、激しい空爆に晒されて街ごと消滅した。僅かに生き残った将兵も即決裁判で銃殺されたという。
防衛線が崩壊する前に政府機能は西部の都市ポズナンに移転しており、連合軍はオーデル川で防衛線を構築しようとするも、既に重火器類は破壊されるか放棄されており、まともな抵抗は出来そうにもなかった。
そのような中、12月に入ったばかりのある日、ドイツ軍はとうとうポーランド国境を踏み越える事になる。
そして、第2次世界大戦の序章、ポーランド戦は終局へと向かっていくのだった。
最終更新:2014年06月18日 19:41