237様の支援SS
導入を考えている作品を少しだけ書いてみる。



要塞の司令官に銃を突き付けているイムカの機体を、遠くから見つめる目が有った。
【ユーロアレクサンダ】のコクピットの主、リエラの表情は冷たく、普段の明るい顔からは想像もできない殺気を放っていた。
元々リエラは明るい子だった。
しかし戦争が全てを変えた。
数えきれない悲劇は明るさを殺し。

親しき者の死は、涙を枯らせた。
クルトが出会った時にはすでに、敵を殺すためだけの〔殺人機械〕となっていた。
だが、献身的なクルトの世話により何とか回復。
普段生活する分では以前の明るい少女としてふるまっている。
しかし・・・彼女が話すのは真に心を許したものだけ。

殆どの人間を無視していってしまう。
戦場ではよくあるネーム〔死神〕・・・
仲良くなったものが自分を庇って死ぬ。
それはリエラのトラウマの一つとなり、特定の人間以外を拒絶するものだった。

『おい。なんだありゃ?』
「・・・ん?」

ふいに通信から、偵察隊の声が入った。
気になって耳を澄ましてみると、どうやら新手が現れたようだ。

『まずいぞ! 全員に伝えろ、爆弾野郎〔ボンバーマン〕が出て来たってな!』
「・・・え?」

〔ボンバーマン〕。

これは通称で正式には【シュトゥルムフント】という。
サクラダイトを使わない、MTFのようなKMFだ。
EUが清に襲撃され、反抗作戦の時に投入された機体で、当初は正規の兵士が乗る予定だった。
しかし搭載されているP液が最悪の液体火薬のような代物で、早々に別の“人間”が割り当てられた。
乗せられた“人間”は重罪を犯した犯罪者達。

彼等は消耗品として扱われ。
出撃して帰ってこれるのは全体の三割から二割とまで言われた。
そして・・・リエラのトラウマの一つだ。

「ぁ・・・ぅぁぁ・・・!!」

〔ボンバーマン〕の符号を聞いただけなのに、彼女の体は委縮し、先程までの殺気は消えうせて泣き出しそうな子供の様になってしまった。
頭をかかえ、足を縮める。
今だ戦場に会って致命的な行動・・・
しかしそうするしか彼女は抑えられない。

『くそ! こいつらどこから出てくるんだ!』
『こちらスカー隊。〔ボンバーマン〕を近づけさせるな! 遠距離で仕留めなさい!』

通信からは仲間たちの怒声が聞こえるが、もう彼女には聞こえていない。
その通信に、見知らぬ声が割り込んできた。

 『はぁい。名無しの皆さん、お元気ぃ?』
『なんだ? 誰が話している?』
『通信に割り込んでる!』
 『もぅ・・・誰も答えてくれないのねぇ。』

なんだか楽しそうに話すその声に、ゆっくりとおびえた目のまま顔をあげる。

 『リエラちゃぁん。いるんでしょぉ?』
「どう、して・・・」

殺したはずなのに・・・その言葉は続かなかった。
何故なら笑い声が響き渡り、再び小さくなってしまったからだ。

 『あなたにやられて、火傷が疼くわぁ。 でぇもぉ、気持ちいいのよこれがぁさぁ!!』
「・・・っ!」
 『あははははは! どぅぅ? このプレゼント、気に入ってもらえたかしらぁぁ?!』
「ひっ!」

どこかたがの外れたような笑い声が響き渡る。

 『あなた、本当に素敵になったわよねぇ! だって私が知っているあなたなら・・・』

“操縦席を叩き潰す”

 『なんて、惨たらしい事しないわよねぇェェぇ!!』

ゲラゲラと壊れた笑い声が彼女に襲い掛かり、意識が強制的に落ちた。


――
―――

夢・・・
夢を見る。
昔・・・ともいえないけど、だいぶ前。
クルトに会う前。
まだ、〔死神〕と呼ばれる前の夢だ。

私はまだ新米で、でもKMFに乗れるのが嬉しかった。
女の子らしくなかったけど、ロボットを動かすというのが楽しかった。
でも・・・戦場に出て、楽しさは消えた。
戦わなきゃ、殺される。
戦わなきゃ、仲間が死ぬ。

人殺しが辛かった。
逃げ出したかった。
でも、戦えない人のために手を汚し続けた。
だだけど・・・あの人は違った。
あの人は・・・・・・

笑いながら人を殺せる人だった。
楽しそうに人を殺す人だった。
誰よりも残虐で強く、卑劣なまでに賢く、恐ろしかった。

―――
――

戦闘終了後。
思わぬハプニングがあったものの、滞りなく引き継ぎが終わって撤収した。
しかし、部隊には重い沈黙が落ちている。
原因はリエラだ。

イムカが全く動かない相棒の【ユーロアレクサンダ】を発見し、近寄って話しかけるが応答がなく。
その時はあふれ出てきた【シュトゥルムフント】の対処に追われ、気にしつつもその場においていった。
全て撃破し、他の機体で彼女をKMFごと回収し、落ち着いたところで操縦席を強制的に開いた。
中にいたのは・・・子供の様に丸まった。リエラがいるだけだ。
誰が呼びかけても動かず、小さく呻だけ。大急ぎで戻ってきたクルトが話しかけても同じだった。

部隊のエースが原因不明で動けない。
この事実は瞬く間に広がってしまった。
それを払拭するには原因を探らねばならない。
いや・・・原因はわかっている。

「例の声の主・・・知っていると聞いたが?」

クルトが話しかけたのは、以前【オルレアン】でリエラと渡り合った兵士だ。
長く戦場にいて、いろんな話を聞いているというので来てもらっていた。

「ああ、知っている。」

椅子にどっかりと座り、タバコを吸いながら答えて思い出すように上を少しだけ見る。

「あいつは【味方殺しのアイフェ】・・・アイフェリア・イリミスっていうんだが・・・」
「だが?」
「おそらくは偽名だろう。なんせあいつ、かなり前に別の名前を使っていはずだ。」
「そうですか・・・それで、なぜ【味方殺し】などと言う異名が?」
「それはアイツが所属していた部隊が問題なのさ。
 あいつ・・・元督戦隊でな。重罪人で構成された【シュトゥルムフント】を、後ろから撃つ役目を担っていたのさ。
 才能があったのか、KMFの操縦はピカイチ。
 おそらくお嬢ちゃん並みか・・・それ以上と考えていい。」

驚きで目を見開く。
リエラはこの部隊で随一の操縦者だ。
それよりも強いというのは想像できない。

「そんで話を戻すが、指揮も巧くて上の憶えも良かった。
 ただ一つの欠点さえなきゃなぁ・・・」

タバコが斬れて新しいのを出す。
火をつけ、ちょっとだけ吸って続けた。

「・・・とんでもないサディストだったんだよ。
 一応訓練では味方は殺さなかったんだが、それに近い状態まで言った事があるらしい。
 闇討ちも一度や二度じゃなかったが、前部返り討ちにして再起不能にしちまった。
 そんな事だらけだから督戦隊に言ったんだが・・・そこで最高のおもちゃを見つけたんだ。」
「【シュトゥルムフント】・・・ですね。」
「ああ・・・
 指揮が旨いって言ったろ?
 その式で懐深くまで突撃させて・・・後ろから『バン!』だ。
 もしくは囮にして・・・
 そんな感じで楽しそうに人殺しをしていたみたいだ。」
「的にも見方にもおそれられ、そして彼女は・・・」
「誰かに撃たれた・・・おそらく例の通信から判断してお嬢ちゃんだな。」

クルトは大きくため息を吐く。
彼女のトラウマは数多くあり、全てを把握しているわけではない。
それでもこの部隊に来てからは、だいぶ打ち解けてきたと思っている。
そこに過去から悪夢が帰ってきた。
目の前でそんな惨劇があり、優しかった彼女は、必死に止めたのかもしれない。

だが相手は狂人。
逆に精神的に追い詰められ・・・後ろから撃った。

「アリガトウございます・・・」
「いやなに、気にすんな。」

そう言って立ち上がると、クルトに背を向けて歩いていく。
ドアノブに手をかけて少しだけ振り向き、

「あの嬢ちゃんを癒せるのはアンタしかいない・・・頼むぜ。」

と言って、扉を開いて出て行った。
残ったのはクルトただ一人。
外から響いてくる整備の音が、静かになった執務室に響く。
リエラはイムカが献身的に世話をしている。
彼女を癒す方法は只一つ・・・【味方殺し】を消す事だけだ。



以上です。
まだ導入部分であり、手直しが必要かもしれません。
連載もあるので、こちらはまだ未定です。
不評批判待っています。

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最終更新:2014年08月18日 20:41