アイドルLIVEロワイヤル。
旭日テレビが主催する大規模な合同ライブイベントである。
8つのブロックから多数のアイドル達がトーナメント方式でブロック優勝を目指し、そしてブロック優勝した八ユニットのチームがチャンピオン『渋谷凛』への挑戦権を得る。
審査方法は八ユニットのチームが1曲ずつ、そして凛が8曲歌い、1戦で30点、8戦で240点、その合計点で勝敗を決める。
多数のアイドル達の中からこの激戦を勝ち上がってきた8組は、いずれもAランク、B+ランク級の実力者揃いだ。
そういった並み居る強豪たち相手に八連戦を強いる。
渋谷凛を潰す事を狙って始まった黒井の策は、黒井の想定を遥かに超える盛り上がりを見せ、気がつけば東京湾の埋立地に立てられた巨大な多目的イベント会場と複合競技場を借り切り、ブロック決勝までで二日、チャンピオンVSチャレンジャーで一日という一大プロジェクトに発展していた。
何とか渋谷凛をチャンピオン枠に据えたまま開催に漕ぎ着けた事には黒井崇男の努力の跡がうかがえる。
黒井崇男はある意味このイベントの開催にこぎつけたことで安心、もしくは慢心していた。
いかに『魔人シンデレラ』渋谷凛とはいえど、この波状攻撃に打ち勝つことはできないだろう。
そう考えた彼は、仕事上の余裕が無かったことも相俟って、CGプロに対する情報収集を後回しにしてしまった。

黒井崇男は二つ考え違いをしていた。
一つは渋谷凛とCGプロの対応。
この戦力差から、攻撃を仕掛けられた側が守りに入る、安全策をとり冒険に出ないと思い込み、逆襲に出てくる可能性を考えていなかった事。
渋谷凛、そしてCGプロはこのイベントを逆に利用してライバル達に更なる差をつけようとしていた。
そしてもう一つ、経営状況が悪化していた旭日テレビは一発逆転を狙ってこのイベントに賭けたわけだが、その総合ディレクターはより高い視聴率を取れる様、サプライズとして“ある情報”を最後の最後まで黒井を含めた挑戦者側に伏せていた事である。



【ネタ】渋谷凜は平行世界で二週目に挑むようです【その7】



そして三日目。

「さあ、二日間にわたってアイドル達が激戦を繰り広げてきたLIVEロワイアル!ここまで勝ち残り、そしてチャンピオンへの挑戦権を手に入れた強者達をご紹介しましょう!先ずはAブロック!青の眠り姫、魔人を破って目覚めの時はくるのか!?765プロダクション所属、如月千早!!」

司会のその言葉と共に九本ある花道の一番右、「A」と書かれた花道から先ず一歩前に踏み出したのは青いドレスを着た歌姫。

「続いてBブロック!幸運の天使はどちらに微笑むのか!東豪寺プロダクション所属、幸運エンジェル!!」

「B」と書かれた花道から前に進み出る天使をイメージした白い衣装の三人組。

「Cブロック!あ、男は良いでs…………」

司会がステージの袖から走りこんできた二人のスタッフにダブルドロップキックを喰らって吹き飛ばされる。
五メートルほど吹き飛んだ司会からマイクを奪い取ったスタッフの一人がコールする。

「Cブロック!木星は魔人に打ち勝てるのか!?961プロダクション所属、ジュピター!!」

「俺らの扱いヒドくね?」

そうボヤキながらも、「C」と書かれた花道から堂々と入ってくる黒い衣装の三人組。

「Dブロック!…………」

次のユニットをコールするスタッフの声を聞きながら、凛は一度目を閉じた。
九本の花道の中央、その幕の中で凛は自身の名が呼ばれるのを待っている。
今回の衣装は彼女が前世で最後に参加したCGプロのイベント、地方の温泉で行ったライブの時の衣装を参考にした和風の物。
一度しか使わなかったが、凛はこの瑠璃色の衣装をとても気に入っていた。
そういえばあの時一緒に主役として競演した二人はこの世界では何をしているのだろう。
ふと、そんなことを考えている自分に気が付き、凛は笑いがこみ上げてくるのを感じた。
これから始まるライブバトル、それを前にしてなお自分には今は関係の無いことに気を回す余裕がある。それが凛には可笑しかった。

「凛、出番だ。あと45秒」

プロデューサーの声で凛は目を開けた。

「Hブロック!一度は魔人に土をつけ、そして現在一勝一敗!先に二勝目をあげるのはどちらだ!?765プロダクション所属、竜宮小町!!」

それまでしていた回想を全て頭から追い出す。
思考を絞ってこれから始まるライブのことだけを考える。

「さあ、これで8組の挑戦者が揃い、そして順番が決まりました!普段はライバル同士ですが、今、この時だけは仲間です!ある強大な相手を倒すための!!」

「凛、本番だ。お前の実力なら大丈夫だ。全力で歌って来い」
「…………プロデューサー」

幕の向こうから聞こえてくる司会の煽り文句をBGMに声をかけてきたプロデューサーに凛は短く返した。

「…………勝つよ。『全力で』なんて言葉じゃ足りない。ステージに上がる以上、私は勝つ……相手が誰であっても……何人であってもね」
「…………そうか、分かった。じゃあ行け!勝って来い!」

そしてコールがかかった。

「それでは!!登場して頂きましょう!!チャンピオン、シンデレラガールズプロダクション所属、渋谷凛!!」

幕が開き、凛の前にステージへと続く花道が現れる。
凛はプロデューサーを見ることなく言った。

「行ってきます」

そして凛は歩き出した。
振り向く事無く、自信に満ちた微笑を浮かべて。






以上ここまで。
次回は嫁の体調次第。

……ここ二ヶ月くらい一度も体調を崩していない……。
正直そろそろ何かありそうで怖い……。

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最終更新:2014年08月27日 15:52