201 :ひゅうが:2014/09/23(火) 11:33:22


戦後夢幻会ネタSS――その3.0 「観艦式 1964年」



――1964(昭和39)年8月1日 相模湾洋上 観閲艦隊旗艦「笠置」


毎年、この時期はきまって相模湾は晴天に恵まれていた。
魔法日というやつだろう。
1年のうち、この日だけは晴れる、あるいは雨となる、といた日は経験則としてよく知られていることが多い。
実際、9月に迫った東京五輪の開会式の日程はそうして決められたのだということだった。
だからこそ、5年ぶりに開催された海軍にとっての一大イベントはこの時期に開催された。
1か月後では、オリンピック警備に人手をとられてしまうし、何よりイベントが食いつぶされてしまう。
さらには、夏のこの日差しの中でこそ艦艇はもっとも美しく見えるという映画好きのある人物の助言もあった。


「左舷より受閲艦隊接近。距離50。」

「宜候。」

艦橋ではそんなやりとりがかわされ、乗艦している内閣総理大臣に解説が行われている。
その様子は、航空母艦の広大な飛行甲板の上に集まった招待客にとっても同じようだった。
海外から派遣された大使館付き武官たちや政治家、あるいは国内では国会から選抜された重鎮や若手議員と財界、法曹界などの一員が、広報士官の解説に聞き入っていた。
その横では、日射病(熱中症)対策のために飲み物が販売されている。
旧軍とは違って、志願制である国防軍はこういうところでも人材を大事にしなければいけないのだった。

「皆様、本艦の向かって左側から接近してきましたのが受閲艦隊です。
先頭をつとめますのは、呉鎮守府からまいりました第3艦隊第4戦隊に属する『雪風』型駆逐艦3姉妹、『雪風』『浜風』『磯風』です。」

女性士官がウグイス嬢顔負けの調子で国防海軍のあれやこれやの話をするのをやめ、横を通り抜ける艦隊について解説をはじめた。
登舷礼をとる艦と、その名前に招待客の歓声が上がった。
旧帝国海軍時代からの武勲艦。
主要な海戦のことごとくに参加し、最後には空母「信濃」の護衛として終戦を迎えた大型の艦隊型駆逐艦たちだ。
戦後も、海上警備隊時代から現場にいち早く復帰しておりかの第二次日本海海戦ではソ連艦隊に対しておそらくは史上最後となるであろう夜間水上雷撃を実施、翌朝の砲戦に際しての攻撃とあわせて敵艦艇に甚大な損害を与えている。

武勲という形では、これ以上の艦はおそらくは日本にはないだろう。
そんな彼女らは、水上打撃戦用の駆逐艦群の整備が遅れ気味であったことや小型旧軍艦艇の改装の経験をつむために武装と機関を総入れ替えしている。
艦橋も大型化され、マストのレーダーアンテナなどの飾りがついたことから「花魁」のあだ名がついているのだが、実際に目の前で海を滑っている様子はどうだろう。
優美な曲線を描く艦首、いささか角ばってはいても長大な5インチ単装砲、1基に減らされてはいてもいまだ攻撃力健在と主張したげな魚雷発射管。
これらは、海外の駆逐艦にありがちな重量物ばかりを積んでアップアップしがちな艦様とは違って洗練された配置を保っている。

さすがにあと十二、三年もすれば退役が予定されているが、まだまだ働けるといいたげに3隻は黒潮を蹴立てて受閲艦である航空母艦「笠置」の横を通り過ぎた。
アングルドデッキの端に3隻が消えると、次の艦が隊列を組んで接近してくる。
こちらは、旧海軍時代以来の艦橋構造物を維持し、外見的な変化といえば前から見ると大きなレーダーアンテナやこまごまとした射撃指揮装置程度しか見受けられない。


「続きましては、同じく呉鎮守府よりまいりました第3艦隊第4戦隊旗艦 巡洋艦『酒匂』です。本艦は、昨年度に大型艦艇で初となる艦対艦誘導弾搭載改装を完了し――」


各国の武官たちが一斉に双眼鏡とカメラを構えた。
現れたのは、阿賀野型軽巡洋艦の最後の1隻、旧海軍水雷戦隊の生き残りである巡洋艦『酒匂』だった。
外見からではわかりづらいが、この艦も他の艦艇と同様に機関を米国製の高性能缶に換装し、さらには安定性を増すためにバルジの装着が行われている。
見えないところでも、主砲であった15センチ連装砲塔は中身が入れ替えられ半自動装填装置とレーダー射撃装置によって距離2万以上の空中に近接信管付き対空砲弾を届かせることができる。
それだけでなく、この時代における水上打撃戦部隊の切り札として自己鍛造弾を装備したこの「59式70口径15センチ砲」はソ連海軍の巡洋艦以下に対して砲撃力でも引けをとらないはずだった。

202 :ひゅうが:2014/09/23(火) 11:34:07

その証拠は、『笠置』の艦上から彼女を見た海軍関係者がうなったことで自明となった。
かつて魚雷発射管がおかれていたその場所には、いくつかの筒を束ねたような物体が2基装備されていた。
対艦ミサイル発射機だった。
おそらくは、砲塔同様に回転するのだろう。ターレットが見える。
かつては水上機がおかれていたその上部甲板には、誘導用らしいアンテナと射撃指揮装置がみられる。
それに気が付けば、煙突と艦橋の間をそそりたつ大型マストに設けられた多数のアンテナや、各所に配された対空火器となる3インチ砲や40ミリ機関砲がまるでこちらを狙っているような感覚を覚えるものもいた。
こうしてみるとハリネズミのようだ。
外観は大きく変わっていないが、日本の巡洋艦らしくその姿は「狼」の如き獰猛さと優美さを両立させていたのだった。

艦首の八重桜紋を輝かせ。『酒匂』は増速していく。
武官たちはささやきあった。
艦対艦ミサイルを現状で実用化しているのは、ソ連海軍のほかはこの日本国防海軍くらいだ。
米海軍は空母機動部隊に搭載する空対艦ミサイルで満足「させられていた」時代が長く、ケネディ政権の積極財政によって開発が促進されているものの、未だ配備状態にない。
フランス、イタリア、イギリス、いずれもその配備を早める必要がありそうだ。
もちろん、極東ソ連軍や数が多い大陸中華の脅威に正対している台湾やベトナムとしても。
いずれはソ連軍も魚雷艇相当のフネに対艦ミサイルを積んでくのだろうから。


「続きまして、第3艦隊に所属しております『夏月』型防空駆逐艦の登場です。現在も舞鶴や大湊、沖縄で警備任務についている中4隻が駆けつけてくれました!」

かつては第1艦隊に所属して対空戦闘を担った改秋月型駆逐艦は、いまだに4隻が第一線に配備されていた。
ただし、改装は小規模にとどまっている。
水上打撃戦部隊として使用するにはそのコンセプトが対空戦闘用に特化しているためだ。
魚雷発射管を備えていたために第2次日本海海戦において雷撃の一翼を担ったものの、水上戦闘能力としては少し疑問符がつく。
だが、それは諸外国からすればきわめて贅沢な悩みであるといっていい。
10センチ高角砲は対艦攻撃能力を当然備えているし、何より外洋航行能力の高い大型艦だ。

つまりは補助戦力としてはまだまだ利用価値がある。
そのため、本型は比較的新型である「夏月」以下4隻をのぞき対空射撃能力の陳腐化にあわせて各地方隊に回されていたのだった。
レーダーの換装などの改装を受けてはいるが、これまで登場した各艦の中で最も建造時の姿を残しているために軍艦少年たちの人気も高い。


「続きまして、最新鋭艦の登場です。第2および第1艦隊に所属するミサイル駆逐艦『天津風』型5隻と、防空駆逐艦『春風』型6隻、いずれもここ5年ほどで就役したばかりの、新世代の艦艇たちです!」


解説の声も少し上ずっていた。
接近してきた艦たちは、先ほどまでの「酒匂」などの風味をどこかに残していたが、全体的に受ける印象がより洗練されていた。
戦後初の大型駆逐艦となった春風型は、若干煙突が細めの2本を有しているのを除けば雪風型に似ているといっていいかもしれない。
実際、雪風型の改装のタイプシップとなったのがこの春風型なのだから。

ただし春風型は、雪風型のように大型の魚雷発射管やボフォースロケットランチャーを搭載してはいない。
あくまでも対空を任務とするために、砲や機銃を多く搭載しているのだ。
その観点から艦様をみてみると、なるほど秋月型によく似ている。
ただし、5インチ単装砲と3インチ連装砲が各々独立して目標へ指向し、機関砲なみの速度で射撃を行えるなどその能力は凶悪だ。
また、大型艦の直俺艦としての役割を果たすために対魚雷用の短魚雷発射管やヘッジボッグ投射機なども装備している。

各地方隊に配備されていた駆潜艇や対潜駆逐艦とは性質が異なるこの艦が整備できたあたり、日本という国の復興を象徴しているともいえる。


そして、春風型よりも二回りほど大きな――旧海軍の軽巡洋艦より少し小さめな船体が見えてくると、その場のほぼ全員の注目が集まった。
天津風型駆逐艦。
日本発のターターミサイルシステム搭載駆逐艦にして、ミサイル駆逐艦。
艦首部に設けられた対空ミサイル発射機と、先の春風型なみの対空砲群、さらに中央部にはアスロック対潜ミサイルシステムが日本で初搭載されている。
まさにミサイル駆逐艦。
水上打撃戦能力こそ低調ながら、空母直俺艦としては本艦以上の存在はないだろう。
実質的なお披露目は、5年ぶりの開催となったこの観艦式がはじめてだった。

203 :ひゅうが:2014/09/23(火) 11:34:40
写真のシャッター音が鳴り響き、歓声が上がる。
予算の関係上5隻の建造にとどまってはいたが、この時点でこれほどの対空駆逐艦群を有していたのは日本だけだった。
一昨年のハイチ危機や南北朝鮮の緊張にあっては、空母機動部隊とともに万が一に備えて竣工間もない1,2番艦「天津風」「時津風」が出動したことも記憶に新しい。

今回の観艦式ではそれぞれがミサイル発射機に模擬弾ではあるが対空ミサイルを装填し、観客の注目を集めている。


「それでは、実際の防空射撃をご覧いただきます。」

サプライズだった。
砲塔が旋回し、受閲艦艇の反対側へ向く。
ミサイル発射機も素早い速度で仰角をとった。


「撃てぇっ!」

白煙を上げてミサイルが上昇し、対空砲が1秒当たり1発という高速度で射撃を開始する。
1秒半ほど遅れて射撃音が海上に響き渡った。

「撃ち方、やめ。」

30秒ほどで射撃は止んだ。
拍手が沸き起こる。

「皆様、お待たせしました。続いては、第3艦隊旗艦 戦艦『長門』 第2艦隊旗艦 航空母艦『葛城』の登場です!『葛城』は本艦の同型艦となります。ぜひ、乗艦されている感覚とそれを外から見ることができるという対比をお楽しみください。」


長門、のところでどよめきが起こった。
射撃を続けている間に全員がそれに気をとられていたのだ。

いつの間にか受閲艦隊の隊列後方に復帰していた4隻の『夏月』型駆逐艦を左右に侍らせ、「葛城」が現れる。
飛行甲板後方にもうひとつの飛行甲板を斜めに重ねたアングルドデッキ、そしてあまりにも有名な沖縄沖海戦直前の白黒写真の今は亡き「雲龍」「天城」と同様の島型艦橋。
艦首からは蒸気カタパルトの白煙がたなび、甲板にはFJ-3艦上戦闘機とA-1攻撃機が並んでいる。

と、甲板のFJ-3が急加速した。
発艦だ。
おおっと思わず乗艦者たちも身を乗り出す。
飛行甲板から飛び立った後退翼姿の近代的なジェット機は翼端から飛行機雲をたなびかせながら右に旋回。観閲艦の前方を横切った。
続く発艦。
わずか2分あまりで3機が空へと駆け上がる。
そしてトライアングルを組んだ編隊は、機体の翼を左右へ振る「バンク」を行いながら上空をフライパス(航過)していった。


人々が華麗な銀翼と日の丸に見とれていると、誰かが「あっ」と声を上げた。
指さす方向へ目を向けると…


――戦艦がいた。


戦艦長門。

かつて世界のビッグ7とたたえられた名艦。
戦後は死にぞこない呼ばわりする口の悪い連中もいたが、その陰口は第2次日本海海戦における獅子奮迅の活躍で今や誰も口にしない。
ソ連海軍太平洋艦隊そのものである相手に戦艦1隻で立ち向かい、これを次々に叩き潰していく様子は、同乗していたアーニー・パイル記者のリポート付きのムービーフィルムで広く知られるところだ。

今や、長門は今を生きる「日本の誇り」そのものなのだ。

204 :ひゅうが:2014/09/23(火) 11:35:38

主砲の40センチ連装砲はかつてと変わりなく、艦橋の射撃指揮装置やマストのレーダーなどの変化はあるが、それらはいささかも長門の姿を変えるものではない。
「長門は長門なのだ。」

と、「長門」が主砲の鎌首をもたげはじめる。
艦齢40年を超えながらもその動きはまったくスムーズで、戦う意思を失っていないことを言葉にせずともありありと示していた。

轟ッ!!

発砲遅延装置のおかげでわずかずつ遅れた砲撃。
砲口からは30メートル以上の長さに達する黄色い砲炎が海面とともに観覧する人々の目を灼く。
腹の底どころか、人間としての根幹すら揺さぶる砲撃は、一瞬の絶句という結果となって全員をゆさぶった。
一拍遅れ、怒号のような歓声が沸きあがる。

彼らは、文字通り体をもって理解したのだ。このフネが、自分たちを守る破邪の剣であると。



「皆様、受閲艦隊最後の艦は、重装甲航空母艦『信濃』、潜水艦SS-707『うずしお』の登場です。
第1艦隊旗艦としてわが国防衛の主力を担う信濃と、強力な対艦攻撃能力を有する『海の忍者』の雄姿をご覧ください。」


半ば呆けていた人々は、アナウンスで我に返った。
ほぼ同時に、海を割って空中に小型の船体が姿を現す。
流線型ではあるが、今話題の涙滴型の船体ではない。
それでも、国防軍「再結成」後にすぐに建造されたこの艦は、まるでクジラのように海面に大波をたてて「着水」した。
ドルフィン運動、そう称される急速浮上だ。
それまで何もなかった海の中から突然現れた潜水艦は、船体こそ吹けば飛ぶように思えるが底知れない力を秘めているかのようだった。

少しばかり知識のある人間は、この艦がかつて用いられた「波-200」型潜水艦の拡大型であることがわかったことだろう。
実際、「うずしお」はかつて計画されていた伊-201型潜水艦の発展型である。(艦長もまた波-201潜水艦を指揮した速水という名の海軍中佐であるがここでは割愛しよう。)

海上に艦番号である707の数字を見せつけると、子供たちが歓声を上げた。

この艦をモデルにした海洋冒険漫画は、近年の戦記物にはない現代ものとして人気を博していた。
国防海軍はそれを知ってこの艦を最後の最後に持ってきていたのだった。

205 :ひゅうが:2014/09/23(火) 11:36:12


そして――――「彼女」が現れる。


300メートルを超える全長は、米国が建造しているエンタープライズ級原子力空母に匹敵。
その装甲は、かつての姉妹艦同様、18インチ砲の砲撃にすら耐久可能。
艦載機は80機あまりだが、旧大戦時の機体なら150機以上を運用可能というズバ抜けた搭載量。
満載排水量は8万トン超。
世界最大の通常動力軍用艦にして航空母艦。原子力空母エンタープライズの就役後もこの立場は揺らがない。
水上戦闘艦としては世界最大であるかのモンタナ級戦艦も実際は6万トン級だからだ。

偉大なる姉たちに負けず劣らずの存在感を有する「彼女」。

――大和型3番艦。

重装甲航空母艦「信濃」は、そこにいた。


全長だけでも「笠置」の1.5倍はあるだろうか。
どっしりとした船体は彼女があの大和型戦艦の末裔であることを無言のうちに主張している。
左右両舷のレスポンスには対空火器が満載され、倒立式のアンテナが突出している。
甲板は、いかにも分厚い装甲を有しているといいたげな鈍色。
上空からみると白線が眩しいのだが、舷側が笠置の方が低いためにしぜん見上げる形となる。
改装後の艦橋は、まるでエンタープライズ級航空母艦のような箱型とアンテナの融合構造だ。
しかしその後部には煙突が一体化しており、右の舷側へと傾斜している。
排気が艦載機の発着艦に影響を与えないためである。


大きかった。

艦上には、FJ-3戦闘機に加えて大型のA-3攻撃機がならび、通常の航空母艦とは別次元の攻撃力を有していることを見せつけていた。
そして長大な舷側にならぶ人の数は、この巨艦が秘めるパワーを示しているかのようである。

ザッ!という音が聞こえるような勢いで、そろって敬礼の波が起こった。
先ほどまでの各艦艇でも行われていた光景だが、見上げる形となった乗艦者たちは思いおもいの形でそれに答えた。
大蔵省から招かれていた不遜ともいわれる男も、そして反軍的な風潮の強い野党議員もそれにならっている。
もちろん、各国の武官や、この国の武官たちも。



上空を、飛行艇や対潜哨戒機、そして戦闘機たちが通過していく。
夏の日差しに目がくらんだのか、涙をにじませる初老の人物や、壮年の人物もいた。



「守るもせめるもくろがねの――」

誰かが歌いだした。

「浮かべる城ぞ頼みなる」

誰もが知る、その歌声はすぐに全体の唱和へと変わっていく。

「浮かべるその城 ひのもとの」

そうだ。と、その場の士官たちは思い出した。

「祖国の四方を守るべし。」

自分達が何をすべきかを。
今度こそ。



―――――観艦式は、この後2年に1度のペースで行われることになる。

二等海佐を海軍中佐に修正
最終更新:2016年08月09日 12:37