- 357. ひゅうが 2011/11/20(日) 17:03:41
- ※ なぜかできてしまったやっつけネタですw
提督たちの憂鬱 ネタSS――光を繋いだ男たち〜関門トンネル1941〜
――1941年8月 関門海峡 海面下
長かった・・・
帝国建設の大杉錬 工長は万感の思いで100メートルあまり先の壁面を見つめていた。
等間隔で小さな穴が開けられており、そこからは1本ずつ線が延びている。
そしてその先端は、大杉の立つ長卓の上の四角い装置に集約されている。
工事開始から700日・・・関門海峡の複雑な地盤を掘り進み、海底のさらに下へと向かった道程が走馬灯のようによぎる。
第2次五カ年計画の目玉である「関門鉄道トンネル」建設。
それを任されはしたが、当初は予定期間の半分程度で済むと思われた期間は結局は「総研」の予測ぎりぎりにまでずれこんでいた。
広軌軌道を2つと予備通路を含む巨大なトンネルは箱根で経験済みだったが、海底トンネルとしてははじめてであった。
このトンネルを作り上げることができなければ、予定されている宗谷海峡や津軽海峡、さらに豊予海峡や紀淡海峡など夢のまた夢だ。
だからこそ、はじめてシールドマシンという巨大な機械を投入したのだが、はじめての技術にはトラブルがつきもの。
切歯が歯が立たない地層の処理作業中には頻繁に落石事故も起こった。
『それを、こいつは受け止めてくれた。』
大杉は、今や自分の相棒といっていい立ち位置にいる外国人の男に視線を向けた。
初老の、いかめしい中にもどこかユーモラスな顔立ちをした男。自分も無口だが、こいつはそれに輪をかけて無口だった。
だが、それでも肝心な時は頼りになった。
現場での意見の対立の時は無言で割って入って双方からこぶしをもらうことになりながらも「無口の大岡裁き」という快挙を成し遂げていた。
あの異常出水と戦った時は、ほぼ四六時中土のうを積み続け、三日三晩の持久戦を共に闘った。
その甲斐あって、今は3本線のヘルメットを得るに至った――というより今まで固辞していた分を一気に出世しただけだろうと大杉は思っていたが――彼は、今、いつものようにこの場を冷静に見つめていた。
「最後の発破だ。」
大杉は言った。
「ジョーンズ、お前やれ。」
仲間から肩をたたかれながら、初老の男――ジョーンズが前に進み出る。
彼は危なげない手つきで卓上の「装置」を握る。そして。
「ハッパ!」
握柄を回す。
轟音。
壁面が吹き飛んだ。
向こう側――門司側から照らされているサーチライトの光が目に飛び込んできた。
「はっは・・・」
喉から乾いた笑いが漏れる。
すると、全員が手を叩き始めた。
「ばんざーい!ばんざーい!」
感極まった工員が叫び始める。
700日の努力の結果がこの目の前の光景に結実しているのだ。これほど嬉しいことはない。
「バンザーイ!バンザーイ!!」
ジョーンズも力いっぱい手を振り上げている。
今日は、開通記念ということで上から差し入れられた新製品らしい「B●SS」という缶コーヒーを皆にふるまうことができる。
そうだ、飲もう。このろくでもなくもすばらしい世界(現場)で。
最終更新:2012年01月01日 21:26