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197. ひゅうが 2011/11/18(金) 23:13:17
>>189-192
  書いてた分があるので支援してみます。

――帝都東京  神保町  とある一室

「うまいなぁ。」

「それはよかった。この『ぺしゃわぁる』のコーヒーは学生時代からの好物でね。ホットサンドも冷めないうちにどうぞ。」

「へぇ。だからこうして俺たちを呼びつけたのか?」

「客を呼ぶには自分も気に入っている所がいいと思うのは自然だと思うが?ルパンくん。」

目の前で微笑んでいる男に、ルパンは冷や汗が止まらない様子だった。
どうやら薬は入っておらず、本当に歓待してくれているようだが。

この男の前で油断するわけにはいかない。
元老、辻正信。
大蔵省の巨人、昭和の怪物、日本財政の採点者、最強通貨「円」の守護者にして帝国政界最大のフィクサー。
引退した「帝国の守護者」嶋田繁太郎とならび、この国で絶対に怒らせてはいけない人物の一人だった。
いや。独裁者でありながらも周囲への気遣いを欠かさないという嶋田元首相よりもこの辻の方が恐ろしい。
電子取引を利用した禿鷹どもを文字通り鶴の一声で殲滅したことは記憶にあたらしい。


「で・・・こんなところへ呼び出した、理由はなんだい?大蔵省の巨人どの?」

次元も少し緊張しているようだが、コーヒーを気にいったらしくおかわりを頼んでいる。
護衛としてついてきていた五右衛門には抹茶が用意されていた。

中央アジア産だというランプの炎に照らされた半地下の店内は、妖しい雰囲気が満ちている。

「君たちに、見てもらいたいものがあってね。なに、老人から後進へのお節介さ。」

「ってぇと?」

「まず言っておこうか。君たちが求めている『夢幻会の秘宝』というもの。それが持っていかれてもいなくても、まぁ我々は気にしない。」

「大きく出たな。」

「当然だろう?我々の役割はこの国を発展させ、自由で豊かな社会を作ることだ。その前提となる平和な世界の構築もまた然り。そのためには、我々は出し惜しみをすることはない。それにアレの真の価値は、それ自体にはないからね。」

ごくり。
辻がコーヒーを一口飲んだ。

「正義の秘密結社か・・・まったく秘密結社といえば胡散臭いものと相場が決まっているだろうに。」

「胡散臭いことは理解しているよ。それに、金銀財宝のようなものは保有しているだけでは意味はない。経済は回転してこそ富を生み出す。そして富は巨大な宮殿や核弾頭のみに使うにはあまりに勿体ない・・・そうは思わないかな?」

「俺たちとしちゃ商売あがったりだがね。」

ルパンは頭を働かせる。となると、夢幻会の秘宝は、ロマノフの遺産や大戦中に失われたはずの美術品・・・あるいは軍事的な秘密ではないのか?
となると・・・

「その通りかもしれないね。だが、問題は、それに幻想を見る者が多すぎることだ。」

彼は、手のひらサイズのMDのようなものを再生機に入れた。




「・・・これを聞かせて、どうする気だ?」

次元が言った。
帝国情報省が盗聴した上海での峰不二子と黒幕との会話は、不快感を彼に感じさせるには十分だった。

「さっきも言ったろう?我々は気にしない。たとえ、中華第一な上海の亡霊たちが核ミサイル発射コードやら宇宙太陽光発電施設の照準コードみたいなものやロマノフや徳川の埋蔵金のようなものを欲しがっているとしても、我々はそんなものは渡さない。そんなことを許すようなへまはしない。
だが、我々の後輩が幻想に踊らされているのなら――ヒントを出した上で場を混乱させるのが年長者の務めだと・・・そう思うわけだよ。」

「食えない爺さんだぜ・・・どっちにしろ、俺たちは動かざるを得ない。護衛が一人だけだってことは手掛かりになる情報の鍵も何もかもを置いてきたってか。手荒な手段をとれば・・・自分の死をもって帝国の全力で俺たちを潰す準備は万端なんだろ?」

ルパンの右ほほを冷や汗が伝う。

「おや。言っていなかったかね?」

辻正信は、にやりと黒い微笑を浮かべた。

「私は、得にならないことはしない主義なのだよ。」

これから嶋田元首相のもとへ向かうという辻を見送ったルパン一味は、そろって深いため息をついた。


「あの爺さんたち・・・敵にはできねぇな。」

「ああ・・・愛国者(パトリオット)ほどたちの悪い連中はいないぜ・・・しかも功利主義者(プラグマティスト)ときてる・・・」

彼らが喫茶店を発ったのは、再びコーヒーを一杯飲みほしてからだった。
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最終更新:2012年02月13日 21:01