24 :Monolith兵:2014/07/08(火) 20:38:53
ネタSS「憂鬱日本欧州大戦 -髭凍る戦場-」


 第2次世界大戦が始まり約1年、欧州はまだファニーウォーが続いていた。
 ソ連側も連合国側も戦争準備を進めていたために、積極的な攻勢は行わずにいたために、また連合国とソ連との間にはドイツが存在したために、陸上での大規模な戦闘は1940年に入って以降起きていなかった。ドイツが連合国側である事はソ連も理解していたが、未だ中立国である事を利用して、戦力を増強していた。

 さて、そんな状況であるから、独ソ国境では互いに強固な陣地が築かれており、容易には突破できない状態であった。連合国はそのことから、日本からの情報も合わせてドイツ侵攻も含め3つの侵攻ルートを想定していた。なお、この次期には連合国各国は、日本がソ連に大規模な諜報網を持っている事に気づいていた。

 1つ目は、ドイツ国境を突破しフランスまで侵攻してイギリスを孤立させるという案である。ただ、これをするにはソ連もただでは済ま無いために、最も可能性が低いと見られていた。しかし、ポーランド戦での経緯を見るに損害を無視して進撃するソ連軍の姿から、可能性は除外できなかった。

 2つ目は、バルカン半島沿いに侵攻してドイツを半包囲して侵攻するルートである。だが、これも途中には多数の国がありその抵抗が予想される上に要害が多く、可能性は低いと見られていた。また、トルコ国境にも接するために、トルコの参戦を促す可能性もあった。

 三つ目は、スカンジナビア半島を侵攻するルートである。スカンジナビア半島は要害が少なく、軍備も弱い国が多かった。
 また、ソ連は元々フィンランドを敵国と名指ししており、侵攻する可能性は高いと見ていた。スカンジナビア半島とデンマークとの間にはエーレ海峡、大ベルト海峡、小ベルト海峡が存在したが、いずれも幅は狭く、最も広い海峡である大ベルト海峡でも16kmしかなく、冬季には凍結するので渡海は容易だった。
 渡海の際に問題になる制海権についても、狭い海峡内では大型艦の行動は制限されるため、魚雷艇や重砲、航空機による支援で十分ではないか、と連合国では考えられていた。

 連合軍ではこのスカンジナビアルートを本命と見て、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークに連合国への加盟を求めたが、デンマークは兎も角、残りの3ヶ国はソ連を刺激して侵攻されてはたまらないと拒否した。それでも、何とか協議を重ね、ソ連に侵攻された場合のみ連合国に加盟すると言う秘密条約を結ぶ事に成功した。
 なお、これと同様の秘密条約は東欧諸国やトルコなどとも結んであり、陰謀好きな連合国の盟主の存在感はますます増していた。

25 :Monolith兵:2014/07/08(火) 20:39:49
 そんな中、1940年11月30日、ソ連はとうとう動いた。それも連合国が本命と見ていたスカンジナビアルートだった。

「ついに動いたか。かなり早いな。」

「僅か1年で再侵攻とは、余りに早いです。連合国は準備は調いつつありますがまだ万全とは言えません。」

「1年で侵攻してくるという事は、ソ連の工業力はかなり向上している可能性があります。以前の予測では我々の方が早く準備が整うと考えられていましたが、それより早く動いた。アメリカからの支援はかなりのものである可能性があります。」

 日本は東京の某所で、夢幻会は会合を開いていた。今回ソ連がフィンランドに侵攻した事で、フィンランドは連合国入りし、連合国の各国軍は次々と連合国入りしていた。その中にはこの1年イギリスで燻っていた第一次遣欧軍の混成旅団も含まれていた。

「アメリカの支援はそれほどまでの物なのかね?」

「把握出来ているだけでも、満州にあった製鉄工場、トラクター工場、飛行機工場、鉄道車両工場、缶詰工場、被服工場などがスクラップにされた事が確認されています。また、弾薬工場が奉天軍に払い下げされた事になっていますが、確認できませんでした。他にも、アメリカからはスクラップ名目で大陸に多数の貨物船が入っている事が確認出来ています。」

「・・・なんて連中だ。自分の首を絞めている事を理解できているのか?」

 情報局長の報告で、思ったよりもアメリカによるソ連への支援が大規模な事に驚いた伏見宮だったが、日本に出来る事は高が知れていた。アメリカは中華民国との貿易を行っているのであって、ソ連とは全く関係が無いと白を切ることが出来るからだ。
 更に追求しようものなら、アメリカにとって絶好の攻撃対象となる。ソ連と戦争をしながら(睨み合いだが)、アメリカとも戦争をするのは史実以上の悲劇を生むのは間違いなかった。
 故に、日本はアメリカに対して強硬な姿勢を見せる事は出来なかった。

「それは理解していると思われます。最近は大陸入りする船も少なくなっており、対ソ支援はほぼ終了したと考えられます。これはロングが大統領選挙で負けたことが関係すると思われます。」

 アメリカでは大統領選挙によってロングが大統領選挙で敗北し、共和党のウィンデル・L・ウィルキーが当選していた。ジョン・L・ガーナーは民主党から立候補していたが、軍需バブル崩壊を招いた民主党は敬遠されており、経済界に知己の多いウィルキーが当選したのだった。経済界も、自分たちと繋がりの強いウィルキーを積極的に支援した。
 ウィルキーは熱心な反共主義者として知れており、選挙戦では積極的な連合国支持と支援を表明し、国防予算の増額、徴兵制の導入を主張した。
 イギリスは何を今更という態度であったが、フランスは一度キャンセルした兵器などの発注を再びするべきかどうかで揺れており、それがウィルキーの支持に繋がっていた。

「今度の大統領はまだまともそうですね。対日戦争は諦めて、連合側としての参戦を考えているのかもしれません。」

「ですが、イギリスはアメリカの事を信用していない。アメリカの対ソ支援はかなりソ連を強化して、連合国を悩ませている。それに、我が国やドイツが連合国の兵器庫として機能しており、アメリカの入る余地は無いように思えるが。」

 辻の言葉に伏見宮はアメリカの連合国入りは無いだろうと答えた。
 1940年も後半に入ると、日本は戦時体制に入り、兵器の増産が進み、大量の武器弾薬が欧州へと運ばれていた。だが、一足先に戦時体制に入っているとはいっても、兵力はまだまだ不足気味であり、防衛には不安があった。

26 :Monolith兵:2014/07/08(火) 20:40:37
 また、ドイツも300万以上の大兵力を動員していたが、半数以上は軽歩兵師団であり、小銃や火砲の不足から短機関銃や迫撃砲、無反動砲だけを装備する師団も存在するという状況であった。
 ドイツは日本からの支援や、アメリカのバブル崩壊に伴う資金や生産設備の獲得、イギリスやフランスからの資源の輸入、軍需による増産に次ぐ増産により、以前よりかなり工業力が向上していたが、いまだ戦争ができる状態では無かった。

 英仏の状況はドイツ以上に悪かった。ポーランド戦で殆どの兵器の備蓄を放出し、派遣部隊の潰滅により多くの装甲車両や航空機や重火器が失われていた。それらを補充しようにも、ようやく戦時体制に移行して、量産を開始した状態であり、フランスには火器のない師団すら存在していた。

 イギリスは、小銃の不足を補うために短機関銃の量産を企図したが、出来上がったのは余りに不恰好な水道管のお化けだった。しかも多くの欠陥を抱えており、敵よりも味方を殺すほうが多いだろうと言われる始末だった。
 そこで、ドイツの使用しているMP38/40をライセンス生産する事に決定した。なお使用弾薬はドイツ軍の9mmパラベラム弾とし、ドイツから技術者を招いて新ラインを作る事になった。MP38/40はイギリス側が思っていた以上に生産性が良く、また火力があった為にイギリス軍を喜ばせた。


「ソ連が史実並みの国力と工業力を獲得していたとすれば、連合側も苦戦を免れん。最終的には連合国の勝利に終わるだろうが、復興でアメリカが1人勝ちする可能性もある。」

 ソ連がアメリカの支援によってどれほどの工業力を得ていたかは不明だったが、史実並みの工業力・国力を得ていた場合、いくら連合国と言えどもかなりの損害を覚悟しなければならなかった。
 更にはソ連の戦車や航空機の進化のスピードを速めた可能性もあり、その点でも警戒が必要だった。

「とりあえず、第2次遣欧軍を派遣します。また、更なる動員を行い、満州でソ連に圧力を加えたいと思います。」

 東条の言葉に会合の出席者は一様に頷いた。辻も苦い顔をしながらも頷いた。この1年に及ぶファニーウォーは、日本の財政を圧迫しており、早く戦争を終わらせて欲しいのが辻の本心だった。いくら戦争需要で儲けているといってもそれが長く続くのは感激できることではなかった。
 だが、どれほどソ連が強化されているか解らない今は、例え戦時国債を発行してでも対ソ戦争を続けるしかなかった。

「それから、産業界には出来るだけ増産をお願いします。現状でも厳しいのはわかっているが、我が国が生き残るには必要なのです。」

 近衛の言葉に倉崎翁と三菱の代表は頷いた。日本の兵器工場では24時間体制で増産を続けており、来年の初めには航空機や戦車の新工場も稼動する予定だった。彼ら以外の企業も生産能力の増強や新工場の建設を行っており、41年後半にはかなりの生産量が期待できた。
 そうして、日本は欧州戦線を支えるべく動き始めた。

27 :Monolith兵:2014/07/08(火) 20:41:10
 さて、ソ連との戦争に突入したフィンランドでは、フィンランド軍は撤退を続けていた。ソ連軍は180万という膨大な物量であり、フィンランド軍が相手にする事は難しかった。日独の支援で格段に強化されたとはいえ、元が小国な事から限界はあったのだ。
 連合国はフランスが30個師団に航空機約400機、イギリスが15個師団に航空機約500機、日本が1個旅団と軽空母艦載機を含め約100機を派遣し、未だ中立国のドイツもソ連と対峙する中3個師団と120機余りを派遣していた。

 一方で、空中ではフィンランドは必死で抵抗した。都市を爆撃しようとするSBやDB-3等の爆撃機にフィンランド軍の戦闘機が襲い掛かっていた。50機以上の爆撃機はフィンランドのフォッカーD21やグラディエーター、93式戦闘機などが執拗に攻撃を繰り返していた。結局ソ連軍の都市爆撃を押しとどめる事は出来なかったが、半数以上の爆撃機を撃墜する事に成功する。
 これ移行、ソ連軍は爆撃機は単独で出撃させずに戦闘機を護衛に付けたために、作戦行動半径は低下し、都市爆撃は中止された。

 このようにフィンランド空軍はソ連空軍を果敢に迎撃したが、圧倒的な物量に次第に消耗していき、12月に入る頃には稼動機が戦前の半数にまで落ち込んでいた。この頃には連合国も多数の戦力をフィンランドへ派遣しており、彼らの代わりに連合軍がフィンランドの防空を担うようになっていた。また、連合国以外にもイタリアからも義勇軍が派遣されており、フィンランド人を勇気付けた。
 ・・・派遣された当初だけだが。


「・・・おいおい、本当に帰っちまったぞ。」

「あいつら本当に何しに来たんだ?」

 イギリス兵たちが見つめる先には、隊列を組んで歩いて行くイタリア兵たちがいた。彼らはフィンランドへ義勇軍として来ていたのだが、今日撤退するる事になったのだ。

「戦闘になる前に撤退する義勇軍って意味ないだろ?」

 そう、イタリア兵たちは一度も戦闘にも参加せずに撤退していたのだ。
 イタリアのドゥーチェ事ムッソリーニは、ドイツが連合国に事実上加盟した事により、イタリアの立ち位置はこれまでになく危うくなっていると感じていた。
 そこに起きたフィンランド戦である。ここで義勇軍を派遣して、事実上の連合軍として参加し、連合国入りを目指したのだった。数少ない装甲車両を集め、兵も精鋭を選抜して一個旅団をフィンランドへ派遣した。また、空軍も自国にすら十分に配備されていない新鋭機フィアットG.50やマッキMC.200をフィンランドへ輸出し、部隊も派遣した。ムッソリーニは、これで連合国入りも夢ではないと小躍りした。

28 :Monolith兵:2014/07/08(火) 20:41:41
 だが、現実は非常だった。
 フィンランドの冬はイタリア人の考えるものより数段厳しい物で、到着してから1週間で殆どの兵士が凍傷にかかった。また、水源地さえ凍結してしまい、雪や氷をそのまま食べて体調不良になる者が続出した。こうして、イタリア義勇軍は実戦を経験するまもなく戦闘能力を失ったのだった。
 なお、流石に何もせずに撤退するのは悪いと思ったのか、装備類はフィンランドへ置いていっていた。それにより、フィンランドは貴重な重火器や航空機を手に入れる事が出来たのだった。後にイタリア製の手榴弾の不発や暴発に悩まされたりするのだが、このときの彼らは喜んでいた。

 余談だが、アメリカもフィンランドに大量の兵器や物資弾薬を輸出しており、少数だが義勇軍も派遣していたが、連合国にはほぼ無視されていた。フィンランド人も不可侵条約を結んでいるアメリカはソ連よりと見ており、対応は冷ややかであった。


「まともな防寒装備も無く義勇軍を派遣するとか、イタリア人は馬鹿なのか?」

「あれを見ていると、フランス人がまともに見えてしまうな。だが、イタリア人がいなくなった今となっては、あいつらが一番酷い装備だが・・・。」

 イギリス兵たちが話すとおり、これまではイタリア軍が一番酷い装備状況だった。だが、これからはフランス軍が最も酷い装備の軍となるのだ。
 フランスは流石にイタリアほど防寒装備が劣るということは無かった。防寒儀や温水給水車を装備し、凍傷で部隊が壊滅するということは無かった。
 だが、フランス軍が装備する戦車は相変わらずH38やR35であり、中戦車は10両ほどのD1中戦車が派遣されていただけだった。国内の政治や軍部の混乱により、新鮮車の開発が遅々として進まず、更にはフランス陸軍の重鎮モーリス・ガムランはポーランドでの敗因は現場指揮官の怠慢であると主張し、既存の戦術を変えようとはしなかった。これにより、新戦車開発計画は頓挫したのだった。
 また、空軍も既存の機体の生産を続け、新型機の開発計画は中々進んでいなかった。フィンランド上空で飛ぶ殆どの戦闘機が時速500km台だったのに対して、G.50と並んで時速400km台の低速機となるのだが、それがフランス軍パイロット達の士気を押し下げていた。


「このキャバリエならKV-1にも勝てるぜ。」

「タイプ97とかいう戦車の方がもっと強力らしいが、こいつもいいな。以前の戦車とは比べ物にならん。」

 彼らが乗る戦車はイギリスがライセンス生産したⅣ号戦車であり、キャバリエの名前を与えられていた。当初はそのままマークⅣという名前を付けられていたが、第一次大戦時の英国戦車マークⅣと区別がつかなくなる事から、キャバリエの名前が与えられたのだ。
 なお、日本から97式中戦車が輸出されていたがその数は少なく、今回の派遣軍にも1個戦車連隊ほどしか参加していなかった。

「今度は俺たちが奴らを蹂躙する番だ。」

 彼らはポーランドで地獄を見た生き残りであり、今回のフィンランド戦ではかつての借りを返すべく闘志を燃やしていた。

「おい、前進命令だ。どうやらソ連の連中がマンネルハイム線に近づきつつあるらしい。早速こいつでソ連の戦車を破壊できるぞ。」

「それはいい!」

 彼らは笑いながら戦車内へ潜りこみ、前線へと向かっていった。彼らは、この先でソ連の強力な新型戦車と出会い、苦戦する事になるのだが、神ならざる身にとっては知らないことであった。

29 :Monolith兵:2014/07/08(火) 20:42:19
 12月の中ごろになると、ソ連軍はとうとうマンネルハイム線へと到達していた。マンネルハイム線は史実では地形を利用した塹壕とトーチかだけの貧弱な陣地であったが、日本による支援と史実よりも1年遅い開戦により、かなり強固な陣地へと変貌していた。
 だが、ソ連軍180万の前にはそれも心もとなかった。

「くそっ!連中なんて数だ!」

「空軍の連中は何をしているんだ!空にいるのはソ連の飛行機ばかりじゃないか!!」

 マンネルハイム線で防衛するフィンランド軍と連合軍は劣勢だった。ただでさえ数で負けている上に、制空権さえとられていたのだ。当初は連合軍もソ連空軍相手に優勢だったが、いくら落としても減らない航空機に連合軍も航空戦力が枯渇しつつあった。
 今もDB-3が連合軍側の陣地に爆弾を降らせて、塹壕の兵士や大砲を吹き飛ばしていた。

「対空砲はどうした!?」

「先ほどの爆撃で吹き飛ばされました!対空機銃は地上部隊への支援から外せません!」

 フランス軍士官が先任下士官に尋ねるが、余りにも非常な答えが返ってきた。フランス軍はフィンランドに30個師団ほどを派遣していたが、相変わらず戦車は歩兵師団に分散配備され、対戦車砲もオチキス47mm対戦車砲を持ち込んでいたが、ソ連の戦車には余りにも非力だった。

「なんて化け物だ!75mm砲を受けてもピンピンしてやがる。」

 見慣れないソ連軍の新型戦車T-39が75mm野砲の直撃でも破壊出来ない事で、彼は毒づいた。

 ポーランド戦争で、より強力な戦車を、と言うスターリンの厳命で開発されたその戦車は、KV-1をベースにアメリカから供与された生産設備と工作機械によりKV-1よりも量産性と品質が向上していた。僅か1年で設計をした上に量産したのだが、アメリカ製の生産設備はソビエト軍の予測を大きく超え、約1000両ものT-39がこの冬戦争に投入できるほどだった。

 周りでは血の気の引いた兵が、それでも機関銃や対戦車砲を撃っているが、戦車を立てに推し進んでくるソ連軍には余り効果は出ていなかった。
 その時、戦車の1両が突然爆発を起こした。どうやら対戦車地雷を踏んだようだ。だが、他の戦車は構わずに前進してくる。

「敵の攻撃を防ぎきれない!増援を求める。」

『現在全域でソ連軍の猛攻を受けている。増援はない。』

「っくそ!」

 無線で増援を求めるも、元々彼我の戦力差が激しいために余裕は無かった。撤退しようにも背後には防御に使える陣地は無く、ここで踏ん張るしか道はなかった。

「味方の戦車だ!」

 誰かがそう言うと共に、敵戦車に次々と砲弾が直撃した。だが、敵戦車は堪えた様子も無く、お返しとばかりにH38に反撃した。H38は敵戦車の砲撃にあっさりと爆発四散し、あっという間に一個中隊は存在した味方戦車隊は壊滅した。簡単に壊滅した味方戦車隊を見た彼らは、絶望に襲われた。

「くそっ、このままじゃ全滅だ!」

 誰もが絶望に慄いたその時、上空から爆発音が聞こえた。上空に目を向けると、翼に日の丸を描いた単葉単発の戦闘機が敵の爆撃機を次々と撃墜していた。

「日本か!やった味方だ!味方が来たぞ!」

 これまでの戦闘で、フランスの航空機が如何に貧弱かを理解していた彼らは、日本の戦闘機が来たと聞いて喜んだ。以前なら極東の島国の飛行機と聞けば、自国以上に貧弱なものだろうと考えていただろうが、こうして実際に見て見ると、自国の空軍以上に頼もしく見えた。
 その内に、上空には日本の戦闘機のみしかいなくなっていた。それを知ってか敵戦車の進撃は遅くなっていた。そんな動きののろくなった戦車に向けて、上空から急降下してくる機体があった。彼にはその航空機に見覚えがあった。

「ドイツの爆撃機だ!」

 機体に描かれている国籍マークは日本の物だったが、機体は明らかにドイツのものだった。長年仮想敵国として想定していただけに、フランス軍人である彼にはドイツの航空機を識別するのは朝飯前であった。
 スツーカは次々と急降下していき、戦車に着弾していった。それに勇気付けられたのか、一時は士気が低下していたフランス兵たちは果敢に攻撃を仕掛け、戦車が撃破されて浮き足立っている敵兵を次々と撃ち倒していった。

「中尉、何とかなりましたね。」

「ああ。連中が引いていくぞ。今の内に再編成と弾薬の補充、整備をする。」

 彼は敵兵が撤退していくのを見て部下に指示を出した。上空を見て見ると、日本の戦闘機やドイツの戦闘機や爆撃機が旋回していた。彼はドイツ日本関わらずに手を大きく振って感謝した。

(流石は前の戦争で俺たちを苦しめた連中だ。頼りになる。)

30 :Monolith兵:2014/07/08(火) 20:42:51
 ソ連軍の猛攻にマンネルハイム線は突破されては虎の子の戦車師団や航空部隊で撃退をしてを繰り返していた。連合軍司令部では、このままでは年内にマンネルハイム線を突破され、来年の初めにはフィンランドは全土が占領されると予想し、増援を送る事を決定した。
 しかし、フランス陸軍は数こそあったが頼りなく、空軍は貧弱な航空機ばかりを装備していた。
 イギリスはそんなフランスに不信を抱いており、苛立ちを募らせていた。

「フランスは我が国の足を引っ張るのが好きらしいな。」

 チャーチルは不機嫌さを微塵も隠そうともせずに、執務室でチェンバレンと談話をしていた。

「あいつらは前の大戦の時からそうだ。何かに付けて我が国の足を引っ張る。」

 そうして暫くフランスに対する悪罵を言い合った後、本題へと入った。

「あれでも無いよりかはマシだ。フランスには増援を出してもらう。勿論我が国も出す。だが、陸軍もそうだが、空軍の消耗が激しい。このままでは予備兵力が尽きてしまう。」

「しかし、増援はしなければならない。・・・ドイツの早期参戦は無理なのか?」

「ドイツが参戦すれば確かに形勢は逆転するだろう。だがそれも長く続かない。ソ連の戦力は予想以上だ。ドイツ国境に最低でも200万を貼り付けたままフィンランドに180万も投入している。対してドイツが持つ実質的な戦力はせいぜいが150万だ。フランスと共に攻撃したとしてもソ連の陣地を抜くことは難しいだろう。何よりもフランスが余りにも頼りない。ドイツの戦力すら低下してしまう可能性がある。今はフィンランドで何とか防衛戦を維持し、各国の特にドイツの戦争準備が整うまで反撃の機会を待つしかない。」

「だが、今すぐ戦力が欲しい。このままフィンランドを失うと、連合国の求心力は低下する。スウェーデンやノルウェーは連合国入りには反応が鈍い。日本もアメリカに注意を払いつつソ連と対峙しているから動きが取れない。」

「そうだ・・・そうだな。来週にでも何とかドイツに言ってアデェナウァー首相に相談してみよう。あれだけの戦車や航空機を持っている国だ。我々の期待に応えてくれるはずだ。」

 チャーチルは葉巻の端をカッターで切ると火をつけて吸い始めた。フィンランド戦が始まってから彼らは休む間もなく働き詰めだった。ティータイムさえとる暇すらない彼らにとって、今日の談話は久方ぶりの休憩だった。

 そのように短いながらも貴重な休憩を楽しんでいた彼らだったが、バタバタと慌しい足音が近づいて来るのを聞いて、それも終わりが来た事を認識していた。
 部屋のドアを勢いよく開いたのはチャーチルの秘書で、左手には何枚かの書類を持っていた。

「たっ、たい、大変です!」

「落ち着きなさい。イギリス人は常に優雅で無ければならない。」

「そんな場合ではありません!ふ、フランスでクーデターが起きました!」

 一瞬二人は彼が何を言っているのか解らず沈黙していたが、すぐに驚きと怒りの声をあげた。

「何だと!?奴ら今が戦時中だと理解しているのか!!」

「馬鹿だとは思っていたが、これほどとは!?」

「議会の反戦派が一部の軍部隊を抱き込み、武装した民衆と共にクーデターを起こしました。これが現在わかっている限りの情報です。」

 そう言い、秘書はチャーチルに紙の束を手渡した。暫く書類を読んでいたチャーチルは皺を更に深めた。見れば体が小刻みに震えている。また、彼から滲み出す不機嫌さは更に増していた。

「読んでみろ・・・。なんて連中だ!」

 チャーチルから渡された書類を読み進めていくうちに、チェンバレンの体は小刻みに震えていった。余りの怒りに顔が真っ赤になり、今にも書類を破り散らしそうなほど指に力を入れていた。

「継戦派と反戦派がパリで睨み合いをしているだと。双方共に武装しており、いつ武力衝突になってもおかしくない・・・。あの蛙共め!」

 チェンバレンの怒鳴り声が執務室に響いた。

 こうして、第2次世界大戦の第二のターニングポイント、フランス内戦が始まるのであった。


おわり

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最終更新:2014年07月09日 20:06