304 :yukikaze:2014/09/23(火) 22:20:16
何とか第5幕終了。10月までに終了できればいいんだけど。

  戦後夢幻会ネタSS――前史「栄光ある敗北」

5 矢尽き刀折れても

イギリスにとって、太平洋戦争とは自らのプライドを徹底的に粉々にされ続けた戦争であった。
開戦初頭、世界で最初に航空機で戦艦を沈められるという不名誉な敗北を与えられ、極東でのイギリスの力の象徴であったシンガポール要塞を短期間で落とされ、インド洋からも叩き出された。
そしてその事実は彼らの権威を失墜させるには十分であった。
日本に占領された植民地だけでなく、大英帝国の根幹ともいうべきインドでも、インド国民軍の扇動により大規模なサポタージュやストが起きるなど、英国の戦時経済に多大な混乱を与えたのだ。
故に大英帝国としては、自らの威信を回復させるためにも、なんとしても自らの手で植民地を回復せねばならなかったのである。

だが、彼らの思いと裏腹に、植民地回復は遅々として進まなかった。
1944年6月にノルマンディーに上陸したこととそれに伴うフランス解放によって、海軍戦力を極東方面に転出させる目途こそ立ったものの、マリアナ及びフィリピンにおけるアメリカ海軍の大敗北によって、イギリスとしても迂闊に戦力を動かすことが出来なくなったのである。
自らの手による植民地解放を行うにしても、その為に戦力が壊滅したのでは何の意味もないからだ。
しかも戦力を大幅に失ったアメリカは、これまでの借款や援助を盾にとって、イギリスの新鋭艦隊を太平洋艦隊に組み込もうと圧力をかけていた。
イギリス海軍にしてみれば「ふざけるな」なのだが、バルジの戦いでイギリス陸軍の動きがアメリカ第3軍と比べて低調であった事や、更なる借款と援助の供与のダブルパンチによって、東南アジア奪還に使うための艦隊は太平洋艦隊に編入されることが確定してしまい、イギリスが独自で使えるのは旧式戦艦や供与された護衛空母だけになってしまったのである。
結果、アキャブ沖海戦において、西村中将率いる南遣艦隊の迎撃によって、艦隊と揚陸部隊は大打撃を受けることになり、イギリスの植民地奪還のスケジュールは大幅に狂うことになる。

これだけでもイギリス軍の激怒を買うには十分だったのだが、更にイギリス軍の憤懣を増加させたのが、イギリス太平洋艦隊への扱いであった。
空母4、戦艦3を主力とするイギリス太平洋艦隊は、搭載機数こそ180機前後と、やや不満が残るものであったが、4隻全てが装甲空母であり、且つこれら全てが就役して数年しかたっていないのだから、充分に主力の一角を務めあげられる戦力であった。

しかしアメリカ海軍が同艦隊に求めたのは「前衛艦隊としてアメリカ艦隊の盾になる」であった。
ソロモン、マリアナ、レイテと、アメリカ海軍の被害は甚大であった。
前述したように、アメリカ海軍は、正規空母12隻、軽空母4隻、戦艦12隻、重巡以下は多数、連合艦隊の手によって沈められた。
言い換えるならば、アメリカ海軍は、戦前に彼らが持っていた戦力のほぼすべてを失うという損害を受けているのである。
とてもではないがこれ以上の損害は許容できるものでなかった。

305 :yukikaze:2014/09/23(火) 22:21:18
仮にこれ以上の損害を被れば、今度こそアメリカ海軍の政治的発言力は消滅するであろう。
だからこそ沖縄に向けて突進してくる連合艦隊への盾とするのにイギリス海軍は絶好の存在であった。
新鋭艦隊であるが故に日本海軍に目をつけられやすく、更に日本海軍からの攻撃を受けても耐久力の高さにより、日本海軍に消耗を強いる。
勿論その過程でイギリス艦隊は大打撃を受けるであろうが、アメリカ海軍にとっては知った事ではなかった。被害を受ける方が悪いのである。

勿論こうしたアメリカ海軍の思惑に気付かないイギリス海軍ではない。
しかし、彼らに拒絶する選択肢がないのも事実であった。
アメリカ海軍の代わりに血を流すことによって、アメリカに貸しを作るというチャーチルの思惑や「師匠が弟子に負けっぱなしでは沽券にかかわる」というイギリス海軍内部の感情的な意見を無視することなどできなかったからだ。
フレーザー司令長官は「貧乏くじを引くのはいつも現場だ」と嘆息するのだが、彼のこうした意見は、艦隊乗組員の半数近くが同意する感情でもあった。
そしてそうした負の感情は、前述したアキャブ沖海戦での惨敗によって深まり、そして爆弾低気圧突入によるアメリカ海軍の醜態から極限に達していた。

「あんな下手くそ共の命令で、何故戦わないといけないのか?」と

だからこそ彼らは、日本海軍の偵察機に艦隊が発見された時、アメリカ艦隊への警報を出さずにイギリス艦隊のみで始末しようと判断した。
彼らのプライドを守る為にはそれしか方法がなかったからだ。
日本艦隊を独力で排除し、アメリカ艦隊を見下す。
ここまで徹底的にこけにされた以上、そうすることによって彼らはようやくこれまでの鬱屈から解放されるのである。

だが彼らは知らなかった。
日本海軍母艦航空隊の巡航速度が、自分達の予想よりも100km近く早いという事を。
そして日本海軍最後の空母機動艦隊を指揮している男が、「見敵必戦」という英国海軍が伝えた信条を誰よりも実践し続けていた男であることを。
彼らがそれを理解するには、敵部隊を攻撃する為に攻撃隊の発艦準備を執り行っている最中、超低空から侵攻した敵攻撃部隊によって、4空母が火達磨になった光景を見るのをまたないといけない。

英国海軍空母が文字通り火達磨になり、その内2隻は派手に大爆発を起こしているという報告を聞いた時、第3艦隊では歓声は起こらなかった。
彼らにしてみれば、今の今まで空母機動艦隊決戦を経験していなかった英国海軍など初心者扱いであり、現状とその対応を見るに落第点もいい所であった。
空母機動艦隊戦で重要なのはスピードなのである。
偵察機に発見された以上、発見された側は、周囲への警戒と、厳重なる警備、更には偵察機による綿密な索敵を行う事で、奇襲を受けるリスクを最小限にし、反撃のチャンスを整える必要があるのである。
それら3つの条件の内、どれか一つ欠けても空母機動艦隊戦での勝利はありえず、そしてイギリス海軍はそれを守らずに見事に負けたのである。
もっとも、これで第3艦隊は目的の一つを果たすことに成功した。
いきなり4空母全滅というのは上出来と言ってもいいのだが、実の所、一切被害がなくても目的は達成できたのである。

『敵艦隊の意識をこちらに向ける事』

第三艦隊の役割はまさにこれにあった。
その為の攻撃隊の出撃であった。
レイテのように戦闘機だけを乗せていれば、敵艦隊はそれほど脅威には思わないだろう。
金剛型2隻あった所で、それはアイオワ級によって覆される優位である。
最大の飛び道具である空母の攻撃力がゼロならば、敵の優先順位は減少し、間違いなく第二艦隊に対して猛攻撃を加えるであろう。
だからこそ、第三艦隊は彼らに、彼らを傷つける牙があることを誇示しなければいけなかった。全ては第二艦隊の突撃を成功させるために。

彼らが会心の笑みを浮かべたのは、偵察機がアメリカ海軍の主力部隊を発見する電報を打った事と、同時にアメリカ海軍の攻撃機部隊が大挙して発艦し、こちらに向かっているという情報を得た時であった。
時刻は午後14時過ぎ。帰還や準備を考えると、仮に第二艦隊が発見されても、彼らが第二艦隊に対して大規模な攻撃部隊を出撃できるのは1度あればいい方であり、更に言えば
彼らの足止めをするのは第三艦隊から発艦した最後の攻撃部隊だけではない。
南方へと消えゆく攻撃部隊に帽振れをしながら、角田第三艦隊司令長官はこう呟いたとされる。

『栄光ある第三艦隊の終焉だ。悪いが最後まで足掻かせてもらう』

306 :yukikaze:2014/09/23(火) 22:22:10
日米海軍最後の空母機動艦隊戦において、第三艦隊は壊滅した。
雲龍は轟沈。天城も大破後自沈。金剛と比叡も又奮戦の末大破し、喜界島にて着底。
生き残ったのは那珂と駆逐艦4隻であったのに対し、アメリカ側の損害は、プリンストンと駆逐艦2隻が沈没。アメリカ海軍の圧勝であった。

だが、彼らは怨敵である日本海軍空母機動艦隊に終焉を齎したものの、その代償はあまりに大きかった。
彼らは第三艦隊とそれに続く第五航空艦隊及び第六航空軍の執拗な攻撃に悩まされ、第二艦隊を発見しても攻撃隊を発艦させる余裕を失ってしまったのである。
前日の低気圧によって、艦の艤装にダメージが生じ、円滑な航空機運用が出来なかったこともマイナスに働いてしまった。
結局、マケインに出来ることは、近くにいたアイオワ級4隻の水上砲戦部隊を、最後の防衛ラインと
して、伊江島近海に派遣することだけであった。第三艦隊は見事に任務を果たしたのである。

そして焦点はメインヒロインというべき第二艦隊へと移ることになる。
最終更新:2020年05月04日 14:49