58 :ひゅうが:2014/09/15(月) 09:30:27
yukikaze様ごめんなさい。先にちょっとネタを…




戦後夢幻会ネタSS――前史 「神雷 ~鹿屋1945年4月~」



――西暦1945(昭和20)年4月13日 連合航空艦隊 鹿屋基地



「いけるかもしれんなぁ。」

「へぃ。こいつなら、いけるかもしれません。」

野中三郎は、彼を知るものにとっては極めて珍しいことに「普通の」口調で口から言葉を滑り出させた。

夜の帳もとっくに降りており、空は出始めていた雲によって月明かりが隠されている。
沖縄周辺では、(電文傍受によると)先に機動部隊をしこたまに叩きのめしたという低気圧の置き土産ともいえる分厚い雲があたりを覆っているのだという。

彼らにしてみれば「絶好の夜襲日和」である。


「しかし、あの若先生は本当に一緒に乗っているのかぁ?」

「へぃ。あれは電子機械の塊だから不具合の調整をしたいとかで。」

野中は、彼が率いる航空隊の「女房役」が侠客風にわざわざしている口調にあわせ、ちらと「機体」の横で細かく指示を出し続けている若い男を見た。

海軍技術研究本部からやってきた野上技術少尉。
帝大出のインテリで、学徒出陣に際して技術屋として振り分けられた少数派に属しているという。
そんな彼は、野中からみると「庭師」である。
根気良さではいい勝負だし、ときどきはっとするほどいい仕事をしてくれる。
何より、あの「桜」のお守りである。


「で、あたるといっているのか?」

「七八割がたは、といっとりました。ここまでしてもらっといてあたりませんはないと。」

なるほどね、要はやってみなければわからないというわけかと野中は思った。
彼らの愛機である陸上攻撃機、空飛ぶ葉巻の腹にくくりつけられている物体は、とても気難しい代物であることを野中はこの数か月で思い知っていた。


空技廠 4式特殊誘導弾「桜花」43型
腹の中に、あの戦艦大和の1.5トン徹甲弾を仕込み、胴体内のネ‐130軸流ターボジェットエンジンを用いて最大速度毎時750キロで空をかける「空飛ぶ魚雷」だ。
射程距離は最大200キロあまり。
途中を慣性航法装置によって航路を一定に、同時に搭載されている電波高度計で高度を一定に保ちつつ、弾頭の赤外線感知器で軍艦の機関から発せられる赤外線を感知すると突入態勢に移行。
「条件付け」された赤外線源に限って自動操縦しつつ突入態勢に入り、距離が3キロを切ると4基の火薬ロケットエンジンに点火し一気に最大速度850キロ以上に加速。
敵の対空砲火をかいくぐって命中するといういわば「無人攻撃機」である。


そうした便利な代物だけに、誘導装置はもとよりエンジンも、そして機体自体もこれまで数多くのトラブルを起こしている。
あるときは誘導装置が過敏過ぎて、模擬弾が見物する基地の焚火や五右衛門風呂に突っ込み、またあるときはエンジンが正常に作動せずに母機の上で火を噴き――

そうした危機に、野上技術少尉は「ちょっと直してみましょう」の一言で立ち向かった。
ときには、忙しいはずの上司である三上という名の設計主任や、エンジンを担当したという倉崎という名の技術屋を呼び出してまで。
裏を返せばそれだけ期待されているのだが。
烈しさを増す米機動部隊の対空砲火をかいくぐれる搭乗員はまだ数多く存在しているものの、それでも一回の出撃で半分近くが落とされるか被弾するようではこうしたゲデ物じみた怪物が必要なのだ。

そしていつの間にやら、野中大佐率いる通称「野中一家」、正式名「神雷部隊」は乗り組む機体を変えられ、機材を換装されて海軍の「期待の星」にされてしまっていた。


そう。中島G8N「連山」の増加試作機と先行量産型まで50機を集中するなんて暴挙をしてのける程度に。

59 :ひゅうが:2014/09/15(月) 09:31:00
一部に若干フラフラ飛ばざるを得ない一式陸上攻撃機45型(ハ44-21搭載型)を追加しているが、それでも100機以上の陸上攻撃機というのはまさに「決戦兵力」にふさわしい。
最古参搭乗員の一人など、「マレー沖以来ですね親分」とはしゃいでいるほどだ。


「ま、なるようになるか。」

野中は、上が決めたという沖縄にすべてをつぎ込んでの「決戦」の裏の目的を思って乾いた気分になったが、それでもまぁ「戦力の集中」という点で悪くはない。
本土決戦というトチ狂った主張をする連中から少しでも戦力を取り上げ、ことに九州から関東にかけての航空戦力を消耗させる。
お上の言葉を針小棒大に使うという陸式じみたことをしてまで。

それを説明しに来た阿部という名の大佐のいう通り、海軍は勇壮に戦って沖縄を救わなければいけないのだ。




野中は踵を返した。
行こう。皆と敵が待っている。



――海軍第721航空隊 通称神雷部隊は、この日最初の「夜間空中雷撃」を実施。
ジョン・マケイン提督率いる空母機動部隊のピケットラインの向こう、距離200キロから98発の「桜花」を発射した。
結果は慄然たるもの。
轟沈こそエセックス級空母2にとどまったものの、沖縄海域の空母15隻あまりのうち実に9隻が飛行甲板を叩き割られて中破以上の大損害。
護衛艦艇も重巡ロサンゼルスを筆頭に、できたばかりのアトランタ級軽巡ツーソン、駆逐艦8隻が轟沈してしまう。

さらには翌日からも繰り返される航空攻撃の結果、米機動部隊は一時的に作戦能力を喪失。
連合艦隊はこの機を逃すことなく「天1号作戦」海上作戦を発動し、豊後水道から沖縄への突進を開始した。

「天佑我らの手にあり。全艦突撃せよ。」


――かくて、伝説がはじまる――
最終更新:2014年09月26日 04:02