122 :yukikaze:2014/09/15(月) 18:45:27
それでは第二幕投下。今週中には第三幕まで行けるかな。

  戦後夢幻会ネタSS――前史「栄光ある敗北」

2 暴君の焦り

アメリカが、戦争を脱落しかねない危険を克服したのは前回で述べた。
しかし戦争の脱落への危機は乗り越えたものの、軍事戦略の混乱を乗り越えるめどは全くと言っていいほどたっていなかった。
その理由が何かというと、それは偏に欧州戦線にあった。

アメリカの主戦場が欧州であるという事は、少なくとも太平洋戦線で地獄を見ている者達以外からは共通認識とされていた。
世界の政治経済の重心は欧州であってアジアの片田舎ではないのだ。
だからこそアメリカ合衆国は、その戦争リソースの大半を欧州につぎ込んでいるし、最新鋭兵器も欧州に優先配備しているのである。
ここまでは何も問題はないはずであった。少なくともワシントンの住人はそう考えていた。

そこに変化が産まれたのは、能力があるのは認めるが、その性格には誰もが辟易しているマッカーサー元帥であった。
悪夢のフィリピン戦で唯一気を吐いた彼は、その功績と何より海千山千の欧州諸国の我儘を抑える事が出来る唯一の存在として、欧州方面軍総司令長官に転任した訳だが、彼のその剛腕は、欧州諸国を瞬く間に黙らせるのと同時に、これまで以上に兵と兵器と物資を欧州方面に吸い込み続けた。
このマッカーサーによる議会工作と巧みなメディア扇動の結果、欧州方面軍は一月も立たないうちにその戦力を回復し、爆撃機部隊においては最新鋭部隊のB-29まで装備されるほどであった。
無論、他の兵種においても最新鋭兵器がふんだんに配備されたのは言うまでもなく、欧州方面に配属された兵や、他の連合国軍兵士は『偉大なるマック』と、彼の手腕を大いに褒めている。

もっとも、彼の手腕のお蔭で貧乏籤を引いたのが太平洋戦線であった。
この辺は、欧州と違い大規模な陸戦がなかったことで、いまいち陸軍の必要性がアピールできない(太平洋戦線でのアメリカの脅威は何といっても連合艦隊だからだ)事が大きいのだが、この影の薄さが祟って、本来太平洋方面に送られるはずの陸軍兵力が欧州方面に根こそぎ取られたのである。
マッカーサーに代り太平洋方面軍総司令長官になったパットン大将は「半年前と言っていること違うじゃねえか」と、友人でありアメリカ陸軍総司令長官になったアイゼンハワー元帥に怒鳴りつけたとされるが、パットン以上に英雄願望が強いマッカーサーにとっては、過去の都合の悪い言説などどうでもいいものであった。
結果的に陸軍は、当初予定よりもより少ない戦力で対日戦を戦わないといけなくなったのであるが、その状況に飛びついたのが、アメリカ陸軍航空隊のボスであるアーノルド大将であった。

123 :yukikaze:2014/09/15(月) 18:47:14
彼は、太平洋戦線にある兵力では大規模な上陸作戦を断続して行うには余裕がなさすぎるとして、パラオ以上に重爆撃機が展開できるマリアナを全力で落とし、マリアナにいる獣爆撃部隊をもって、日本本土の通商路を破壊し、彼らの戦争経済を崩壊させて降伏に導く案を提出したのである。
太平洋戦線勝利を米陸軍航空隊の手柄にしようとするのがあからさまではあったものの、下手に本土に攻め込んで被害を拡大させるよりははるかにマシであるというのが、この案のセールスポイントであった。
陸軍長官であるスティムソンも、合衆国陸軍総司令長官兼陸軍参謀総長であるアイゼンハワーも欧州が主戦場であることと、アメリカ兵の被害を抑えるという点において、同案の支持を表明していた。

このアーノルドの意見に対して、猛然とかみついたのがキング作戦部長であった。
当たり前であろう。この原案が通れば、海軍は完全に陸軍の風下に立つことになるのである。
せっかく大艦隊を作ったのに、その役割が陸軍のエスコート。
キングとは犬猿の仲であるタワーズ太平洋艦隊司令長官も、キングのこの反対に全面的に賛意を示していることから、海軍の総意と言っても良かったであろう。
何しろ、日本海軍と血みどろの死闘を繰り広げたのは海軍なのである訳だから。

だが、キングにとって腹立たしい事に、海軍に対する逆風は予想以上に強かった。
奇襲を受けた真珠湾はともかくとして、正面からぶつかった海戦で勝利したのはミッドウェーのみ。
その後は、ソロモン、トラック、マリアナ、レイテと、主要な海戦に悉く敗れ去ったという事実はキングの予想以上に、アメリカ政府及び国民の海軍に対する信頼感を低下させることになっていた。
無論、連合艦隊とて無傷ではなく、空母機動艦隊に関して言えば事実上消滅したと言っても良い有様なのだが、圧倒的優位であったにも拘らず大敗を喫したレイテ沖の顛末が、海軍にとって大きくマイナスに働いていた。
既に戦争の帰趨は決している分、如何にアメリカ兵の被害を少なくするかに関心を持っているアメリカ政府にとって、これ以上の間違いを犯す気にはなれなかったのだ。
海軍びいきで知られたルーズベルト大統領が、レイテの敗戦の後始末で人事不省に陥り、そのまま政界を引退したことも大きかった。(1944年12月に意識が戻らぬまま死去する。)
1945年1月中旬には、アメリカ政府内において、マリアナ攻略作戦が正式採用される所まで話は煮詰められる状況になっていた。

こうした事態にキングは大いに焦ることになる。
仮にこのまま進めば、合衆国は日本に勝利するであろうが、戦後の政治勢力において、海軍は陸軍に敗北を喫してしまうのである。
彼が心血を注ぎ込んで作り上げた艦隊は『軍縮』の名のもとに、徹底的なまでに削減され、見る影もないほどおちぶれるのは明白であった。
勿論、そうした事態に海軍を追いこんでしまった自分は、敗者として歴史に刻まれることは言うまでもない。
プライドが異常に高いことで知られるキングにとって我慢できることではなかった。

故にキングは、この流れを変える為の方策を考え、そして一つのプランに達した。

『オペレーション・アイスバーグ』

日本と南方海域とのシーレーンの結節点である沖縄を攻略することによって、一気に日本の継戦能力を崩壊させ、アメリカの勝利に持ち込む。
極めて野心的なプランであり、且つ危険に満ちたプランであった。

124 :yukikaze:2014/09/15(月) 18:48:22
確かに沖縄は、日本本土と南方資源地帯を結ぶ結節点であり、ここを落とされれば、日本は南方や大陸との連絡を絶たれるという致命的打撃を受けることにはなる。
そう考えるならば、沖縄占領という作戦案は悪いものではないのだが、仮に沖縄に攻め込んだ場合、侵攻軍は日本本土並びに台湾からの熾烈な航空攻撃を覚悟しなければならないのである。
特に本土に控えている航空部隊は、マリアナにいた時の基地航空艦隊よりは練度が低いとはいえ、戦闘機部隊は疾風に紫電改と、ヘルキャットに匹敵する機体が主力として配備されており、かつてのマリアナと同様の飽和攻撃を受けた場合、あのときよりは被害は抑えられるにしても、制空権が極めて流動的になる可能性は高かった。
そしてその隙を見逃すほど連合艦隊は甘くないのである。
未だ健在が確認されている金剛級2隻を前衛として、損害を受けた状態でなお単艦で3隻の新鋭戦艦を葬り去った破壊神の長女と、ビッグセブンの2隻、そしてソロモン海で猛威を振るった重巡及び「ヴァンパイアシスターズ」こと第二水雷戦隊の精鋭が殴りこむのは確実であり、仮に彼女たちがそれほど打撃を受けずに襲来した場合、アメリカ海軍の水上艦隊は、彼らの突破を許しかねないという予想が高いのである。
そうなった場合、陸軍はレイテの二の舞を受けることになり、連合艦隊を殲滅しても、陸海軍との対立はもはや修復できない状況に追い込まれるであろう。

それならば、未だ基地航空部隊の再建が半ばであるマリアナに攻め込み、連合艦隊を迎え撃った方が遥かに安全であり勝つ可能性も高いという声が上がるのも当然であった。
マリアナに攻め込むことによって、アメリカは戦略爆撃に必要な航空基地を確保し、更に絶対的航空優勢を確保できるマリアナの地に布陣することによって連合艦隊を迎え撃つ。
身内の海軍部内でもそういった声が上がったのだが、キングはそれらに対して激烈な反論を行った。

曰く、マリアナは日本の植民地であり、日本人に与えるインパクトは少ない。
曰く、マリアナに配備するのはB-24が主力とならざるを得ず、速度や搭載量で妥協しかねない
曰く、通商路遮断というが、機雷を主要港封鎖できるまでまくのにどれだけ時間がかかるのか
曰く、そもそも狂信的な日本人が通商路破壊で降伏するのか? あいつらに常識は通じない
曰く、奴らにも理解できるのは圧倒的な力だ。沖縄を陥落させれば奴らはアメリカの偉大さを理解するし、理解できなければ艦隊で東京を火の海にすればいい
曰く、マリアナ案を通したければ、マッカーサーから物資をぶんどってこい。話はそれからだ。

軍事的合理性というよりも感情的な反発としか言えないものであったが、2番目と6番目の意見は陸軍航空隊も反論が難しい所であった。
B-17は頑丈ではあったものの、速度と航続距離の問題から、通商破壊戦に使うにはやや使い勝手が悪くB-24は航続距離の問題は解消できるが、B-17よりも撃たれ弱いという欠点があった。
広大な太平洋戦線の事を考えるならば、B-24を使わないといけないのだが、高高度性能がそれほど高くなく、被弾にも弱いという事は、それだけ日本の本土防空部隊から受けるダメージも大きいと言う事である。
B-29もそれなりの被害を受けていることを考えれば、確かにマッカーサーからB-29をぶんどらない限り通商破壊作戦での被害を減らすのは難しいであろう。

そしてこのキングの意見に賛同をしたのが、海軍以上に良い所のない海兵隊であった。
何しろ一番目立っていたガタルカナルでは、上陸直後に物資を日本海軍によって吹き飛ばされて、後は日本軍よりもジャングルの気候と飢えに戦っている状況。
そして最後は徹底時に高速戦艦の殴り込みによって海の底である。
このまま武勲を立てずに戦争が終わると、またぞろ「海兵隊を陸軍に吸収しろ」という意見が主流になりかねないのである。
海兵隊にしてみれば、海軍以上に死活問題なのである。

125 :yukikaze:2014/09/15(月) 18:49:11
かくしてキングと海兵隊は一致協力して議会とマスコミ工作に勤しむことになる。
そして彼らが議会とマスコミに放った殺し文句が「戦争の早期終結」であり、彼らの(後からみると)楽観的と言えるデータを信じた議員やマスコミを中心に、徐々にキング案への賛同が高まり、1月下旬にマッカーサーが「ドイツ屈服の為に更なる爆撃機兵力の追加を」と訴えた事で、とうとうキング案が主流になることになる。(ちなみに議員やマスコミに空母機動艦隊の大演習を何度も見せて、その強大さに酔わせるなどとという工作まで行っている。)
こうした流れに、フォレスタル海軍長官は嫌悪感をあらわにして「アメリカ軍はキングのおもちゃではない」と、彼の更迭まで考えたとされるが、タワーズですらキングの行動を擁護していた事から海軍内での自らの孤立を悟り、無力感を覚えたとされている。

ここにキングは、後に「大博打」と刻まれることになる『オペレーション・アイスバーグ』を正式に対日戦略案として採用することに成功する。
もっともその中身はあまりにも政治的妥協に彩られており(陸軍との妥協として、沖縄戦の主部隊を陸軍にすると同時に、海兵隊の不満を抑える為に、東京を抑えるポイントである硫黄島を海兵隊のみで制圧させることは、その最たるものである)、これが後に戦史家から「何度も痛い目を見ているのに未だに連合艦隊を舐めすぎていた証拠」と酷評されることになる。
最終更新:2020年05月04日 14:41