714 :フォレストン:2014/08/06(水) 18:52:22
リヴァイアサンのリバイバル?

提督たちの憂鬱 支援SS 憂鬱戦艦狂想曲~英国編~

「…その情報は事実かね?」
「駐日大使館からの情報です。現在、情報部でも確認中とのことです」
「あの日本が無意味なことをやるとは到底思えん。何らかの裏があると見るべきだろうが…」

部下からの報告にアンドリュー・カニンガム第一海軍卿は頬の筋肉を引き攣らせた。
彼は報告を持ってきた部下を退室させると、広い執務室でポツリと独りごちた。

「彼女達の時代は終焉を迎えようとしている。その幕引きをしたのは他ならぬ日本だというのに、いったい何を考えているのか…」

1947年初頭。
英国はロンドン市内に存在する海軍本部の大会議室では、とある議題で会議が進行中であった。

肝心の議題であるが、会議室の黒板にチョークで大書されていた。

『日本が建造中の新型戦艦に対する考察』(英文)

文字が震えて見えるのは気のせいであろうか。
文字の中に不自然に点状の形跡が多数確認出来るのは、勢い余ってチョークを折ったのか。
いずれにしろ、これを書いた人間は心穏やかでは無かったことであろう。

閑話休題。

今回の会議には、海軍上層部はもちろん、戦後になって急速に発言力を増している航空決戦主義派(いわゆる空母マフィア)や、未だに根強い信奉者が存在する戦艦派、その他にもオブザーバーとして情報部その他の人間も参加していた。
派閥や組織の垣根を越えた幅広い意見交換をすることで、今回の事態に対処しようというのである。

「日本が戦艦を建造しているのは確実です。戦艦と明言こそされていませんが、日本の海軍関係者たちの間では公然の秘密となっています」
「日本のクレ、ナガサキ両ドッグでは大規模な資材の搬入、工員の動員が確認されております」

情報部からの報告に、参加者からは、どよめきとも呻きともつかぬ押し殺した声が広がった。同時に疑問の声も出されたが。

「日本が大型艦を建造しているというだけで、戦艦と断じるのは尚早ではありませんか?」
「日本にはナガトタイプを筆頭にした有力な戦艦部隊が存在しております。新たに戦艦を作る理由がありません」
「戦艦を過去の遺物と化させたのは、他ならぬ日本海軍です。その日本が、今更戦艦を作るとは思えませんが?」
「例のタイホウクラスの後継艦では?それならば納得がいきます」

明らかに空母マフィアと思われる将官たちの発言に、戦艦派の人間たちはムッとしたが、情報部の担当者は構わず続けた。

「駐日大使館の協力で日本の企業の株価をチェックしたのですが、造船関連が軒並み値上がりしております」
「その中でもさらに特定の企業の株価が、激しく値上がりしており、これは過去の日本のイブキタイプ、ナガトタイプ戦艦の建造時の状況と極めて一致しています」

情報部からの反論に面白くなさそうな顔をする空母マフィア達であるが、反論する材料が無いので沈黙した。それを見て戦艦派の人間が巻き返しを開始する。

「確かに戦艦の時代は終わりつつあります。が、戦艦の価値が完全に無くなったわけではありません。戦艦の主砲は上陸支援に極めて威力を発揮します」
「航空機の攻撃力と足の長さは確かに強力ですが、夜間や悪天候時には実現出来ません。戦艦ならば天候を気にすることなく、砲撃支援を行えます」

日本の新型戦艦をダシにして、あわよくば戦艦の建造枠を勝ち取ろうとした戦艦派であったが、限られた予算と資材を分捕られては堪らないと、会議に居合わせていた他の派閥の人間が阻止にかかった。

「改KGV級の建造は順調です。これ以上の戦艦が早急に必要とは思えませんが…?」
「将来的には16インチ砲を9門搭載した戦艦を5隻持つことになるのです。抑止力としては十分でしょう」

英国ではKGV型以外の戦艦を全て退役させる予定であり、代艦として既に改KGV型戦艦の建造に取り掛かっていた。

改KGV型は、従来の15インチ砲10門から16インチ砲9門に主砲が変更されており、装甲配置も戦訓を元に改善されていた。
この改KGV型を2隻建造し、その運用実績を踏まえて従来のKGV型2隻と、KGV改型(対ビスマルク用に設計変更された3番艦)も改KGV型に準じた改装を行う予定であった。

715 :フォレストン:2014/08/06(水) 18:57:23
もっとも、戦艦派からしてみれば枢軸海軍に睨みを利かせるには、これでもギリギリな数であった。
戦艦派に所属する将官たちは、この機会を逃してなるものかと必死に反論した。

「日本の新型戦艦が既存の16インチ砲搭載なら問題無いでしょう。しかし、それ以上の大口径砲を搭載する可能性も捨て切れません!」
「日本が新型戦艦を建造していることが、世界に公表されたらドイツとフランスが黙っていないでしょう。間違いなく対抗する戦艦を建造するはずです!」
「いや、日本には16インチ砲搭載艦はナガト、イブキ両タイプ合わせても4隻しかない。艦隊運用を前提にするならば、16インチ以上の大口径砲は意味が無い!速力も既存の戦艦群に準じるはずだ!」
「結局のところ、ナガトタイプを強化した程度の性能に落ち着くはずで、それならば改KGV型戦艦と海軍航空隊で対処出来る!」

口から泡を飛ばさんばかりな戦艦派であったが、他の派閥も負けてなるものかと対抗して舌戦の様相を呈していた。

「というか戦艦よりも艦載機を、ペレグリンの後継機の開発を至急!!」
「紅茶の供給を安定させるためにも、戦艦なんかよりも護衛型駆逐艦の量産をだな…」

ここまでくると、もはや討論というより罵り合いであるが。
それでも、各方面からの情報を統合し、さらにリアル殴り愛にまで発展した喧々諤々なディスカッションの結果…。

  • 完成は1951年以降。
  • 建造数は2隻。多くても3隻。
  • 排水量は6~7万トン程度。
  • 搭載砲は16インチ9~12門、速力は30ノット以下。

以上の項目を日本の新型戦艦が満たしていると結論付けられたのである。
後に建造された新型戦艦(大和型戦艦)のスペックを知った彼らは卒倒することになるのであるが、それはまた別の話である。

716 :フォレストン:2014/08/06(水) 19:04:48

「またフィッシュアンドチップスのランチか。いい加減食べ飽きたぜ…」
「紅茶以外は未だに配給制だからな。しょうがない」
「このポテト、ジャガイモが糞過ぎるぞ。保存がなってない」
「マズいポテトはともかく、紅茶はいけるな。確かセイロン産だったか?」
「あぁ、インド情勢がヤバいってんで、最優先で代替生産地の策定と輸入手続きが行われたらしい」
「紅茶が尽きたら我々英国人は戦えないからな。それは正しいことだと思うのだが…うん、何も間違っていないな」

1945年初頭の大寒波の影響で配給の対象となったジャガイモは、今年になっても配給制限を受けていた。
新たに獲得した植民地ブリティッシュコロンビアでは、大豆、牛、サトウキビ、家禽及び鶏卵、乳製品の輸出が有望視されていたが、成果が出るのには今しばらくの期間が必要であった。

なお余談であるが、旧ルイジアナ州を含むこの地域は、世界最大のザリガニ生産地であった。そのためか、後に英国にザリガニ食が普及することになる。

昼食を挟んで午後からは、新型戦艦への具体的な対処方法についての会議となった。
もちろん英国としては、日本と敵対する気は無いのであるが、写真のみでイマイチ実感が湧きづらい核兵器と違い、より直接的に多大な威圧感を大衆に与える戦艦の存在は脅威であった。
日本の新型戦艦の存在が公にされたときに、大衆がパニックにならないよう、英国側としては対抗手段を用意しておく必要があったのである。

「仮に16インチ砲搭載艦と仮定した場合、改KGV型を2、3隻ぶつければ確実に勝てると思われますが…?」
「おそらく、接近する前に日本海軍の航空隊に沈められるだろうな」
「ならばこちらも航空戦力で…!」
「インド洋演習のレポートは見ただろう?あの『ハヤテ』相手に叩き落されるのがオチだ」
「仮にハヤテの迎撃を潜り抜けたとしても、日本の戦艦がハワイ沖海戦で見せた対空砲火の前には、ペレグリンでも全機未帰還になりかねない」
「ならば、潜水艦による待ち伏せを…!」
「それも無理だ。Uボート対策で対潜フリゲートの量産が優先されたせいで、今使える潜水艦は戦前からのボロ船ばかりだ…」

はっきり言って絶望的であったが、ここで諦めるジョンブルでは無かった。否、諦めるようであればジョンブルではなく、英国軍人失格である。故に彼らはあがき続けるのであった。

「ちょっと待って欲しい。我々の目的は日本の新型戦艦の撃退が目的であって、撃沈することが主目的ではない」
「日本は大西洋上に戦艦を修理出来るような拠点を持っていない。領有しているカナリア諸島は、そもそも港を作ることすることすら難しい」
「あそこは別の意味で怪しいのだがな。それはともかく、戦艦同士の決戦ならともかく、それ以外の要因で損害を受けたら、無理せず撤退するだろう」
「問題はそのための手段がこちらに欠けているということだ。仮に撃退出来てもこちらが壊滅してしまっては意味が無い」
「つまりは反撃させずに一方的にアウトレンジ出来る兵器が必要ということか。そんな便利なものがあれば苦労は…」
「戦艦の主砲の射程外から攻撃出来る兵器は開発済みです」
「「「え?」」」

落ち着いた声音で発せられた意見に、会議場全ての将官達が声の持ち主に注目した。
オブザーバー側に座っているこの士官の名はネビル・シュートという男だった。

717 :フォレストン:2014/08/06(水) 19:33:03

「DMWDのネビル・シュートです。我々は今回の事態に際し、ロケット兵器の使用を進言致します」

DMWD(Department of Miscellaneous Weapons Development:多種兵器研究開発部)は、元々は海軍省の管轄だったのであるが、陸海空軍の新兵器開発に関与するために、戦後再編されて国防省の直轄機関となっていた。
3軍のみならず民間からも変態…もとい、優秀な研究者や技術者が集められており、独創的で奇抜な発想で数々の(駄作も数あるが)新兵器を開発していたのである。
ネビル・シュート自身は歴とした海軍中佐なのであるが、オブザーバー側で参加していたのはそのためである。

「元々はフェアリー社で開発されていたのをこちらで引き継ぎました。戦艦に対しても十分な威力が見込めます」

史実と同様に英国海軍は、艦対空ミサイルのパイオニア(チートは除く)であり、1944年に艦対空ミサイルであるストゥッジ (Stooge) を開発していた。これはフェアリー社製で無線指令誘導、液体燃料のロケットモーターにより、射程は12.8kmであった。
当時としては画期的な性能であったが、本来の目的である艦対空ミサイルとしては性能不足であったため、海軍からの支援も打ち切られて開発中止となった。
しかし、対艦攻撃兵器として転用可能であるとしてDMWDが、フェアリー社から研究データを引き継いで開発を続けていたのである。

ストゥッジ改め、シー・ドッグと名づけられた艦対艦ミサイルであるが、戦艦の主砲射程外から攻撃する必要があるため、射程と威力の確保のために原型から大幅に大型化していた。
全長5m弱、直径60cm超、重量3トン弱の本体に、高度制御用に翼幅4m程度の主翼と、それよりも小ぶりな垂直尾翼、水平尾翼が設置されていた。
本体後部には、ダブルベース火薬を使用した固体式ロケットモーターが6基搭載されていた。これは、発射時に必要な初期推力を稼ぐためである。

弾体に内蔵された液体燃料を使用するロケットモーターは、取り扱い簡易なヒドラジンを使用した1液式に変更された。
ロケットの噴射時間は10分間であり、時速900km/hで最大射程は80kmであった。

「この新型ロケット…我々はミサイルと呼称していますが、こいつの弾頭は300kgあります。しかも特殊弾頭なので戦艦にも効果が見込めます」

弾頭には、シュートの同僚であるチャールズ・デニストン・バーニー卿が開発したHESH弾頭が採用されていた。
弾頭内には300kgのプラスチック爆薬が充填されており、着弾した瞬間に攻撃対象に貼りつくように変形して爆発、ポプキンソン効果により装甲裏面が剥離、破片が飛び散って艦内を破壊する効果を狙っていた。

「しかし、これだけの図体だと対空砲火に迎撃されないか?」

主翼を除いた本体だけでも、駆逐艦用の重魚雷並みのサイズがあるのである。このような大型な飛翔体は、日本海軍の対空砲火の格好の的になる危険性があった。この疑問にシュートはニヤリと笑った。

「このミサイルは、従来のロケット兵器のように高空を飛行しません。」
「それはどういうことだ?」
「こいつは海面上を飛行します。飛行する魚雷と思ってもらえれば結構です。方位さえ合っていれば、魚雷と同等かそれ以上の命中率が期待出来ます」

新型ミサイルは海面スレスレを飛行することで、航空機による迎撃と対空砲火をかわすことを狙っていた。(チートを除けば)世界初のシースキミング機能付きの対艦ミサイルとなった。
ちなみに、高度を制御する手段は電波高度計ではなく、フラッシュライトと光電管を使用していた。海面上に反射したライトの光の強弱を光電管が検知して、エルロンが連動するようになっており、海面高度5mを維持する仕掛けになっていた。
電波高度計の信頼性は既に確立されているのに、わざわざこんな手段を用いたのは、もちろん貧乏神の呪いのためである。

「もちろん問題が無いわけではありません。精密誘導が可能なのはレーダーの範囲内のみです。それ以降は慣性誘導になり、至近距離になると艦が放出する熱線を探知して命中します」
「それって、レーダー圏外だと実質無誘導ってことじゃないのか…?」
「レーダーの射程を向上させれば問題無いですよ。レーダーは高いところに設置すれば射程が伸びますし。日本海軍みたいに航空機にレーダーを搭載することが出来れば良いのですが…」

誘導はセミアクティブ・レーダー・ホーミング方式であり、レーダーレンジ外では慣性誘導、終末誘導ではボロメーターと熱電堆による発生電流を周波数選択継電器で断続増幅し、艦船の熱源に向かって誘導する方式が取られていた。
誘導に使用するレーダーは、最近実用化されたタイプ293火器管制レーダーを改造したものであり、出力は500kwで戦艦クラスだと30km程度まで誘導可能であった。

718 :フォレストン:2014/08/06(水) 19:51:01
この方式の問題点は、レーダーレンジ内でしか誘導が行えないことである。慣性誘導と熱線検知だけでは命中率が大幅に低下してしまうのである。それでも無誘導魚雷よりは高い命中率が期待出来るのであるが。
絶えずレーダーによって目標を捕捉し続ける必要があるために、発射母体の機動が制限されるのも問題であった。仮に艦船に搭載した場合、ミサイルが命中するまでロクに回避行動を取れずに殴られ続けるハメになるのである。

この問題を解決するための手段として、フェアリー・ガネットが開発中であった。
元々は艦載対潜哨戒機として開発が始まっていたのであるが、インド用演習で日本海軍がお披露目した四式艦上警戒機『旭光』を参考にして、早期警戒機仕様も同時進行で開発されていた。この機体に対艦ミサイルの誘導も任せようというのである。
しかし、新機軸が多いためか開発が難航しており、実用化には今しばらくの時間が必要であった。

上記の問題は確かに深刻であったが、あくまでも撃沈ではなく撃退が主目的であり、16インチ砲の想定砲戦距離が2~3万mであるため射程ギリギリで日本の新型戦艦を牽制可能とされたのである。

719 :フォレストン:2014/08/06(水) 20:06:06

「弾頭を気化爆弾にするプランもあります。効果範囲が広いので命中率の悪さも補えますよ」
「あの秘匿兵器か。確かにあれならば対空砲火潰しにはもってこいだな!」

英国は対ドイツ戦直後に燃料気化爆弾の実用化に成功していた。
もっとも、使いどころが難しすぎて今のところ正式配備するつもりは無かったのであるが。

燃料気化爆弾の破壊力の秘訣は、爆轟圧力の正圧保持時間の長さである。通常の固体爆薬だと一瞬でしかない爆風が、長時間連続して全方位からから襲ってくるのである。
その結果、通常の爆弾に比べて破片による被害は少ないが、急激な気圧の変化による内臓破裂などを引き起こすのである。

人体は1kgf/cm2 程度の爆風でも急性無気肺や肺充血を起す。それに加えて一酸化炭素を大量に含んだ酸素バランスが悪いガスが襲い掛かってくるため、酸欠と一酸化炭素中毒と呼吸困難を同時におこすことになり、窒息死したような死体ができ上がるのである。気密構造でない粗末な壕や一般建築物に避難/隠匿された兵士や車両の破壊には非常に有効であった。
そのため、当時のDMWDの試算では、戦艦のバイタルパート外である対空砲火群の無力化が可能とされていたのである。

「戦艦に有効ということは、当然空母相手にも有効だろう?」
「えぇ、空母は開口部が多い。エレベーターから爆風が進入して、人員はもちろん、機体にも損傷を与えることが出来るでしょう。飛行中の機体もただでは済まないでしょうね」
「対空砲火と迎撃機さえ黙らせることが出来たら、あとは我ら海軍航空隊の出番だな」
「ようやく数がそろってきたペレグリンで撃沈出来る!」

この時期になると、海軍期待のマルチロール機であるペレグリンも、ようやく定数を満たしつつあった。どちらかというと、機体よりもパイロットの育成に手間がかかり、この時期にまでずれこんだのであるが。

ペレグリン自体は、日本から購入した艦上戦闘機『烈風』の改造機であり、バカ高い金額を支払うハメになったとはいえ、機体そのものは問題なく確保されていた。
機体の数が多かったため、時期によって細部が異なり、後期ロットからは対空砲火の射程外から攻撃出来る滑空魚雷トラプレーン(Toraplane)の運用能力が付加されていた。

トラプレーンは、通常の航空魚雷に滑空用の翼を取り付けたものであり、着脱可能なアタッチメント形式となっていた。
運用するためには、ジャイロを組み込んだ専用の照準装置が必要であり、装置には風向などの各種条件を計算する初歩的なコンピューターが内蔵されていた。

元々、雷撃機用として開発されていたため、装置自体はそれなりの大きさだったのであるが、苦心の末に小型化に成功し、ペレグリンに搭載することが可能になったのである。
ただし、雷撃機の場合は専門の操作員が操作するところを、ペレグリンの場合はパイロット一人で全てやらないといけないため、とてつもない負担となった。取り扱い教育のために、パイロット育成がさらに遅れたのは言うまでもない。

なお、烈風を改造する際に得られたノウハウを活かして、現在ペレグリンの後継機が開発中であった。
コンペ形式となった結果、英国面…もとい、独自色溢れる機体がトライアルを受けることになるのであるが、それはまた別の話である。

結論として、英国は日本の新型戦艦に対して対艦ミサイルと航空攻撃で対抗することになった。
これは日本側の思惑どおりであった。事実、大和型戦艦は対艦ミサイルに対応した装甲を持っており、対艦ミサイルの飽和攻撃に対して高い抗堪性を発揮することが期待されていた。
しかし、英国が気化爆弾を投入することを知ると、日本側は神経を尖らせることになるのである。

肝心のシー・ドッグ対艦ミサイルであるが、初期型ミサイル故に運用に手間がかかった。
取り扱いが簡単で、事実上固体火薬ロケットと同等と言ってもよい1液式ヒドラジンロケットであるが、ヒドラジン自体が猛毒であったため、運用管理に非常に気を使ったのである。

シー・ドッグ自体は、あくまでも日本の新型戦艦に対する対抗手段であったため、少数生産に終わっている。
実際の運用は、旧アメリカ軍から接収した重巡を改装して行っており、以後のミサイル開発に貴重なデータを提供したのである。

英国初となる対艦スタンドオフ兵器となったトラプレーンであるが、こちらは炸薬量の増大や、ロケットモータ追加による射程距離の延伸が図られた。
航空魚雷としてのトラプレーンの寿命は短かったものの、後の空対空ミサイル開発のための叩き台となったのである。

720 :フォレストン:2014/08/06(水) 20:30:58
あとがき

というわけで、いわゆる大和ショックについて書いてみました。
英国は事前に察知出来たので、早めに対応が可能だったわけですが、日本における諜報網をロクに持たない枢軸側は、いきなり存在を公表された大和型戦艦に対して、どんな過剰反応をするのか楽しみです。いや、あるいは英国側から枢軸側へリークするという手も…w

KGV型戦艦については、完全に見せ駒と化してしまいました。
KGV型3隻建造については、本編15話の…

KGV級戦艦は完成が遅れ気味であり、2番艦であるプリンス・オブ・ウェールズが海に浮かぶのは当分先。ドイツのビスマルクに対抗するために設計を変更した3番艦は、設計変更の影響で建造がさらに遅れていた。

…を参考にしています。
通常KGV型(史実準拠)が2隻、KGV改型(憂鬱ビスマルク対抗)1隻ですね。
戦後建造するであろう改KGV型ですが、頑張っても2隻がせいぜいかと思われます。というわけで合計5隻ですね。
ドイツ単体ならともかく、フランスにイタリアを加えるとギリギリな数かと思われます。おまけに北米にも派遣をしないと…あ、カリブ海域限定で高速戦艦が1隻使えるから、そっちは問題無さそうです。

SS本文では、ノーマル、改型共に16インチ砲化(15インチ連装+4連装×2→16インチ3連装×3)が計画されていますが、予算の関係でずるずる伸びていったあげくに、自然消滅するでしょうね(苦笑
まぁ、そのころには戦艦の存在意義も揺らいでいるでしょうから、問題無いでしょう。

間にランチタイムの描写がありますが、これもネタの仕込みゆえ致し方なし(マテ
ブリティッシュコロンビアは旧ルイジアナ州…昔、ルイジアナって名前のポテチがあったので、ジャガイモの増産を期待していたのですが、そっちはあまりパッとせず、ザリガニ食のインパクトが大きかったので、そっちを採用しました。ザリガニはこの世界では貴重なタンパク源ですよ?

DMWD(多種兵器研究開発部)ですが、史実でも存在した組織です。
海軍省の研究機関でしたが、戦後になって3軍合同の研究施設と化したのは拙作オリジナルの設定です。ヘッジホッグの開発などで有名ですが、奇人変人の巣窟としても別の意味で有名だったりします。
おいらのイメージでは、憂鬱DMWDはテ○ラ研ですね。今後もビックリドッキリメカを作り出してくれることでしょうw

721 :フォレストン:2014/08/06(水) 20:35:23
あとがき続き

ストゥッジ (Stooge)ですが、史実では1944年に開発されております。ただし艦対空ミサイルとしてですが。
元は特攻機に対抗する手段だったのですが、性能不足で開発が打ち切られています。この世界では、高射砲に代替手段として研究されていたということにしておいてくださいw
性能不足で開発が打ち切られるのは同じなのですが、それを対艦攻撃手段として、DMWDが拾い上げたという設定です。

シー・ドッグ対艦ミサイルですが、ストゥッジを単純に縦横高さを2倍サイズにしています。
結果的に重魚雷並みのサイズになってしまいましたが、よく考えたら、シー・スパローをはじめとした対艦ミサイルもサイズだけなら似たようなものですよね。よってノープロブレムです!

ジェット推進が多い艦対艦ミサイルに比べて、重量が嵩むのはロケット推進ゆえです。
ヒドラジンロケットは扱いが簡単で、それこそロケット開発黎明期から使用されているのですが、ヒドラジン自体は猛毒だったりします。
工場で燃料タンクに密閉してしまえば、ポンプも点火装置もいらない1液式ヒドラジンロケットは、事実上固体式ロケットと同列に扱えるのですが、被弾時のリスクが半端無いですね…*1))ガクガクブルブル

ミサイルの構造ですが、主翼で揚力が稼げるので、があるので推力よりも噴射時間を重視しています。
噴射時間の10分は長めですが、あのワルターロケットでさえ6分間噴射可能なのですから、ヒドラジンロケットなら余裕でしょう。

高度維持に使用しているフラッシュライトと光電管…はい、この時点で気が付いている方もおられると思われますが、これは旧軍が開発していた有眼信管です。
空中から投下して、内蔵されたライトの地面からの反射光を光電管が拾って、一定以上の反応を超えると起爆する仕様です。

ボロメーターと熱電堆による誘導は、これまた旧軍が開発していた熱線吸着爆弾です。
両方とも、史実日本で曲りなりにも実用化されていた技術なので、英国が実用化するのに問題は無いと思います。

ミサイルの弾頭はHESHと気化爆弾です。HESHは史実でもバーニー卿が開発していますので問題なしです。が、大和型にはどれだけ通じることやら…。

気化爆弾は、拙作SS『貧者の核-ヘルインフェルノ ( Hell Inferno )』から設定を流用しています。気化爆弾は非装甲区画を効果的に破壊出来るので、対空砲火潰しには有効と思ったのですが、大和型戦艦は核戦争対応型なので、事前に備えられたら無力化されるかもしれません(汗
欲を言えば、サーモバリック弾頭を実用化したいのですが、あれって実用化されるのは70年代以降なんですよねぇ。

トラプレーンは史実で開発された滑空魚雷です。
ちなみに同様のことは史実日本海軍でもやっておりまして、空技廠が高度1000mから投下出来るグライダー魚雷を作っていたりします。散布界が広すぎて採用はされなかったのですけどね。
こちらは魚雷に取り付けるアタッチメント形式になっており、拙作SSのトラプレーンもこちらに準じております。

本編にも登場している烈風の改造機であるペレグリンは、ライセンス生産という記述が本編に無かったので、購入後に改造という描写にしました。ライセンスなら技術吸収も楽なんですけどねぇ。

以下、登場させた兵器です。

シー・ドッグ艦対艦ミサイル

全長:4.54m
直径:0.64m
翼幅:4.16m
重量:2680kg
射程:80km
弾頭:318kg(HESH or 燃料気化爆弾)
エンジン:1液式ヒドラジンロケット×1 火薬式ロケットモーター×6

英国が開発した第1世代の艦対艦ミサイル。
誘導はセミ・アクティブ・ホーミング+慣性誘導、終末誘導は熱線検知で行われる。
生産数自体は多くなかったが、そのデータは後のミサイル開発に役立てられた。


トラプレーン滑空魚雷(18inch MarkXVII 航空魚雷装着時)

全長:4.95m
直径:0.45m
翼幅:1.40m
重量:730kg
射程:2500m(投下高度500m)+1400m(40ノット)
弾頭:176kg(TNT)

トラプレーン滑空魚雷は正確には魚雷ではなく、魚雷に取り付けるアタッチメントとジャイロを利用した照準装置一式のことである。
後期型ではロケットモーターが追加されて射程が延伸されている。

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最終更新:2014年08月07日 22:54

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