876 :yukikaze:2014/07/21(月) 18:35:55
とりあえず作り終わったんで投下。
後はエピローグになります。

  戦後夢幻会ネタSS――前史「彼らは来た」

8 破壊神降臨

宇垣艦隊の猛攻により、レイテ湾は文字通り地獄と化した。
2時間半にわたる熾烈な艦砲射撃は、6万人もの戦死・行方不明者をアメリカ陸軍に支払わせることになった。(他に数万名もの重軽症患者も発生している。)
ここまで一方的な大敗北は、アメリカ陸軍史上でも類を見ないものであった。
レイテの目をそむけるような光景を見たマッカーサーは「海軍のバカどもが・・・」と、怒りのあまりトレードマークのコーンパイプをへし折り、マッカーサーの報告を聞いたスティムソン陸軍長官は「マックが狂って誤報を出したならばどれだけよかったか・・・」と、頭を抱えながら呪いの言葉を口走ったとされる。

圧倒的な航空戦力による制空権の確保。
反日ゲリラを利用しての敵戦力の分散。
そして手薄になった地域に大兵力を投入して制圧。後は制空権と制海権があることを利用しての各個撃破。
陸軍にとってフィリピン戦は、極めて堅実な思考のもとに作成された作戦であり、そうであるが故に失敗する可能性など限りなく少ないはずの作戦であった。
だが、まさかの作戦失敗。それも陸軍の不手際ならばまだしも、海軍の失態(陸軍視点による)により2個軍団が編成上から消滅するという極めつけの悪夢である。
報告を聞いた陸軍上層部が半ば呆然とし、そして我に返ると猛然と海軍への怒りを爆発させたのは当たり前の行動であった。

では、陸軍の当然の怒りを受けた海軍側はどうなっていたか。
まず真っ先に責められることになったキングは当然のこと荒れ狂った。
彼は凄まじいばかりの罵詈雑言をニミッツに叩きつけると、その口で彼とハルゼーの解任を命じた。
これに対しニミッツは「解任は甘んじて受け入れるが、本作戦が終了するまで待っていただきたい。太平洋艦隊司令部と第3艦隊司令部の解任により指揮系統が空白になってしまえば、第3艦隊は全く身動きが取れなくなる」と返答する。
さしもの暴君もこのニミッツの正論には反論できなかったのだが、だが彼の怒りは収まらず「1隻でも多くのジャップの船を沈めろ。さもないと貴様らは永遠の負け犬だ」と、捨て台詞を吐くことになる。
この言葉に、ニミッツは能面の表情で受話器を置くと、机からキングのポスター大の写真を撮りだしトンプソンとダース単位のマガジンを身に着けると、隣接した射撃場に30分ほど籠ることになる。
射撃場から出たニミッツの言葉は「もう少し持続的に撃てればいいんだがね」だったのだが、ニミッツのこの反応は、ハルゼーのそれと比べれば極めて紳士的であった。
何しろハルゼーは、キングの督促電に対し、キングに勝るとも劣らない罵詈雑言で返すと、艦隊の更なる増速を命じたからだ。

877 :yukikaze:2014/07/21(月) 18:36:32
さて・・・今や完全にアメリカ海軍のお尋ね者となった宇垣艦隊ではあったが、彼らには大きな問題が一つ残されていた。それは、度重なる損傷によりどれだけ頑張っても20ノット以上は出せない武蔵の存在であった。
これが曳航しなければならない程の被害だったならば自沈で済むのだが、幸か不幸か武蔵は未だ戦闘航行可能状態であった。
そして武蔵の活躍は、サンベルナルジノ海峡海戦やレイテ湾での艦砲射撃を見ればわかるように、連合艦隊の中でも群を抜いて優れた戦力である。
宇垣艦隊司令部にしろ連合艦隊司令部にしても万難を排してでも連れて帰りたい戦力であった。
だが、武蔵に速力を併せた場合、明日以降、アメリカ空母機動艦隊に捕捉される可能性が高いのである。
31日のは遠距離であったのと、小沢機動艦隊が控えていた事から、どこか及び腰の攻撃であったが、既に小沢機動艦隊はなく、第二航空艦隊の直援も望み薄。艦隊は疲れ果て、前回のようなダンスを効果的に行えるかは不明であり、何よりハルゼー艦隊は怒り狂っている状態である。
そんな状態でハルゼーの攻撃を受けたならば、間違いなく艦隊は大打撃を受けることになる。
『黄金仮面』とあだ名された宇垣中将であるが、この時ばかりは苦悩に満ち溢れた表情をしていた。

そうした宇垣の苦悩を悟ったように、武蔵から一つの信号が発せられる。

『我艦隊ノ殿ヲ務ム。後ハ任サレタシ』

自分達を置いて逃げろと言っているのである。足手まといにはなりたくないと。
そしてそれに呼応するかの如く、他の艦からも殿を望む信号が放たれることになる。
宇垣はその反応に、じっと目を閉じ、しばらく考えていたが、やがて一つの決断を下す。

『武蔵、熊野、鈴谷、大井、四水戦ノ小破マデノ艦隊ハ殿ヲ務ムベシ。必ズ生キテ戻レ』

命じられた艦は、殿を希望し且つ戦闘能力を発揮できる艦であった。
宇垣は殿艦を単なる囮ではなく、可能な限り生き延びらせるだけの戦力を整えたのである。
大和と共に海域を離れる全艦艇乗組員は、上は司令官から下は二等水兵に至るまで、全ての乗組員がこの殿の艦隊に対して無言で敬礼をしたと言われている。

そして11月1日午後6時。武蔵率いる艦隊(臨時に白石艦隊と呼称)がスリガオ海峡に差し掛かろうとするその時、偵察機から至急電が入ることになる。

――敵水上艦隊ガ猛進ス。戦艦5 大巡7 駆逐艦8

早朝より艦隊の出せる最大船速で猛追してきたハルゼー艦隊が遂に追いついてきた瞬間であった。
武蔵に座乗した白石提督は、ただちにスリガオ海峡で迎え撃つことを決断。
ここにフィリピン沖海戦最終幕を告げるスリガオ海峡海戦が始まることになる。

878 :yukikaze:2014/07/21(月) 18:37:35
スリガオ海峡海戦の戦力を見た時、質量ともにアメリカ海軍は圧倒的に優位であった。
アメリカ海軍のどれもが練度に不安はなく、弾も十分にある。電探の能力も日本海軍のそれを凌駕しており、士気もレイテの悲劇を防げなかったことへの恥の感情で鬼気迫るものがあった。
勇将の下に弱卒無しを体現する艦隊であったと言えよう。
だが・・・彼らには2つの問題があった。
1つは燃料の問題である。
何が何でも宇垣艦隊に追いつかんと艦隊が出せる最大船速で飛ばした結果、多くの艦で燃料が危険なレベルまで減少をしていた。
特にクリーブラント級軽巡洋艦やフレッチャー級駆逐艦は、元々がトップヘビーの傾向が強い艦であることから、艦の動揺に酷く悩まされることになった。
もう一つの問題は、士気の危うさであった。
ハルゼーを筆頭に、多くの乗組員が怒りと恥で心を奪われすぎており、ややもすると冷静な判断が出来なくなる危険性を有していた。
そしてそれは時間が立てばたつほど『焦り』という感情によって増幅しかねないものであった。

対する日本側であったが、こちらは水上艦艇に捕捉された時点で帰還という選択肢を捨てていた。
敵の戦力は圧倒的に上であり、更に言えば速度も向こうの方が上である。
白石提督自身は武蔵のみを囮にするつもりであったが、武蔵単艦で時間稼ぎできる時間は少なく後は落ち武者狩りのごとく狩りたてられるだけである。
ならば日本側としては敵水上艦艇を可能な限り拘束、あわよくば翌日以降の敵機動艦隊の攻撃も吸引して本隊撤退を成功させるのが一番良い策であった。
片や現状で最良の方策が何かを理解している艦隊、片や怒りで自らを見失おうとしている艦隊。
スリガオ海峡海戦で、白石艦隊が予想以上の奮戦を見せた理由はそこにあった。

まず最初に先手を取ったのは日本海軍であった。
戦力が劣勢である以上、先手を取り続けなければ、一気に押し切られるからだ。
そして日本海軍には艦隊決戦用の切り札の一つであり、いまだ一射線残していた大井があった。
武蔵、鈴谷、熊野の3艦は、戦艦群の護衛として立ちふさがろうとしている大型巡洋艦6隻(どれもがクリーブラント級)に対し砲撃を開始。敵艦隊を一時的に混乱させると共に、大井の魚雷発射を成功させる。
大井自身は、魚雷発射直後に戦艦群の両用砲の乱打を受け機関停止。最終的には自沈することになるのだが、この魚雷攻撃により、ニュージャージーが艦首を被雷して一時的に戦場離脱。
アイオワもニュージャージーの急な転舵に混乱し、何とか衝突は免れたものの、大きく戦列から離れることになる。
そしてワシントン、アラバマ、マサチューセッツは熟練の動きで回避に成功したが、流れ弾としか言えない1発によって、ピロクシーが大破(後自沈)することになる。
この日本側の先制で、アメリカ軍はアイオワ級2隻が一時戦列から離脱、クリーブラント級6隻の内、1隻撃沈(武蔵の砲撃)、1隻大破という損害を受ける。
この時点で白石は、巡洋艦部隊は鈴谷と熊野に、慌てて接近する敵水雷戦隊は第四水雷戦隊に任せ、自身は残り3隻の戦艦を相手取ることにする。

さて、日本側のいきなりの奇襲により戦略を減らすことになったアメリカ海軍であるが、一時的に指揮権を握ったリー提督にとっては別に焦る理由はなかった。
確かに彼はソロモンで、破壊神の片割れによって一敗地にまみれたが、あれはサウスダコダの練度不足とそれに伴う機材トラブルによって生じたものであり、まともにやりあえば十分に勝算があると考えられていた。
しかも彼は対大和用に秘策も考えていた。この秘策を利用すれば無傷でも勝てると。
そして彼はその秘策を実行に移すべく、後ろ2隻に命令を下すのだが、彼自身がその秘策を目にすることはなかった。
何故か? 彼は一つ重要なファクターを理解していなかった。
彼は砲術の大家であり、レーダー射撃の専門家であった。
だからこそ電子技術には他の提督よりもよく理解しており、同時に日本海軍の技術力ではレーダー射撃は実用できたとしても相当劣ると考えられていた。
そう。彼の意見は正しい。日本がこの時『独自で』設計量産していた電探では、出来なくはないが様々な制約があった事も事実である。
しかしそれはあくまで『自国製』でかつ『量産できる』ものである。
裏を返せば『他国製』で『一品物』ならば、この時期の日本海軍でも、精度は劣るかもしれないが満足できるレーダー射撃が可能である事も事実であった。

879 :yukikaze:2014/07/21(月) 18:38:36
そして大和と武蔵には、ドイツからライセンス生産を許可された「ホーエントヴェール」が設置されていた。水上電探であるが射撃電探としても利用可なこの装置を積んだ武蔵の砲撃は、リーの策を嘲笑うかのように、ワシントンに3発の命中弾を浴びせ、14インチ砲弾の防御しかない同艦を一撃で爆沈に追い込んでいる。

だが、ここからがアメリカ側の本領発揮であった。
勢いに乗る武蔵は、アラバマを沈めようとしたが、砲撃を行った直後、アラバマは急激な転舵で回避。
思わぬ軌道に唖然とする武蔵に、今度はマサチューセッツが砲撃を加え始めたのである。
1隻が回避に特化し、もう1隻が砲撃に特化する。
これがリーが考えた秘策であり、同時にラプラタ沖海戦で、イギリス海軍の3隻の巡洋艦がシュペーを最終的に自沈に追い込んだ戦法であった。
この戦法に武蔵は徹底的に翻弄されることになる。
いかな破壊神と言えども物理法則にはかなわない。何しろ撃った瞬間に相手は回避行動に移るのである。
そして砲弾は予測された未来位置以外には着弾しない。
勿論、回避した敵艦もまた、射撃に移るには時間がかかるが、しかし相手は2隻いるのである。
どちらかが回避すればどちらかが撃つ。着弾時間は長引くものの、確実にダメージは受けるのである。
砲撃から20分ほどたつと、レーダー射撃を考えれば、やや少ないものの、それでも多数の砲弾を受けた武蔵の船体は至る所から火災が発生し、パーペットに着弾した第一砲塔は旋回不能になっていた。
この状況に、アラバマとマサチューセッツでは歓声が沸き起こっていたという。
一時戦列から離れていたアイオワもこのころには戦列に復帰しようとしており、敵の巡洋艦隊や水雷戦隊も抑えつつあり、アメリカの勝利は目前に迫っていた。

しかし、事態はさらなる展開を見せる。
アメリカ海軍巡洋艦部隊と殴りあっていた鈴谷と熊野が強引に警戒線を突破して戦艦群に突撃したのである。
ただでさえトップヘビーだったのが、燃料不足も相まって艦の安定性が悪化し、結果的に命中率が悪化したのと、1万メートル付近での殴り合いに際し、日本海軍巡洋艦部隊は最適の防御構造をとっていたのが合わさっての事だったが、盾となるマイアミに多数の20センチ砲弾を叩き込んだ後(マイアミはダメコンに失敗し、後沈没)それぞれも上部構造がボロボロになりながらも最大船速で突っ込んだのである。

この状況に、アラバマとマサチューセッツは、砲撃対象を武蔵から2隻の重巡に移した。
燃え盛る武蔵からは砲撃速度は明らかに低下しており、逆に日本海軍重巡は酸素魚雷を装備していることから、どちらが脅威対象かというと、重巡に比重を移すのも無理はなかった。
そして彼らは2斉射の後、鈴谷を爆沈し、熊野を停止状態に追い込んだのだが、この一瞬のすきが命取りになる。
鈴谷と熊野が作った機会を、武蔵は無駄にすることはなく、アラバマが熊野に放った瞬間、アラバマに怒りの一撃を叩き込むことに成功する。
これまで破壊神を愚弄するかの如く、挑発的なステップを踏んでいた彼女であったが、自らの砲撃でステップを踏むことが出来ず、破壊神の一撃をまともに受け、自らの行いを恥じるかのように、海に没することになる。
そして急な展開に我を忘れたマサチューセッツは、アイオワやようやく復帰しようとするニュージャージーと共同で先程の策を取ることもせず(同型艦でない為、艦隊運動の混乱になりかねない事と、アイオワの命中率が予想以上に悪かったこともあるが)武蔵との殴り合いを継続。
数発の砲弾を叩き込み、武蔵の傾斜を強めはしたものの、自身も数発の弾を浴びて大破。
海水の流入に耐える事が出来ず、海戦終了後に自沈することになる。

880 :yukikaze:2014/07/21(月) 18:39:19
だが、武蔵の頑張りもここまでであった。
既に傾斜の度合いは強く、砲撃を行う事は不能。
第七戦隊の重巡2隻は既になく、第四水雷戦隊も、敵の巡洋艦と駆逐艦何隻かと刺し違えて壊滅している。

「もはやこれまで」

白石提督は生き残ったわずかな艦艇に撤退を命じると、のろのろとした速度で、スリガオ海峡の一つの小島に進み始めた。
どうせなら陸地に乗り上げることで一人でも多くの乗組員を助けようとしたのだ。
アメリカ側もこの事実には気付いていたが、しかしそれを許すわけにはいかなかった。
それを許せば完全な勝ち逃げになるからだ。
アイオワとニュージャージーの支援の元、生き残った駆逐艦部隊は一斉に魚雷を発射。
4本の水柱が武蔵の右舷に立ち上った時、武蔵の傾斜は一気に拡大し、そして海面に横倒しになった。まるで古の恐竜が、力尽きるかのように。
ある従軍記者は「我々は本当にあの破壊神を倒せたのか半信半疑であった。もしかしたらまた浮き上がって咆哮を上げるのではないかと。破壊神が海中で2度大爆発を起こして、黒煙が立ち上っても尚、歓声どころか不安そうな表情を浮かべているものが殆どであった」と記している。

このスリガオ海峡海戦によって、一連の海戦は終わりを告げることになる。
追撃をするにはハルゼー艦隊は損傷を受けすぎており、更にミッチャーの艦隊が殴りかかるには、宇垣艦隊は離れすぎていた。
余談だが、この海戦に参加し、尚且つ大破しながらも生き残った時雨と夕立は「希代の強運艦」としてその武勲を讃えられることになる。

以下が両軍における最終的な被害である。

日本海軍

沈没
<大鳳><翔鶴><飛鷹><瑞鳳><千歳><千代田>
<武蔵>
<鈴谷><熊野><愛宕(自沈)><鳥海(帰路、潜水艦により)>
<阿賀野><鬼怒><大井>
駆逐艦8隻

大破
<龍鳳><隼鷹>
<霧島><伊勢><日向>
駆逐艦4隻

中破
<瑞鶴>
<大和><榛名>
<高雄><妙高><筑摩><摩耶>
<北上><那珂><球磨><多摩><木曽>

アメリカ海軍

沈没
<ファンショー・ベイ><セント・ロー><ホワイト・プレインズ><カリニン・ベイ><ガンビア・ベイ>
<ワシントン><マサチューセッツ><アラバマ><メリーランド><ウエストヴァージニア>
<ミシシッピー><カルフォルニア><テネシー><ペンシルヴァニア>
<ルイスビル><ポートランド><ミネアポリス><シュロップシャー>
<ヴィンセンス><マイアミ><ピクロシー><ナッシュビル><ボイシ><フェニックス><サンタフェ>
<デンバー><コロンビア>
駆逐艦26隻
輸送船団多数

大・中破
<プリンストン(陸上機の攻撃)>
<バーミングハム>
駆逐艦7隻
輸送船団多数
最終更新:2020年05月04日 13:48