割り込み失礼します
ブリタニアinでシリアスや真面目に見えて全然そうじゃない話
皇歴2010年ブリタニア帝国シマダ公爵邸
このブリタニア第二位と目されている皇族リ家の血を引きし大貴族、シマダ公爵の邸宅地下に設けられた余人の立ち入ることが出来ない空間には、件のシゲタロウ・シマダ公爵を筆頭に
イソロク・ヤマモト辺境伯、チュウイチ・ナグモ卿、マサノブ・ツジ卿等、ブリタニアの穏健派の中でも深い秘密を抱えた者達が集まっていた
彼等ブリタニア
夢幻会は穏健派の盟主リ家。シマダ公爵家と共に西海岸の盟主として仰がれているクルシェフスキー家。穏健派の重鎮の一家であるヴェルガモン家と共同で、ある計画を進めている
その計画とは皇帝シャルル暗殺計画
彼等はブリタニアの戦争原因がシャルル個人の思想にあると知っている。彼と彼の兄、そして彼の妻という共犯者達さえ排除出来れば無闇に戦線を広げて、しなくてもよいこの世界大戦を終結に導く算段が立つのだ
絶対的権力者とはいえ、一個人の我が儘に付き合わされてブリタニアの無辜の民や軍人、シマダ公爵達の魂の故郷である日本に犠牲を強いるのはどう考えても理不尽であるとしか言えない
確かにブリタニアの歴史は闘争の歴史であり、闘争があったからこそ今の巨大で豊かな国へと成長してきたという経緯があった。だがシャルルが起こし、今尚拡大させているこの戦争だけは、過去の戦争と全く別の側面を持っている
欧州系貴族が進めている彼等の祖国奪還戦争という別の側面の戦もあったが、シャルル皇帝の戦争だけは絶対に阻止しなければならない
理由はこの戦争、彼に言わせれば〔戦争ごっこ〕の行き着く先が、人を人で無くしてしまう世界であるから。人の死など瑣末な事だと切って捨てる彼の世界は心の壁を取り除いた嘘のない世界の実現
嘘は無い方が良い。誰しもがそう考えながらも誰もが嘘を付く。ならばその嘘が付けないようにしてしまえば良い
まるで子供が考え付くお粗末な答えを実現させようとしているのだ
あらゆる記憶と、心や魂すらもが内包されていると考えられているCの世界なる不可思議な世界とも繋がるこの計画が成功すれば死んだ者とも一つになれるという話だが、その為に今を生きる者達を殺してもよいと考え命を軽んじるシャルルの世界には、もう人と呼べる存在は居ない
もはや彼の目に人は物と映っていることであろう。自分の望みを叶える為の物。死んでいようが生きていようが一つになれば同じ
そんな彼個人の思惑で死にゆく命があるというのは許されざることだ
そんなシャルルの壊れた願いから日本を救いたいとの思いで一致団結しながら日ブ避戦の道筋を付け、余計な戦争を可能な限り回避してきた彼等であったが、中華連邦への本格的侵攻の話がシャルルの口より語られた事で急遽緊急会議を開いていたのだ
「中華への本格的侵攻が近々に始まることになります」
「すぅ、すぅ、」
ナデナデと手を動かしながらシマダは告げた
「また無駄な犠牲が。ブリタニアにも日本にも中華にも」
口火を切ったシマダの言葉に苦々しいと言わんばかりにヤマモトが口を挟んだ
「嘘の無い世界……皇帝兄弟の馬鹿げた妄想を実現するためだけに一体どれだけの人間が犠牲になると思っているんだ!」
「くぅ、くぅ、」
憤るヤマモトの手がナデナデと動く
「…………全くですよ。それに嘘の無い世界の先は幸福も不幸もない。何もない世界と同じです。生者死者問わず全ての心が1つになるなど……私は御免ですね。そのために大勢の人が傷つき犠牲になるのも、そんな無駄なことに湯水の如く金が使われるのも」
シマダと憤るヤマモトに対して、彼らしい一言を付け加えたツジが、中華連邦との戦争で使われる戦費の計算をしてながら、二人の膝の上に在る金色の物体を見た
「ユーロブリタニアとして欧州との戦争があるので動きが取りづらいですが、日本側の近衛さんや宮様と連携を取りながら、計画の前倒しも考えなければ」
彼等の言葉に頷いていたナグモも自身の近況を語りながらシマダとヤマモトの手の動きと金色の物体を見て少し吹き出しそうになった
「計画の前倒しですか」
「すぅ、すぅ、」
ナデナデとシマダ。指の間を細く長い金色の艶々した物がすり抜けていく
「んにゅう…、んん…、」
膝に居る温かい金色の物体はシマダにしがみついて頬を擦り付けながら唸り声をあげた
「だが計画実行の2017年以降まで待っていては犠牲が増える……ただでさえ領地経営に政治にと息つく暇も余裕も無いというのに……!」
「んん…う、むにゃむにゃ…、いっきゅん…ぅ」
ナデナデとヤマモト
此方も、膝の上でもぞもぞ動く金色の物体の頭を撫で続けている
真面目な話をしている。これからのことを真剣に話し合っているというのに二人の小さな眠り姫の存在に、どこか気が抜けたような感じがしたある日の秘密会議であった
「よく寝ているな」
会議終了後、メンバーがそれぞれの家の家臣たちと調整をしている中、シマダ公爵とヤマモト辺境伯の二人は腕に抱いている眠り姫たちの寝顔を観ていた
「起きているといっくんの頭を触らせろと五月蠅いんだが、こうしてぐっすり眠っている姿を観ると和まされる」
ヤマモトは腕に抱いた小さな少女の頭を撫でながら、シマダが抱いた少女に目を向ける
「お前の騎士様も眠っている姿はただの可愛い子供だな」
「まあ、事実子供だからな」
シマダもヤマモトと同じ様に腕の中の少女の頭を優しげに撫でている
「起きているときは背伸びしながら誰にも負けない最強の騎士ナイトオブラウンズになって俺を護るとか言って、大人顔負けの聡明さを見せているんだがやはりまだまだ子供だよ」
「ん、うっ」
艶やかな金糸に指を通し撫でていると身じろぐシマダの眠り姫。ヤマモトの方の眠り姫は寝言まで呟いている
「いっくん…ポーカー…」
「なんだ?俺とポーカーしている夢でも見ているのか?」
「ははは、案外お前を超えるギャンブラーになったりしてな」
「冗談言うな。こんな子供に負けたりせん」
シマダの言葉にヤマモトは一瞬だけ想像した。成長した彼女が自分を打ち負かしている姿を
「………この子に負けるようなことがあったら引退だ」
「身近にいるその子なら有り得るかもしれないぞ?」
「んうっ」
「っと、」
再び身じろぐシマダの眠り姫はまた頬をすりよせてきた。眠っているのに力強いその頬擦りはとてもくすぐったい
なんだかこうしていると戦争や血なまぐさい話が遠い世界の出来事に感じてしまう
「…………遠い世界の出来事にしなければな」
「ああ、そうだな。この子達の為にも……」
最終更新:2014年08月21日 09:56