880 :Monolith兵:2014/06/26(木) 03:10:37
ネタSS「
憂鬱日本欧州大戦 -筆ひげの野望③-」
ここで一度時間をさかのぼる。
ポーランドとソ連との戦争は一時期膠着状態に陥ったが、ソ連軍の形振り構わぬ力押しによってポーランドの防衛線は崩される事になった。この頃には、既に連合軍もその戦力を大きくすり減らしており、緒戦で連合軍の戦車部隊は壊滅したが、主力である歩兵部隊も防衛線での攻防によって大きく損害を受けていた。
だが、それ以上の損害と消耗を受けていたのは当然ながらポーランド軍であった。主力部隊は緒戦でソ連軍の攻勢を跳ね除けるのと引き換えに消滅し、英仏の支援で息を吹き返したものの既に限界だった。
この時点でのポーランド軍の主戦力は、予備役で編成された歩兵師団と英仏の支援によって編成できた砲兵連隊、ポーランド軍自慢の騎兵旅団であった。騎兵旅団は名前こそ騎兵であったが、実質は軽装甲旅団だった。しかし、度重なる損耗によって、11月の中旬ごろにはほぼ装甲車両は消滅していた。
そして、11月下旬のソ連軍の総攻撃によってヴィスワーブク川防衛線が崩壊してから、ポーランド及び連合軍は撤退を開始する。その殿には、ポーランド軍に残った数少ない装甲車両をかき集めて再編成した第10騎兵旅団と、日本軍及びドイツ義勇軍が当たる事になった。
「いくら97jが強力とは言え、これは厳しいな。まあ、やれるだけやってやろう。」
ロンメルはそう軽く言うと、指揮車両に乗り込み進撃してくるソ連軍を徹底した機動戦で迎え撃った。ソ連軍の多砲塔戦車や重戦車はその重さから速度はかなり遅く、97式中戦車が主力であるロンメル師団(実際はまだ前任者の名前であるケンプフのままだったが)は速力・火力・防御力の全てでソ連戦車を上回っていた。
その中でロンメルが最も注目したのは速力、機動力であった。
「敵戦車は足が遅い。機動力を活かして敵をかく乱せよ!攻撃したらすぐに離脱し、追って来た戦車を各個撃破せよ!」
ロンメルはソ連軍が戦車を先頭にして進撃する事を逆手にとって、戦車に損害を与えて行軍速度を遅らせようとしたのだ。攻撃しては後退し、追撃してきた戦車を再び攻撃した。そして開いた隙間から戦車を突入させ、次々と敵戦車を撃破していった。
「とにかく多くの戦車を攻撃しろ。完全に破壊できなくてもいい。敵の進軍速度を遅らせるのだ!」
「決して足を止めるな。正面はともかく、側面に重戦車の攻撃を食らえば損傷するぞ。足の速さを活かして敵に損害を与えるのだ!」
そうしたロンメル師団の奮闘を見て、ポーランド第10騎兵旅団も奮戦した。
「赤い悪魔共め!今まで散々叩いてくれた礼をたっぷり返してやる!」
そう言ってスタニスワフ・マチェク少将はポーランド陸軍最初にして最後の機甲旅団に攻撃を命令した。第10騎兵旅団は、ドイツ義勇軍の奮闘を見たポーランド陸軍が残った装甲車両をかき集めて作った機甲旅団であった。とはいえ、ポーランド軍の装甲車両は緒戦とヴィスワーブク川防衛線でほぼ撃破されてしまった為、その数は少なかった。カーデンロイド系のTK豆戦車や7TPが僅かに残っていたが、7.92mm機関銃や非力な37mm砲が主砲であったので、対戦車戦闘には心もとなかった。
そこで、フランスから持ち込まれたオチキス25mm軽対戦車砲を豆戦車に溶接して即席の対戦車自走砲とした。
また、フランスから購入していたルノーR35軽戦車50両がヴィスワーブク川防衛戦の最中に到着していた。防衛戦での消耗で数は半数に減少したため、ポーランド唯一の機甲旅団の有する戦車は僅かに60両ほどであった。その中には、日本から輸入された97式中戦車(57mm砲Ver)も3両だけだが含まれていた。
881 :Monolith兵:2014/06/26(木) 03:11:47
さて、そうしてポーランドとドイツの機甲部隊がソ連軍相手に奮戦している頃、イギリスのロンドンでは日英仏独波の首脳や外相らが集まって会談を行っていた。
「まずは今回集まっていただいた事に礼を言わせてもらいたい。」
そう言って、会談の始めにチェンバレンは集まった首脳たちに礼を言った。各国の代表者たちはそれに頷いて答える。
「今回諸君に集まってもらったのは他でもない。現在続いているポーランドソ連間の戦争についてだ。現状、戦況は余り芳しくない。」
チェンバレンはそう言うとポーランド大統領イグナツィ・モシチツキに視線を向けた。
「我が国は英仏日独の支援もありこれまでソ連相手に戦うことが出来た。この場を持って礼を言いたい。ありがとう。
しかし、現在の戦況は我が国に余りにも不利です。恐らく来年には我が国は存在しないでしょう。幸い我が国には多くの友邦がおり、イギリスで亡命政権が皆様方の支援で自由ポーランド軍の設立が進められています。」
そこでモシチツキはドイツ総統アデェナウァーに視線を向けた。
「ドイツの協力もあり、各地で孤立した部隊も敵地より脱出することが出来ましたが、もはや我が国の敗戦は目前です。そこで、皆様方に伺いたい。我が国が事実上消滅した後も戦い続けてくれるのか?と。」
モシチツキの言葉にアデェナウァーは腕を組んで考え込んだ。モシチツキはドイツにポーランド側に、連合軍として参戦する気があるのかと聞いてきたのだ。これまでのドイツ義勇軍の活躍やポーランドへの各種支援のお陰で、ポーランドの対独感情はかなり改善できていると断言で来た。
しかし、だからと言って連合軍にすぐさま加入できるわけではない。連合国各国はドイツの加入を待っているだろうが、肝心のドイツが戦争が出来る状態ではないのだ
「我が国はまだ戦争が出来る状態では・・・。」
「それを言ったら英仏もそうだ!だが、彼らは対ソ戦争に血を流した!日本も欧州とは遠く離れているにも関わらず援軍を送ってくれている!だというのに、ドイツは義勇軍だけで終わらそうと言うのか!!」
「今ドイツが連合国入りしたらソ連はドイツになだれ込む!ドイツがソ連と叩ける体制に入るまで1年はかかるんだ!それ以前に戦端を開いたらドイツは実力を出すまもなくソ連に蹂躙される可能性があるんだ!」
モシチツキの言葉にアデェナウァーが反論する。ドイツのみならず、イギリスもフランスも戦時体制に移行できるのは1年以上後だった。対ソ連戦の最前線に立つ事になるドイツとしては万全の準備をした後に連合国入りするのが最善の道だった。
「ドイツのために我が国が…「止めなさい!」…チャーチル卿…。」
モシチツキがアデェナウァーに更に悪罵を言う前にチャーチルが彼を止めた。
「整理すると、ドイツが参戦するには準備が足りない、と言うことですな?」
「その通りです。」
チャーチルの確認するような問いにアデェナウァーは頷いた。
「つまり、ドイツは戦争準備に必要な時間さえ得られれば連合国入りしてもいいと?」
「はい。」
「ふむ。」
再度の問答にアデェナウァーが肯定した事で、チャーチルはひとつ大きく頷いた。
882 :Monolith兵:2014/06/26(木) 03:12:18
「何か策があるのですか?」
これまで会議を眺めているだけだった日本外相がチャーチルに尋ねた。
「うむ。これまでソ連はドイツ領内には侵入していない。東プロイセンという美味しそうな餌があるというのにだ。これから、ソ連はドイツの参戦を恐れているのではないかと考えた。」
「一理あります。ドイツ領経由で国外に脱出した将兵はかなりいますから。」
モシチツキがチャーチルの推論に同意する。ポーランド各地で孤立した部隊はドイツ領やその友好国や中立国を経由して英仏に亡命していた。そのおかげで自由ポーランド軍は着々と戦力を増強していたのだった。
「ならば、これ以上のソ連の侵攻を防ぐためにはポーランドにドイツ軍が進駐すればよいのではないかと考えた。」
「お待ちください!先ほども言いましたとおり、我が国は戦争が…。」
「解っている。よって、ドイツは対ソ戦争には関与しない。あくまでドイツとポーランドの2カ国の問題とするのだ。…具体的にはドイツによるポーランド西部の保障占領だ。」
チャーチルが出した言葉で会議室は一瞬静まり返った。
保障占領。それは国際協定の実行を保障する担保としての占領の事を指す。保障占領においては軍政はひかれず、現地の行政機関を通じての間接統治が行われる。
「それは…我が国をドイツが侵略すると言うことですか?」
モシチツキは据わった目でチャーチルを睨んだ。それを大して気にした風もなく、チャーチルは答える。
「どちらにしろ、ポーランド本国はソ連に占領される。ソ連による虐殺と悪政に恐怖するか、ドイツによる事実上のポーランドの存続を望むか、全ては貴国の判断だ。」
アデェナウァーは余りにも思い切った手札に開いた口が塞がらなかった。確かに、ドイツとポーランドの間にはダンチツィヒ回廊と言う外交問題が存在した。これを利用してポーランドをドイツが保護せよと言うのだ。この策はソ連がドイツ参戦を恐れていると言う一点を除けば、かなりの大博打であった。
「それでソ連は引き下がるでしょうか?」
「ドイツが参戦すれば連合国はドイツの港が使えるようになる。またドイツ国内の移動も容易となる。そうなれば劣勢になるのはソ連だ。ドイツはソ連と将来において連合国側として全面対決する事になるが、かなりの時間を稼げるだろうと考えている。また、まだソ連はまだオーデル川の防衛戦には到達していない。決断するなら今しかない!」
ここに至ってアデェナウァーの腹は据わった。元々ソ連とドイツの衝突は防ぎようがないのだ。ならば、多くの味方を付ける事ができる道を選ぶべきだと考えたのだ。
「解りました。ポーランドが了承するならば、軍を進駐させます。ただ、現状で我が軍はそれほど軍備が整っていません。そこで、独仏国境の部隊を東部に振り向けたいと思います。」
「…いいでしょう。仏独国境の部隊は引かせましょう。」
フランス大統領アルベール・ルブランは憮然とした表情ながら了承した。彼としてはドイツの事を完全に信用したわけではなかったが、状況が状況である。一国でも多く味方を増やすためには我慢も必要だと自分に言い聞かせていた。それと同時に突拍子もない策を提案したイギリスに対して憤慨もしていたが。
「それで、モシチツキ大統領。いかがですかな?」
「…ドイツによるダンツィヒ回廊の進駐を…認めます…。」
途切れ途切れながら、モシチツキはポーランド第2共和国最後の大統領として、母国の終焉を宣言した。
883 :Monolith兵:2014/06/26(木) 03:12:49
そして、12月5日。ドイツはポーランド国境を越えた。
多数の戦車とトラック、歩兵が移動していく姿を見ながら、ポーランドドイツ国境を守備していた部隊の都市若い兵士は涙を流していた。彼は第1次世界大戦以後に生まれた為に、ドイツとロシアに支配されていた時代のポーランドを知らなかった。
「もう…ポーランドは終わりなんですか?」
若い兵士の言葉に年かさの曹長は眉間にしわを寄せながらも、優しく彼に答えた。
「まだ終わったわけじゃない。ポーランドが生き残るためには必要な事なんだ。むしろ、これからが大変だぞ?」
そう言って軍曹は大きな笑い声をあげた。泣いていた若い兵士はそんな軍曹を見て不思議そうな顔をしていた。
「これから俺たちは自由ポーランド軍かドイツ軍として、あの侵略者相手に戦う事になるんだぞ?本当の戦争はこれからだって事さ。」
そういうと軍曹はタバコを取り出し火をつけて吸い始めた。
(ただ、ソ連に勝ったとしてもドイツから独立できるかどうかは未知数だがな。それはお偉いさんに期待するしかないか…。)
そのような会話が国境線で交わされている間も、ドイツ軍はポーランドの協力もあり順調に進駐を進めていた。ポーランドの鉄道網はかなり発達しており、そのお陰でドイツ軍はポーランドへ部隊と資材を運び込むことが比較的順調に出来ていた。なによりもポーランドの政府軍の協力があるのが大きかった。
「この分だと、年末までには防衛戦を構築することが出来そうです。」
ブラウヒッチュ陸軍総司令官は、アデェナウァーに進駐の進捗状況を報告していた。
「もしソ連がドイツに宣戦布告してきたときの備えはどうだ?」
「東プロイセンの陣地はかなり強固になっています。またダンツィヒ回廊の陣地構築も予想よりかなり進んでおり、ソ連軍の攻撃に耐え切ることが可能と思われます。最悪の場合国境線で防衛する事になりますが、その場合連合国の支援が考えられますし、97jや新型戦車(Ⅲ号Ⅳ号突撃戦車)の量産体制が整うでしょうから優位に立てるでしょう。」
「空軍は?」
「空軍は新型戦闘機(Bf109,Fw190)の量産体制が整いましたので、少なくともドイツ領内での制空権は確保できます。また、現在のソ連の航空機の戦力を考えますと、ダンツィヒ回廊でも我が国が有利かと思われます。」
陸空軍の責任者が防衛体制が万全だと説明すると、アデェナウァーは満足げに頷いた。しかし、空軍はともかく陸軍はかなり厳しい状況であった。12月に入るとドイツ陸軍はようやく100個師団を有するに至ったが、その半数は充足率8割であり、10個師団ほどが未だ訓練途上で小銃はともかく機関銃にすら事欠く有様だった。
だがそれでも政治が求めた結果、装備が整った部隊を再編成してポーランドに送ったのだ。なおこの時期、97式中戦車を有する機甲師団は僅か2個師団であり、旧来の戦車を保有する機甲師団が4個存在していた。ロンメル師団がポーランドへ義勇軍として派遣されているため、ドイツに存在する機甲師団は実質5個であった。
幸い独仏国境の防衛が不要になったため、第一線部隊を全てポーランド進駐に振り向ける事が出来たので、ポーランド進駐は予想以上のスピードで進んでいた。
884 :Monolith兵:2014/06/26(木) 03:13:22
そして、12月21日。ドイツ軍によるポーランド進駐が完了した。
ポズナンに移転したポーランド政府は、ドイツ軍進駐が完了した事を知らせる知らせが届き、モシチツキ大統領はそれに頷いた。
暫くしてドイツ政府からの外交官が訪れ、ポーランドの保障占領が完了し、以後ポーランドはドイツの占領下に置かれることを宣言した。
「…ポーランドがドイツの占領下に置かれた事を認めます。…ヴワディスワフ、ポーランド憲法において、君を次のポーランド共和国大統領に指名する。受けてくれるな?」
「解りました。」
「君にはこれよりイギリスに飛んでもらう。そこで自由ポーランドを纏めてほしい。頼む。」
「閣下は…どうするのですか?」
「私はここに残り、最後まで指揮を執る。なぁに、心配するな。いつの日か君にポーランド大統領の座を帰してもらえる日が来るさ。…さあ、行きなさい。」
モシチツキ元大統領はラチュキェヴィチが一礼して去っていくのを目に焼き付けた。いつの日か、彼がここに戻りポーランドの再興を宣言する事を願いながら。
12月25日、ワルシャワを包囲する部隊を残し、進軍してきたソ連軍はオーデル川の向こう側に強固な防御陣地とドイツ国旗、そしてドイツ軍を確認した。その事はすぐさま司令部へもたらされ、スターリンの知るところとなった。
「ドイツがポーランドにいるだと!奴らは中立ではなかったのか!!」
「ドイツは、あくまでポーランドとの間の外交問題を解決する手段としての保障占領である、という姿勢を崩していません。」
「してやられた!ドイツを攻撃すれば自動的に連合国になる。そうなれば仏独軍がなだれ込んでくるぞ!!ただ出さえ制海権を奪われた上に、制空権もこちらが不利だというのに!?」
モトロフの報告にスターリンは怒り狂った。それにモトロフは恐れ戦いたが、それでも自分の責務を果たすべくスターリンに進言した。
「ドイツは我が国に宣戦布告していません。」
「…これはドイツからの政治的メッセージだと言うのか?…確かにそうだろうな。あの髭よりもやり難い奴がドイツ大統領となるとは、不覚だ。…ここが引き時というわけか。連合国と講和するべきかもしれんな。」
「では講和を打診します。」
「ドイツと戦うには我が国の軍備はまだ整っていない。出来るだけドイツの参戦を遅らせるのだ!」
そうして、ソ連は連合軍に講和を提案する事になるのだが、イギリスにはふざけるなと叩き返され、戦争継続はと反戦派との間に挟まれたフランスはまともな受け答えが出来ず、日本は黙殺した。そしてドイツは着々と軍拡を進め、連合軍の一翼となるための準備を進めていた。
そして、1939年12月25日から第2次世界大戦はまやかし戦争と呼ばれる奇妙な平和な期間が続く事になる。それが嵐の前の静けさと知りつつ、各国は戦争の準備を黙々と続けていくのであった。
おわり
最終更新:2014年06月26日 23:09