420 :Monolith兵:2014/07/05(土) 06:03:26
ネタSS「
憂鬱日本欧州大戦 -紳士たちの嗜み-」
イギリスはポーランド戦の結果、きてイギリスに帰れたのは僅かに15000と言う壊滅的な損害を受けてしまった。イギリス陸軍ではその原因を、装甲戦力の不足と捕らえ、新型戦車の開発と当座の装甲車両の補充を計画した。また、戦時動員も始まり、各種兵器や物資の確保も緊急の課題であった。
新型戦車の開発は、発展余地の少ないチャーチル戦車ではなく、巡航戦車 Mk.II(バレンタイン戦車)の戦車砲をより大口径砲(6ポンド砲)に換装したものを計画した。だが、それではソ連の戦車には不十分ではないかと言う声が上がり、新たに17ポンド砲搭載の巡航戦車が計画された。
だが、それらが量産されるの早めに見積もっても1942年であり、当座の装甲車両の確保が重要な問題であった。
そこで、イギリスは
アメリカに装甲車両を始めとする各種兵器や物資を大量に発注した。アメリカはそれに喜び、すぐさま生産できるものは生産に移り、装甲車両も既存の物の量産や新規計画を始めた。
戦時動員によりすぐに装甲車両が欲しいイギリスだったが、アメリカに当初提案されたM2中戦車には難色を示した。何と言っても、M2は多砲塔戦車であり、どう考えても強そうな外見ではなかった。また主砲も37mmであり、余りにも非力だった。
イギリスが難色を示した事により、アメリカはM2の試作型のひとつであるT5E2の改良型を提示した。多砲塔戦車は、イギリスでは既に実用に絶えずと判断されており、ポーランド戦ではイギリスが叩きのめした為に、75mm砲搭載とは言えこれに否定的な将校が多かった。だが、背に腹は換えられぬと、M3を発注する事になったのだった。
だが、ソ連が米ソ不可侵条約を公表してそれらの注文は殆どがキャンセルされた。アメリカは連合国寄りと考えていたイギリスは、裏切られたと考え、その報復としての発注キャンセルであった。その結果、アメリカで軍需バブル崩壊が起きるのだが、ジョンブルたちには愉快この上ないことであった。
しかし、これによって装甲車両の確保が難しくなったイギリスは途方にくれた。一応日本やドイツに発注をしてみたが、到底埋める事は出来そうに無いと考えていもいた。だが、ドイツや日本はそんなイギリスの期待に応えた。
「それほど数は無いけれど、戦車を輸出するよ。あとドイツに余裕があるようだから、こっちからも話を通しておくから。」
「我が国の戦車を使わないか?ライセンス生産を認めるよ。資源を割安で供給してくれているから、生産コストが低くなっているし、(将来の)連合軍加盟を認めてくれたから更に同盟国価格でいいよ。」
イギリスはドイツ軍がポーランドで如何に勇敢に戦い、そしてその戦車がどれほど強力か知っていたので、その話に飛びついた。
ドイツに行ったイギリス陸軍が見た戦車は、これまで自国で採用してきたどんな戦車よりも強力な戦車であった。
421 :Monolith兵:2014/07/05(土) 06:03:58
「48口径75mm砲の上に最大装甲80mmだと!なんて化け物だ。しかも、より強力な97jとか言う戦車まで量産しているなんて。」
ドイツの戦車を見たイギリス陸軍の将校たちは、自国とのあまりもの格差に愕然とした。
「97jは日本の戦車をドイツ仕様でライセンス生産した物で、非常に強力な戦車です。残念ながら日本との契約のため、貴国には売る事は出来ませんが、このⅣ号戦車やⅢ号突撃砲戦車なら貴国に売る事も出来ますし、ライセンス生産も可能です。いかがでしょうか?」
「これは買わない手は無い。すぐさま本国に直談判しに行く。」
こうして、イギリスはドイツで比較的生産に余裕のあるⅣ号戦車を購入し、更にはライセンス生産権を獲得した。イギリスのみならず、カナダなどの英連邦で生産、配備される事になるのであった。
また、Ⅲ号突撃砲もライセンス生産権を獲得し、機甲部隊のみならず歩兵師団での重要な対戦車車両として配備される事になり、ドイツに久方ぶりの大量の外貨を齎すのであった。
一方、イギリス海軍は所期こそソ連海軍を次々と血祭りにあげたが、ソ連が艦隊温存に走って以降は碌な活躍が無かった。ソ連の主要な軍港周辺は大量の機雷防備されており、要塞砲で防衛された軍港に近づくのは自殺行為であったからだ。
そこで、空母艦載機による攻撃が実施されたが、雲霞のごとく現れたソ連の戦闘機に空母艦載機は全滅してしまった。10機も存在しない戦闘機、それも複葉機のシーグラディエーターだけではそれらから攻撃隊を守れるわけも無く、一方的な展開となってしまったのだった。
それ以降、海軍は海域の封鎖が主任務となり、碌な戦闘もないまましばらく過ごす事になるのであった。
日本も軽空母を含む第一次遣欧艦隊を派遣していたのだが、艦載機数の少ない軽空母1隻では出来る事は高が知れているので、イギリスに到着したはいい物の、ロイヤルネイビーと仲良く海上封鎖任務をこなす日々が続くのであった。なお、第2次派遣の正規空母2隻を含む機動艦隊と2個師団は、ファニーウォーが始まったために派遣が延期された。
422 :Monolith兵:2014/07/05(土) 06:04:33
そして、空軍は陸軍以上に危機意識を持っていた。
ポーランドに派遣した空軍の主力機は、グラディエーターやハリケーンだったが、戦場では大量のソ連戦闘機に苦戦を強いられ、瞬く間に壊滅してしまったのだ。
グラディエーターはともかく、ハリケーンはI-15やI-16に対して優位に立ててはいたが、多勢に無勢だった。空軍は陸軍と違い、何度も追加派遣を行っていたが、それが原因でイギリスの戦闘機は瞬く間に底をついてしまったのだ。
勿論生産は急ピッチで進められ、パイロットの育成も進められていたが、消耗に生産が追いついていなかった。また、これからの戦いを考えれば、現在の機体と生産体制では到底間に合わないと考えた空軍は、新鋭機スピットファイアの増産を急ぐと共に、陸軍同様アメリカに戦闘機を大量に発注した。・・・そして、アメリカの裏切りにより発注はキャンセルされた。
仕方なく他国に発注を行おうとしたが、フランスはイギリス以上に貧弱な戦闘機ばかりを生産しており、余りにも頼りなかった。また、生産体制もイギリス以上に貧相であり、ポーランドで失った物と戦時動員による需要増で自国向けの戦闘機でさえ不足していた。一応アメリカに発注をしていたが、不可侵条約発表後は発注を取り消すかどうかで揺れており、その点でも頼りなかった。
次に目を向けたドイツでは、ソ連の膨大な航空戦力と強大な陸軍の矢面に立たなくてはならない為に、航空機の需要はイギリス以上であった。ヨーロッパ一の工業国の言葉に違えず、その生産量も膨大であり、またその航空機もかなり強力なものであった。だが、需要も膨大であったので、他国に輸出するだけの余裕は無かった。
そこで目を付けたのが日本だった。幸い日本はソ連と国境を接しているとは言っても、不可侵条約を結んだアメリカや奉天軍の存在が(ある程度の)抑止力となっていたので、まだ余裕があった。また、戦前より軍拡を進めていたこともあって、生産力にも余裕があり、イギリスの需要を満たすには足りないまでも、ある程度アメリカの代替にはなり得そうであった。
結果、大量の戦闘機の発注が日本に舞い込んだ。
423 :Monolith兵:2014/07/05(土) 06:05:23
「いやぁ、アメリカ様様ですよ。あれだけの受注を日本に寄越してくれたんですから。」
「だが、生産量増加のために工場を新設、新規人員の募集とかなりの設備投資が必要になる。大量生産が可能になるにはかなり時間がかかりそうだ。」
「しかし、投資は確実に回収できそうです。それに、新型戦車や新型機の販売も可能性が見えてきました。まあ、新兵器を売るのは暫くしてからでしょうけど。ただ、このところ人件費や資材が軒並み値上がりしているのが痛いですが。」
定例の会合の席上で、三菱の出席者と倉崎重蔵が笑みを浮かべながら話し合っていた。アメリカのミスで、日本に大量の発注が来て以降、日本の工場は24時間操業で大量に新たな従業員を雇いいれ、大量生産を開始していた。それだけでは生産が追いつかないために、新工場の建設に更なる従業員の募集を行っていた。
だがそのせいか、人件費や建築資材、原材料価格は軒並み値上がりしており、企業の利益を圧迫しつつあった。
「そこは大丈夫です。イギリスからは割安で資源の輸入が出来ますし、アメリカからも買い叩いていますよ。」
辻も上機嫌で二人に言う。この所の兵器の大量発注は日本の税収を押し上げており、財政を預かる辻としては笑いが止まらない状態であった。
「国内の経済街のは結構なのですが、アメリカはどうなんですか?」
嶋田は気持ち悪いほどニコニコしている辻を横目で見て尋ねた。
「かなり悪いです。株価はかなり値下がりしていて、航空機メーカーや自動車メーカー、車両メーカーの株価が特に下がっています。それと各種資源メジャーも軍需を見込んでいただけあって、反動で下がっています。ただ、資源に関しては我が国も輸入していますので、何とか踏みとどまっている状況ですね。まあ、これからはイギリス植民地などからの輸入に切り替えて行きますから、アメリカ資源メジャーも没落するでしょうね。」
少し真顔になった辻が答えたが、言っていないこともある。今回のバブル崩壊で辻と愉快な仲魔たちは、英独の金融関係者と共にアメリカの株式市場に介入し、かなりの利益をあげていた。
また、倒産寸前のメーカーを丸ごと買い抱えて、カナダやドイツへと人員ごと移動させたりもしていた。特にドイツでは動員も進んでいたために、人的資源の不足が加速しており、アメリカから主にドイツ系の移民を募っていたのだ。一応ポーランド難民が人的資源の不足を埋めてはいたが、男手の多くは祖国奪還の為に兵士となっており、人員の不足を埋めるには足りなかった。
なお、アメリカからの引き抜きにはイギリスやフランスも協力し、ドイツはもはや強権圧政のナチスではない。これは資本主義と共産主義の戦いであり、共産主義者に勝利を許せば自由も財産も失ってしまうだろう、とキャンペーンを張っていた。
そのお陰か、少しずつだがアメリカに移民したドイツ人を中心に帰還者が出てきていた。その中には高度な能力を持つ技術者や科学者も少数だが混じっていた。
424 :Monolith兵:2014/07/05(土) 06:05:58
「それから、それに関連する話で、満州のアメリカ系企業で廃業や撤退が相次いでいます。これは満州が戦場になる可能性を考慮して、企業が次々に引き上げているものだと考えられます。また、アメリカ本国の経済が悪化しているので資金を引き上げているようです。」
「まあ、それは仕方ないでしょう。ただ、撤退した企業の生産設備はこちらで買い取る事が出来ればいいのですが。」
「それなのですが、どうやら工場は完全に解体してスクラップにしているようです。」
「・・・妙ですね?生産設備を奉天軍なり日本なりに売りつけた方が高く売れるでしょうに。」
「・・・スクラップ名目で別の国に売り払っていると考えているのかね?」
田中と辻の会話に不穏な気配を感じた伏見宮が尋ねた。
「日本も世界恐慌のときに使った手ですよ。廃業したり売り手を捜している工場を解体して日本に持ってくる。自分がやられた手ですから、よく解っているのでしょう。」
「売り先としては、日本も中国も無いとすれば・・・、ソ連か。」
「可能性はあります。ソ連は大軍拡を進めているようですが、兵器の生産もかなり進んでいるようです。」
「あれだけ痛めつけたと言うのに・・・。つまり、外部から生産設備が運び込まれていると言うことですか。」
このやり取りで、会合のメンバーたちはアメリカがソ連を支援している事を確信した。
「アメリカがソ連を支援していると言うことは、ソ連側に立っての参戦を決めたと言うことでしょうか?」
「いや、ソ連を強化して共倒れを狙っているのかも知れん。そうすればソ連も欧州も日本も中華大陸も、経済植民地に出来る。」
伏見宮の言葉にメンバーたちは納得した。現状では史実のようにアメリカとソ連が同盟を組む事はありえそうも無かった。史実同様アメリカには共産主義者が多くいたが、同時にアカ狩りも行われており、史実ほどソ連はアメリカに影響力を持っていなかった。
また、この世界でのアメリカは史実以上に企業の影響力が大きく、ソ連と同盟など天地がひっくり返っても無いと考えられていた。
「となると、満州でのアメリカ企業の動向に気を付けなければなりませんね。それと、アメリカとソ連との繋がりを連合国各国に知らせないと。特にイギリスはアメリカがソ連と不可侵条約を結んだ事に大層ご立腹ですから、さぞかし愉快な事になるでしょうね。」
笑みを浮かべながらイギリスがアメリカにどんな制裁をするか楽しみだと語る辻に、会合メンバーたちは少し引いたが、流石に付き合いが長いだけあってすぐさま立ち直った。
「アメリカはこれからもソ連に支援を送る可能性があります。各諜報関係者はアメリカの動向に注意して下さい。それから、欧州各国との連携を密にして、米ソに遅れをとらないようにしましょう。」
近衛の締めの言葉に、一同は頷いた。
425 :Monolith兵:2014/07/05(土) 06:06:33
一方、アメリカでも日本同様会合をしている者たちがいた。アメリカ財界の重鎮たちだ。
「ロングの阿呆にはホトホト呆れた。誰のお陰で大統領になれたと表いるのだ。」
「次の選挙ではロングは落選だな。次の大統領はわれわれの意思を尊重する者に任せるべきだ。」
「だが、その前に何とか今度の戦争に介入せねば。これだけの商機を逃すなど有り得ん。」
彼らはロングが米ソ不可侵条約を結んだ事に憤りを覚えており、どうにか今次大戦に介入したいと考えていた。
「満州の資産をソ連に売却して当座の資金はどうにかなったが、このままでは没落は免れん。とはいえ、本格的にソ連に肩入れするのは危険だ。」
「生産設備の売却はソ連の工業力を強化して、連合国を圧迫するだろう。そうすれば、そのうち我が国に泣きついてくるさ。・・・だが、それだけでは押しが弱い。どうするべきか・・・?」
その時、1人の男が立ち上がった。新聞王事、ウィリアム・ランドルフ・ハーストだ。
「まずは日本をソ連と泥沼の戦争に引きずり込んでやりましょう。欧州方面は英仏独の列強三カ国がいますが、極東方面は日本ただ一国。まず潰すならば日本しかありません。」
「だがどうするのだ?まさかアメリカがソ連と同盟を組むとでも言うのか?ご免こうむるぞ!」
「ご心配には及びません。アメリカはあくまで中立。ただ、少しばかり日本の世論を操作するのです。・・・具体的にはロシアの亡命者たちに日本へ行って貰います。亡命ロシア人には生活に困窮しているものが少なくありません。そんな彼らを支援して日本に送り、活動してもらうのです。そう、祖国奪還のための戦争を訴える政治活動を。」
おおっ、出席者たちが声をあげた。
ソ連が神経を尖らしているのは、政府の正当性である。そんなソ連にとって、ロマノフ王朝の遺児は目の上のタンコブのような存在であった。
そんなアナスタシア皇女のいる日本に亡命ロシア人を送り込み、ロシア奪還のための戦争を主張させようと言うのだ。当然、ソ連は
アジアに目を向ける事になる。
「幸い、満州方面にあった我々の工場などは処分できました。在満アメリカ人はかなり残っていますが、我が国の陸軍もかなりの数が駐留しています。それに、ソ連なり日本なりが我が国の国民を攻撃したとなれば、戦争を始める絶好の機会となります。」
そして、彼の案は実行に移される事になる。
だが、この計画は余りに亡命ロシア人たちが日本に入国している事を不審に思った
夢幻会の人間たちによって防がれる事になるのだが、彼らはそれを考えもしていなかった。
そして、それが更に連合国各国にアメリカを警戒させる事になるのだった。
おわり
最終更新:2014年07月09日 21:22